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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第3章 : 裏切り合いの終着点(デルニエアレ)
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88. 狂乱

全ての爪でナイフを弾く事数分。力尽きたからか、攻撃が緩くなり、段々と収まり始める。


「ふぅ、これで終わりか?円城寺樹音(えんじょうじみきと)


ニヤリと、皮肉を込め将太(しょうた)は言い放ち、爪での防御を止める。すると、目の前の爪がゆっくりと地に戻って行き、阻まれていた視界が開放される。が、その瞬間。


ビュンッと風を切る音と共に目の前に刃渡り8センチ以下の果物ナイフの様なものが映し出される。一瞬驚いた表情はしたものの、直ぐに余裕な顔を作り今度は手の爪を顔の高さまで伸ばしてそれを防ぐ。


「今のは少し油断したよ。でも、まだだねぇ。もう力尽きたのか?」


「いや、もう、みんな行ったみたいだから」


先程皆がいた後方を一瞥しながら、樹音は力強くそう言い放つ。それに1度鼻で笑うと、将太は「そうか」と呟き、続ける。


「でも、時間稼ぎは今からだぞ?一瞬で終わったら今の努力は無意味になるからな」


「ふ、そうかな?無意味な努力なんて、無いと僕は思うけど」


今の自分。というよりかは彼に語りかけるように、優しい笑みで返す樹音。それに目を見開き歯嚙みすると、将太は声を荒げる。


「そんな綺麗事抜かしてんじゃねぇぞ!」


と、そう叫んだ後、自分が取り乱している事に気付いたのか、1度咳き込んで冷静さを取り戻し口を開く。


「は、そうか、無意味にならないといいな」


「ならないよ。絶対」


挑発的に笑うと、樹音は真剣な面持ちで返す。それと同時に、やっと本気を出せると言わんばかりに樹音は足を力強く踏み出す。だが


「!?!?っうっ!くっっあっ!?」


突如視界が歪み、体勢を崩し、ふらつく。


「はっ!口程にもない。あれだけ大量に生成能力を使用していたら、そりゃガタが来るってもんだ」


今まで1歩も動いていなかったため、体感的な疲労は感じなかったものの、1歩足を踏み出しただけでこの有様である。恐らく、相当負担がかかっていたのだろう。だが、と。ここで倒れるわけにはいかないのだ。そう脳内で繰り返し、根性で地に力強く足を着く。グラリと揺れた体は、寧ろそれを利用するかの様にしてそのまま将太の元へ滑り込むと、斬り付けにかかる。


「お」


小さく掛け声を漏らすと、将太は右手の爪で剣を弾く。その反動にまたもや体勢を崩す樹音だったが、そのまま回転し勢いを増して追撃を試みる。が、それすらも防がれ、更には将太に蹴りを入れられて数メートル先の地面に叩きつけられる。


「ごはっ!」


「終わりだ。"アップ"」


「っ!」


告げると同時に樹音の真下から爪が突き上げる。既のところで、倒れたまま右に転がる様にしてズレることが出来たものの、それで終わるはずも無く、更に追い詰める。


「サイド」


「クッ!」


そのまま今の伸びた爪が樹音に向かう。急いでそれを剣で防ぐと、そのままゆっくりと立ち上がり、隙を突いて背後に跳躍しその場から逃れる。が


「ふっ、無駄だ。"サーチ"」


樹音を追う様にして爪が伸びては近づく。それを剣で弾きながら「本体」に攻撃するべく将太に近づく。が、背後から更にもう1本の爪が飛び出し、左に滑り込んでそれを避ける。何本もの爪を、前とは違って"剣で斬れない程に耐久度を高くし"上手く操る。明らかに前回の戦闘よりも腕が上がっている。いや、と言うよりも使い方を完全に理解し、前よりも意志が強い事が1番の理由だろう。そう、全てを殺めるという、歪んだ意志が。


