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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第2章 : 喪失感と葛藤(アジテション)
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61.終戦

「悪かったな、取り乱して」


あの戦闘から時間が経ち落ち着いてきたのか、腫れた目を(しばた)かせてそう息を吐いた。あたりは真っ暗になり、そろそろ街の灯りが徐々に消えていく時間帯である。ゆっくりと、まるで車やバスすら通っていない田舎の様な道を歩き、グラムの家へと向かいながら大翔(ひろと)を落ち着かせる事数分、ラストルネシアが見えなくなるほど道を下ってきた様だ。そう碧斗(あいと)は進んできた道を振り返りそう脳内で呟いた。すると


「っ!ゆ、勇者様!ご無事でしたか!?」


遠くから様子を(うかが)っていたのか、木の陰からマーストが現れそう口にした。


「おお!マースト、無事だったか!?」


「はい、お陰様で。で、ですが、勇者様方のほうが酷い傷を負っている様子ですが」


「ううん、私は、大丈夫、、だけど、みんなが、」


「そ、そうですよね。ですが、家に帰れる最短ルートを通ってもおよそ6、7分はかかってしまいますが、」


「いっ、いえいえ!それで十分ですよ!僕も今はちゃんと歩けてますし」


マーストの安否を確認し笑顔を作る碧斗達。だが、それとは対照的に心配そうな顔をするマーストは沙耶(さや)の言葉により、早急に治療へと向かいたい様子で口を開くものの、樹音(みきと)は笑ってそれを否定する。


「ですが、」


「ま、円城寺(えんじょうじ)君が大丈夫って言ってるんだったら、俺も弱音吐いてられないな」


「当たり前じゃん。別にあんた大きな怪我負ったわけじゃないんだから」


小さくため息を吐きながら美里(みさと)も頷く。正直、その言い方に文句をつけたいところだが、事実なため口出しすることは出来ずに唸る。


「さ、左様でございますか、?」


「ほ、ほんとにみんな大丈夫?無理してない?」


「それは水篠(みずしの)ちゃんもそうでしょ」


「そ、そう、だけど、」


正直、こちらから見れば樹音と沙耶が1番危ない状況に見える。その為碧斗はマーストに近づいて小声で伝える。


「ああ言ってるけど2人とも結構無理してると思う。だから、早くとは言わないから、治療してあげてほしい」


「はい。かしこまりました」


すると、マーストは笑って答える。その姿に美里は小さくも優しい様子で笑ったが、その姿を目撃した者はいなかった。


「それにしても、マーストさんが無事で良かったです!」


「うんうん!怪我も無いみたいだし良かった!」


「ありがとうございます。勇者様方のお影で」


マーストがそう笑うと、安心した沙耶や樹音、更に碧斗や美里も息を吐いて安堵した。すると、今度はマーストが碧斗に詰め寄り小声で耳打ちする。


「あの、碧斗様、その後、こちらの、27番目の勇者様の方は、?」


「ああ。なんとか落ち着いてきたみたいで、話せる状態にはなってきてる。今はまだ色々あって話に入ってこられる様な状況では無いが、もう大丈夫そうだ」


「左様ですか」


そう呟くと、優しくもどこか悲しそうな、寂しそうな顔をした。その表情に何か言いかけた碧斗だったが、踏み込んで良いものか分からずに口を(つぐ)んだ。


           ☆


「その、あの、悪かったな、いきなり疑ったりして、俺も少し、どうかしてた」


あれから数分が経ち、グラムの家へと到着した一同は息を吐いた。歩いていた時間があったからか、また自分の中で何か決心したのか、落ち着いた様子で大翔は改めて口を開いた。


「ううん、私達こそ、ごめんね。ずっと追いかけるようなことしちゃって」


沙耶が申し訳なさそうにそう俯くと、碧斗や樹音、美里も同じく頭を下げた。その言葉に大翔は首を傾げて口を開く。


「にしても、なんで俺をつけるような事したんだ?」


「それは、その、」


沙耶がそれを告げていいのか表情を曇らせると、碧斗が割って入る。


「実は俺ら帰る場所が無くて、それで寝られる場所を探してたんだ。だから、俺らと同じで転生者である君が1人で歩いてたから、その、どこで寝てるのかと」


バツが悪そうにそう呟くと、納得した様に大翔は笑う。


「なるほど、つまり俺が住んでるとこに住まわせてもらうって魂胆(こんたん)だったわけだ」


「うっ、人聞きの悪い言い方だけど」


あまり良くない表現をされ、押し黙る碧斗。だが「本当の事でしょ」と背後に居た美里に言われ渋々頷く。と、それを返すように今度は碧斗の方がずっと聴きたかった事を口にする。


