65.憂鬱
王城の1つの部屋の中。1人用の部屋の為、狭いのだが、ここが"5人"のアジトとして使われている。もっとも、その中の1人がこの場に来る事はほとんどないのだが。
「はぁーあ、また怒られちゃったじゃん」
「今度はお前が勝手に街に探しに行ったからだろ」
奈帆がため息をついてベッドに寝転がると、将太が嫌味を込めて言い放つ。
「でも、元はと言えばみんながこの間捕まえられなかったからでしょ?」
「でもそれ奈帆も入ってるくね?」
「別に、私は片方の翼犠牲にしてまで頑張ったんだから最善を尽くしたって言えるでしょ?」
「いや俺だって、、ん?俺が1番なんもやってないんじゃね?」
奈帆に反論するつもりが寧ろ自分に非があった事を悟る智也。碧斗達を捕まえる事に失敗した奈帆と将太、智也と愛梨の4人は大将に告げられた「その時まで待っていろ」という命令の元、部屋でダラダラと過ごしていた。
「あーっ!やっっぱり気になる!鶴来愛華の後追おうよー」
「だーめーだ。大将に言われただろ?じっとしてろって」
「昨日からずっとそう言ってるけど、どうして急に鶴来さん疑い始めたん?あ、もしかしてなんか証拠でも見つけた的な?」
「いや、やっぱり昼間ずっと王城から出ていろんなところに行ってるって、なーんかあると思うのよねぇ」
「なんだ、ただの想像じゃんか」
「んー!?そんなんじゃないよ!勘は勘でもオンナの勘だからねぇ」
「やっぱ信憑性ねぇじゃねぇか!」
「なぁにおう!」
将太と奈帆が2人で口喧嘩を始める。すると、それを見て疑問に思った智也が割って入る。
「でもやっぱなんか不自然じゃね?なんかあった?」
その核心を突く様な言葉に奈帆は一瞬動揺するものの、1度息を吐くと口を開く。
「相原美里もあっち側だったわけじゃん?」
「いや、別に帰ってきてないだけでそう決め付けるのは良くないんじゃ」
「いや、相原美里は向こう側だよ」
「「「?」」」
その場の3人は首を傾げる。すると、今度は歯を強く噛みしめて唸るように言う。
「私の翼燃やしたのあいつなの」
「「「!?」」」
「な、なんでそんな大事な事言ってくれなかったんだ!?」
「別に言っても変わらないと思って、」
「ま、確かにもう逃げちゃった訳だし分かったところでって感じだけども、」
奈帆のカミングアウトに将太は声を上げるものの、智也は冷静にそう呟く。と、今度は表情を明るくして奈帆が言い放つ。
「っで!相原美里って前から時々王城から出てたでしょ?だからよく王城を出てる鶴来愛華も怪しいとみた!」
「なるほど、確かにその可能性はある。その美里さんが王城に帰れなくなった今、鶴来愛華では無いにしろ他に助っ人がいる確率は高い」
「でしょでしょ!ほら、やっぱ見張りに行った方が」
「でも駄目だ」
「えー!いいじゃんちゃんと理由があるんだし!」
「でも、勝手に行動する事は許されて無いから、」
「ケチ!愛梨ちゃんもいい考えだと思うよね?」
「確信は、無い訳だし。私は、やめといた方がいい。と思う」
「ええーっ!愛梨ちゃんまでぇー」
ベッドの上に座りながら、ベッドの隣の椅子で静かに読書をしていた愛梨に奈帆は促すものの、淡々とそう呟かれ出鼻をくじかれる。
「もー、でも愛梨ちゃんは許すっ!可愛いは正義だもんねー」
奈帆はそう笑うと愛梨を後ろから抱きしめてそう言い放つ。
「おい、それ、俺は駄目ってことか」
「別に、私、可愛く、ない」
そう言われ愛梨はいつもの様に淡々とした口調ではあったものの、少し頬を赤らめて呟いた。その姿が愛らしく、愛おしい。まるでその言葉が具現化して針の如く奈帆に突き刺さり、同じく頬を赤らめる。
「結婚しよ!愛梨ちゃん!」
