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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第3章 : 裏切り合いの終着点(デルニエアレ)
72/300

72. 疑心暗鬼

暖かい日差しに照らされ、目が覚める。暖かいと言われると、なんだか心地の良いものを連想しがちではあるが、全くそんなものではない。寧ろ、忌々(いまいま)しいほどだ。


あれから独りで夜の街を彷徨い、なんとか安全に寝れそうな場所を見つけた碧斗(あいと)は、飲食店の外の、大きなゴミ箱の様なものが並べられているなかの1つである段ボールの中に蹲り、近くにあった薄い布を上に被せて寝ていた。


その為か、(さいわ)いチンピラなどに襲われる事は無かった。安全に朝を迎える事が出来た碧斗だったが、普段でさえ寝起きが悪いのもあり気力を失った状態でフラフラと歩き始めた。昨日は帰る場所すら無い為食事も取れていなかったのだが、腹が減る事は一向になかった。


「はぁ、もう、駄目なのかな、」


いっその事、あの時皆と一緒に捕まってしまいたかった。どこに連れて行かれたのかも分からず、当てもなく彷徨い、仲間だと思っていた人物には裏切られる。いや、元から向こうは仲間だと思ってくれてすらいなかったのかもしれない。勝手に信じて、勝手に絶望する。大翔(ひろと)の言っていた通りではないか、と息が荒くなる。やっぱり人を信じてしまうのがいけなかったのだろうか。


ーやっぱ俺に友達なんて、夢物語だったのかなー


そう心で思った瞬間、沙耶(さや)美里(みさと)の姿が思い浮かぶ。沙耶はいつも自分と共に行動してくれ、碧斗の自分勝手な行動にも優しく受け入れてくれたではないか。美里も、いつもピンチに陥った我々を救ってくれたのは他でもない。彼女ではないか、と。たとえ捕らえられた場所の見当がつかなくても、もう駄目だと諦めてしまうのは2人に幻滅されてしまうだろう。たとえ、向こうが「友達」だと思ってくれてなかったとしても、それでも。


ーもう、2人を失望させたくないー


また独りで悩んで、勝手に閉じこもって、勝手に逃げ出すのはもう嫌だ。と、小難しい事を考えるんじゃないと、自分自身に言い聞かせる。負の感情は後を絶たない。きっと今もまだ、前向きに考えを変えようとしているだけであり、本心ではもう駄目だと思っているだろう。だが、たとえそれが無理矢理前向きな意見で自分を納得させただけのものだったとしても、これは間違ってないと心で思えるのならば、それ以外に道はない。


よしっ、と。気合いを入れて歩き出す。後ろ向きな感情が見え隠れするたびに腹の奥底に違和感を感じた。だが、大丈夫だ。と、前向きな考えで蓋をし、自分を何度も偽った。


あれから3時間、何度歩き回ってもそれらしいものが見つからず、何度も(なげ)きそうになる。いや駄目だ、諦めるなと、呪文の様に脳内で唱え続ける。


だがしかし、ポジティブな言葉で自分の気持ちを押さえつける事に限界が近づいてきていた。もう駄目だと、諦めたかった。いや、既に心の何処かで諦めていたのかもしれない。樹音(みきと)はしっかりした性格であるがゆえに証拠は残さず、目撃者を捜そうと試みても、コミュ障の碧斗は初対面の街の人に声をかける事すら出来ずにいた。


「はは、、はぁ、もう、やめようかな、」


とうとう見て見ぬ振りをしてきた自分の本心である黒い思いが溢れ始める。居場所も、友達も居ない。助けるにも情報はない。2人が連れて行かれて、あれから20時間も経っている為安否も不明である。「もしかすると」と、負の感情が湧き上がる。もう駄目だ。と、もう助けられない。独りでは結局何も出来ない、無能な人間なのだ。いや、皆で行動していたとしても、自分は何もやっていないのではないか?と、碧斗は力無く自虐的な笑みを浮かべた。