「その、大翔君の方はなんで俺らが裏切るとか、"やっぱり"とか言ってたんだ?」


そう、碧斗の気になっていた事は何故か大翔はずっとこちらを裏切り者だとして見ていた事だ。ただ人を信じられなくなっていたからとも考えたが、大翔の発言には何かしらの違和感が生じていた。


「それは、あれだ。なんか良くわかんねぇ奴に言われたんだ。お前らは仲間のふりして近づいて、急に突き放す裏切りもんだってな」


「「「「!?」」」」


予想外の言葉に碧斗を含めた4人は目を剥く。それにすかさず大翔に詰め寄り、碧斗は声を上げる。


「それってどんな人だった!?」


おそらく我々を狙っているあの5人組のうちの1人だろうか。もしくはそれとは違う人がこちらを(おとし)めようと行動しているのだろうか、と。


「あーと、なんだっけなぁ、」


「お、思い出せないか?」


「あーー、えーと、っと、あっ!」


「「「「思い出した!?」」」」


「たしか、シグマとか言ってた気がするな」


「「「「し、シグマ、?」」」」


「そう、言ってたのか?その人が」


「ああ。そう言ってたぞ」


そんな人が居たとは思えない。異世界人だろうか。それとも転生者で、本名を隠しているのだろうか。だとしても名を偽る理由が分からない。何かしらの意味があるのだろうかと思考を巡らせる。


「そ、そうか、でもわざわざそんな名前を名乗る必要あるか、もし異世界人だったとしても突然現れて自己紹介してそれを言い残すって、それは不自然なんじゃ」


ぶつぶつと疑問に思った事を口にする碧斗。そんな碧斗を差し置いて美里が大翔に詰め寄る。


「それにしても、それって初対面の人の言葉を信じたって事?あんたの性格でそれは考えにくいんだけど」


「まぁな、でもずっと追いかけたり怪しい行動してたお前達と比べたら初めて会った人の方が信じられる。あの時はその人よりもお前達の方を疑ってたからな」


少し口角を上げて淡々と呟く大翔に「そっか、それもそうかも」と引き下がる美里。その後、更に大翔に質問をしようと碧斗が口を開いたその瞬間、背後からドアが開く音と同時に声が上がる。


「っ!ヒ、ヒロト!?戻ってきてくれたのか!?」


「ゲッ、ジジイ、」


「おお!辛かったんじゃろう、ごめんな(わし)が勝手なことして」


「別にもう怒ってねぇから離せよ」


家から飛び出したや否や直ぐに大翔に駆け寄り抱きつくグラム。その、まるで親子の様な姿に碧斗達は思わず口元を緩ませる。と、グラムは大翔から離れて、碧斗達に向き返り頭を下げる。