「ブッ!」
「うん。しよう」
突然放たれた言葉に、愛梨が答えるより前に将太は吹き出す。
「幸せな家庭にしようね」
「ちょ、ちょっと待てお前ら何言って、ん?」
真面目な顔で言い放つ2人にツッコミを入れようと前に出る将太だったが、それを言い終わるよりも前に智也が肩に手を置く。
「お前、百合の間に入るのは駄目だろ」
「は、はぁ?なんだよ、百合の花がどうかしたのかよ」
「子供もたくさん作りたいね!」
「え、女子同士、でもできるの?」
「出来るよ!」
「「いや出来ねぇよ!」」
さらっとデマ情報を伝える奈帆に我慢出来なくなった男子組は智也も一緒になってツッコむ。
「はぁ、夢がないね。君達は」
「夢とかの問題じゃないだろうが」
ため息を吐く奈帆にジト目を向ける将太。すると、奈帆はベッドに戻り伸びをする。
「うーん、やっぱり暇だなぁ、あっ!愛梨ちゃん!」
「?」
「一緒に外行こ!逃げ出すの、私達の愛の力があればなんとかなるよ!」
「おーい。俺達の前でそれ言ったら意味なくないか?」
「いけない事、するの?」
「そう!外行こ!」
「面白、そう」
そう小さく言って本を閉じると愛梨は立ち上がる。すると、奈帆もベッドから飛び降り、愛梨に飛びつく。
「さっすが愛梨ちゃん!じゃっ、王城の外行こーう!」
「だっ、お前!駄目に決まってるだろ!大将にそう命じられて」
「そんな堅いこと言うなって。俺も暇だし、ちょっと鶴来って人の事も気になるし行ってくるわ。将太も来いよ、それともお留守番か?」
すこし意地悪な笑みを浮かべてそう言い残すと、智也も部屋から飛び出していった。1人残された部屋で将太は1度考えると、唇を噛んで同じく部屋を出て行った。
☆
「うーん、この商店街の辺りをウロウロしてるって聞いたけど、居ないっぽいね」
「もう、帰った?」
「いや、直ぐに決めつけるのは良くなくね?もう少し探してからの方が」
「だから探すだのなんだのの前に外に出るなって言われてるだろ」
「...」
「...」
「「何故にいる!?」」
奈帆と愛梨、智也がそれぞれ言うと、背後からもう1人の声が聞こえ慌てて振り返る。そこには息を切らしながらも呆れた様子で言い放つ将太の姿があった。
「いや将太君だって出てきてんじゃん」
「だー!お前らが出させたんだろうが!」
「まあまあ、ちょっと落ち着いて話し合おうぜっ」
「お前はまたそうやって言い逃れをーー」
「あ、あれ。じゃない?」
「「「!」」」
3人で言い争っている中、愛梨が小さく口を開き指を刺すと、驚いた一同はその方向へと視線を向ける。その先には青がかったストレートロングの女子、鶴来愛華が立っていた。名前といい、その姿にとても凛々しさを感じるものの、着ている服は相変わらずフリルブラウスの様な可愛らしいものである。
「本当だ、」
「うおっ、改めてじっくり見るとめっちゃ可愛いな」
顎に手を当て呟く智也に奈帆は少しムスッとした表情で呟く。
「目の前にも超絶美人がいるんですけど?」
「いや、自分で言うか。てか、お前には大切な愛人がいるだろ?」
「ふふふー、あったりまえじゃん!結婚までもう考えてるんだから!」
と奈帆は少し悲しい顔をしながらもニカっと笑うと愛梨を抱きしめた。すると、それに全く動じる様子を見せずに愛梨は口を開く。
「あれ、美味しそう」
「ん?あれ?」
指を刺した先には愛華が手に持った肉まんの様な見た目をした食べ物があった。
「確かにちと腹減ったな。あ、でも俺たち一文無しじゃね?」
「うーん、そうだねぇ。愛梨ちゃん、残念だけど私達にあれは買えなそうだよ」
「でも、なんであの子は、食べてる?」
「「っ!」」
「確かにそうだ」
