79.事実
「嘘、だろ、」
力無く声を漏らし、脱力する。奈帆に言われて見上げた視線の先、屋上には美里と沙耶の2人が縄で縛られており、何故か口にはハンカチの様なものを巻かれ、端に追いやられていた。
「「っ!?」」
2人もこちらに気づいた様で顔を上げる。それに思わず膝をつく。こんなの、公開処刑ではないか、と。
「あははははっ!いやぁ、最高だねその顔!」
「お、お前ぇぇぇっ!」
「おおっ、おっかない顔ぉ〜っ」
にやにやと微笑みながら奈帆は大翔に口を開く。
「お前!この為にわざと外に吹き飛ばしたのか!?」
「はははっ!そうだよ〜、だって見せたかったし、見たかったんだもん」
奈帆は陽気に笑ってそこまで言うと声のトーンを落として下卑た笑みを作る。
「君のその表情を」
「チッ!てめぇぇ!」
奈帆の挑発する様な物言いに大翔が声を荒げる。すると、それと同時に美里が声を上げる。
「んん!んんんんっ!んー!」
「あぁ!?なんか言ったか!?」
美里はなんだか苛立った様子で、言葉にならない声を上げる。何故大翔がここに居るのか、と。1人で乗り込んで生きて帰れる場所では無いというのに、それを理解しているのか、と。だが、口が塞がっている事と、屋上との距離が相まって大翔の耳に届く事は無かった。すると、その時。コツコツと美里と沙耶の背後から何者かが2名こちらに近づく。
「っ!んん!?」
「んっ!?」
その2人は、美里と沙耶の真後ろに到達し大翔の視界に収まる。
「っ!てめぇっ!」
「んんっ、」
ーあんた、ー
「んんん、、」
ー円城寺、君ー
思わず声を荒げる大翔とは対照的に、美里は呆れた様に、沙耶はどこか寂しそうに声を漏らす。そう、そこに立っていたのは円城寺樹音と、紫がかったパーマの髪をした男子の2人組の姿だった。
「ごめん、橘君。それに、相原さんと水篠ちゃん。みんなをこんな目に遭わせちゃって、」
本当だよ。と、叫びたかったが、それよりも伝えなくてはならない事があるのだ。と、3人は同時に口を開く。
「樹音!お前は騙されてんだ!早く気づけ!」
「「んんんっ!んんー!」」
「え?」
だが、口の塞がった2人の言葉が届くわけもなく、大翔も同じく距離がある為樹音の耳にそれが伝わる事は無かった。恐らく、この為の口封じだろう。
「ど、どうしたの?みんなして、僕が、何?」
首を傾げる樹音を差し置いて美里がキッと音がなるほどの剣幕で大翔を睨む。が、それに負けじと大翔も睨み返す。それに対し今はそんな場合では無いとおどおどしている沙耶。そんな状態に訳が分からずに皆の顔を見回すと、樹音は何かに気づいた様子で表情を曇らせた。
「みんな、怖いよね、混乱してるんだよね、ごめん」
そう樹音は呟くと「そろそろ話しても、いい、よね」と独り言の様に言うと深呼吸をして続ける。
「勝手な事してごめん。実は、ここに伊賀橋君達を連れて来て、その後王城のみんなを集めて誤解を解こうとしてたんだ。伊賀橋君が揃ったら、2人でちゃんと全部話すから。だからそれまで怖いかもしれないけど待ってーー」
「いいや、そんな事はしなくていい」
樹音が皆に言い終わるより前に、隣の人物は割って入る。
「え?」
突然の言葉に間の抜けた声を漏らす。
「お、大内君、どういう、事?」
樹音が冷や汗を掻きながらその「大内」と呼ばれた人物に恐る恐る聞くと、その男性は沙耶と美里の元へと近寄って言い放つ。
「こいつらは、ここで終わるからだ」
「「「「!?」」」」
会話が微かに聞こえた大翔も含めた4人は、それが呟かれると同時に目を剥く。それにすかさず樹音は声を上げる。
「大内君!一体どういう事!?伊賀橋君達を大人しくさせてここに連れて来て欲しいって、そしたら王城のみんなを集めて誤解を解かせるって、そう言ってーー」
「はぁ、お前ほんっとーに馬鹿だな」
心底呆れた様に声を上げると、大内は息を大きく吸って大声でそれを叫ぶ。
「下のやつを早く上に連れて来い!集合だ!」