久しぶりにいつもの公園に立ち寄り、手洗い場で水分補給を終えるとフラフラと死んだ目をし、おぼつかない足取りで路地裏へと歩み寄る。すると、ふと最悪な考えが浮かぶ。


ーもうここで、終わらせようかなー


本気の言葉では無かったかもしれない。だが、碧斗はそんな事を考えてしまう程追い込まれていたのだ。前の様に職業(ジョブ)を変えて違う道を歩もうとする事すら出来なかった。もう、何もするつもりになれなかったのだ。


「はぁ、」


消えてしまいたい。そう脳内で呟き、力無く壁にもたれかかった。





瞬間




「、?っ!」


路地裏に差し込む光の先、遠くに見える商店街の大通り。そこを、一瞬。ほんの一瞬見慣れた人物が横切るのが見えた。何をするでもなく呆然としていた碧斗は、それを視界に収めた後、少しの間理解出来ずに呆然としていたが、数秒後何が起きたか脳が認知し瞳に光が戻る。


「っ、ま、まさかっ!?」


慌てて立ち上がり、その姿を確認するべく路地裏の外へと走り出す。顔出したその先、数十メートル先には他でもない。円城寺(えんじょうじ)樹音の姿があった。


ーな、なんで円城寺君がここに、?まさか、昨日捕え損ねた俺らを捜しに来たのかー


周りをキョロキョロと見回す素振りや、街行く人に声をかけたりしている様子を見ると、やはり我々を捜していることに間違いはなさそうだった。見つかってしまったらひとたまりもない。が、今の碧斗には好都合だった。


寧ろこちら側が樹音を捜していたのだから。


よし!と、1度息を吐き深呼吸する。後を追うも、もし見つかったら最弱の能力であるがゆえに手も足も出ないだろう。即ち、その状況に陥った時には既に2人は救えないという事である。だが、もうどっちみち他の道なんてないのだ。それなら、と。高まる鼓動を抑えながら、碧斗はゆっくりと彼の尾行を始めるのだった。


           ☆


樹音の後を静かに、物音1つ立てずにゆっくりと付ける。息は上がり、手足は震えた。それはそうだ、追っているのは自分だけでなく、向こうも同じなのだから。つまり、自ら捕まりに行っているのと同じなのである。だが、そんな自身を危険に晒す様な行動をしてでも2人の居場所を突き止めたいのだ、と。自分を納得させ1歩1歩彼を追いかける。


すると、商店街を抜けた(のち)見慣れた景色が現れ、樹音の向かう先を察する。そう他でもない、グラムの家だ。


「なっ!?」


その瞬間、碧斗はハッとし目を剥く。マズい、と脳内で呟く。だが、そうなる事は目に見えていたのだ。無理に碧斗と大翔を捜すよりも、確実に居る可能性の高い家を訪れる方が効率的だと言えるだろう。驚くほどのことではなかったのだが、碧斗の頰を冷や汗が伝った。いくら大翔だとしても、1対1での戦闘は流石に無理があるだろう。いくら皆が動揺し、最弱の能力者である碧斗が居たからと言っても、昨日4人で相手をしても追い詰められてしまった相手である。もし、ここで2人が鉢合わせをしてしまったら、この場で拳を交える事になるだろう。なるべく、それを避けたいところだが、と。そう考えた瞬間、樹音はグラムの家に到達しインターホンに手を伸ばす。


ヤバイと反射的に体を乗り出したが、ここで飛び出しては意味がない。碧斗1人の力では彼を止めることすらなし得ないのだ。つまり、大翔が玄関から現れないでくれ、と。そう祈る事しか出来なかった。荒くなる呼吸をバレない様に抑えながら、ゆっくりと扉が開けられるこの現状に耐えきれなくなった碧斗は目を強く瞑る。瞬間