「言われてみればっ!鶴来愛華もお金は持ってないはず!」
智也と奈帆は顔を見合わせ思考を巡らす。そんな最中、ずっと何かを我慢する様にワナワナと震えていた将太がとうとう痺れを切らして言い放つ。
「そんな事はどうでもいいから!早く王城に帰るぞ!」
「どうでもよくないだろ!」「どうでもよくないでしょ!」
「いやどうでもいいだろ!」
2人に大声で反論されたものの、その勢いを返す様に将太も大声で言い返す。すると、大声を出したせいか愛華が振り返る。
「あれっ?やっぱそうだよね、、やっほー!どうしたの?みんな揃って」
「うおっ、見つかった!?目立つ事は何もして無かったはずなのに!」
「いや奈帆が大声上げるからだろ?」
「それ言ったら智也君もめっちゃ声上げてたじゃん!それに何その髪!黄色と黒とか目立ちすぎなんですけどー!」
「なんで、お金ないのに、食べれてるの?」
奈帆と智也が2人で言い合う手前に乗り出して愛華に質問する愛梨。
「えっ、あ、もしかしてこれ?」
そう言い、手に持った肉まんの様なものを差し出すと愛梨は無言で頷く。
「ふふふー、いいでしょ〜、国王様の名を出せば買えるんだよ」
「そう、なの?」
「そう!あっ、もし不安だったら私が買ってきてあげよっか?」
そう身を乗り出して提案する愛華に、力強く頷く愛梨。すると
「俺の分も!」「私のも!」
後ろで口喧嘩をしていた2人が同時にそう言い放つと、一瞬愛華は驚いた顔をしたものの、直ぐに「分かった!」と微笑んだ。
「おいおい、今から夕食なのにいいのかよ」
「そんなおかーさんみたいな事言わない言わない」
「そうそう、そんなかっかしないしない」
宥めるように言う2人に苛々とした様子で睨む将太。と、そうこうしている内に皆の分を買いに行った愛華が帰ってきた様で、愛梨が声を上げる。
「ほんとだ、ありがとう」
「ううん!どーいたしましてっ、あっ、2人にもどーぞ!」
「あ、ありがとう」
「サンキュ!」
疑っていた相手からの贈り物に奈帆は口を尖らせてそう呟く。それとは対照的に智也は笑って返す。
「そういえばみんなはどうしてここに?もしかして遊びに来たとか!?」
「いや、どうして鶴来さんは食べ物を買えてるのか調査をしに」
「そうそう!いやぁ、たまには遊びたいっしょ!」
「どっちも違うだろ!」
全く異なる事をそれぞれ言い放つ2人にツッコむと、更に続ける将太。
「この清宮奈帆さんは、あなたの事を疑ってる様で裏切り者の肩を持っているのでは無いかとかいい始めたんだよ」
「はぁ!?べ、別にそんな事言ってないしー!そんな事ないしー!」
奈帆はそう叫ぶと、将太を連れて愛華から少し離れると、小さく耳打ちした。
「馬鹿なの!?なんで相手にそんな事教えちゃうの!」
「もうそんな事いいだろ。大将はもうあいつらを捕まえる策を考えてるっぽいし」
「だからって!何もすんなって?目の前に犯人候補がいるのに諦めろって言うの!?」
小声で言い争う2人に愛華はため息を吐いて表情を曇らせた。
「やっぱり、みんなつまんない、」
「はぁ!?それってどういう、って!鶴来愛華!一体どこ行くつもり!?」
「帰るの。もう直ぐで夕食でしょ」
愛華は皆に背を向けて言い放ち、歩き始める。それに対して返す言葉が見つからずただただ顔を見合わせた4人は、仕方なく王城へと帰るのだった。
☆
「やっぱ白なのかなぁ、鶴来愛華」
「かもねー、昼は食べ歩いてたっぽいし、夕食の後に外出した痕跡は無かったしー」
その日の夜。夕食後も監視をしていた3人は1つの結論へと辿り着き、話し合っている。それを横目に頭を押さえる将太。
ーどうして、どうしてだよー
4人でいたのにどうして負けてんだ!
