70. 欺瞞
キャラクターファイル18
円城寺樹音
能力:刃
運動能力:5
知能:4
速度:3
パワー:2
成長力:3
「う、嘘、、だろ」
「お前、マジかよ」
「え、ち、違う、よね?な、何か他に、意味が、あるんだよね?」
その信じたくない現実に碧斗達は力無く呟く。それに美里はやっぱりといった様子で息を吐いた。すると、そんなものはお構いなしといった様子で樹音は笑って続ける。
「手荒な真似をして申し訳ないけど、ついて来てくれないのなら。みんなには、ここで捕まってもらうよ?」
その言葉がまるで引き金だったかの如く樹音の周りの「空中」に浮いている短剣が、まるで括り付けていた縄が切れたかの様に碧斗達の方へと向かって動き始める。
「っ!あ、危ない!みんな外に逃げて!」
それを目の当たりにした碧斗は慌てて皆に振り返り声を上げると走り始める。が沙耶は未だ目の前で行われている現状が信じられないらしく放心状態になった様に呆然と立ち尽くしていた。
無理もないだろう。自分も同じく、今現在起こっている事態に頭が追いつけていないのだ。だが、今はそれにどうこうと考える余裕はない。と、自分にそう言い聞かせて碧斗は沙耶に早く逃げてと促す。しかし、ドアに駆けつけた大翔がドアノブに手をかけたその瞬間、手を上手く避けてナイフがドアノブに刺さる。
「なっ!?」
「きゃっ!?」
腕を怪我しかけた大翔だけでは無く、ドアの周辺に居た美里も思わず声を漏らす。対する沙耶も、隣に居る碧斗も震え身動きが取れないほどたじろいでいた。瞬間
「動いたら、死ぬよ?」
「えっ」
小さく、だがしっかりとそう呟かれたと同時に碧斗を上手く避ける様に、ナイフが体の周りを掠るように素通りする。がしかし、何百とあったナイフが1本と我々に刺さる事は無かった。その為、碧斗はひとつの仮説を立てると、脳内でそれを呟く。
ーなるほど、あくまで俺らを捕まえて"その場所"へと連れて行く事が条件であり、倒そうとしてる訳じゃない、か。まさか、この室内で決着をつけるつもりか?それなら一体ー
冷や汗を掻きながらも樹音の作戦を予想した碧斗は彼の心境を確かめるべく口を開く。
「円城寺君!一体、なんでこんな事!俺らをここに誘き出したのは本当にこの為だったのか!?」
碧斗の必死な訴えに樹音は1度息を吐くと、ニヤリと笑い続ける。
「伊賀橋君言ってたよね?"相手を傷つけたくないのは俺もだから"って」
「え?」
突如としてなんの脈略もない事を言い出した樹音に間の抜けた声を上げる。すると樹音は上げていた口角を戻し、神妙な表情をすると声のトーンを落として続ける。
「だから、、それを利用させてもらったよ」
「なっ、一体どういう、意味、だよ、」
碧斗を含め皆はどういう意味か分からずに声を上げることすら出来なかった。
「ここでみんなを捕まえようと思った。だからゆっくり話をするって言って誘き出した。信じてたよ。伊賀橋君なら周りの人に迷惑かけない様に移動しようって言えば、ついて来てくれるって」
「っ!?」
心の内を見透かされている様だった。そうだ、その通りだ。と、そう思うよりも早くに樹音は更に畳み掛ける。
「伊賀橋君、本当は少し疑ってたんだよね?僕のこと。だからこそ、移動してくれると思ったんだ」
樹音の告げようとしている事を理解し目を剥く碧斗。信じたくなかった。だが、やはり心のどこかでそれを疑っていたのかもしれない。もしかしたら、と。樹音の言う通り、だからこそ場所を移す提案に同意し、この場に来たのだ。そう、もしかしたらあの商店街で「これ」をしようとしているのでは無いかと、疑っていたからだ。その為街の住民に被害を出さない為、樹音の意見に賛同したのだ。だが、と。碧斗は目つきを変えて言い返す。
「でも、俺も、俺だって円城寺君とは違う意味で信じてたんだ!だから、だからこそこの場に"みんな"でついて来たんだ!それなのに、どうして、」
