07.友達
キャラクターファイル14
伊賀橋碧斗
能力:煙
運動能力:1
知能:6
速度:1
パワー:1
成長力:5
美里の炎の能力は凄まじいもので、大魔獣相手にも引けを取らない強いものだった。
ーま、マジかよ、めっちゃいいじゃんー
美里の能力を初めて見た時にも感じてはいたが、能力を自分で選ぶシステムにして欲しいと改めて思う碧斗だった。
あっという間に弱った魔獣は森の奥へと身を潜めた。
「はぁ、これからは1人で行動するなんて馬鹿な事考えないで。あんた弱いんだから」
「ち、直球過ぎないか!?」
どストレートに打ち込まれた、言葉という名の弾丸は碧斗に致命傷を与えた。
ーそ、そんなに言わなくても良いだろー
分かってはいたが、他人に真っ正面から言われるとキツいものがあった。
もっと仲が良かったら、ここで軽い言い合いのようなものをしてみたかったが、とてもではないが出来る相手ではない。
色々な事を考えていると、美里が踵を返し、来た道を帰ろうと歩き始めた。
「ちょっと待って」
反射的に引き止めてしまった碧斗は「今度は何?」というような目つきを向けられ怯む。だが、
「さっきは本当に助かった。ありがとう」
碧斗は正面からきちんとお礼をしたかったのだ。お礼と謝罪は反射的にしてしまうものなのだろう。
「そう、別に助けようとした訳じゃないけど。というか、礼儀だけはちゃんとしてるのね」
「だけ!?だ、だけとはっ!?」
いつも通りの無愛想な返事ではあったが、教室で見ていた表情とは少し違う気がした。
☆
帰り道がよく分からなかったので美里について行く他なかったのだが、その度についてくんな。という様な顔でこちらを睨み付けてくるので、ビクビクしながら森を出る事になった。
ーやっぱりまだ怖いな、ー
その反応を見た碧斗はまだ打ち解けた訳ではない事を深く感じさせられた。
無事とは言えなかったかもしれないが、森の外に出る事が出来た。
そこには敵を倒し終わったのか、はたまた飽きてしまったのか数人の転生者が話をしていた。
「おっ、森の中2人きりで何してたんだっ!?」
雷を発生させていたチャラ男に目をつけられてしまった碧斗達。
それに対し美里は、何を言うでもなく怪訝な顔をして、横を通り過ぎていった。
「おっ、おい、一体何処に、」
「気になるねぇ〜」
「そういうんじゃないからな!」
相変わらずサバサバとした対応の美里に声をかける碧斗だったが、チャラ男に話しかけられて否定せざる終えなくなったのだった。
☆
「はぁー、こ、怖かった」
美里が街の方に戻っていったのを確認して、碧斗は脱力感を感じた。
「随分とサバサバしてるねぇ〜、あの子」
「ああ、超塩対応」
美里と話した後だったので、初対面でも関係なしに話せた。コミュ症でも、レベルマックスの人と話した後なら誰とでもなんとか話せる様だ。
「最初から気になってたが、あなたの能力は雷とかか?」
「おっ、よく見てるね、そう。俺、阿久津智也。能力は正確に言うと"電気"だ。よろしくー!」
「お、おう。俺は伊賀橋碧斗。能力は言いにくいが煙だ」
「煙か!へー、どんな技だせるん?」
進とはまた違ったテンションについていけなくなりそうな人だな、と思いながら早速能力を言ってしまった事に後悔した碧斗だった。
「そ、そうだな。ま、まあ名前の通り、煙を出すことが出来る」
そう、煙が出せる。逆に言えばそれしかアピールポイントが無いのである。
「へー!カッケェなぁ、煙!俺、バトロワだとスモーク好きなんだよなぁ〜。AVAとかサドンアタックとかのFPSでもスモーク好きなんよー。まあ、あまり使い道ないけどな」
「無料のFPSしかやってないところにはツッコむなよ!?」と智也が念を押している中、自分の能力を初めて褒められた事に対して感動を覚える碧斗。
