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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第3章 : 裏切り合いの終着点(デルニエアレ)
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66.技名

目を覚ました碧斗(あいと)は昨日の出来事を思い出し、寝起き早々上手く呼吸が出来ずにいた。大袈裟(おおげさ)だと思われるかもしれないが、人と喧嘩などした事がない碧斗にとってこれは一大事なのだ。


今まで人と関わってこなかった事への罰かの如く、それが碧斗を追い詰めた。昨晩は沙耶(さや)が話をしに行ったものの、今はやめておいた方がいいかもと言われた為、男性陣は渋々食事の準備へと取りかかった。美里(みさと)の分の料理も作ったものの、部屋から出てくる様子は無かった為小学校の給食の余り物のように大翔(ひろと)が奪った。他の皆はそれどころでは無いため食欲なんてものが沸くことは無かった。


その後、美里と1度も会話する事なく朝を迎えたのだが。


「「「はぁ、、っ!」」」


朝からソワソワとしていたのは碧斗だけでは無かった様だ。起き上がると、同じ部屋で寝ていた樹音(みきと)と大翔は同時にため息を吐いた。それはそうだ。やはり、誰だって普通でいられるわけがない。これから一緒に暮らそうとしているところなのだ。ただのクラスメイトや友達との喧嘩などとは訳が違うのだ。




ほんとあり得ない。




いい加減にしてよ!




彼女の1言1言を思い出すたびに胸が締め付けられる。だが、ずっとこのままではいけないのだ、と。皆は覚悟を決める。土下座でもなんでもして、謝らなくてはならない。


「よし、行くか」


大翔の一言に一同は頷くと立ち上がり、美里の寝ていた部屋へと向かう。が、先頭を歩く大翔はその手前で方向転換をし洗面所へと向かう。


「ど、どこに行くんだ?」


「その前に顔洗ったりすんのが先だろ」


冷や汗を掻きながら提案をする大翔に、それはそうだと、同じく冷や汗を掻きながら納得する2人は「それじゃあこの後絶対な」と念押しをして身支度(みじたく)を始めたのだった。その後、一通り終わり洗面所から出る。すると、それと同時に


「「「っ!」」」


目の前で洗面所のドアが開くと、そこには美里の姿があった。寝起きだというのに髪が整ってあった点を考えると、おそらく前から起きていて同じく身支度をした(のち)部屋へと戻っていたのだと思われる。すると美里は一瞥(いちべつ)すると、何事もなかった様に無言で碧斗達を横切る。その突然の出来事に「あ、えと」とよく分からない事しか言えずにいると樹音が呼び止める。


「あ、相原(あいはら)さん!」


「は、何?」


樹音が名を呼ぶと、美里は1度考える素振りをした(のち)、ため息混じりに訊き返す。たった一言だった。それなのにも関わらず、普段から無愛想でトゲのある物言いを更に上回るほどに威圧感があった。


「あ、あの」


行けよ行けよと押されて碧斗は声を出すものの、こんな様子を見せつけられて直ぐに言葉が出てくる訳もなく、ただただ言葉を濁らす事しか出来ない。その姿に呆れ返った美里はため息を吐くとそのまま部屋へ戻ろうとする。それは何としてでも止めなければと思った矢先、樹音はすかさず声をかける。


「ちょっ、ちょっと待って、その、本当にごめんなさい。昨日は、その」


それに美里は少し振り向く。それをチャンスだと言わんばかりに碧斗もすかさず口を開く。


「あ、相原さん、昨日は本当にごめんなさい。ちょっと、や、やり過ぎました」


謝るのはいいが、それから何を言えばいいのか分からずに声が小さくなっていく碧斗。それに続く様に大翔も謝り、3人は深く頭を下げる。すると、またもやため息を吐いて美里は呟く。


「はぁ、もういいから。別にいつまでもグチグチ言ってたくないし」


とは言うものの、もういいとは思えない言い方をする美里に言葉を詰まらせる3人。それを言った(のち)踵を返すと部屋へと歩き始める。だが、2、3歩進むと1度立ち止まり、少し振り返って小声で呟く。


