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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第1章 : 終わりの第一歩(コマンスマン)
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06.魔獣

「この森の中に生息しています。お気をつけて」


 森の前に案内された碧斗(あいと)達は、森に生息しているというピーグーという小型魔獣を倒さなくてはいけない状況に陥っていた。


「相変わらず上から目線でうぜぇ奴だな、おい」


「まあ、国王だしね」


理穂(りほ)はうざくねぇのかよ」


「この為に転生されたんだから、仕方ないでしょ」


 喧嘩腰で言う修也(しゅうや)に、冷静に返す理穂(りほ)と呼ばれた赤の混じったポニーテールの女子。


 この人も随分と冷静そうだ。


 言い負かされた修也は、仕方なくみんなと一緒に森に入っていく。


 少し進んだ先に1匹、と言っていいのか分からないが、小さい魔獣のような生き物が現れた。


「うおっ、こ、これがピーグー、か?」


「可愛いー!」


 予想とは真逆の魔獣の姿に、緊張していた碧斗はそれを見て拍子抜けした。


 黒髪でショートボブのふわふわしたような子がピーグーに近寄った。


「ねぇねぇ、凄く可愛いよ!」


 女子組がキャッキャッしているのを遠目で眺める男子組。


「あ、あれ、可愛いか?」


「まあ、グレムリンっぽくて可愛い、のかもな」


 さっき電気を操っていたチャラ男が爽やかイケメンに話しかけているのが聞こえた。


 女子達がピーグーと戯れている。すると突然ピーグーの口が人1人飲み込めるほどの大きさになったかと思うと、ショートボブの子を飲み込もうとした。


「「危ない!」」


 その場にいたほぼ全員が口を揃えて言ったその時


「ふー、可愛い顔して随分恐ろしい事するんだね、そんな子にはお仕置きだよ?」


 意地悪な笑みをして言った。


 背中から羽を生やし、空を飛んでピーグーと距離を取る。


「は、羽?」


「彼女は清宮奈帆(せいみやなほ)。能力は"翼"だ」


清宮(せいみや)さん、か」


 いつの間にか隣にいた(しん)が碧斗に言う。


「なんだ?気になんのか?」


「ち、ちゃうわ!名前覚えなきゃだからな」


 にやけながら聞く進につっこむ。


 空中に浮かんだ奈帆は羽の力で回転しながらピーグーに蹴りを入れると、透明感のある青に近い色の、血のようなものを出して消滅した。


「け、結構グロめなのね、」


「ち、ちょっとやり過ぎちゃったかな、?」


 集まっていた女子達は破裂した魔獣を見ながら呟いた。


 碧斗はグロテスクだったのもあり、無意識に手を合わしたのだった。


           ☆


 ピーグーの様な小さな魔獣が、次から次へと(くさむら)から襲いに現れては倒すのを繰り返す事、数時間が経った。相変わらず碧斗は能力を使う事は無かったが、他の人の能力の確認や戦い方などを学ぶことが出来たので、このトレーニングが無意味なものとは感じなかった。


「にしてもどのくらい倒せばいいんだよ」


 進が不満げに言った。


「確かに、条件は言われてないな」


 と、進の問いを返す碧斗に突然隣から


「だよなー、時間か何体倒すとかの指示くらい出してくれりゃあいいのにな」


 と、話しかけられた。


「うおっ、びっくりした」


ーず、随分と自然に入ってくるじゃん、同高かと思ったわ。ー


「ごめんごめん。でも、本当、いつまでやればいいのかな?」


 碧斗と進は「誰ですか?」と言わんばかりの顔を向けた。


「あ、自己紹介がまだだったね、僕は博多祐之介(はかたゆうのすけ)。よろしくね!」


「よ、よろしく」


 突然の出来事に驚いたが、良い人そうな見た目に安心したのだった。


「俺は佐久間進(さくましん)