転生されたら理不尽な状況に貶められて、挙げ句の果てに能力は最弱と言われ続けた碧斗は、この優しい言葉に涙が溢れそうになったが、グッと堪える。そのかわり
「俺はFPSって言ったらパーフェクトダークくらいしかやった事ないな」
と話を合わせるため、昔やったゲームの話を無理矢理引き出した。
「マジ!?碧斗君いつの世代の人だ!?」
笑いながら智也が言う。
ー正直、親戚の人のレトロゲーしかまともにやってないからなー
「いや、ああ見えて超マニア説あるっぽくね?」
何故かよく分からない理屈を呟く智也に「最近のはよく知らないけどね。」と苦笑いをしながら言う碧斗だった。
やはり人は見た目によらないのかもしれない。この見た目ではこんなにいい人だとは思わなかっただろう。
ーやっぱ、話すと違うもんだなー
この人は阿久津智也。能力は「電気」。
少しずつではあるが、ここの人達の事を知ることが出来ている。するとふと智也は笑って言う。
「じゃあ、これで"友達"だな」
その言葉にとうとう泣き出しそうになってしまった碧斗は、慌てて顔を伏せた。声の調子を整え、「ありがとう。」と碧斗は呟いた。
誰とも話せなかった少し前の自分との違いに、自分でも驚いている碧斗は、改めて人とのコミュニケーションの素晴らしさを感じたのだった。
その「友達」がこれからどうなるかも知らずに。
☆
日が落ちてきたので、直ちに王城に帰るようにというアナウンスをされ、森の外の小屋で待機していたマーストを含む大勢の「お付きの人」に案内してもらい、城に戻った。
その後、転生者達は食堂へと案内され、食事をする事になった。食事や寝床など、基本は国王の方で色々と管理してくれるのでありがたい。長いテーブルでみんなで食べるのかと勘違いしていた碧斗は、それぞれ5人ずつに分けられるようなテーブルが6、7台並んでいる事に驚いた。
ー本当にコミュ症に優しくない世界だ。ー
そう思いながらも適当な席に座り、黙々とモンスターの肉と思われる物を口に運ぶ。レバーの様に固めだが、味はなかなかで箸が進んだ。
「お前カッコいい能力だな!」
「だろぉ?」
「へぇ、能力なんなの?」
「力」
「いやただの脳筋やないかいっ!」
イケメン男子とがたいの良い男子、それと進が話しているのが聞こえた。食事中だというのに随分と騒がしいここの連中は「食事中は静かに食べる派」の碧斗には正直不向きだったのだが、これから"協力"していく仲間として話さないわけにもいかない。すると、進が碧斗の方に向き返った。
「碧斗、お前も本見てここに来たのか?」
「え?あ、ああ。その、変な奴に渡された本を読んだらこの状態だ」
「なるほどなー、碧斗はあの本、どう思う?」
どう思うと聞かれても。と、少し困惑はしたが
「そうだな、内容的にはよくある話の構成だったな。テミストクレスの様に英雄だった者が嫌われるほどに堕ちてしまう話は実話でもよく聞くが、支配下に置かれた状態で終わったのは少し後味が悪かったように感じる、かな」
聞かれたので本の感想を言ってみたのだが、途中から周りの人がついて来られていないのに気づき慌てて話をまとめる。
「お、おお。そうか、お前頭いいんだな。それより碧斗。この話がこの世界に関係してるって思うか?」
今の話だけで、知能が優れている事を理解するには少し足りないものがあるとは思ったが、話を進めるために考えない事にした碧斗。
「それには俺も疑問だった。あれが全く関係ない内容だとは思えない。まあ、全く意味ない事もあるかもだが、不明だな」
「だよなー。」と進は言う。答えは出ないままだったが、これがこの世界の話なのか、はたまた全く別の世界での話なのか、いつ起こったのか、謎は深まるばかりだった。