「プリン、」


「え、え?」


「そんなオドオドすんだったらプリン買ってきて」


静かではあるが威圧感を露わにして言い放つ。それに「わ、分かりました!」と3人は叫ぶと、慌ててプリンを買いに外へ飛び出して行った。


           ☆


起床をしてから3時間が経ち、部屋には美里と沙耶、グラムだけが軽い朝食を口にしていた。


「はて、ヒロト達は一体どこに行ったんじゃろうかの?」


「ずっと、居ないよね、、な、何も無いと、良いんだけど、」


心配そうに呟く2人とは対照的に美里は小さく息を吐いた。と、その瞬間バンッと玄関のドアが開かれる音が部屋に響く。


「「「た、ただいま」」」


「っ!ど、どこ行ってたの!?」


「おお、帰って来おったか」


心配したんだからと、パタパタと駆け寄る沙耶と、驚いた様に声を上げるグラム。すると、荒い息遣いで碧斗は紙袋を持った手を美里に向け口を開く。


「こ、これで、よかった、かな?」


「めちゃくちゃ大変、だったんだぞ!見つけるの!」


急いで帰って来た3人は息を切らして、大翔は怒りを露わにした。と、美里はその光景を目にし衝撃を受け、目を見開いた。


「えっ!?ほ、ほんとに買ってきたの、?」


「はぁ!?買ってこいっつったのは誰だよ!」


思わず怒声を上げる大翔に2人はまあまあ、と口々にあやす。


「な、何してたの、?」


「あっ、水篠(みずしの)ちゃん。ごめんね、その、心配かけちゃって。実は相原さんへの埋め合わせでプリン買いに行ってて」


「あ、そうだったんだ、」


「ん?なんじゃプリンて」


そう、それが問題だったのである。異世界のプリンはプリンでは無かった為、それを見付けるのに一苦労したのだ。店に行ってもそれの名所は不明で、探すのを諦めかけた事も何度かあった。だが、丁度通りかかった店に、現世で言うスタンド看板の様な店外看板があり、それにプリンらしきイラストを見つける事ができたという奇跡的な偶然により現在手に持つ紙袋の中には、この世界ではレプトゼリーと呼ばれるデザートが入っている。何せレプトというこの世界の鳥の卵から作られたゼリー状のデザートだからというのが由来である。


「いやいや、それよりも何で買って来れてんの?あ、まさか」


「あ?ふっ、残念だったな。俺らをおつかいすら出来ない奴だとーー」


「そうじゃなくて」


大翔が言い終わる前に美里が割って入る。すると、樹音が何かに気づいた様に1度声を漏らすと、大翔に耳打ちする。


「あ?ああ、金か。それはジジイの財布からだな」


「はぁー!?はぁ、もうほんと最低、なんなの?ほんと」


「はぁ!?買ってこいって言われたから買って来たのにその言い方は無いだろ!」


「あの、その、お金を取らせる様な事をしてしまって、ごめんなさい、」


「おお、ええよええよ。取られた分は働いて返してもらうからなぁ、ヒロトォ」


「なんで俺なんだよ」


大翔の怒鳴り声を無視して美里はグラムに謝る。だが、グラムは気にしていない様子で笑った。


「それならそこのクーラーに入れとき。レプトゼリーは冷やした方が美味いからのぉ」


「あ、は、はい」


グラムの言う"クーラー"と言うのはこの世界での冷蔵庫の様なものであり、魔力か何かで冷やしているのだそうだ。王城でも何度か聞いたのだが、それ以上の情報はまだ知らないのが現状である。


「これはごめん、今回は私も悪かった、」


「全くだ。ま、別にその分働けば良いんだけどな」


美里が言うと、大翔も息を吐く。一見平和に治ったように見えるものの、2人の表情(かお)は何かを抑えている様にも見えた。


           ☆


遅れてやって来た3人を含め朝食を済ませると、農作業をする前の暇な時間をダラダラと過ごしていた。するとふと大翔が口を開く。


「そういや俺ら技名とか付けてないな。折角カッコいい能力持ってんのによ」


「あっ、確かにそうだね!」


「まあ、何か名前をつけた方が差別化も出来てモチベにも繋がっていいかもね」


「私も名前付けたい!」


樹音が身を乗り出し、碧斗は頷いて呟く。沙耶も表情を明るくすると、笑って言い放った。だが、美里は先程のプリンを朝食のデザートとして頬張りながら呟く。


「私は別に、付けてもそんな変わんないだろうし、そういうのは中二病全開のあんた達で勝手にやって」


「チッ、なんだと?はっ、分かったぞ。ねぇみんぐせんすってやつがないんだな?それなら俺が考えてやるよ」


「はぁ!?だから、私にそんなの強要しないでって言ってんの!ただただ迷惑でしかないっつーの!」


「ま、まあまあ、そこら辺にして。技名考えようよ!」


美里と大翔にまたもやイザコザが起こり、悪化するより前に慌てて樹音が割って入る。なんだか大翔の様な人と美里は、お世辞でも合っているとは言えなかった。だがそれでも尚、共に暮らさなくてはならないのだ。と、意識を変えて碧斗もまた、話題を戻す。


