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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第2章 : 喪失感と葛藤(アジテション)
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50.大翔(1)

暇そうに肘を突きながら窓の外を眺める1人の男子中学生、橘大翔(たちばなひろと)。15歳にして社長の後継ぎ候補であり、父親が中小企業の社長である。学校での生活はと言うと、別段大きな大会を狙っているわけでもなく、ただ好きだという理由で入部したサッカー部に所属している。とは言うものの、部員から必要にされるほどの実力を持ち、中学の頃から何度もチームを優勝へと導いている。そんなところから、上手い。と自分で思わないわけもなく、更には休み時間に自分の机の周りに友達が集まる(さま)だ。つまり、勝ち組というものだろう。だが、こんな自分にも唯一駄目なところがあった。それが、


「橘大翔。来週から1週間、補習を受ける様に」


「なっ!?何でですか!」


「ふざけてるのか、この間のテスト、数学、化学、日本史共に赤点だっただろ!」


驚愕の表情で返す大翔に呆れ混じりにツッコむ担任。そう、大翔は超がつくほどに頭が良くなかった。そこまで言わなくてもと思うかもしれないが、正直頭の良い学校というわけでも無いので、その中で赤点というのは相当マズい。更には補習を受けさせられる始末である。だが、それはとてもキツい。1週間という期間、部活をするなという事を遠回しに伝えられているのだ。確かに本気でやっているわけでは無いが普通に趣味であるサッカーが出来ないのは中々にキツいものがあった。それにーー


「なぁんだ、おめぇまた赤点だったのかぁ!?」


「す、すみません」


問題は監督である。大声で話す監督の圧に圧倒され、怯む大翔。説教だけで終わるならまだいいが、監督はこんなものじゃ終わらない。


「それじゃあ、200mトラック、赤点だった教科数掛()ける15回走ってもらうか!」


「は、はぁー!?いや、赤点3教科なんスけど!?45回走れっていうんスか!?」


「赤点は1教科も出しちゃいけないもんだぞ?大翔ぉ」


「く、そ、そんな、」


「おい大翔!お前来週来ねぇのかよぉー」


「エースストライカーはお前くらいしか務まらないってのによ」


「分かったわかったから、、正直バックレてぇよ」


「でもそれしたらお前留年じゃん!1年目で留年って、ぷっ!」


「笑うなよ!」


チームのメンバーに茶化され声を上げる。こういう事になるから、赤点は取るもんじゃない。そう思い、勉強をしなかった過去の自分を恨む大翔だった。


           ☆


かったるそうに後ろの方の席に座る。「その時間」が訪れたのだ。そう、補習の時間である。内容は数十分の間追加授業を受け、その後課題を行うというものになっている。課題の数は多いらしく、先生に質問をしながら解いていく様だ。そんな長時間にわたるめんどくさい作業をこれからするのだと思うと、本当に気が乗らない。


「それでは、補習を始めるぞー」


「はぁ、」


大きめなため息を溢し、嫌々気分を変える。すると、廊下の方から力強い足音が近づいてくる。


「すっ、すみませんっ!掃除してて遅れました!はぁ、はぁ、ま、まだ、大丈夫ですか?」


「相変わらず騒がしいなー、安心しろ。まだ始まってないから。空いてる席座って良いぞー」


慌てた様子で美しいロングで漆黒の髪を頭の後ろで結んだ女子が入ってくる。その必死の姿が面白いのか、クラスの人や教師すらも笑ってそう促す。彼女の名は、おそらく小野寺琴葉(おのでらことは)。だったか、うろ覚えの記憶を探って同じクラスだと言う事を思い出す。琴葉は「あはは、」と照れ笑いをすると、大翔の隣の席に静かに座った。


