表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第3章 : 裏切り合いの終着点(デルニエアレ)
87/300

87. 追蹤

お互いに距離を取る樹音(みきと)将太(しょうた)。接近し過ぎると美里(みさと)達の方へ地面から攻撃されてしまうと考えた樹音は、今は皆の援護を優先するべく皆との距離を近づけながら身構える。


「フッ、今はみんなを逃すのが優先か」


「っ!」


まるで心を読まれたかの様な発言に眉を潜める。だが、何を言われようとも意思は変わらないと言わんばかりに体勢を整える。


と、同時に。


「っ!」


王城の方から何やらガヤガヤと、人々の話し声が遠くに聞こえる。それはそうだ、大翔(ひろと)が壁を突き破った事から始まり、こんな轟音の数々を王城の人達に都合良く聞かれないわけが無い。樹音はどうしようかと考える。バレない為、被害を抑える為この場を離れて戦うか。が、それをすると美里達の方に被害が及ぶかもしれない。そんな事を思った瞬間


「外野は気にするな」


「え、?」


将太の予想外の言葉に目を丸くする。


「王城の奴らは"アイツ"がなんとかしてくれる筈だ。問題ない」


疑問ばかりが樹音の脳を埋め尽くす。アイツとは誰の事だろうか。なんとかしてくれるなんて簡単に言うが、そんな事が可能なのか、と。


が、その直後、樹音の両側から爪が突き出し、それは美里達の方へと伸びて向かう。それにハッと我に返り、皆の元へ到達するより前に跳躍し回転しながら2本を斬り落とす。その瞬間、将太が樹音に突撃する形で(つるぎ)の様に硬直した指の爪で切りつけるものの、それも回転した勢いのまま剣でそれを弾いて、両者とも後退る。


「はぁ、はぁ」


樹音が息を切らす。今の要領での戦闘では、明らかに樹音の体力の方が減っていくのだ。今は皆を援護する事が最優先。がしかし、このまま彼を倒すとなると、確実に先にバテるのは自分である。


ーどうしよう、体力勝負になる前に畳み掛けた方がいいかな、でもそれだとみんなが地面から攻撃されちゃうかもー


そう思考を巡らす事数秒。その隙を狙い美里達と樹音の間から爪が飛び出す。


「っ!」


慌てて跳躍し爪を斬る。


ー駄目だ、考えてる暇ない。やっぱり、みんなを守らなきゃー


意思を明確にし身構える。その表情に察した将太も口角を上げると同時に体勢を整える。と、次の瞬間

樹音が剣を振り上げると、振り上げた軌道上に5、6本のナイフが固定されて現れる。その勢いのまま回転して、今度は剣を横に振ると、宙に固定されていたナイフがそれと同時に将太に向かって放たれる。


「おっと」


美里達との距離を意識したまま追撃を行えなくするために本体への攻撃を行う、賢い選択をした樹音に驚きと歓声を含めた声を漏らすが、それが無意味だと言わんばかりに、ニヤリと笑みを浮かべる。


「ブロック」


呟くと同時に将太の目の前に5本の太い爪が地から飛び出し、放ったナイフを全て防ぐ。それに一瞬目を剥く樹音だったが、直ぐに追加のナイフを自身の周りの(くう)に大量に出現させる。と、今度は突き出した爪を避ける様な軌道で将太に向かう。だが、それすらも予想通りだと余裕な表情を浮かべる。


「考えたが、、駄目だな」


手前に、盾の役割を果たす爪を出現させたまま手の爪を伸ばしてサイドから向かってくるナイフを弾く。それを見越した樹音は、残る最終経路である彼の背後からナイフを向わせる。だが、将太の背後にも5本の太い爪が地から突き出しそれすらも防ぐ。


だが、これでいいのだ、と。樹音は少し口元を緩ます。計画通り、問題ない。防がれようとも避けられようとも関係ない。今は、これでいいのだ。これが正解なのだ。が、しかし。将太は小さく笑みを浮かべる。


ーなるほど、前からの攻撃に5本の爪を使って防いだ。それはつまり、片足の爪を全て使っているという証明になる。即ち、元から円城寺(えんじょうじ)樹音は俺を追い込む事が目的では無かった訳かー


そう、樹音の真の目的は両足の爪を全て使用させる事。美里達を避難させるのに1番厄介となるのはその、特定の人物に向かって攻撃出来る技、地面からの攻撃なのだ。だが、裏を返せば、それを封じてしまえばいいのだ。


ーよく頑張ったな、これじゃあこいつの思惑通り、あいつらへの攻撃は無理、かー


だが、と。将太は嘲笑う。生成系の能力は体力の消耗が激しい。剣を1本生成して、それを手に持ち利用し、体を使って攻撃するよりも、1歩も動かずに大量の刃を生成し続ける方が、見た目は逆に見えるかもしれないが、圧倒的に体力の減りは大きい。今現在は1歩も動いてないため体力が減っているとは自分ですら認識出来ていない様子だが、攻撃を止めたその瞬間。



全ての負担が身体にのしかかる。



ー俺から何かをする必要もない。円城寺樹音はこれから俺と戦う事になるのを忘れているのか、それとも既に諦めて皆を逃す事を優先しているのか。どちらにせよ、これから真正面から戦闘するなら俺の勝ちだろう。一瞬で決着を着けてあいつらを追うー