「誰に、、言ってるの、?」
恐怖から震えている沙耶と美里の隣で、樹音は恐る恐る聞く。だが、下から屋上を見上げている大翔はその言葉の意味を直ぐに理解した。そう、下の奴を連れて来い。そんなもの、碧斗以外に誰がいるというだろうか。
「フッ、これで2人には聞こえなくても"もう1人"には聞こえたはずだ」
意味不明な発言を繰り返す大内に樹音は抑えきれなくなり、彼の肩を掴むと口を開く。
「大内君!説明してよ!どういう事!?みんなを連れてくるんじゃ無いの!?ここに2人を置いておけば、伊賀橋君と橘君も来るって、、そしたらみんなを呼ぼうって、、そうなんじゃないの!?」
「少し黙ってろ」
「っ!?」
不意に放たれたトゲのある言い方にたじろぐ。すると、大内は「もう少ししたら分かる」とだけ呟いて樹音の手を払った。
「おい!何ベラベラ喋ってんだ!とりあえず樹音への話は後だ!それよりも早く2人を解放しろ!」
大翔が痺れを切らせて叫ぶと、大内は息を吐いて嘲笑する。
「お前、自分の立場分かってんのか?そんな大口叩いて、今の今まで何やってたんだよ」
大内の言う通りである。それこそ言葉にはしていなかったが、美里や沙耶が捕まった今、大翔の味方は1人しか居ないのだ。いや、その1人でさえもう無事かどうか不明である。同じくその言葉の意味を理解した美里もまた、呆れた様に息を吐き、沙耶は大翔に対し声を上げる。
「んんんっ!」
おそらく逃げてと、沙耶は伝えようとしているのだろう。それを察した樹音は険しい表情を浮かべ、大翔は「逃げんのはお前らを連れてだ。馬鹿が」と、誰にも聞こえないくらいの声で呟くと、聞く耳を持たずに戦闘態勢へと移る。すると、その瞬間。ザッザッと、芝生を歩いて近づいてくる足音に大翔は気づき、そちらへと体を向ける。
「っ!?」
2人の男女に肩を持たれて、1の男子が気を失っているのか、力無く足をするびいて運ばれてくる。
「ういっ!」
そう掛け声を上げるや否や、運んでいた男子を捨てるかの様に放り投げる。そう、碧斗である。
「っ!あ、碧斗!?」
「「っ!?」」
大翔と沙耶は同時にその人物に気づきその名を口にする。美里も同じく声には出してはいなかったものの、あいつも来てたの?と言わんばかりに目を剥く。すると、沙耶は心配そうな表情で何かを訴える様に美里に目をやる。だが、その視線に沙耶の心情を察したのか、美里は冷や汗をかいて唇を噛みながらゆっくり首を振る。
「ふぅー重かったぁ」
「でも、男子にしては、軽い」
「痩せてて助かったな」
肩を回しながら笑う男子と表情1つ変えずに淡々と話す女子。
「てめぇら、!クソッ、やっぱ1人で相手は無茶過ぎたか、」
その、ある意味予想通りな光景に歯嚙みする大翔。それと同時に、屋上の沙耶は2人に気づき目を見開く。
ーあれって、神崎さんと、阿久津、君、ー
「あの時」の2人を覚えていた沙耶は同じく冷や汗をかく。美里も、2人を知っているわけでは無かったものの、王城で見た顔である事から状況を察する。
「え?あ、あれ、って、伊賀橋君、と、あれ、って、」
対する樹音は知らない2人の姿に動揺する。恐らく、樹音と同じ要領で碧斗を連れて来たのだろうと予想する。だが、それにしても、と。あの2人の存在に首を傾げる。
それはそうだ、みんなを連れて来いと言われたのは樹音だけである。と、彼は思い込んでいるのだから。
「う、あ、え、」
すると刹那、意識を取り戻した碧斗は目を開く。
「おっ、起きたっぽいな」
「思ったより、早い」
「まあ、電力弱めにしたからねぇ」
「こ、ここは、?」
目覚めた碧斗に気づいた智也と愛梨は軽く会話した後、一呼吸空けて屋上を指差す。
「え、」
ゆっくりと、嫌な予感を抱きつつ見上げる。
やはり、嫌な予感というものは、当たるものだ。いつも、そうだ。
「なっ!?」
立ち上がろうとしていた碧斗は、美里と沙耶の姿にを目にし尻餅をつく。その表情に満足したのか、大内は小さく1度笑うと声を上げる。
