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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第1章 : 終わりの第一歩(コマンスマン)
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08.異変

 食事の後はそれぞれの部屋へと案内されて、そこで寝泊まりする事を告げられた。


 部屋は1人1人の個室で1人にしてはなかなかに居心地が良い広さだ。正直、個室というのは碧斗(あいと)には好都合だった。2人や3人部屋なんて長居できる気がしない。話す事もままならないからだ。


 部屋はとても綺麗で、ロイヤルホテルのような内装をしている。個室と言ったものの、入って右側にはトイレ、左に洗面所があり、奥には大きめなベッドが置いてある。


 深夜の脱走を防ぐべく、部屋にはそれぞれの「お付きの人」が一緒の部屋に待機しているのだが、立って監視しているようなその状態は相当気まずい状況であった。


「マースト」


「はい。なんでしょう?」


 先程の本の事を聞こうと思ったが、あれがこの先起こる事なのだとすれば分かるはずもないし、混乱しかねないと考えた碧斗はマーストの名を呼んで押し黙ってしまった。不思議そうな顔でマーストは覗き込んできた。


「どうされたのですか?」


「いや、その、悪い。やっぱり、なんでもない」


「そうですか」


 いまいちよくわからないといった不思議そうな顔のマーストだったが、これ以上は追及はしてこなかった。しばらく悩んで、微妙な雰囲気が漂っていたが、思い立った碧斗は言う。


「そうだ、ここに本とか、ないか?」


「ありますが、お気に召すかどうか」


「大丈夫大丈夫、この世界の本を読んでおきたいだけだから」


「そうですか、なら。」と言い、マーストは碧斗を本棚に案内した。ベッドの反対側の棚を開けると書物がきっちりと整頓されていた。


「おお!これか、どんな本が、、!?」


 1冊の本を手にした瞬間、碧斗は驚きを隠せずに動揺した。その様子を見たマーストは


「やはり、読めませんよね」


 と少し笑って言った。


 そう、そこには異国語で書かれた表紙が写しだされていた。


「なんで話せるのに読めないんだ」


 ため息と共にそんな台詞を吐いた。


ー予想外だ、話が通じるからてっきり文字も、、日本語とはいかなくても、英単語を捻った文字だと想像してたー


 そこにはロシア語を更に複雑にしたような単語が並べられていた。ロシア語で読もうとしても「A」だと思われるものが明らかに違う単語になっている。


「解読も難しそうだな、マースト」


 少し考えたのち何かに気づいたかのようにマーストの名を呼ぶ。


「文字を、教えてくれないか?」


           ☆


 この世界は何かがおかしい。いや、まあ現実世界と比べると全てがおかしいのだが、そういう事ではない。


 それは、ここの国や世界の事を何も教えられていない点だ。国王の長い話には、この世界が危機的状況にある事しか告げられず、最低限の知識しか与えられなかったのだ。


「やっぱ、絶対何かあるな、この世界」


 詳しい事は各自自分で調べろって事なら、文字からの勉強だったとしてもやってみる価値があると思った。最弱の能力を手に入れてしまった人は、こういう部分でしか活躍出来ないのだと碧斗は思っていた。


           ☆


 マーストとの勉強を始めてからは昼は能力の訓練。夜は勉強というスケジュールが日課になっていた。別に辛いわけでは無いのだが、慣れない環境で勉強しているのもあり、進展が遅いのを碧斗は感じていた。


 次の日からは衣服を国から提供され、王城にある様々な服から選んで着衣するとの事になった。

 異世界と言われるとファンタジーな服しかないのかと思っていたが、正直自分の私服を上回る程にお洒落なものが多く存在し、異世界に居るとは思えない現実味のある衣服が揃っていた。いや、ただ自分の私服がダサいだけかもしれない。