「俺の能力は目眩ししかないから技ってほどのものは無いな。残念ながら」


「あ、確かに、そう言われると僕も剣を振ってるだけで技は無い、かも」


自分で言い始めた事ではあるが、どちらも技と呼べる程の力を持ち合わせていない為沈む2人。その様子に慌てて沙耶は声を上げる。


「そ、そんな事ないよ!それも凄い技なんだよ!?」


「み、水篠さん、」 「水篠ちゃん、」


2人して沙耶のフォローに泣きそうになりながら感謝の意を込めて名を呟く。


「そ、それでも、名前付けるの難しいよね、つ、付けるとしたらどういうのがいいんだろう?」


「そうだな、なるべくカッコいいのが良いよな。例えば勝利に導く拳(ビクトリーオブフィスト)とかか?」


「凄い!カッコいいね!えと、び、びくとりーふぇいす?」


「フィストな。あと、オブが抜けてるぜ」


沙耶が身を乗り出すと、口角を上げながら自慢げに名付ける大翔。


「う、うーん、私もそんなカッコいいの名付けられる、かな、?」


不安げにそう呟くと、うんうんと唸る。その後部屋に沈黙が訪れる事数十秒、ハッと顔を上げた沙耶は真剣な顔で口を開いた。


「つ、強い岩でパ、パワーストーンとか、?」


沙耶の言葉に碧斗は目を見開く。正直、なかなかいい線をいっているのではないだろうか。強いと岩のどちらの英訳も間違っているのを指摘しかけたが、それを言うのは野暮というものだろう。そう思った碧斗は口を詰むんだ。


「お、おお、中々いいがまだまだだな。お、俺が代わりにつけてやるよ。感謝しろ!」


「そ、そっか、そうだね!わ、わかった!」


「石を作り出す能力だろ?だったら、そうだな。ストー○・フ○ー、とかどうだ?」


「かっ、カッコいいねっ!ス○ーン・○リー!」


「いっ、いやそれアウトでしょ!」


「それに、それ石の能力じゃないしな」


大翔が自信げに言い、沙耶が絶賛する。が、樹音と碧斗は冷や汗を掻きながらそう言い放った。


「技とかは無いけど僕も技名考えてみたいな」


「うんうん!いいと思う!」


円城寺(えんじょうじ)君も剣術が凄く上達してるんだし、有名どころの佐々木小次郎にも技があったわけだから、技はいくらでもこれから作れると思う」


2人が頷きながら力強く樹音を見つめると、照れ臭そうに「そ、そっか」と呟いた。


「えーと、じゃあ、うーんと、あっ、ダガーレインとかどう!?」


「おおっ!技っぽいな」


「カッコいい!ど、どういう意味かは分からないけど、凄くいいと思う!」


一同思った以上にセンスがあり、大翔は度肝を抜かれる。おそらくネーミングセンスの無い名前を出す皆に、自信満々に指摘をする様な図を想像していたのだろう。


一通り1人一つずつ技名を付けた(のち)、お互い向き合ってテーブルを囲む4人は後ろの高めの椅子に小さく座り、無言でプリンを味わっている美里に視線を送る。


「何?」


「炎は結構技名付けやすいんじゃねぇか?」


ニヤニヤとどういう結末を期待しているか丸わかりな表情をしながら大翔はそう言い放つ。すると、美里は先程と同じく手を払う。


「だから、あんた達のお遊びに付き合わないって言ったでしょ」


「でも技名とかあった方が能力の上達も捗るかもしれないし、もし良ければ僕も考えるよ?」


樹音が優しく笑う。人が違うだけでどうしてこう印象が違うのだろう。おそらくこの台詞を大翔が言っていたら嫌味にしか聞こえなかっただろう。すると、「はぁ、付き合ってらんない」といった様子で一度息を吐いたものの、少し考える素振りをする。と


「え、えと、ほ、ほかほかふぁいやー、、と、とか、」


「「「「っ!?」」」」


瞬間、稲妻に打たれたかの如くその場にいた4人は固まる。が、直ぐに沙耶は笑みをこぼす。


「か、可愛い!」


「す、凄くいいと思うよ!相原さん!」


「俺もそういうの悪くないと思う!」


顔を赤らめて、おそらく本心であろう言葉を口にする沙耶に続いて樹音と碧斗も口々にそう冷や汗混じりに笑った。対する大翔は余程の衝撃だったのか、未だ固まっている。


「な、名前付けるの下手で悪かったわね、」


歯嚙みして小声で呟く美里。プリンの最後の一口をすくったスプーンを握る手は、震えていた。

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