05.能力
佐久間進が能力を披露した後、他の人達の能力の観察をする事にした碧斗は、得意の人間観察を始めた。
最初は他でもない。茶髪ショートで無愛想な顔をしながら能力の制御を試している女子。
相原美里の能力を確認する事にした。少し経つと彼女の手から大きな炎が現れた。
「うおっ!す、すげぇ」
思わず声を漏らす碧斗。それに気づいたのか、美里は「キッ」っと効果音が鳴るほどの目つきで碧斗を睨んだ。
「ごっ、ごめん」
慌てて謝ったが、何故怒られているのかもよく分からないので声のかけようがない。すると意外にも彼女の方から
「見てれば分かると思うけど、私の能力は"炎"。まだ制御の特訓中だから話しかけないで」
「あ、うん。」
弱々しく返した碧斗だったが、「嘘だろ。超いい能力じゃん」と心の中で嫉妬するのだった。
横を見ると、さっきの内気で静かそうなセミロングで黒髪の女の子の数メートル先から石が生えている事が分かった。
「も、もしかしてこれが能力か、?」
明らかに少女の動きとシンクロして生えてきている様子を見る限り、能力である事に変わりはないようだ。
その様子をジロジロ見ていたのがバレたのかその少女はハッと碧斗の方を見た。
ーや、やばい。やばい奴と思われないようにしないとー
側から見たら変質者丸出しの今の状況に碧斗は慌てて言葉を考えるが、言葉が出てこない。対して少女もオロオロと顔を赤らめながら言葉に詰まっているようだった。
「す、凄い能力だね!」
緊張で声が少し大きくなってしまい、そのせいか少女はビクッと肩を震わせた。
「ご、ごめん!」
震えている少女を前にして頭が真っ白になる。
ーこ、これ完全に犯罪者じゃー
碧斗が混乱していると、まるで助け舟を出してくれたかのように進が割って入る。
「なーに女の子怖がらせてんの?ま、まさかそういう趣味?」
「ち、ちがうわ!てか、勝手な妄想で引くなよ!」
少し後退りした進に碧斗は慌ててツッコむ。
その様子を見ている少女は先程とは違い、今度はポカンとしていた。
「あ、いや、俺は怪しいものじゃなくてさ。あ、そうだ、名前!これから一緒に冒険してくんだ、名前くらい聞いておかないとな」
そう、ここには不思議な点があった。普通、さっきの王様の話を聞くところで指名されたり、自己紹介があってもいいのではないかと思う。転生された事がないのでそれが普通とも言えないのだが、何か突っかかるものがあるのは確かである。
とにかく、この世界はコミュ症に優しくない世界な事だけはわかった。
「俺は伊賀橋碧斗」
「俺は佐久間進だ!」
碧斗に続き、進も自己紹介をしたところで「君は?」と促した。
「わ、わ、私は、」
「む、無理しなくて大丈夫だよ、?」
全身を震わせている少女を目の前にし、罪悪感さえ感じる。この子は相当な人見知りなのだろう。
「恥ずかしがり屋さんなのかな?」
小声で碧斗に耳打ちした進に「俺は人の事言えないけどな」と碧斗。
「私はみ、水篠、沙耶、で、す。」
最後の方は消え入りそうな声になっていたが、名前はしっかりと聞こえた。
「水篠沙耶ちゃんか、よろしく!」
相変わらずのコミュ力を発揮する進を横目に、碧斗も同じくよろしく。と笑いかけるのだった。
「さっきから石を出してる?みたいだけど、水篠ちゃんの能力って石とか?」
と碧斗はすかさず能力を聞くタイミングを見極め、言う。
「い、いえ、その、正確には、、"岩"です」
「岩、なんか大人しそうなのに強そうな能力だね」
と進。
「わ、私も、お、驚いてて」
この子は水篠沙耶。能力は「岩」。
この世界では顔と名前だけでなく、その人の能力まで把握しないといけないので、聞きたい事が多い。
「あ、言い忘れてたけど、俺は、その、煙だ」
