54.共闘
数分かけて、碧斗達はラストルネシアへと到着する。そこは古代の場所と呼ばれるにふさわしい見た目をしていた。開けた闘技場のような場所があり、その周りには古びた柱が乱立している。
日が沈み、あたりは薄暗くなる。今の時刻は午後6時50分。約束の時間まで約10分ほどあったが、大翔の姿が見受けられた。
「予想より早かったな。もう少し探し回るかと思ったが」
「マーストのおかげで近道から来れたからな。その早さだと、橘君の方もこのルートを使ってきたんじゃないのか?」
大翔の事を真っ正面に見据え言い放つ。碧斗の予想は当たったらしく大翔は1度鼻で笑う。
「ああ、その通りだ。こういう事に関してはそこの無能力者は厄介みたいだな」
「どうだ?お前は4体1って言ってたが、正確には5体1だぞ。流石にキツいだろ?」
碧斗はわざと挑発的に笑みを送る。美里はまたやってると呆れていたが、これも"作戦"の内だと理解している樹音や沙耶は碧斗の挑発に乗っかる。
「そうだよ橘君。5体1は厳しいと思うよ」
「うるせぇぇ!たとえ5人でも6人でも、簡単に捻り潰してやるよ。黙ってろ裏切り者共が」
大翔は相当頭にきたらしく怒声をあげる。それはそうだ、大翔からすれば今の様に心配されるのが何よりも屈辱的だろう。感情の暴走を抑えるべく1度息を吐くと、改めて話し始める。
「俺は正々堂々戦いたいんだ。だからこういうちゃんとした場所で人数決めてやり合いてぇんだよ」
なるほど、と碧斗は納得する。つまり大翔は戦いではなく、決闘を申し込んでいるのだ。ここで終わりにという言葉や、決着をつけるという台詞は、おそらく黒白はっきりさせるという意味だったのだろう。そう、つまり強さで分からせるというやつだ。
「さぁ、来いよ。ちと予定より早ぇが始めようぜ伊賀橋碧斗。それとも、もう少し時間が必要か?」
「いや、もうこっちは準備万端だ。いつでも来いっ!橘大翔」
余裕の笑みで戦闘開始を口にした大翔に続き、碧斗も同じく冷や汗を掻きながらも余裕の表情を作る。だが、"それ"が演技である事が丸分かりだったようで、大翔は鼻で笑う。
「ならやっちまうぞ?覚悟決めるんだなぁ!」
そう叫ぶと同時に体勢を落とす。それが戦闘開始の合図であるかのように碧斗達は目つきを変える。
「来るぞ!」
碧斗が大翔の攻撃を予想し声を上げる。その瞬間、力強く地面を蹴り、バネの様にこちらへ勢いをつけて向かう。それを見計らった碧斗は、近づくよりも前に、煙を自分達より"少し前"に放出する。
「無駄ダァァッ!」
そう言い放つとそのスピードのまま中に入り、煙を切る様に走る。だが
「本当に、無駄だと思う?」
美里が小さく言うと、その声の発せられた場所がおかしい事に気が付き、大翔は慌ててその方向へと向き返る。
そう、それは真後ろから発せられていた。
「なっ!?まさか」
「遅いっ」
小さく文句を垂れる様に言うと同時に手から小さい炎を発する。
「煙で周りを見えなくして隙のできた背後から攻撃か。甘い!んなもん簡単にーー」
「だから、私そんな馬鹿じゃないんだけど?」
「っ!?」
不満げに口を尖らすとその炎が破裂し、大きく爆発する。
「ぐごあっ」
少々服が焼けてしまった様だが、火力を抑えた為大事には至らなかった様だ。その様子を確認した碧斗は声を上げる。
「円城寺君、水篠さんお願いっ!」
「任せて!」 「うんっ!」
そう言うと、碧斗の左右から2人は姿を現して、樹音は走り出すと沙耶は力を入れ、踏ん張る。
刹那、爆発により弾き出された大翔の背後に身長以上の岩を出現させ、そこに樹音は走りながら手をクロスさせた状態で剣を生成し、目にも留まらぬ速さで大翔の襟が伸びたその一瞬を狙い、貫通させて岩に固定する。
「やった!」
「上手くいったみたいだね」
「おお!みんな本当にコンビネーションいいな」
「それで?この後どうするわけ?」
沙耶と樹音が喜び、碧斗が皆の息ぴったりの動きに感服する。無事に決闘を終わらした美里は碧斗へ質問する。
「うーん、そうだね。まずは話し合おう。この状態ならゆっくりーー」
「おい」
「「「「!」」」」
碧斗が次の行動へと移ろうとしたその時、大翔が歯嚙みしながら低く唸った。それに反応した4人は大翔の方へと振り向くがしかし。
「勝手に終わらしてんじゃねぇーぞ!」
そう言うが早いか自分の服を貫いた剣の刃の部分を両手を使って2本同時に破壊すると、服を破きながら前に駆け出し、破壊して刃が短く欠けている剣の柄の部分を空中でキャッチする。
「くらえ!」
その欠けて「短剣」となったその刀を樹音の方へと投げる。
「やばっ」
投げられた数メートル先という近さに居た樹音は声を漏らすと、即座に剣を右手に生成してその2本の短剣を弾く。だが、それはただの最初の一手でしかないのだ、と。そう言うかのように弾いて出来たロスを狙って殴りに入る。
「クッ!」
反射的に急いで右手の剣で防ぐ。だが、いつもと同じく破壊され、その衝撃で弾き飛ばされる。
「ごはっ!?」
