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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第3章 : 裏切り合いの終着点(デルニエアレ)
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85.刺客

大翔(ひろと)の自信ありげな返答に、涼太(りょうた)は静かに爪を噛んだ。


ーはぁ!?なんで来れてんだよゴミが。屋上へ来れるルートは奈帆(なほ)に連れて来てもらうしかない筈、こいつ一体何を、、いや、んな事は今はどうでもいい。今の現状は大翔が来たことにより裏切り者共が3人。そして当の"本人"が1人。円城寺(えんじょうじ)をこちら側に引き込んでも相手する人数は4人であることから3対4ー


クソが、クソがっ!クソがぁぁぁぁぁっ!


その大きな計画のズレに冷静を装いつつも、涼太は歯嚙みする。


「どうする?ここでやっとく?」


奈帆が涼太に視線を向け疑問を投げかける。が


「あ?何ごちゃごちゃ言ってんだ。俺はさっさと3人連れて帰る。それだけだ」


大翔はそう呟いて2人の元へ歩き始めた、その瞬間。涼太は口を開く。


清宮(せいみや)、俺らは桐ヶ谷修也(きりがやしゅうや)を潰す。あいつは"向こう側"から呑気に見物するつもりだ」


「えぇ〜っ!それって私に運べって言ってるのと同じじゃん!」


文句を垂れる奈帆をスルーし、声を大にして叫ぶ。


神崎(かんざき)阿久津(あくつ)はこの裏切り者共をなんとかしろ!そこの伊賀橋(いがはし)を逃すな!」


そこまで言うと、1度息を吐いて付け加える。


「円城寺とな」


「っ!!」


「っ!あんた、いい加減に、っ!」


「酷い、」


樹音(みきと)が顔をしかめると同時に、美里(みさと)沙耶(さや)が言い放つ。それでも尚、涼太は続ける。


「なぁ?大切な友達を、失くしたくはないよな?異世界での友達を優先して、ずっと前から友達だった奴を見捨てたりはしないよな?」


美里と沙耶はワナワナと震え、怒りを露わにする。それに対して樹音は究極の選択を迫られ、絶望する。転生者が転生者に殺されるとここに来た記憶は消える。それがもし本当だった場合、記憶は消え、自らの手で人を殺めたという結果しか残らない。いやいや、本当だったとしても、殺すわけにはいかない。ならば、答えは1つだろうか。


ーでも、、みんながー


いくらこの世界で亡くなっても現世に戻るだけだとは言え、そんな辛い事をこんな大切な人達に経験して欲しくない。痛みは本物なのだ。苦痛は同じなのだ。つまり、1度死ぬのと同じ事なのだ。


「フッ、せいぜい悩むんだな。俺は早く桐ヶ谷を相手しなきゃいけないから行くが」


涼太はそう言うと、「まっ、どっちを選ぼうが絶望するんだろうが」と小さく呟く。


と、その瞬間。


「おい、樹音!」


「っ!」


俯いていた樹音が、突如として放たれた大翔の声に反応し顔を上げる。


「確かに、こんなクズにはめられて、こんなふざけた集団にそんな扱いされたら、そりゃそうなるわな」


「なっ!?だ、誰がふざけた集団だってぇ!?」


大翔の皮肉を込めた発言に奈帆は堪らず声を上げる。が、尚も続ける。


「大丈夫、俺らを選べ。俺らを信じろ。なんて事言うつもりはねぇ。こんな状態だ、信じられるわけないよな。俺だって、まだこいつらの事本気で信じてる訳じゃねぇし、大切な仲間って存在でもないからな」


2人の方は視線を向けながら、口角を上げて告げる大翔に、沙耶が少し寂しそうな顔をし、美里は何が言いたいの?といった表情を向ける。すると、大翔は小さく呟く。


「でもよ」


今までの事を思い返す。誰も信じられない。1番大切で、1番信じていた人物に裏切られ、過ごした全て、好きだった全てが、嘘だった。もう、何1つとして信じられなかった。そんな中、転生し考えを変えようと必死に努力した。それなのに、また騙し合いや殺し合いといった醜い現状を見せつけられ逃げ出した。