 この世界に来てから1週間が経っただろうか、この世界の事は未だによくわかっていないが、今はただ目の前に置かれた役割をこなす事で精一杯だった。


「はぁ、全然出来ねー」


 訓練の帰り、相変わらず能力を使いこなせない碧斗はため息をついた。


「いや、最初と比べるとマシにはなったぞ」


「そうか?てか、マシって」


 (しん)に言われ、碧斗は苦笑いを浮かべツッコんだ。だが、最初の頃から碧斗の能力を見ていた進の言葉は何かと説得力があった。


「でも、まだ煙放出するだけなのがなー」


「だよな、他の攻撃が出来る気がしないが、少しの可能性を信じるしかない」


 ありのままの言葉を碧斗は吐いた。煙なんて、煙幕でしかない様な能力を「攻撃」として使うなんて無謀だとは思うが、これに賭けるしかない状況だった。


「お前頭いいんだからなんか出来ないのか?」


「頭良いからって能力は別だろ」


 碧斗は、力無く自嘲気味(じちょうぎみ)に笑った。


 王城に帰ると、いつもの様に食事の時間だ。あれからは食事を進と共にしているのだが、懐かしい顔が碧斗達の前に現れた。


「あ、久しぶり!水篠(みずしの)ちゃん!」


「あ、ど、どうもです!」


 相変わらずの人見知りが懐かしく感じる。思うと、転生初日から話していないのだ。沙耶(さや)だけに限らず、進や智也(ともや)以外とはあれから話せていなかった。


「ひ、久しぶり」


 碧斗もコミュ症を発揮しながら沙耶に向かって話す。


「あれから能力の方は進展した?」


 進が言った言葉に碧斗は肩を震わせた。


ーな、なんで能力の話なんてするんだ、俺の方に振られるかもしれないだろ!ー


「あ、はい。な、なん、とか。佐久間(さくま)さんと伊賀橋(いがはし)さんは、どう、ですか?」


 案の定、碧斗の方にフォーカスが向いてしまった。


「いやー、俺はともかく碧斗は全然進展してないぞ」


 笑いながら酷いことをさらっと進は言った。だが、


「でも、碧斗は今この世界の文字の勉強とか頑張ってるから、悪い奴とは思わないでくれ」


 進の言葉に、碧斗はグッときてしまった。碧斗が勉強を頑張っているのを知っている進は心の底から思っていた事だったのだろう。


「あ、いえいえ!全然悪い人だとは思いません!そ、そうなんですか、凄いです」


 パタパタと手を振りながら否定した後、尊敬の眼差しを碧斗に向ける沙耶。


 そんな眼差しに顔が熱くなるのを感じた碧斗は、慌てて顔を背ける。


「なんだよー、照れちゃってー。碧斗、頭いいから、水篠ちゃんも教えてもらったら?」


 冗談めかして進が言う。


「あ、私数学、苦手なので、その、教えて欲しいです」


「い、異世界に来てまで現世の勉強!?」


 進が驚きの声を上げる。


「い、良いけど、中学生に分かりやすく教えられるかな」


「こっ、高校生です!」


 ほっぺを膨らませて怒りをあらわにしながら沙耶が怒鳴る。


 普段静かな子の、突然の怒鳴りにも驚いたがそれより、


「「こ、高校生!?」」


 碧斗と進は驚愕の声を上げた。


「ず、ずっと、中学生だと思ってたんですか!?」


「い、いや、しょうがーー」


 そこまで言って進は言葉をくぐもらせた。


 目の前でどんどん顔を怒りで赤く染めている様子を見て、これ以上はいけないと感じた碧斗と進は無理矢理話を変えた。


「い、いやー。今日の飯は美味そうだなー」


「そ、そうだな、この、なんだこれ、なんの肉だ?」


 基本的に異世界の食品なので名称が分からない。早速言葉に詰まってしまったが、ここで碧斗は何かに気がついた様に向き返った。


「という事は、ここに居るのはみんな高校生なのか?」


「た、確かに聞いてる限りそうっぽいな、というか年齢も同じか?」

と進。


「私、は、15、です。」


「俺もだ。」


「俺は16だが、高1だ。」


 沙耶、碧斗、進が言い、同じく皆が"高校1年生"である事を確認する。


「やっぱ、同じ年齢層を転生させてるのか、?」


「でも、一体なんで?」


「ははは、あはは。」


「?」


 碧斗達が話し合う後ろから笑い声がして3人は振り返る。


 そこには不気味に笑い続ける修也(しゅうや)の姿があった。その顔には少し汗をかいていて、とても正常とは思えなかった。その異常なまでの状態を前にして唾を飲む碧斗。


「くそ、なんでだよ」


 小声で呟いた修也の声に、碧斗達が気づく事はなかった。

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