「おい、みんな集合だ。そろそろ来たらどうだ、下に居んだろ?」
「「んっ?」」
「居るって、?」
その言葉に樹音を含めた屋上の人達は、眉間にシワを寄せる。と同時に、下の方から気の抜けた声が放たれる。
「はいはーい、あそこの方が眺め良かったんだけどなぁ」
声の発せられた方向へと、樹音は冷や汗を掻きながら視線を向ける。と、ゆっくり。ゆっくりとその人物の頭部が現れる。
それに伴って樹音の表情はだんだんと険しいものへと変わっていく。
それはそうだ。その艶のある黒髪のショートボブには、とても見覚えがあったのだから。
「えーと、私は清宮奈帆っていいます!円城寺樹音君、だね。はじめまして、、では、ないよね?」
その、自分よりも2、3倍大きな翼を広げ、黒髪の女子がそれをはためかせながら全身を露わにする。
と、奈帆は軽く自己紹介をした後、ニヤリと小悪魔の様な笑みを浮かべ首を傾げる。だが、樹音はその言葉すらも受け付けずに、更に険しい表情へと変化していった。
「どうして、君が、ここに、?」
「えー?どうしてって、私の方が先に君のやってた計画に参加してたんだけど?まっ、正確には私達、、かな」
「先に、、計画にって、君達はこの前まで僕と伊賀橋君達を倒そうとしてたんでしょ!?それなのに、どういう事なの!?」
理解の追いつかない脳を必死に動かし、言葉を絞り出す。すると、奈帆はケロっとした顔で更に続ける。
「え?いやいや、それはこっちのセリフだよぉ。だって、私は、私達はずっと同じ計画に参加してるんだよ?」
「え、、?」
先程までの、必死に弁明をしている時とは打って変わって、今度は力無く絶望が滲み出した表情へと変わる。
それに、とどめを指す様に奈帆は笑って告げる。
「この、伊賀橋碧斗を含めた裏切り者を排除するっていう作戦にねっ」
「え、なん、え?それ、って、」
奈帆はまたもや小悪魔の様な笑顔で真実を口にする。いや、そこにいるのは小悪魔なんて可愛いものでは無い。この清宮奈帆は、正真正銘の、悪魔だ。
とうとうその言葉によって全てを察したのか、樹音の顔からは血の気が引いていく。それと同時に、美里も気づいた様で目を見開いた。すると、まるでその現実から目を背けるかの如く、樹音は大内に詰め寄る。
「どういう事、?それって、え?なんの、事?」
「まだそんな事言ってんのか。はぁ、でも、そのおかげで随分と助かったよ」
ため息混じりに言い放つと、樹音に向かって歩き始め、彼の耳元で大内は続ける。
「お前が間抜けで」
「っ!?」
間抜け。確かにそうなのかもしれない。だが、ここまできて現状が理解出来ない程馬鹿では無い。
「はっきり言わねぇと分からないみたいだな。なら言ってあげよう」
そこまで呆れた様に呟くと、1度フッと息を吐く。
「俺とこいつらは手を組んでたって事だ。いや、違うな。俺がずっとこいつらに命令してた訳だ。この裏切り者を捕まえろってな」
「「「っ!?」」」
その場に居た樹音と美里が改めて、沙耶がようやく理解する。
ーまさか、、あの時に竹内君が言ってた大将って、、ー
沙耶は彼らの言う「グループ」に捕まった2度目の時に告げられた、将太の言葉を思い出し、冷や汗が伝う。すると、大内は振り返り、下に居る人も含めた皆に向けて大声で言い放った。
「ここらでお前らにも答え合わせといこうか。俺は大内涼太」
淡々と、だがどこかほくそ笑む様な表情と声色で名を名乗り、その事実を口にする。
「ここに居る清宮奈帆、神崎愛梨。阿久津智也。そして、今はいないがもう1人。俺がそいつらに命令し、お前らを指名手配にしてはずっと追っていたメンバーであり、俺らは通称こう呼んでいる」
ニヤリと笑うと、一呼吸置いてその名を披露する。
「処罰する者、と」
彼の言葉は、距離のある地上にも聞こえた様で碧斗と大翔も顔を歪める。だが、碧斗達5人は、その事実に1人も声を発することは、出来なかった。