「やばい!マースト、早く逃げて!」
その突然の攻撃に、碧斗はマーストに逃げる様に叫ぶ。が、それが手遅れだと言わんばかりに、マーストの方へと振り返った碧斗の背後には大翔が写し出される。
「碧斗様!後ろです!」
「なっ!?」
マーストに言われ振り向いた瞬間、碧斗に殴りかかった大翔の前には火の玉がボウっと音と共に現れる。
「うおっ!ぶねぇ」
熱さから反射的に後退る大翔。その隙に碧斗はマーストに目配りすると、彼はその場から離れる。対する大翔は、その炎が誰から発せられたのかを理解し、口角を上げて美里の方を向く。
「ハッ、お前の能力はそんな事も出来るのか。ちと厄介だな」
「私だって、転生されてからずっと訓練してきたんだから、甘く見ないで」
挑発的に笑う大翔に対して仏頂面で呟く美里。それに「だが無意味だ」と言わんばかりに笑うと、大翔は美里の方に身構える。その姿から次の攻撃を察知した美里は目つきを変える。がしかし、地面を蹴って踏み出したその先は美里ではなく、碧斗の方だった。
「えっ!?」
「なっ!?」
その予想外の行動に美里と碧斗は同時に声を漏らす。碧斗は反射的に煙を出すものの、効果は無し。
「ダメェェ!」
煙をかき分け拳を振り上げた刹那、沙耶がその間に岩を生やす。それによって碧斗に攻撃は入らなかったものの、壁として出現させた岩も一瞬で壊される。
「クッ!」
その破壊された岩の破片が飛び散り、碧斗は顔を腕で防ぐ。
「ご、ごめんっ!」
「い、いやいや、助かったよ。ありがとう、水篠さーーごふぉっ!?」
「「「っ!?」」」
逆効果だったと感じて恐る恐る謝罪をする沙耶に笑顔を作って感謝を口にする碧斗。だが、それを言い終わるよりも前に碧斗の横から、まるでタックルをする様に突進する大翔。能力以前に、ただでさえ体格の良い大翔に突き倒され、数メートル吹き飛ばされる碧斗。
「ごはっ!」
「伊賀橋君!」
「っ!!あんたねぇ!」
叩きつけられる碧斗へ振り返り名を叫ぶ沙耶と、大翔に対して怒りを露わにする美里。だが、その一瞬の隙も命取りなのだ、と。そう現実を突き付けるかの様に美里に追撃をしようと飛躍する。
「あんまり、調子乗るんじゃ、」
美里は怒った様にそう呟くと、1度両手を後ろに構え手を前に押し出すと、まるでどこかの格闘ゲームで出てくる様な見た目をした大きな炎を、宙から殴り込んでくる大翔に向けて放つ。
「ねぇーー!」
「ハッ、んなもん効くかよ!」
そう呟き、構えていた拳をしまって両足を突き出す。その行動に美里は目を見開く。まさか、この攻撃を耐えようとしているのではないか、と。そう考えた途端、美里の頬を汗が伝う。だが、その嫌な予想は当たってしまった様で足からその巨大な炎に追突する。
「っ、やばっ、いっ!」
逆にその炎を足に纏い、美里の攻撃を自分の攻撃の一部の様に利用する。それを見切った美里は既のところで後ろに下がり、ギリギリで交わす。だが、地面に到達した大翔は足から着地したのもあり、その勢いを弱めぬまま地面を蹴って2手を繰り出す。怪我をさせまいと火力を弱めたせいか、大翔には耐えられる程度の攻撃となってしまった様だ。
「っ!」
「そうはさせないよっ!」
美里がそれに息を飲むと同時に、大翔の背後で倒れていた樹音が声を上げる。その瞬間、大翔の顔のギリギリを狙って投げたであろう剣が2本、右と左の両方の頬を掠り、少量の血が流れる。その先にいる美里には上手く当たらない様に調整されていたらしく、怪我はない様子だ。
「っ!?」
それに驚き、反射的にそれが放たれた方へと振り向く大翔。その一瞬を狙った樹音は右手を構えた状態で剣を生成すると、それで斬り付けに入る。が、そう簡単に行くはずもなく足で蹴り上げられ、弾かれた衝撃から大きな隙が生まれる。それを見計らい空いている右手で殴る。それを自分の目の前の"空中"で剣を生成して、手で握るよりも前に宙に浮く剣で防ぐ。それによって大翔だけが体勢を崩し、ガラ空きになったボディに峰打ちを狙う。
「チッ、させるか」
舌打ちをしたかと思うと、足で地面を力強く踏みつけ、それによって地が欠けて瓦礫が宙を舞う。それが運悪く振った剣に丁度当たり、樹音の剣は弾かれる。
「ハッ!運がなかったなぁ!」
そう笑うと、樹音に蹴りを入れる。ギリギリ左手に剣を生成して防いだものの、その威力は凄まじく30メートル先にある古びた柱に打ち付けられる。
「ぐはぁっ!」
「っ!あんたーー」
そう叫んで手に炎を出現させた美里だったが、一瞬で後ろに回られ、軽く指で弾く。
軽く。
軽くだったのだが受けた衝撃は軽くはなく、体の軽い美里の身体は吹き飛ばされてしまう。
「うっそっ!」
そう声を漏らすものの、吹き飛ばされた距離は遠くなく、大翔の方も力加減をしたのだと理解する。
「っ!いっ、た、、」
「相原さん!」
皆がそれぞれ地面に横たわる中、沙耶は美里の名を叫び、皆が次々と倒されていく様を見た恐怖から冷や汗を掻いて後退る。
大翔は沙耶の方を向くと次はお前だと言わんばかりに笑った。