でも


そんな自分を見捨てずに、ぶつかってもぶつかっても逃げずに受け止めてくれた1人の少女がいた。それなのに、また1人の人物に裏切られ逃げ出してしまった。


これ以上失望し、絶望したくなかったのだ。


それでも、と。


碧斗(あいと)の手紙と、グラムの言葉を思い返し大翔は力強く、何かを噛みしめる様に頷くと、口を開く。


「誰も信じられなくなっても、自分は信じ続けろ」


「っ!」


「自分は何がしたいのか、何をすればいいのか、それは自分が1番よく分かってる筈だ。だから周りを信じないなら自分だけでも信じろ。まっ、誰も信じてなかったら、誰からも信じてもらえないからな。ならせめて、自分だけは、自分を信じていなきゃ駄目だろ?」


ニカっと笑って樹音に真っ正面から告げる。それに目を見開き驚いたのち、その言葉の意味を1つ1つ受け止め悶々と頷く。


「はっ、いきなり何を言い出す。今の状況分かってるか?話の論点がズレ過ぎだ。円城寺には今選ばせてやってるんだ。それなのに信じる信じないだの、何言ってーー」


「分かってないのは君の方だよ、大内(おおうち)君」


苛立ちを少し露わにしながら淡々と続ける涼太を遮る様に、樹音はそう口にする。


「確かに話が繋がってる訳じゃ無いけど、僕には伝わった」


そこまで言うと、覚悟を決めたのか1度大きく息を吸い、目つきを変えて涼太の方に視線を向ける。


「僕は自分を信じる。今、僕が1番したい事を、選ばせてもらうよ」


そう告げると同時に宙に大量のナイフが現れ、それを涼太と奈帆に向かって放つ。


「っ!」


「うわっと!ちょっと〜っ!何いきなり!?」


それに涼太は背後へ跳躍し避け、奈帆は宙に逃げる。その隙を狙って樹音は沙耶達に目配りをすると、それを理解した美里は頷く。


「今のうちに行くよ」


「えっ!?」


そう呟くと同時に沙耶の腕を掴むと、反対側の手で足を押さえて少し涙目になりながらも、大翔がいる方へと走り出す。それを阻止するべく奈帆は空から羽根を飛ばし追撃を狙うが、間に樹音が割って入り、全て剣で防ぐ。


「な!?何やってんの〜?」


奈帆の声を聞き流して全力で美里達の援護をする。


「もう少し、、僕の事はいいから、みんなは早く伊賀橋君を助けて逃げーー」


「おい」


「っ!」


美里達と奈帆の間を維持しながら、羽根を防いで皆にそう告げる。が、涼太は引き止める様に、まるで最後の忠告だと言わんばかりに言い放つ。


「お前、本当にいいんだな?ここは現実じゃない。現実じゃない友を守り、現実の友を捨てる。本当にその選択でいいんだな?」


静かに告げると、樹音は表情を曇らせ俯く。が、数秒した(のち)、覚悟が決まったのか顔を上げる。


「うん。たとえ現実じゃなくても、たとえ天秤にかけられようと、今この場でみんなを裏切るわけには、見て見ぬ振りをするわけにはいかないんだ」


そのままの気持ちを露わにした。間違っていたかもしれない。後々自分を恨む事になるかもしれない。だが、ここで涼太の指示に従っていたとしてもきっと、いや、絶対に、後悔していた筈だ。だから樹音は小さく笑って続ける。


「それに、僕が選択したのはどっちでも無く、"友達"を守るって選択だよ。たとえ選択肢が2つしか無いとしても、僕は絶対に、3つ目を作ってみせる」


真っ直ぐな瞳で伝えると心底呆れた様に息を吐く。


「そうか。なら、お前ら全員逃すわけにはいかないな」


真剣な顔持ちで呟くと同時に手のひらを皆に向ける。が、何かに気付いた様にハッとし舌打ちをすると、奈帆に「やれ」と短く促す。


「はーいっ。ごめんね?」


舌を少し出して手を合わせると、翼を広げ無差別に(おびただ)しい数の羽根を放つ。


ー?今、何かやろうとー


「おい!早く逃げるぞ!」


「あ、う、うん」


彼の一瞬の素振りに首を傾げる美里だったが、大翔に声をかけられ足を進める。対して、アクションの無い修也は、まるでそれを面白半分で観戦するかの様にただただ眺めていた。


