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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第2章 : 喪失感と葛藤(アジテション)
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59. 斟酌

キャラクターファイル27


橘大翔 (たちばなひろと)

能力:力


運動能力:4

知能:2

速度:3

パワー:6

成長力:2

沙耶(さや)が戦う覚悟をしたその瞬間、まるで意思疎通(いしそつう)をしたかの様に大翔(ひろと)も同時に地面を蹴り上げ、スピードをつけてこちらに向かう。だが、だからといってもう怖気付いたり、逃げたりなどしないと決めたのだ。皆の非難の声を無視し、沙耶は目つきを変えて戦闘態勢へと入る。


すると、沙耶の目の前に小さめの岩が空中に出現し、それを軽く手で押し出すと、それが大翔の向かってくるスピードに負けじと速度を上げて飛んで行く。


「そんなんでやられっかよっ!」


そう声を上げると右手で岩を破壊する。が


「なっ!?」


岩を壊すと、もう1つの先程よりもひと回り小さい石がその後ろから現れ、大翔は慌てて声を漏らす。岩の後ろに全く同じ位置に石を、同じ様に飛ばす事で目に見えない隠れ弾を作り出す。目に見えない攻撃、通称ブラインド。


「らぁっ!」


それをギリギリのところで蹴り上げ、石を砕く。が、その隙は大きなもので、蹴り上げている間に大翔の周りの地面に転がっていた小石が沙耶の指の動きとシンクロして大翔の横腹に攻撃を与える。


「ぐがっ!」


予想外の方向からの攻撃に慌てふためき、バランスを崩す大翔だったが、元々体感が良かったため足を踏み込む事により態勢を整える。それを見た沙耶が安否を心配したその一瞬の隙を狙って大翔は足を踏み出す。


「戦闘中は相手の心配なんてしねぇ事だな!」


「っ!」


不意を狙って放たれたその拳に動揺したが、その状況を瞬時に理解し大翔の右と左に巨大な岩を生やす。


「あ?一体、ぐあっ!?」


瞬間、両方に現れた2つの岩は大翔を押し潰すかの如くその空間を狭める。それに慌てて殴る手を引き、両手で岩を抑える。


「ぐあああっ!」


(たちばな)君、もう戦わなくていいんだよ?もう、自分と、自分の中の過去と、戦わなくていいんだよ?」


「て、てんめっ!」


沙耶は大翔が潰されないギリギリの力で圧迫し、もう勝負はついた事を能力を通して伝える。が、そんな簡単には認められないと、意地になった大翔も同じ力で押し返す。


「怖くないよ、人を信じる事は。人を信じるのが、怖くなっちゃったんだよね、、ううん。多分、裏切られるのが怖くて、信じる事すら出来なくなっちゃったんだよね」


「うるっ、せぇ!」


「でも、大丈夫。私は、私達は絶対に突き放したりなんかしないから」


「それがっ、いちばんっ!」


そう口にすると、強く踏ん張ってその続きを叫んだ。


「信じれねぇーんだよ!」


それと同時に左右に現れた岩に添えていた手を一瞬離して両手で破壊する。


「っ!」


「はぁ、はぁ、」


呼吸を正すべく少しの間息を吐くと、足を踏み込んで拳を構えて沙耶へと向かう。


「ま、まだやるつもりか!?」


横から碧斗(あいと)が口を開く。だが、それで大翔の拳が止まる事もなく沙耶の方へと更に近づく。また同じく岩を出現されると予想した大翔は岩をも貫通する程の威力で拳を振るう。が


「なっ!?」


一瞬地面が大きく揺れると同時に大翔の足元から巨大な岩が生え、その勢いで空中へと持ち上げられる。勢い良く殴ろうとしていた大翔は、バランスを保てずに転落する。しかし、落下中に態勢を立て直し、その巨大な岩を壁がわりにして、それを空中で蹴ってなお一層勢いをつけて沙耶に向かう。


「えっ!?」


それが予想外だった様子で沙耶は声を漏らすと、慌てて自分と大翔の間に岩を出現させる。が、その勢いが大きかったのか、一瞬にして岩を砕くと、いつものように態勢を崩す様な事はなく、そのまま沙耶へと左手で殴りに入る。その追撃にまたもや驚愕に肩を震わせる沙耶。だがその瞬間、破壊した岩の破片が大きさを変え、大翔の体に負荷がかからない程度に彼にのしかかる。


「ぐあっ!?」


「はぁ、はぁ、橘君、もう、やめよ?これ以上は、」


「んだと?勝ち逃げするつもりか、まだ勝負はついてねぇよ」


そう呟くと手で体を支え、足を力強く振り上げる。その威力で岩を破壊したのち、足を上げた状態で地面を手で押し出す事により勢い良く飛び上がる。と、そのまま宙にとどまり、一回転して粉々になった岩を沙耶に向けて蹴る。


