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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第3章 : 裏切り合いの終着点(デルニエアレ)
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63.臆病

皆は浮かない顔のまま食卓を囲む。他の皆は寝ている間に食事は済ませていたようで、碧斗(あいと)のみがその時に作り置きしておいた食事を口に運んでいた。マーストが部屋から出てからおよそ1時間後、部屋にはフォークやスプーンが食器に触れる音だけが響いていた。


「マースト、なんでそんな急に、」


「...」


「...」


碧斗が小声で呟くと、皆は何も発せずにただただ暗い表情をする。その様子に気づいた碧斗は慌てて話題を変えようと口を開く。が


「そ、そういえばグラムさん、マーストさんに俺らを泊めて欲しいって言われてたんですか?」


ーあ、やばい。全く話題変わってないなこれ。結局はマーストの事で、ー


そう言葉にした後、慌てて口を噤むも時すでに遅し。一同は相変わらず浮かない表情をしていた。だが


「ん?ああ。確かに言われたなぁ。昨日の夜じゃったか。頭何度も下げて泊めてやってくれってうるさくてのぉ。お金まで出されて、いくらでもやるからお主らに家を提供してやれとな」


「「「「!?」」」」


その言葉に皆は言葉にならない声を口の中で上げ、驚愕の色を見せた。マーストは碧斗達が眠っている間、一晩中我々のために頭を下げ続けたのだろうか。その事に驚き、涙が出そうになる。


「そこまでして、、俺らの事、」


「それで、その、、こんな事をお聞きするのはあまり良くないかもしれませんが、その、お金は、いただいたんですか、?」


碧斗が呟くと、樹音(みきと)は遠慮しながら小さく聞く。


「金は貰わんかったわい。悪いしのぉ」


「じ、じゃあ、、」


グラムが笑うと、沙耶(さや)は悲しげに俯く。だが、驚いたようにグラムは目を丸くする。


「ん?別に思う存分泊まってっていいぞ?」


「「「「え!?」」」」


グラムの提案に思わず声を漏らす。動揺した碧斗は慌てて身を乗り出す。


「ちょ、そ、それは、悪いですよ!お金も貰ってないのに、そんな贅沢な事、、俺らが代わりにーー」


「でも。それには条件がある」


碧斗が言い終わるより前にグラムが笑う。それに碧斗達は目を見開くと、顔を見合わせる。


「お主らには今日から(わし)の農作業の手伝いをして貰う」


           ☆


食事を済ませた碧斗達はグラムの畑へと案内される。


「よぉーし!まず、収穫と田植えは1本1本やってもらうぞ」


そうか。と碧斗は納得する。この世界には車を始めとした電子機器が存在しない為、農業は昔ながらの人手で行うようだ。だが実際、現世でも手作業の方達もいるというのが現状ではあるが。


「まず、お主ら。農業経験はあるかのぉ?ヒロトから向こうの世界にも農作業はあると聞いておるが」


「「「「な、ないです」」」」


「おお、そうかそうか!別に悪い事じゃないんじゃぞ?それじゃあまずはその説明からするとしよう」


バツが悪そうに皆が答えると、グラムは笑って続ける。


「まず、この世界は温暖な気候が続くんじゃが、っと、つまり通年でいろんな作物の栽培ができるって事じゃ。だから一言で何農家とは言いきれんのじゃが、それが意味する事が分かるかの?」


グラムが意地悪な笑みを浮かべながら皆に目配りをする。だが、一同は分かっていない様子で首を傾げる。すると、美里(みさと)が何かに気づいたように1度驚いた表情をするとそれを口にする。


「そ、その、つまり、休み無しって事、?」


「ふふ、そうじゃそうじゃ。農閑期(のうかんき)が無い、つまりは休める時期はないってことじゃな!」


「「「!?」」」


「それじゃあこれからやってもらう事を説明してくからの、よく聞いておくんじゃぞ?」


とんだブラック企業に来てしまったと、皆は顔から血の気が引いていく。その様子に、まるで脅すようにグラムは笑うのだった。


           ☆


懐かしささえ感じる廊下を歩き、「あの人」がいる控え室へと力強い足取りで向かう。国王からお許しを得たマーストは、自分の控え室に向かうよりも前に、1つの部屋へと足早に歩みを進めていた。食事前だということもあり、皆部屋にいるのか、廊下には自分の足音だけが大きく響いた。


バンと、音を立てるほどに勢いをつけて"彼"の居る部屋のドアを開ける。それにまるで来るのが分かっていたかのようにすました顔で振り返るスーツ姿のその男。


「ルーク!貴方一体何をしたのですか!?」


「おや、裏切り者に情を抱いてしまったマーストでは無いですか。今更どうしたというのですか?」


使用人は勇者と一緒に居ることがほとんどではあるものの、それ以外はこの控え室を借りている。内装は勇者の部屋より一回り狭い代わり、本棚などが敷き詰められており、シャンデリアの光も手伝って味のあるインテリアになっている。そんな狭い部屋でルークと呼んだその男性に迫って声を上げるマースト。