あの時の言葉が何度も何度も。何度も何度も何度も何度も頭をノックする。痛い。痛くなるほど何度も。どうして何も出来なかったのだろう。弱いから。考えが甘いから。何も考えていないから。
「クッソ!」
バンと机を叩いて立ち上がると、1人になる為廊下へと飛び出した。
「な、何?どうしたの?」
「なにか、あった?」
「、、俺ちょっと見てくる」
不安そうな奈帆に首を傾げる愛梨、すると真剣な顔で智也は立ち上がり、同じく廊下へと出て行った。
誰もいない事を確認し、壁にもたれかかる。どうして自分はいつもこうなのだろう。何も出来ない、役立たず。やる事は分かるのに、動けない。能力の事は分かっているのに、活かせない。何も上手くいかない。やる気になっても、頑張って動いても、全く上手くいかず、それが寧ろ逆効果になってしまう。いつもそうだ。どんなにやってもやっても、何度努力をしようと、駄目で、ダメで、全く結果が伴わない。それで責められるのが嫌で、周りにもそれを回避させる様に誘導させる。真面目な人なんて訳でもなくただ、自分の失敗を、皆を巻き込んで軽くしようとしているのだ。そんな、クズみたいな自分が嫌いで、嫌気がする。
「く、クッソ、、なんで、なんでこうなんだよ、俺」
将太は小さく呟きながら啜り泣いた。昔からずっとそうだった。何をするにも駄目で、人より何十倍と努力をしても皆と同じ位置に立つことしか出来いのだ。普通が普通では無く、当たり前が出来なかった。それが辛くて、それすら出来ない自分自身が嫌で、心を閉ざしてしまっていた。どうやら昔から自分は軽い鬱病らしい。朝希望が見出せずベッドから起き上がる事が出来ない。自分がちっぽけに思えてくる。辛い。これすらこなせない。やっと期待してくれたのに、そんな小さな任務すらこなせなかった。
どうして、
どうして、
どうして。
「いやぁ、どうしたの?そんなとこで」
「っ、だ、誰、だよ、」
突如自分に向けて放たれた言葉に驚き、掠れた声で力無く返す。
「別に怪しいもんじゃ無いから大丈夫だよ」
「き、君は、、能力を誰にも見せてないって言う、」
「おっ、よく知ってるねぇ。そ、俺の名前はS。Sって書いてシグマだ」
そう笑って言い放つ赤髪の男子は廊下の影になっているところからゆっくりと現れた。
「それよりも、君、ほんっとに駄目なんだね」
「っ!」
「だってそうじゃん?君あの円城寺って人を結構追い詰めてたのにさぁ、それなのに、2人で相手してたのに、なのに逃すって」
「う、ああ、あああああああああああぁぁぁぁーーーぁあ!?」
話す途中から抑えられなくなったのか笑いながらSはそう言い放つ。と、将太は耐えられず大声を上げ頭を抱える。
「しっかも外出るなって言われてたのにみんなを外に出しちゃうし、言われたこともまともに出来ない無能な人間。挙げ句の果てには自分を責め続けるとかねぇ、力も弱いくせに心も弱いとか」
そこまで言うとSは頭を抱えたまましゃがみ込む将太の耳元で呟いた。
「君、全く必要ないんじゃない?」
「あひふえゆかなさるぇ!?」
吐きそうになりながら意味不明な言葉を発する将太。その様子に1度高笑いをすると、Sは改めて立ち上がり口を開く。
「それにしても、最初は戦う事が嬉しいみたいな様子だったのに、いつの間にかそれが怖くなっちゃったみたいだねぇ。でも大丈夫」
「俺は出来る俺は出来る俺は出来る俺は出来る俺は出来る」
Sの言葉を無視して呪文のように呟き続ける将太。
「んん?ははっ、壊れちゃった?」
「出来る出来る出来る出来る出来る出来る俺は出来る」
それにSは笑うと、顔を近づけ声のトーンを落とし言い放つ。
「安心して俺についてこい。お前を強くしてやるよ」
もう言葉の意味すら理解できない程に気が滅入っていた将太は手を引かれるまま、抵抗もせずに暗闇へと消えていった。