「本当にありがとう。ヒロトの事、引き戻してくれて、」


「いやいや、元はと言えば俺たちのせいでこんな事になったわけだし」


「はいっ、もう大丈夫ですよ!(たちばな)君は優しい人ですから」


「うん!ゆっくり、乗り越えれば良いよ!」


碧斗が最初にそう笑うと、樹音と沙耶も笑って続ける。


「あ?何が優しいだ、俺はてめぇらぶっ飛ばす気でいたんだぞ!?てか、今からでもぶっ飛ばせるけどな!」


「すまんなぁ、こいつは素直じゃなくてのぉ、ほれ、もう時間も遅い事じゃし、今日は泊まって行ってくれ。ご馳走するぞ!」


「あっ、そんなっ、悪いですよ!」


碧斗がそう声を上げるも、それすら聞こえていない様子でグラムは部屋の中へと消えて行った。すると、美里が背後から息を吐く。


「そんな白々しい演技しなくていいから。どうせ居座るつもりだったんでしょ?」


「うっ、そ、それは、」


「た、助かったね、伊賀橋(いがはし)君!」


美里に図星を突かれ碧斗が縮こまると、樹音は笑う。すると、それを遮るかの様に沙耶は声を上げる。


「ねぇ!みんな見て!」


「「「「ん?」」」」


大翔を含めた4人が声を上げ、マーストもそれに反応し振り返る。沙耶が指差すその先には、地を照らし、空に広がる無数の星々が光り輝いていた。


「綺麗だね」


「だよね!凄い綺麗!」


すかさず樹音が口を開くと沙耶は笑って答えた。


「す、凄いな、」


「本日は星が綺麗に見えますね」


皆が興味津々でその風景に見入る。そういえば、ここのところ色々な事が重なっていた為、ゆっくりと風景を眺めることすら出来ない状況が続いていた。なんだかこんなにじっくりとこの世界に目を向けたのは、初めてかも知れない。