「国王様からはお許しを頂きました。わたくしは今日からまたこちらに配属となります」


「おー、そうですか。それはそれは、とてもありがたい事ではございませんか。これからもよろしくお願いいたします。マーストーー」


「そうじゃありません!」


突然声を荒げるマーストに首を傾げるルーク。それに更に怒りが湧き上がりそうになったものの、慌てて抑え、深呼吸をした後口を開く。


「一体貴方は、貴方は何をしてるんですか!?なんて事を」


「何をしたとは、一体何の話でしょう?確信のない自分の理屈に過剰反応し、勝手に悪者扱いをするのは、あまりお上品な事では無いと思いますよ?」


そう笑ってマーストの隣を横切ると、「それに」と付け足して続ける。


「何をしているのですか?は、貴方の方ですよ?マースト」


「はい?わたくしは、貴方が何か」


「いえいえ、では、第3者から見たらどう我々が映るか、説明してあげましょう」


振り返ってそう言い放つと、ルークはマーストを見ながら周りをゆっくりと回って言う。


「まず、我々が国王様から与えられた使命は勇者様のお世話と監視。そこまででしたら貴方のやっている事は問題ありません。ですが、その()国王様からは我々の手に負えるものではございません、王城から出て行った者たちを追う事はしなくて良いと」


そこまで言うと、マーストの前にまで差し掛かり、その場で立ち止まって近づく。


「そう仰られているのにも関わらず勇者様方を追うのは、いかがなものかと」


「わたくし達が行かなければ勇者様は餓死してしまいます!そんな事になっても良いと!?」


マーストが対抗する様に声を上げると同時に背後から何者かが入室する気配を感じ、慌てて振り返る。すると、そこにはマースト達と同じスーツ姿で髪を束ねて肩にかけている女性の姿があった。その人を目の当たりにした瞬間、マーストは詰め寄り肩を掴む。


「セシル!貴方、一体どうしてっ、どうして!何故水篠(みずしの)さ、、いや、5番目の勇者様の元へ、ご一緒しなかったのですか!?」


必死な剣幕を送られ、セシルは首を傾げる。


「何故、と言われましても。国王様からは我々が行かなければ居場所が確保出来ずに時期に戻って参ると、そう仰られたではございませんか」


セシルのその言葉に目を見開き、声を漏らすマースト。その背後から笑みを浮かべながら近づくとルークは煽るように言う。


「ですから言ったでしょう。何をしているのですかはこちらの台詞だと。我々、国王様に仕えている身から見れば、貴方の行動は国王様の指示に反する行為であり、誰がご覧になっても悪は貴方の方でしょう」


「ですが!だからといって見捨てろと言うのですか!?貴方は」


「ですから、先程から申しているでしょう。国王様の指示に従うのが我々の使命であり、仕事です。私は別に勇者様の子守役では無いのですよ?更には国王様はそうする事で帰って来るという思想の元、その様な指示を与えたのですから、見捨てているわけでは無いはずですが?」


ルークの言葉にマーストは怒りからか歯嚙みする。それにルークは微笑む。おそらく正論を突きつけられたゆえの表情であると察したのだろう。だが、マーストの怒りの理由はそんなものではなかった。


ーわたくしが行かなければ帰ってくる?そんなわけが無いでしょう!勇者様方は、碧斗様達は、同じ転生者から裏切り者扱いを受け、王城に帰るなんて事は自らの命を危険に晒す、(すなわ)ち自ら死に向かう様な行動なのだからー


と、マーストは心でそう叫びながらルークを睨む。許せなかった。彼らの事情を何も知らず、知ろうともせず、それが正解であると、それが正義であると自信満々に言い放つその姿が。その2人の言い草に既に言い返す気力すら失われたマーストは無言でドアの外へと足を踏み出す。だが、出入り口の前で立ち止まると、1度振り返り、皮肉を込めてそれを言い放つ。


「勇者様方の"本当の名前"すら知らない貴方達に、わたくしの言っていることは分かりませんよ」


それだけを言い残すと踵を返し部屋を出ていく。その姿を遠目で見据えながらルークは小さく笑った。


「本物の名前など、知る必要すらないでしょうに、我々の本来の職務(しょくむ)を忘れているのではないでしょうかねぇ」


そこまで言うと、下卑た笑みを浮かべて「それとも」と付け足し続ける。


「彼らに感情移入していたりするのでしょうか」


それとは対照的に、セシルは無言でマーストの出て行ったドアを眺めた。


           ☆


薄暗くなってきた廊下をゆっくりと歩く。廊下に所々設けられた窓から外を眺めてはため息を吐く(しん)。ずっと碧斗達の戦いをただただ眺めていた。何かするわけでもなくだ。今回に関しては何も手を出さない事が吉となったものの、結局は何も出来なかった事に変わりはない。情けなかった。いや、彼ら彼女らの姿を見ているからこそ、自分がこれ程までに無能で無価値に見えてしまうのだ。ずっと碧斗は、沙耶は、自らの意思を貫き奇跡を起こしながらゆっくりと進んできたのだ。