「っ!」


流石サッカー部とでも言うべきだろうか。狙いは的確で、合計5つの石が自分に向かって放たれる。が、沙耶に岩で攻撃するのはむしろ逆効果なのだ。と、そう言わんばかりに手を前に出すと、飛んできた岩の数々が軌道を変えて沙耶を綺麗に避ける様に分散する。だが向こうの攻撃もこれだけで終わるはずもなく、石の軌道を変える事に気を取られていた沙耶に容赦なく殴りかかる。


それでも尚、先程軌道を変え沙耶の周りに位置していた石の数々が、その場で伸び広がる様に形を変えて5つの石を1つにつなげると、沙耶の前にまるで盾の様な形の岩が出来上がる。その岩に勢いそのまま殴り抜けると、その間に沙耶は後ろに後退る。破壊した岩の破片が沙耶の前に飛び散り、それを目眩しにして大翔は(かが)んで下からボディブローを喰らわしにいく。が、目眩しにした破片の大きさを変形させてそれを防ぐと、その勢いもあり大翔は反動で後ろへと弾き出される。その一瞬の隙を見逃さなかった沙耶は2人の間にもう1度岩を隔てると距離を取る。


「はっ!また逃げんのかよっ!お前」


大翔は息を切らしながらそう叫ぶと、岩を蹴り砕き一瞬で沙耶の真横を通過する。本当に一瞬だった。そのすれ違う瞬間、大翔はしゃがんで沙耶の顔と同じ高さに顔を持っていくと、耳元で小さくそれを呟いた。


「あめぇんだよ」


「っ!?」


と、言うが早いか大翔は沙耶の腹に拳を入れた。


「「「っ!」」」


その場にいた碧斗、美里(みさと)樹音(みきと)は皆、その衝撃的な光景に息を呑んだ。が


「え、えへへ、、」


「あ?」


「だ、大丈夫、、だよ。私が、、受け止めるから」


沙耶は息を荒げながらも大翔にそう笑いかけた。


「はっ、やっぱ一筋縄じゃいかねぇってことか」


何かに気づいた様に大翔は鼻で笑った。そう、沙耶の腹部には、元々小さな石を服の下に忍ばせていたのだ。いつ攻撃を受けても大丈夫な様に、と。大きさはいつでも変えられるため、小石であろうが強大な盾になりうるのだ。だがこれでは終わらないと、大翔は更に追撃を狙う。が


「っ!てめぇっ」


腹部の大翔の腕を、沙耶は優しく、だが力強く、手を包む様に両手でガッチリと掴んでいた。


「チッ、離せよ!」


「ううん、離さない。見捨てたりなんてしない。怖くないよ。人を信じる事は、怖くないんだよ?」


「っ、だから、うっせぇっつってんだろ!」


無理矢理その手を振り払ってその勢いのまま殴りかかる。だが、その拳すらも地面の石が浮き、受け止める。


「チッ!」


1度舌打ちをして距離を取る。沙耶と大翔の距離はおよそ15メートル。2人は真剣な眼差しで見つめ合い、いや、大翔の方は睨むような形相で、無音の時が流れた。数十秒が経ち、息を整え終わったのか、大翔は足を曲げる。と


「てめぇ、今度はもう止めようとか言わねぇのか?」


「うん、本当は言いたい。こんな事、間違ってるって思う。だけど、橘君は戦いたいってより、勝負したかったんだよね、?だから、ちゃんと最後までしっかり戦う。それが、今自分自身と戦ってる橘君の苦しみなら、私は、全部、たとえ痛くても、嫌でも、それでも受け止めたいから!」


「何言ってんのかマジで意味わかんねぇな。本当、おめぇら」


そこまで言うと、大翔は次の行動に移るためか、姿勢を落とし、笑った。その笑顔は、強豪の格闘家が(おのれ)よりも強い選手と対立する前に楽しませてくれとウキウキする様な、そんな清々しさや威圧感を感じた。それに対抗するかの如く沙耶も態勢を落とし、目の色を変えた。


「揃いも揃ってほんっと、イカれてやがるよ!馬鹿どもがぁぁ!」


そう叫ぶと同時に、大翔は力強く地面を蹴った。


           ☆


「っと、こりゃ運ぶの大変だな。誰かに見つかった時点でもうヤベェし、こんな危ない事やってたのかぁ、あの理系女子は、、ってか、当の本人は一体どこ行ったんだ?」


本日分の食事であった食糧を袋に入れて両手で持つ(しん)。今まで運んでいた美里が碧斗側へと移ってしまった事で食事に困っていると予想した進は、王城での食事の後、同じ様に余った食材を持てるだけ持って来ている。が、その碧斗達の居場所が分からずに途方に暮れる。一体、美里は今までどうやって皆を見つけていたのか、それが不思議で仕方ない。と丁度その時、遠くの方から轟音(ごうおん)が響き渡り、その方向へと振り返る。


「い、今のって」


今の異様な音の正体は、他でもない。何かしら能力者が関係している、と。そう予想した進は、嫌な予感を抱きながら両手の袋を持ち直すと、"ラストルネシア"の方へと歩み出したのだった。

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