「素敵、」


そんな事を心で思う中、皆に聞こえないくらいの小さな声で美里は呟いた。刹那、後ろから碧斗を呼ぶ声が聞こえ、驚いた様子で一同は振り返る。と


「またまたさっきぶりだな碧斗!それにみんな!」


「おお!(しん)!」


そこには両手いっぱいに荷物を持った進の姿があった。


佐久間(さくま)君!」


「さっきぶりだね」


「みんな大丈夫だった?水篠ちゃんに樹音君も」


「うんっ!平気だったよ!あ、でも、円城寺君が、」


「いや、僕も大丈夫だよ」


「いやいや!それは大丈夫な見た目じゃ無い気がするけど!?」


転んだ後の様に服や顔が汚れている沙耶と、ボロボロになった樹音の姿を見て、進はツッコミを入れる。すると、隣から美里が割って入る。


「それ、もしかして王城から持ってきたの?」


「えっ、あ、そうそう!いやぁ、相原(あいはら)さん凄いねぇ、こんな大変な事毎回やってたなんて、尊敬するっス!」


「そういうのいいから。でも、食材持って来てくれるのは嬉しい、、ありがとう」


「うおっ、相原さんから素直な感謝の言葉が出るなんて!?」


「は?だから、そういうのがウザいんだけど」


「すいません、」


美里と進の漫才の様なやりとりに思わず笑う沙耶と樹音。碧斗も我慢していたものの、口角は上がっていただろう。


「こいつらいつもこんななのか?」


「え、あ、まあ、そんなところだ」


そんな姿を見て大翔は笑う。言葉自体は呆れた様子ではあったが、その姿はどこか嬉しそうな、楽しそうな表情をしていた。


「おーい、そんな暗いとこにおらんで、(はよ)う入ってこい!」


その時、家の方からグラムの声が響き、皆は返事をしてドアへと向かう。大翔が1番に歩き出し、皆の前へと出ると、振り返って言い放つ。


「いいか?てめぇら。俺はお前らを信用したわけじゃねぇからな。もし少しでも変な様子だったらすぐにぶっ飛ばす。いいな?」


「ああ。俺たちを、許してくれてありがとう」


「は?お前話聞いてたか?だから俺は許してなんてーー」


「うん!ゆっくり仲良くなって、ゆっくり乗り越えていこうね!」


「はぁ!?だから、てめぇらなぁ!?」


今度は沙耶と大翔の会話に皆が頬を緩ませる。その様子を遠目で見据えながら進が碧斗の隣に来ると、小さく呟いた。


「碧斗、俺、実はさ」


「ん?何かあったのか?」


「実は見てたんだ。大翔君とみんなが戦ってるところ」


「え!?見てたってそれ、」


「危ない時は助けに入る予定だったんだけどさ、俺、結局なんも出来なかったんだよ。あん時」


「そんな事、」


「それに、俺、その、見てて思ったんだ」


進の言葉に驚きながらも、碧斗は声を漏らす。だがそれを遮るように、なんだか遠い目をして進は続ける。


「碧斗、お前やっぱすげぇよ。ま、確かにお前は弱ぇ。だけどよ、強ぇと思った」


「え!?いや、それ矛盾してるんじゃ」


「いや、お前はほんと、弱いけど強えよ。すげぇよ。お前は、、いや、お前達は」


なんのことか分からずに碧斗は聞き返そうとするも、進は気にするなといった様子で踵を返す。すると、1度振り返り手に持った食材を差し出す。


「碧斗、お前達は、多分もう大丈夫そうだ。俺がこんな上から目線で言えることじゃねぇけど、これだけは言わせてくれ」


優しく、だがその瞳の奥には燃え盛る何かを宿し、碧斗が食材を手に取るとそう続けた。


「頑張って、生きろよ。碧斗」


その、軽くも重いその一言に、碧斗は1度目を見開くも、直ぐに笑って返す。


「ああ。進も、絶対に」


すると、進は1度笑って碧斗に背を向けると、手を振りながら王城の方へと戻って行った。


「あ、あれ?佐久間君、帰っちゃったの、?」


「まあ、あまりここに居てもまたバレちゃうかもしれないからね」


「ああ。でも、食材は貰ったわけだし、今回は冷蔵庫に入れるという選択肢がある」


「あっ、じゃあそれ、グラムさんにあげようよ!泊めてくれるお礼に!」


「あ、それいいかもね!」


沙耶が純粋な提案をし、碧斗は自分が恥ずかしくなる。それに樹音は笑って賛成し、美里は小さくも口角を上げる。マーストは優しく微笑み、大翔は頭を掻く。この状況がずっと続いて欲しいと思った。これから何が起こるか分からない。進が言うように、そんな単純な約束すら成し遂げられないかもしれない。だが、今夜はそんな不安を押し殺し、皆でご馳走を囲んだ。


           ☆


「いやぁ、にしてもあいつが"あっち側"になっちゃうとはねぇ、これは少々予想外だ」


住宅街の屋根の上、立て膝をしながら碧斗達の姿を観察する赤髪の男子。すると、隣にあぐらをかいていた黒髪ストレートの男子が一瞥(いちべつ)して呟く。


「お前の計画は潰れた感じか?」


「いいや、問題ない。新しい"操り人形(おもちゃ)"が見つかったからな」


何も問題ないといった様子で下卑た笑みを浮かべる。と、隣の男子が割って入る。


「お前、一体何がしたいんだ?」


その言葉を受けて1度真顔になると、直ぐに取り繕って声を上げる。


「俺はぐっちゃぐちゃにしてやりてぇんだよ。ここの奴ら、いや、転生者共をよ」


「そうか、にしてもなんで能力を隠す必要がある?別にそれがバレたくらいで問題無いんじゃないか?」


「ふっ、それはお前もだろ?」


「別に俺は隠してるつもりはない」


「なら何なんだよ。お前の能力は。隠してるつもりないって言うけど、俺にも教えねぇなんて絶対何かあるだろ?」


赤髪の男は煽るように詰め寄る。が、少し間を開けて黒髪の男子は口を開く。


「てか、お前名前まで偽る必要ないんじゃないのか?それにしてもなんだS(シグマ)って中二病クセェな」


「おいおい、話逸らしてんじゃねぇよ。まあ、いいけどよ。別にいいだろ?カッケェんだし」


「なんか意味があんのか?このS(エス)って文字に」


核心に迫るようにそう言うと、Sの目を見る。が、直ぐにSは笑って続ける。


「ハッ、そういうのは自分で考えるからおもしれぇんだぜ?」


そう言うと、Sは立ち上がり息を吐く。


「そんなお前も、L(ラムダ)という名前を使ってもいいぞ」


「L?一体どういう意味だ?」


「Lは12番目のアルファベット。そして12番目のタロットカードは吊るされた男(ハングドマン)。そのカードには"忍んでいる"という意味や"洞察力"などの意味がある。いつもよく分からない事を考えてるお前に相応しい称号だろ?」


「ふっ、忍んでる、、ねぇ。ま、そんな名前使わねーけど」


「ハッ、勝手にしろ。だが、もう2度と俺に名前の質問はするなよ」


「ああ」


Sが振り返りもせずにそう呟くと短く返す。が、屋根から降りようとするSの背中に、声をかける。


「どこに行くんだ?」


すると、1度立ち止まって振り返ると、ニヤリと笑って口を開いた。


「俺にはやる事が出来た。新しい"操り人形(おもちゃ)"に会いに行ってくるよ」

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