ーでも、このまま防いでたんじゃこっちがもたない、、かと言って近づけるわけでもないしー


そう脳内で呟いた次の瞬間。将太は気だるげそうにしながら息を吐く。


「もうそろそろ仕留めますか」


そう自分にしか聞こえない小声で言うと、次の瞬間。声を上げる。


「エンクローズ」


「なっ!?」


樹音を、まるで囲う様に8本もの爪が飛び出す。完全に逃げ場が無くなった樹音は思わず情け無い声を漏らす。今地上に現れている爪の数は8本。即ち、残りの2本でとどめを刺すことは可能だということである。


「クッ!」


それを察した樹音は逃れるべく、回転しながら跳躍し囲まれた爪を、蹴る。更に対極に位置した爪を蹴り上げる。それを続けることにより飛躍し、その場から抜け出す。そう、言わば「壁ジャンプ」というものだ。爪の頂点へと達し最後に蹴り上げると、そのまま重力を利用し将太に斬りつけに向かった。


が、その瞬間。将太は、まるでその必死の双眸を哀れむ様に小さく笑みを浮かべる。


「チェック」


ザシュッと。将太の足元から(じか)に爪が突き出し、樹音の横腹を突き刺す。


「ぐごぁっ!」


それによってバランスを崩し、樹音は地面に叩きつけられる。


「ハッ、本当に口程にも無かったな。どうせあいつらもまだそう遠くには行ってないだろうし。ちょっと楽しんで行くか」


将太はため息を吐くと、ニヤリと笑みを浮かべゆっくりと樹音に向かって歩みを進めた。


           ☆


「お前、、どうするつもりだ」


怒りと絶望に、険しい表情を浮かべながら碧斗(あいと)は呟く。


「お前呼ばわりって、ちょっと寂しいねぇ」


「ふざけるなよ、みんなをあんな目に遭わせておいて」


更に感情を露わにして碧斗は呟くと、智也(ともや)はフッと小さく笑みを浮かべる。


「こうして、、負の連鎖は生まれるのかもね」


遠い目をして呟くと、碧斗は目を逸らす。確かにそうかもしれない、と。だが、それでも今はそんな小難しい事を考えている暇は無いのだ。そう心中で自分に言い聞かせ、振り払う。


智也と愛梨(あいり)に肩を持たれ、引きずる様にして運ばれる。それなら抜け出す事くらい容易だと思われるかもしれないが、一定の電流を常に流され続けているのか、体が思うように動いてくれない。するとその後、少しの間沈黙が流れ、智也は碧斗に視線を向ける。


「どうするつもりって、言ってたね?どうするも何も、もう分かってるんじゃない?」


質問で返され、碧斗は推測したことをそのまま言い放つ。


「目的は、やはり桐ヶ谷修也(きりがやしゅうや)、、か」


「ふっ、そう。やっぱり分かってんじゃん」


「当たり前だ。竹内(たけうち)君が逃げる様言った際にはそのつもりはなかったのに、修也君の名が出た瞬間これだ。気づかないわけないだろ」


そこまで淡々と告げると、「だが」と付け足し顔を上げる。


「問題はそこじゃない。俺が聞きたいのは、修也君の元に行ってどうするつもりなのか、そこが聞きたいんだ」


碧斗が低く告げると、智也はなるほどねぇ。と呟き、進む方向へと目を向けたまま続ける。


「正直、ただ人を殺めることに反対な碧斗君達と話していたって、いつまで経っても解決しない。ただの一方通行で終わってしまう。だから、張本人(げんきょう)と話さないとこの争いは終わらないと思うんだ」


「なるほど、そ、そう、なのか、、悪い、なんか、誤解してたみたいで、」


思わず謝罪の言葉が漏れる。智也も考えている事は同じだったのだ。行動が違うだけで、どちらも正義である事には変わりない。いや、今の自分達の行動は、本当に正義と呼べるかは不明だが。