ーなんで俺の隣なんだよ、他にもあるだろ。ったくー


小言を心で呟くと「まあ、でもどうせ隣とか関係ないから別に良いか」と何とか自分を納得させる。


「それじゃあ始めるぞー」


担当の教師がそう軽く言うと、補習が始まった。


           ☆


「よし、ここまで分かったかー?お前らー。次はプリントやってもらうぞー」


その合図と同時に見たくない文字がずらずらと並ぶ紙切れが配られる。それと同時に皆は静かにペンを取った。だが、大翔だけは違った。


ーは?な、なんだこれ、んな問題習ってねぇぞ!ー


周りでカリカリと文字を書いていく音だけが響く中、1人でその方程式が書かれた紙切れと葛藤(かっとう)していた。頭を抱え、悩む。すると


「ねぇ、解けないの?」


小声で隣から話しかけられる。


「っ!うるせぇ!別に解けねぇわけじゃねぇし、、あっ、もしかしてお前もーー」


開き直った様に琴葉に煽りをしようとして、彼女の前に置かれた紙を見る。すると、


「なっ!?」


そこには、全て解き終わったであろう文字数が書かれていた。


「おまっ!チッ煽りにきたのか」


「えっ!?違うよ!だって、苦戦してる顔だったから、教えてあげよっかなーって」


「やっぱり煽ってんじゃねぇーかよ!」


「そこ、静かに!」


「「はい、すいません」」


ついつい声が大きくなってしまい、注意される。その後は、無言でキッと睨み「やってやろうじゃねぇーか」と言わんばかりの視線を送る。だが、だからと言って突然覚醒する訳もなく、またもや頭を悩ませる。


「ふふっ」


「あ!?何笑ってんだ!?」


「ふふふっ、いやー、面白いなぁと思って」


「どこがだよ」


呆れ半分にそう呟くと、琴葉は椅子ごとこちらに近づく。


「っ!?な、なんだよ!?」


「えっ?いやー、だってあたしから行かないと聞いてくれなそうだなーと思って」


「来ても手を借りるつもりはない」


「ほらほら、そんな強がりしてるんだったら解く解く!」


そう促された大翔は、ペンを持った。




数分後、目の前には解答欄が埋まったプリントが映し出されていた。


「ほら!終わったじゃん!凄い凄い、よく頑張ったねー」


「俺は小学生か!?ん、んな問題くらい余裕だ」


だいぶ時間はかかってしまったものの、琴葉のお陰で全て解き終わる事が出来た。だが、そこで1つの疑問が浮かぶ。


「てか、お前頭いいくせしてなんで補習受けてんだ?」


「あ、えへへ、実はテストの時休んじゃって」


「そうか、、大丈夫なのか?体、テストの日に休むって相当なんじゃねぇのか?」


「え?あっ、風邪とかじゃなくて家の用事だよ?」


「な、なんだよ!なら早く言えよ。ったく」


勘違いしていた事に恥ずかしがりながら焦ってそう言い放つ。それに対して琴葉は小さく「心配してくれたんだ、ありがとう」と呟いた。それと同時に教室にはチャイムが鳴り響く。


「はーい、終わりだ。そこで一回プリント集めるぞー。後ろから回収してくれ」


「えっ、あっ、もう終わりか」


「早かったね」


「あ、ああ」


そこでなんだかお腹が締め付けられる様な感覚がする。それの理由は分からなかったが、気づいたら琴葉に口を開いていた。


「あの、あ、明日も、隣座ってくれるか?勉強、今日は助かった、」


「えっ?もー、素直じゃないんだからー。良いよっ!明日もよろしくね、大翔君!」


「お、おお、サンキュ、」


名前を呼ばれたからか、心臓が波打つのを感じた。今はまだ、それが何を意味するのか理解できない大翔だった。


           ☆


次の日も同じ様な光景が広がった。教科こそ世界史であり違かったものの、琴葉はテスト日を1日休んでしまっていたため、相変わらず隣の席に座っていた。そんな毎日が過ぎること1週間、とうとうその時がやってくる。


「おらー、今日で補習最後だから気合い入れてけよー」


最終日である。教科内容は最後を締め括るかの様に数学であった。


「ほら、ここはこっちに代入(だいにゅう)しないと」


「わ、分かっとるわ!今やろうとーー」


「ああっ、そっちに代入するんじゃ無くて」


いつも通り、騒がしい勉強をしていた。だが、これが今日までだと思うと、なんだか物寂しい気がした。琴葉とは同じクラスではあるものの、クラスでは全くと言っていいほどに話さない。向こうもこちらも、いつも誰かに囲まれていて、話す隙が無いというやつだろうか。いや、人が居なくても話せる気はしないが。