最初は信じていなかった。修也(しゅうや)が本当は良い人だなんて、目の前で人を殺めた人間にそんな良心があるだなんて思えなかった。だが、今では本当に彼は悪くないのではないかと、そんな想像をしてしまうのだ。改めて進はしみじみと感じた。碧斗達は本当に凄い人達だと。自らの意思を貫き突き通して前に進む事で、こうして周りの人にまでそれが伝わり、伝染していくのだから。その努力の末、今となっては何人もの味方に囲まれ、希望が見え始めている。それに比べてなんて残念な男だろう、と。


進は何度も自分を責めた。碧斗達を助けたいと思いながらも、皆から敵意を向けられ逃げ惑う事に恐れて結局は"こちら側"に付いている。碧斗達に手助けを時々しているものの、一緒には行動せず、王城の人達とも仲間意識があるわけでもない。なんと中途半端で意思のない人間だろうと。壁を殴っては歯嚙みした。本当はあの時、碧斗達の方へと行きたかったのかもしれない。王城の檻から出してあげた時、大翔(ひろと)から皆を守った時、先ほどの食材を届けに行った時、碧斗や沙耶、そして歩美(あゆみ)の4人でこれからについて話し合った時。


そんな事を思い返したその瞬間、ふと背後から何者かから声をかけられる。


「君が佐久間(さくま)進君だね?」


「っ!?だ、誰だ!?」


振り返るとそこには赤髪で、深紅に染まった瞳が窓の外からの僅かな光に照らされた1人の男子がポケットに手を入れながら笑っていた。


「お前、1度も能力を使った事がないって言われてる」


「お、よく知ってるね。でもちゃんと名前で呼んで欲しいな」


そこまで言うと1度息を吐き名乗りを上げる。


「俺の名はS(シグマ)。Sって書いてシグマだ。これからはその名で呼んでね」


「シ、シグマ、?」


1度悩んだものの、能力を使ってなかったという情報といい、その見た目は異世界人では無いと進は直ぐに理解した。が、いったい何故その様な偽名を使うのか、と。そう考え手を顎に持ってくると、その直後


「君、あの伊賀橋(いがはし)碧斗や水篠沙耶を手助けしてるね?」


「!?」


バレた!?と、Sの予想外の言葉に進は大きく動揺し後退る。


「いいリアクションだねぇ」


そう笑うと一呼吸置いてから「実は」と続ける。


「見ちゃったんだよねぇ。君が、水篠沙耶と王城の裏で話してるところ」


「!?そ、それはっ!」


「あーあー、そんなに恐怖して」


進は震えながら壁にもたれかかると、Sは笑って詰め寄る。


「駄目だよ。そんなに恐怖を露わにしちゃ。すぐ、的にされる」


「っ!?」


まるで核心を突いたかのようなSの言葉に進は目を見開き呼吸が荒くなる。すると、Sは更に近づき進の目の前にまで顔を近づけ呟く。


「君、あいつらが羨ましいんだろ?誰かの為に必死になって前に進み、成長している彼らが。羨ましくて、それと同時に、憎らしい」


「ち、違うっ!」


「ふっ、それで?あいつらに比べてお前は用無し。無価値で無意味で無力」


「う、うるせぇ!」


「ほんっとその通りだよ、君は!アイツらは自分達の出来る事を必死にやって、この戦いを終わらせようと、この戦いでおかしくなった人を変えようと、前に進んでるのにっ!」


「うるせぇ、うるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇぇぇ!」


「君はどちらの味方になるのかすら決められず、バレて殺されるのが怖い。強い能力とその持ち前のテンションで"強く見せてる"だけで本当は皆から敵意を向けられるのが怖いだけの臆病者なんだよなぁ!?君はぁぁぁっ!」


「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!」


そう叫ぶと、力尽きたように俯いて尻餅をつく進。廊下にはただ荒い息とSの小さな笑い声だけが響いた。すると、Sは進の髪を掴み無理矢理顔を上げさせると目の奥を見据えながらSは言い放った。


「俺についてこい。君が輝ける人間になる為に、俺が救世主になってやる」


不気味な笑みで笑ったSだったが、底のない深紅の双眸(そうぼう)に見つめられ、力無く頷く事しか出来ない進だった。

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