「俺は伊賀橋碧斗(いがはしあいと)だ」


 自己紹介を済ますと、安心する時間もなくピーグーが碧斗に襲いかかる。


「危ない!」


 すると同時に、ピーグーが上から放たれた土によって埋もれる。


「だ、大丈夫、?」


「お、おう、大丈夫だ。ありがとう」


 博多祐之介(はかたゆうのすけ)の能力は「土」である。


 今の光景から誰もがその事実を目の当たりにしただろう。


「お前、土なのか」


「うん、正直強くはないかもだけどね」


 自傷気味に笑う祐之介に碧斗も苦笑いをして続ける。


「確かにそうかもだが、俺の"煙"よりは断然強いと思うぞ」


「あっ、煙なんだ。」と何かを物語っている顔を向ける。


 相手が誰だろうと、この能力の弱さには苦笑いしかないようだ。


 丁度この森の地面は土が多い事から、土を巧みに操る事が出来るようだった。場所によってはかなりの戦力になるのではないかと心で思うのだった。


           ☆


 その後、碧斗は祐之介と話したのち1人で行動する事にした。誰かと一緒に居ると、その人の能力に頼ってしまう事をよく知っていたからだ。


 森の奥へと、身を潜めながら歩く。


 すると、碧斗は光が差し込んだ幻想的(げんそうてき)な場所に辿り着いた。


「うーんっ。良い景色ー」


 それと同時。独り言のようにそう言いながら、伸びをする女子がいる事が分かった。ふわふわとした見た目に、予想通りの声色だった。


 髪は青がかったロングのストレートだが、フリルのスカートを履いているのもあり、活発そうな様子が伺えた。


「君もそう思わない?」


 突然の振りに誰に対してだか分からずに黙っていると、


「ねっ?綺麗だよねー」


 と、こちらを振り返り言った。その言葉に自分に話しかけられている事を理解した碧斗は


「そうだね、凄く綺麗だ。」


 異性と話すのに躊躇(ちゅうちょ)はしたものの、ありのままの気持ちを言葉にする事が出来た。


「だよねー、みんな戦ってばっかりで、もう少しこういう風景も見て欲しいかなーって」


 この人は戦う事よりもこの世界を楽しんでいる様だった。その姿が、なんだか美しいようにも感じる碧斗。


「あっ、君名前は?私は鶴来愛華(つるぎあいか)


 ニコッと笑いかけられた碧斗は単純にも顔が熱くなるのを感じた。


「お、俺は伊賀橋碧斗」


 鶴来愛華(つるぎあいか)。凛々しい名前とは正反対の明るい性格、名前とのギャップもまた良い。


「君、碧斗って言ったね」


「あ、う、うん」


ーと、突然呼び捨て!?ー


「碧斗はみんなと何か違う気がする」


 呼び捨ての事もあり、なんだか不思議な人な気がしてならない碧斗は何が言いたいのか分からずに首を傾げる。


「君だけは名前を言った後、能力を聞いてこなかった。みんな能力ばかりでつまんない」


 ただ自分の能力を言うのが恥ずかしいばかりに能力の話は避けていたのだが、珍しいようだった。


「でも、気になるのも仕方ないと思うよ。転生とか、よくわかんないけど周りの人の能力の把握は重要な事だと思うし」


「ふーん、そんなもんなのかなぁ。でも、みんなこの世界を楽しむべきだよ。うん!」


 1人で悶々として呟いていた。だが、こんな突然異世界に転生された挙句に魔王を倒せだとか現実離れしたこの状況を楽しもうなんて普通は考えない。不安や恐怖に押し潰されてもおかしくない状態だ。


 そんな世界でも景色を見て綺麗と言える彼女は一体、現実世界で何があったのか、知る由もなかった。


 そんな事を悩みながらも碧斗は「そうだね。」とよく分からない笑みを愛華に向けるのだった。


           ☆


 少し景色を堪能した後、ふと森の奥へ足を運んだ理由を思い出した。


「ごめん、この奥も気になるから行ってくるよ」


「うん、綺麗な場所あったら教えて!」


 短い会話しかしていなかったが、明るい性格と話しやすい雰囲気に、数分しかいなかったが随分と打ち解けたような気がした(だけかもしれない)。


 更に奥に進んでいると突然地響きが鳴り響き、体が震えだす碧斗。


「な、なんだ、この音、」


 何か大物が来るであろう足音に恐怖しながらも、好奇心に任せて音のする方へ、ゆっくりと進む。だが


「な、なんだよ、あいつ、」


 そこには今までと比にならないほどの大きさの魔獣が歩いていた。


「こ、これは無理だな」


 急いで逃げようと後ろを向うとした瞬間、魔獣がこちらを凝視しているのが分かった。


ーど、どうするのが正解なんだ、 逃げると追われる?それとも恐竜じゃないんだから逃げた方がいいのか、?ー


 思考を巡らしていると、徐々に近づいて来ているのが分かった。


「やばい、これは逃げよう」


 考えるよりも先に走り出したが、しかし。


 逃げた先に魔獣が尋常ではない速度で回り道をされ、頭が真っ白になる碧斗。


 煙を出してはみたが、すぐにかき消されてしまった。


ー嘘だろ、こんなところでー


 煙では到底敵うはずがない事を悟った碧斗は力無く立ち尽くした。それを狙ったかのように魔獣は人が余裕で入る大きさの口を開けた。


 あ、もう終わりだ。早い異世界生活だったな、せめて国の1つくらい救いたかった。


 そう弱々しく心で呟いたその時だった


 刹那、碧斗の周りに暖かい何かを感じた。時期にそれは暖かいものから痛みを感じる程の熱になり、目の前には見慣れた茶髪が写し出された。


「あ、相原(あいはら)、さん?」


「1人で何してんの?死にたいの?」


 魔獣が熱さに逃げ回るようにして動いているのを見ながら、彼女は言った。


「いや、その、気になって、とにかくありがとう」


 それからは何を言うでもなく「別に、」とだけ呟いたのが聞こえた。


 大魔獣相手に1人で助けに来てくれたその背中を前に、無意識にも胸が高鳴っているのが分かった。この感情が、いったい何だったのか、今の碧斗には分からないでいるのだった。

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