「はぁ、はぁ、で、で?あんたここからどうするわけ?いくらあんたでもここから降りられるの?」


「あぁ!?なんだその言い方!?お前助けてもらってーー」


「はぁ!?こんな危ないとこに勝手に来たくせにーー」


「み、みんな!今は、その、それどこじゃ、、」


沙耶の声に、現実に引き戻された2人は未だ尚羽根を防ぎ続けている樹音の背中を見てハッとする。


「お、おい!樹音!早く来いっ!俺が担いで降りる!」


「へっ!?あ、は、はぁぁ!?あんた、まさか、生身で私達担いで降りるつもりじゃないでしょうねぇ!?」


「あ?そうだよ、今言っただろ」


「は、はぁ?冗談じゃない、そんな事出来るわけ」


「僕は!」


2人で言い合いが始まるよりも前に樹音が声を上げる。


「僕は、、大丈夫、だから。みんな、早く行って!」


「あぁ!?んな事するわけ、っく!」


大翔が言い返そうと声を上げるも、それを言い終わるより前に羽根が放たれ、両腕を前に出して防ぐ。そんな、奈帆の強力な能力を受けながら判断を迫られている皆とは対照的に、涼太は次の行動について思考を巡らせていた。


ー奈帆をこのまま戦わせていたら桐ヶ谷の方には行けない。だが、向こうに行くとなるとこいつらを逃す事になる。俺の能力を使って、、いや、となるとー


大翔達と同じく判断を渋る事数十秒。涼太はふと口を開く。


「清宮」


「んっ?どーしたの?」


奈帆が羽根を飛ばしながら振り返ると、涼太は神妙な面持ちで告げる。


「俺から数百メートル離れる様に下の奴らに伝えろ。勿論お前も離ーー」



「そんな事はしなくていい」



「「「えっ?」」」


「「あ?」」


「んっ?」


その場に居た皆、修也までもが涼太の言葉を遮った声の主の方へと振り返る。


修也の居る本館側の屋上。修也の背後からゆっくりと近づきながら、死んだ目をし、希望の消えた表情の「彼」は淡々と、だが大きく声を上げた。


「お前が何をしようとしてるかは分かる。そんな事はしなくていい。そいつらは俺が狩る」


はははと、ほんのり薄ら笑いながら近づいてくる彼の顔がゆっくりと露わになり、皆は目を剥く。


「お前、」


「あっ、あれって」


「っ!」




「し、将太(しょうた)、君、?」


涼太と樹音、沙耶と奈帆が口々に驚きを露わにする。そこには、ずっと行方不明だった将太の姿があった。


「え、し、将太君、ど、どこ行ってたの?大丈夫なの?2日もーー」


「黙ってろ」


「え、」


奈帆が心配そうに声をかけると、短く返され寂しそうな表情を浮かべる。


「はは、はははっ、あははははっ!いちにーさんよん、、今日は大量だなぁ」


意味不明な言葉を呟きながら将太は修也を横切ると同時にお互いに一瞥する。


「大内、お前はこいつを追え。当たり前だが、清宮もな」


「っ、おい竹内(たけうち)。図に乗るのも大概にしろ。戻ったんだったらお前もーー」


「いいから言う通りにしろ」


将太が更に声のトーンを落とし呟くと、涼太は、どうなってもいいのか?という顔をしたが、すぐに奈帆に視線で運ぶよう伝える。


「う、うん、」


「そうはさせるかよっ!」


心配そうにしながら奈帆が項垂れると、それを阻止すべく大翔が身構える。


「お前はじっとしてろ。俺がすぐに相手してやるから」


「あぁっ!?」


「おい、お前どうやって向こうに行くつもりだ?」


別館の屋上に向かって歩き続ける将太に対して修也は問う。


「黙って見てろ」


それに表情を変えずに短く返す。と、同時に爪を伸ばし強度を高めて鉤爪(かぎづめ)を作る。と、突如として向かいの別館へ飛躍すると、爪を壁に突き刺しその場に(とど)まる。


「「「なっ!?」」」


「「えっ!?」」


その場に居た全員が目を疑う。と、驚く時間もないと告げるかのように将太は屋上へと昇りきり足を着くと、表情こそ変えなかったものの少し口角を上げる。



「安心しろ。お前ら全員、可愛がってやる」

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