能力に全体力を活用し使用する樹音と、ナイフを弾く動作とそれを見極める動体視力を活用していながらも能力自体は大して使っていない将太。どちらが先に力尽きるかは一目瞭然である。「ここで止める」なんて大口叩いておきながらちょろい奴だと、鼻で笑う将太だった。


           ☆


「うーーーんっ!うぅーーっ!」


大翔と共に沙耶(さや)を抱えて必死に呻き声を上げる美里。その様子に大翔は声を漏らす。


「はぁ、はぁ、怪我人の俺が頑張ってんだから、、お前も、頑張れよっ、はぁ」


「だから何も言ってないでしょ?なんなの?そうやっていっつも揚げ足取って、ウザいんだけど」


「ご、ごめん、ね、、私のせいで」


「別にそういう風に言ってるわけじゃないけど」


「でも、このペースだと、樹音がヤベェんじゃねーか?もうちょっと離れて隠れられる場所に行かねーと、あいつ足止めやめそうにないぞ」


大翔と美里。お互いに足を引きずりながら沙耶を運ぶ事、既に数分が経とうとしていた。早くに将太の視界から外れなければ。このままでは樹音の限界がきてしまう。そうその場の全員が考え、急ごうと試みる。が、考えと足の動きが合わずに、なかなか王城の裏に移動する事が出来ない。その時。


「あ、あれ、?痺れが、」


「おっ、治ったか!」


沙耶は体の痺れが取れた様で、2人が手を離すと、しっかりとした足取りで地を歩く。


「ふぅ、よし!これでなんとか逃れそうだな!」


「うん!そうだねっ」


「いや、安心は出来ないと思う。今この瞬間に麻痺が治ったって事は、何か理由があるはず」


「どういう事だよ」


今度は沙耶が2人に足を合わせながら、美里は安堵する大翔とは対照的に呟く。


「多分、あの2人は"このタイミングで"麻痺が治る様にわざと仕向けたんだと思う」


「そ、それって、?」


そこまで会話を交わすと、壁の曲がり角に到達し、将太の視界から外れる場所で足を止める。


「そう、私達があの2人を追えない程遠くに行ったって事」


「はあ!?だっ、だったらもう碧斗(あいと)を救えねぇって言いてぇのか!?」


大翔が動揺と怒りに声を上げると、美里は唇を噛みながら髪を指で巻く。


「おい!なんか方法無いのかよ!?そんな事言って、碧斗を諦めろってんのかよお前は!?ああ!?」


「あああぁぁぁぁーーーっ!もう!今考えてるんでしょ!?少し黙ってよ!」


声を荒げる美里に一同は静まり返る。が、一向に打開策は浮かんでこない様で、美里は荒い息遣いで髪をいじる。そんな姿に息を吐くと、大翔が仕切り直すためにも口を開く。


「ここで考えててもしゃーない。とりあえず碧斗のとこ急がねーと」


「あんた、あいつが連れてかれたところ分かるわけ?」


「っ、そ、それは」


自信満々の様子の大翔だったが、美里に指摘され言葉を濁す。


「でも、そこが少し気がかり。あの2人は連れて行かなくても全員で戦えば今の私達の事なんて簡単に倒せた筈。それなのにも関わらず、言われた通り逃げる道を選択した」


美里はぶつぶつと呟きながら頭を悩ませる。最初は智也(ともや)愛梨(あいり)の2人とも動揺し、連れて逃げる選択肢なんて選びそうにも無かったのに、一体何が目的なのだろうか。すると、沙耶が浮かない顔持ちで遠くを見ている事に気づき、大翔が声をかける。


「どうした?」


「あっ、いや、その、、こんな時に、ごめんね、その、桐ヶ谷(きりがや)君、大丈夫かなって、」


沙耶の言葉にやれやれと息を吐いたものの、大翔は小さく笑う。


「いや、ま、少し気になるよな」


「あんた、こんな時に、、っ!」


美里が呆れと怒りを込めて呟いた瞬間、何かに気づいた様に目を見開く。


「あ?どうした?」


「ごっ、ごめんねっ、わ、私が、そんな事言ったから、」


「いや、もしかすると、あるかもしれない」


「「?」」


頭にハテナを浮かべる2人に美里は続ける。


「あいつら、その人を狙ってるとしたら?」


「えっ?き、桐ヶ谷君の、事?」


「そう。2人はさっき言われた通りに行動する様子は無かった。でも、、その名前を聞いて2人は連れて逃げる選択をした。それってつまり、そういう事なんじゃない、?」


恐らくあの屋上を移動した後、涼太(りょうた)との戦闘になった筈である。が、屋上から爆音は愚か、物音1つ聞こえてこないという事は、今現在は上にはいないという事であろう。更にはここを通った様子も見られない。かと言って奈帆(なほ)に持ち上げられ障害物を無視できる涼太からは、そう簡単に逃げられないだろう。


ならば、そう遠くには行けない筈である。即ち、と。消去法で導き出した結論を、美里は不安な気持ちを押し潰すべく、震えながらもあえて堂々と言い放つ。


「そうだとしたらあいつらは今、王城の正面の方にいる可能性が高い、、と思う」


不安を完全には拭えなかったものの、沙耶はその提案に賛同し笑みを浮かべる。対する大翔は、負に落ちない様子だったものの、それしか手が無いため渋々頷くのだった。


「それなら、とりあえず急がねぇとマズいんじゃねーか?」


大翔がそう呟くと、皆は覚悟を決める様にお互いに目をやり頷くと、引きずりながらではあったが、前を向いて、全力で足を進めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