「ん?おお!なんじゃミキトか!いやぁ、昨日は誰も帰ってこないからびっくりしたぞ?何か、あったのか?」


突如として聞こえたその「聞き慣れた声」に、碧斗は驚愕に目を開く。


ーなっ!?ぐ、グラム、さん!?ー


対する樹音も声を詰まらせており、同じく動揺していた。と、樹音は直ぐに開き直って口を開く。


「あ、あのっ!(たちばな)君は、居ますか?」


「お?ああ、会っとらんのか?悪いのぉ、今ヒロトは留守にしててな。場所も聞いとらんのじゃ」


良かった、と。碧斗は内心ホッと安堵する。なんとか、2人の対面は避ける事が出来たようだ。それとは対照的に樹音は表情を曇らせて「そう、ですか、」とだけ呟くと、1度頭を下げて笑った。


「分かりました。ありがとうございます!少し、捜してみます!」


「おう!もし会ったら皆に今日はレクテリア焼きじゃと伝えておいとくれ!」


「はい!」


力強く樹音は相槌を打つと、唇を噛みながらグラムの家を後にした。

   

           ☆


樹音を追いかける事早3時間が経つ。先程まで朝だと感じていたのだが、既に時刻はお昼になっていた。


「はぁ、ここも、駄目か、」


碧斗とは違い、街行く人に声をかけて回っているのにも関わらず、樹音は大翔を見つける事は出来なかった様だ。それに勿論だが、碧斗も。


「そろそろ戻らなきゃ、」


小さく呟いた樹音の一言に、碧斗は疲れ果て彼の見えない位置に腰掛けていた体を驚きと共に起こす。


ーと、とうとう、帰るのかー


やっとか、と。ため息を吐く樹音とは対照的に安堵の息を吐く碧斗。ゆっくりと、今までと同じ様に音を立てずに樹音を付ける。が、しかし。どんどんと進んでいくうちに違和感を覚える。


ーあれ?ここってー


そう、何処かで見たことがあるのだ。いや、それよりももっと、まるで登下校をする道を歩いているかの如く、どこか少し懐かしく、それと同時に胸騒ぎが増していった。


「はぁ、駄目だ、」


そう呟いて樹音は玄関を開ける。その巨大な建造物に入って行く樹音に思わず声が漏れる。



そう、そこは王城だった。



ーなっ!?い、一体、これって、こんなの、ずっと、俺らを騙してた様なもんじゃねぇかっ!?ー


唖然とする。ずっと友達だと、仲間だと思っていた相手が、敵地である王城へと堂々と入室しているのだ。確かに、お昼時である事から、食事の為だという可能性も大いにある。だが、たとえそうであったとしても、侵入した際に碧斗達と同じく狙われていた樹音が平然と王城へ入って行くという事は、ずっと"演技"していたのと変わりはないという事である。


「あ、あ、ああ、あああっ、」


分かっていた。そんなの、分かり切っていたのだ。我々に刃を向けた時から、分かっていたのだ。でも、どこかで信じていた。樹音に考えがあって、彼が単体で実行した事であると、心のどこかでそう思っていた。だが、これが王城にいる転生者達と組んで仕組まれたものだと、今目の前で起こってしまった現実で、その儚い願いとも取れる願望が、消えてしまったのだ。あまりの動揺に碧斗は尻餅をつく。




嘘だ。


嫌だ。


嫌だった、信じたくなかった。


あんなに優しく、我々を受け入れて、優しく接して、誰よりも平和を、戦いのない世界を夢見ていた彼がずっと騙していたなんて事、絶対に信じたくは無かった。


「はぁ、はぁ、クソッ、クソッ!なんでっ!なんでだよ、なんでなんだよ、、」


更には王城の人達と繋がっている事から、沙耶や美里が安全である可能性も更に低くなってしまったのだ。この絶望的な状況に更に息を荒くし、抑えることの出来ない気持ちを碧斗は大声で吐き出した。



「なんでこうなんだよっ!!」

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