本心を口にする。それはそうだ、こんな事になるなんて分かっていたら皆を連れてこんな危ない場所へと訪れる訳がないのだ。確かに樹音の言うように疑う気持ちもあった。だが、それよりも信じたいという気持ちが勝っていたのだ。
「ありがとう信じてくれて。なのに、ごめん。それを裏切る様な事して」
どうしてと、碧斗が樹音に迫ると、皆も同じく責めよる。が、樹音は俯きながら「だけど」と呟くと顔を上げ優しく、爽やかに笑顔を作り言い放つ。
「君達を逃すわけには、、いかないよ」
それを言うと同時に、樹音は自分の顔の前にナイフを生成すると、それを山形に動かして美里の方へと向かわせる。
「っ、1本、?あんまり私を舐めない方がーーっ!」
たった1本のナイフのみを自分に投げかけた事に少々腑に落ちない様子で美里が呟いたその瞬間、彼女との距離が40メートルほどになったと同時に1本のナイフを軸にし、周りの空間に数本のナイフが出現する。
「!?」
慌てて右に避けた美里だったが、数十本ものナイフが向かっていたのにも関わらず1本のみがこちら到達し頰を掠る。
「っ、てめぇ!」
美里が声を上げるよりも前に、大翔が声を荒げ樹音へ地面を蹴って向かう。だが
「ごめんね。くらってもらうよ」
そう呟いた後またもや大量のナイフを出現させると、大翔に向かって雨を降らす。
「はっ!んなもんで俺が負けるかよっ!」
威勢よく声を上げると、速度をつけて降下するナイフを1本1本拳で破壊していく。
「お前ら!今のうちに樹音を止めろ!俺は攻撃を防いでおく!」
大翔はそう皆に促すとハッとした様子で碧斗と美里は頷く。が、しかし
「っ!?いっ!な、なんだっ!?」
突如として左足に、激痛が走り大翔は声を上げる。その原因を確かめるべく大翔は視線を落とす。すると、そこには自分の足に1本のナイフが突き刺さっている現状が映し出されていた。
ークソッ!上からばっか気にしてて下に来てたのに気がつかなかったっー
しくじったと心でそう思った瞬間、それを視界に収めた為かバランスを保てずに足を押え床に崩れ落ちる。
「く、っそ!」
「っ!大翔君!?」
「「っ!」」
大翔の行動の意味を理解した碧斗と美里は振り返り、走り出す。と、皆の様子に我に返った沙耶は目を見開く。刹那、樹音に向かっている2人に手に握っている剣を投げる。
「っ!?あっ、危ない!」
「えっ!?」
突然の出来事に動揺しながらも反射的に既のところで避ける。いや、避けずとも大怪我を負わせるとは考えられない位置へとそれは投げられていた。避けた反動のまま2人は後退ると樹音を見据える。
「伊賀橋君、いい加減来てくれないかな?」
「円城寺君、君の目的は一体なんだ、?いくらその場所に連れて行きたいからって、俺らを倒すつもりはない、ただの揺さぶりでしかない攻撃を、このまま続ける意味なんてあるのか?」
碧斗が真剣な面持ちで問うと、樹音は何か言いたげな表情をする。が、その瞬間
「円城寺君!」
「「っ!」」
それを遮るように沙耶が大声を上げる。
「円城寺君っ、な、なんでっ、なんでよ!だって、ずっと、私の事、私達の事、守ってくれてて、凄い、嬉しかったのに、」
消え入りそうな声で、涙目になりながら弁明する。その姿に1度表情を曇らせると直ぐに取り繕って笑い、樹音は言い放つ。
「水篠ちゃん、残念だけど現実を見る事だね」
無慈悲にそう呟くと手に剣を生成しそれを沙耶に向けて投げる。
「水篠さん!逃げてっ!」
「っ!避けて!」
「へ、う、そ、」
沙耶から離れてしまった2人が間に入れる訳もなくただ声を上げる。だが、すでにその現実に絶望を隠しきれない沙耶はただただその場に立ち尽くす。と、瞬間沙耶の前に大翔が割って入り、剣を殴り壊す。
「さ、させるかよ!」
「っ!大翔君!」
大翔の瞬時の行動に碧斗は表情を輝かせたのち歯嚙みして声を上げる。
「みんな!とりあえず今は一回逃げて!」