「いや、でもきっと大将はそうじゃないんだよね」


「大将、、って、さっきの、えーと」


大内涼太(おおうちりょうた)君」


「そうそう、その、大内君、の事だよな?」


「うん、大将は正義感が強くてね。それだけならいいんだけど、それが強すぎて、その、悪人を全員殺さないと気が済まないみたいなんだ」


智也は表情を曇らせてそう言葉を漏らす。すると、その事実に目つきを変える碧斗を差し置いて更に続ける。


「そんなのさ、さっき言った通り負の連鎖だと思わない?だから、俺は修也君に会いに行きたいんだ」


そこまで言うと、口を噤んで少し時間を開けたのち、低い声色で


「大将が殺す前に」


「っ!」


思わず目を剥く。そんなの、本当に正義感と呼べるのだろうか。言いたい事は溢れる程あったがしかし。

その後、少し経ったのち俯いて、小さく吐き捨てる。


「そうか、智也君も、止めたかったんだな」


「...でも、こうして逃げて来たのはそれだけじゃない」


先程の呟きが聞こえていたのかは不明だが、智也は続けて言い放つ。それに碧斗は怪訝な顔をする。


「だって将太の目、見た?あれは、多分あの時逃げなかったら」


そこまで言い、唇を1度噛むと続ける。


「お前らもみんな殺すって目だった」


「っ!」


「将太、なんか変」


愛梨もそれに気づいていたのか、疑問を口にする。


「ああ。ずっと行方不明で、出て来たと思ったらあれだ」


2人の会話に置いてけぼりを食らった碧斗は、目を剥く。


「行方不明、、だったのか?」


全く知らなかった。いや、知るはずも無いのだが。


「あ、うん。そうそう、と言っても2日前からだけどねぇ」


「それでも、不安」


そう無理に笑ってみせる智也と、少し視線を下げる愛梨。


「昔から鬱になりやすい性格だったんだよね、将太。色々1人で抱え込みがちだし、真面目だからかなんでもかんでも深く考えちゃって、自分を追い込む癖があるんだよね、」


「そう、なのか、?」


智也は彼と現世で関わりがあったのだろうか。智也から飛び出す、その将太の知られざる内側の性格に、碧斗は動揺を露わにする。あんなに容姿も、戦闘もスポーツマンに相応しいものだったというのに。何度も悩んだのだろうか、何度も苦しんだのだろうか。将太のあの表情の裏側を想像すると、酷く胸の奥が痛んだ。


「それで、今あんな様子で、、それが爆発したのかなって思ってさ」


智也が今の彼を思い出しながら唇を噛む。それに、何かを察した碧斗は、表情を曇らせながら


「もしかして、第三者の手が加えられた、?」


「「っ!」」


そうぼやくと、2人が食いつく様に顔を向ける。


「碧斗君も、、そう思う?」


「ああ、それ以外あり得ないだろ。まず、行方不明って言っても抜け出す理由がないし、王城に居るなら尚更ーー」


「でも、誰?」


愛梨の問いに言葉を詰まらす。どうして敵対している相手の味方なんてしているのだろう、と。思わずため息を零す。と、その時



「っ!今、」


愛梨は不意に耳を触って呟く。その様子を見逃さなかった智也はすかさず詰め寄る。


「どうしたん?もしかして、」


その仕草を何度か見ている様な物言いに、碧斗もまた察する。


「何か、聞こえたのか、?」


「これ、パキパキッて音、、遠くから聞こえる」


愛梨が目を瞑り、考えるように呟くと、2人は顔を見合わせ悩む。


「パキパキ、、って、小枝を踏む音、とか?」


「違う。これ、氷ができる、音?」


「「っ!」」


智也が碧斗を通して覗き込むようにすると、愛梨は首を振り呟く。その「氷」という言葉に反射的に2人は目を見開く。


「それって、もしかしたら、桐ヶ谷修也の能力、、って事は、大将達かもしれないって事か、?」


智也が言うと、愛梨は無言で頷く。


「なら、急がないとっ、!」


すると智也は神妙な面持ちでそう声を漏らし、愛梨の案内を元に、音の響く方向へ碧斗をおぶったまま走り出した。




「へぇ〜、面白い事になって来てんじゃん」


にやけながら、王城の屋根の上で立て膝座りをする1人の男性。すると彼は徐に立ち上がって、表情1つ変えずに独り言を呟いた。


「っと。あの裏切られ、自分を責める2人が、お互い何を語り合うのか気になるところではあるけど」


そこまで言うと、S(シグマ)は何かを企む様にニヤリと、小さく笑みを浮かべた。

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