「ほら!出来たじゃん!ね?解けると面白いでしょ?」


「いや、別に面白くはねぇよ」


「あ、あれ?」


「あれれ?」といった様子で苦笑いする琴葉に、窓の外を眺めながら大翔は誰にも聞こえないくらいの声量で呟いた。


「でも、お前と勉強するのは、、楽しかった、」


それが聞こえたのか否か、琴葉は小さく微笑んだ。


「おっ、そろそろかぁ、それじゃあ後ろからプリント集めろー」


「あっ、も、もう、終わり、か」


「だねー、でも凄く大翔君、勉強出来る様になったじゃん!次のテストは赤点脱出だねぇ」


クスクスと笑いながらプリントを集めるため席を立つ。その遠ざかっていく琴葉の姿になんだか心が締め付けられる感覚がした。腹の奥が切なくて、苦しくて。これで終わるわけではないのに、なんだか別の学校へ卒業してしまう様な、そんな気持ちになった。


ーこの補習が終わったら、もうこんな風に笑ってくれねぇのかなー


そう思うと、なんでか目が潤んでいた。


同じ列のプリントを全て集めて前に提出しながら頭を悩ました大翔は、先生の号令と共に席を立った。


「お、小野寺、」


「んっ?なーにー、そんな深刻そうな顔してー」


ニコッと笑い返してくる琴葉に胸が高鳴りながら、口を開いた。


「その、こ、これからも、さ、勉強、教えてくんね?その、補習とか、関係無く」


真剣な眼差しでそう良い放つと、一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに笑って琴葉は返す。


「もー、あたしが居ないと駄目みたいだねー」


「そっ、そんなんじゃねぇよ!」


「いーよ、また、勉強しよっ」


こんな簡単にオーケーが出ると思っていなかった大翔は、その言葉に動揺する。気を緩めたら涙が出そうだったが、無理矢理それを抑えて「さ、サンキュー」と目を逸らした。


           ☆


それから1、2ヶ月か経ち、よく遊びに行く仲になった。勉強を教わるというていで喫茶店やレストラン、関係のないゲームセンターやデパートまで行く事もあった。そんな、いつもと変わらずに食事に行った帰りだった。


「いやぁ、今日もいっぱい食べちゃって、明日浮腫(むく)んじゃうかもなぁ。でも、凄く美味しかったし、楽しかった!あ、そういえば楽しいだけで勉強忘れてたね。じゃあ次の週にでもテスト勉強教えなきゃねー」


琴葉のその言葉に胸が締め付けられた。ここまで遊んだり、会ったり、笑ったりを繰り返しているのに、まだ「勉強を教えてもらう」という理由で会っているという事に。だからって"それ"は言えなかった。怖かった、普通に話せなくなるのが、もし駄目だったら。と、考えたら止まらなかった。だが、それ以上に、このまま終わる方が苦しかった。意を決した大翔は、帰り道に突然立ち止まって震えた口を開いた。


「小野寺」


「んっ?どうしたの?」


「勉強、だけなのは、嫌だ」


「えっ?どうしたの!?いきなり」


驚いた様にしながらも笑って琴葉は返す。何を言っているんだと、自分自身を殴りたかった。言葉が出てこない。だけど、もう先送りにしたくはなかった。言わなきゃ、言わなきゃ、言わなきゃ、言わなきゃ。言うぞ、言うぞ、言うぞ、言うぞ。


ー言うぞー


「勉強とか関係なく、どっか行きてぇなって。一緒にいたいし、ずっと会ってたい」


「な、何々っ!?どうしたの変なこと言っちゃって、」


「小野寺」


「う、うん?え?」


琴葉は焦っている様だった。それもそうだ、突然こんな変な事を言いまくってしまっているのだから。驚くだろう。正直嫌かもしれない。


それでも、言わせてくれ。









「小野寺、ずっと好きだった。お、俺と付き合ってくれねぇか、?」

気になるところで終わりました。皆様、あけましておめでとうございます。今回は恋愛回だったので、クリスマスに投稿したかったのですが、1週間合いませんでした。なんだか毎回投稿日と行事が重なっている気がします。

凄いですね

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