そう言うが早いか碧斗は煙を放出し脱出を促す。それに無言で頷くと3人は視界の悪い煙をかき分けながら出入り口へと向かう。やはり、この能力の悪い点は能力者本人である碧斗すらも視界が妨げられる事である。その為樹音だけでなく碧斗を含めた4人も出口が見つけられずに戸惑う。そんな中、大翔が外へ脱出する事に成功し碧斗もまた野外に足を踏み出す。だったが
「い、伊賀橋く、、っ!」
未だ壁を伝ってドアを探し沙耶を先頭にして歩く2人は小さく碧斗の名を呼ぶと同時に目の前にナイフが飛んでくる。
「っ!?だ、大丈夫!?」
「う、うん、」
後ろを歩く美里は前方の様子に気づき、沙耶に慌てて声を上げる。それに冷や汗を掻きながらも笑顔を作って答えた。筈だったのだが。
「なんとか、だいじょっ」
「え!?どうしたのっーー」
刹那、頭がぐらんと揺れ視界がぼやけたかと思うと、意識を失う。それに駆け寄る美里もまた、同じ衝撃が襲いその場に倒れるのだった。
☆
「だっ!大丈夫!?」
先に脱出に成功した碧斗は2人が中に居ることに気づき慌てて室内へと戻る。が、その瞬間目の前に細長いものが映り込み慌てて後退ると、状況が飲み込めずに目を瞬かせる。
「外したか、」
煙の中から剣を持った樹音が現れると同時にそう口にする。今の攻撃は煙に紛れた樹音の物だと理解した碧斗はまたもや問い詰めようと詰め寄るがしかし。
「なんでこんな、っ!」
言い終わるより前に剣を振られ恐怖からたじろぐ。と、その時背後から大翔に強い力で引っ張られ2人は路地裏へと消えていった。
「逃しちゃったか、でも2人を置いてはいけないし伊賀橋君達を追うのは後にするか、」
残された樹音は2人に視線を落としながら表情を曇らせてそう呟くと、目的の場所へと沙耶と美里をおぶって歩き出した。
☆
「おい!何すんだよ!まだ2人が無事かも分かんないのになんで逃げたんだよ!」
大翔に連れられ遠くまで逃げてきた碧斗は声を荒げて言い放った。それに対抗するかの如く碧斗の胸ぐらを掴んで声のトーンを下げて大翔は呟いた。
「あのままやっててもどうせ今のを繰り返してたらやられてただろ!なぁ、ほらな?やっぱり嘘だっただろ?樹音が仲間だってのは」
「いや、そ、それは、その、今は関係ないだろ」
「関係なくねぇだろ。やっぱり、人を信じようとするのが馬鹿なんだよ!お前がどんなに信じてたとしても、どんなに友達だと思ってたって向こうは少しもそうとは思っちゃいねぇ。人は、裏切るもんなんだよ!」
「ち、ちが、」
「違わねぇだろ!何が俺は信じるだ、そんな甘ったれた事言ってるから裏切られちまうんだ!どうせあのわがままな相原って奴も」
「で、でも、だからって置いていけるわけないだろ!」
「今お前は誰を助けたいんだ?大切な仲間、友達。だろ?」
そこまで言うと大翔は乱暴に手を離して碧斗を睨む。
「それで?そいつを殺そうとしてんのは誰だ?」
「そ、それは、」
言葉を濁す碧斗に痺れを切らせた大翔は大声で返す。
「殺そうとしてんのも友達だろうがよ!」
「う、そ、それはそうだけど、でも、円城寺君にも何か理由がある筈だ!あの時、あんなに攻撃してたのに、俺らに致命傷を与える様なものは1つもなかったし、俺らを倒そうとしてるとは限らないんじゃーー」
「は?俺は一撃喰らってんだよ。それになんだよあの技、今まで1度だって出したことねぇだろ?お前も見た事無かっただろ?ずっと隠してたんだよ!この時の為にな!」
あの戦いにおいて違和感を感じた部分を指摘して碧斗は弁護するものの、その途中に大翔が強引に割って入る。
「う、そ、それも、何か理由が、」
「はっ、もういい。やっぱり誰かを信じようとしたのが馬鹿だった。お前は助けに行くなり勝手にしろ。俺はもうお前らと行動するつもりはない」
大翔はそう舌打ちをして呟くと、踵を返して歩き出す。だが、少し歩いたのち思い出した様に振り返ると吐き捨てる様にそれを呟く。
「後、もう家来んじゃねぇぞ。お前が居ると迷惑なんだよ」
「あ、え、そ、」
1人取り残された碧斗は何を言えばいいのかも分からずに言葉にならない声を漏らし、ただただその場に立ち尽くす事しか出来なかった。