正直言いたくない能力ではあったが、人の事を聞いておいて自分が言わないのはなんだか腑に落ちなかったので、仕方なく言った。のだが
「そ、そうなんですか、す、凄いですね、!何が、出来るんですか、?」
「え、え?」
会ってから初めてのはしゃぐ状態を前にして冷や汗をかく。悪気が全くないのだから逆にタチが悪い。
「実はこの人の能力最じーー」
「いやー!ちょっとそれは強大な力過ぎて話せないな!」
事実を告げようとする進の声をかき消すように慌てて碧斗が叫ぶ。
「あんなに期待してるのに言っちゃダメだろ!」
沙耶に聞こえないように進に話す。
「悪りぃ」
と笑いながら言う進。
「ちなみに俺は空気圧」
「く、空気、圧?どんな事出来るんですか?」
いまいち能力が理解できていない様子の沙耶を横目に、話が進の方に向いてくれたのでそそくさと退散する事にした碧斗。
ここが碧斗の悪いところなのは自分でも理解していたが、人とずっと話を合わせて会話をしているのが疲れる事が多いのだ。
☆
ふと、周りを見回してみる。光を放出してたり、数メートル先に草を生やしていたり、水を手から出してたり、もうそれだけでおかしな状況だが、気になる人がいた。1番奥で笑いながらそれを見ている人と真顔で何かを考え込んでいる人がいる。
それだけではおかしくはないかもしれないが、このトレーニングが始まってからというもの、能力を1回も使用していないのが見て取れた。
「なんだ、?あいつら」
自分と同じ弱い能力なのかと期待を寄せながら、碧斗はその2人の顔を凝視した。その時、片方の赤い髪が目立つニヤついている男子が碧斗の方を向いたのに気づいたが、話す事は出来なかった。
☆
そろそろ自分も能力の練習をしなければと人目の少ないであろう場所でトレーニングを始めた碧斗は、何度も煙を出したが、やはり技らしい技は生まれてこない。
「本当に目眩ししか出来ねぇのかよ、」
完全に諦めていた碧斗に、
「へー。お前、煙か」
突然後ろから話しかけられた事にも驚いたが、その姿を見て尚、驚く。他でもない、そこに立っていたのは最初から怖い雰囲気を醸し出していた不良高校生の姿だった。
「なっ、突然、何、?」
動揺をかき消すように懸命に普通に話したのだが、やはり声が少し裏返ってしまった。
ーヤンキーとかが相手の時は逆にビクビクしないで、普通に。ー
弱々しく見られても、強気に接しても目をつけられる。ヤンキーというのは本当に厄介なものだ。
「いや、気になっただけだ」
意地悪な笑みをしてその男は言う。
「俺なんかの能力見たってつまらないぞ」
そのままの気持ちを呟いた。
「全員の能力把握しとかねぇとな」
何かを企んでそうな表情が、関わってはいけないという事を思わせる。
「俺は桐ヶ谷修也。お前は?」
突然の自己紹介に一瞬戸惑う。本当にこの人は何を考えているか分からない。
「お、俺は伊賀橋碧斗、だが」
「伊賀橋碧斗。能力は煙、か」
覚えるように繰り返す"修也"と名乗る男を見る限り、転生者達の事を覚えようとしている事に嘘はないみたいだった。
「最弱の能力の割に、いい顔してるじゃねぇか。死なないように頑張れよ、碧斗」
笑いながら手を振ってその場を去る修也の後ろ姿を見ながら碧斗は思う。
ーなんで最弱な能力の事を知ってるんだ、?それにいい顔って、最後に怖い事を言われた気がする。ー
いまいち状況を飲み込めずにいたが、もしかすると凄い人なのかとも思う碧斗だった。
☆
「それでは、今から敵を倒してもらう」
国王の言葉に、碧斗は凍りついた。
「嘘だろ、能力もまともに使えない俺が、勝てるわけないだろ」
「まだ皆さんは能力の使い方などを完全には習得していないと思うので、この街に時々現れるピーグーを倒してもらう」
「ピーグー?」
爽やかなイケメン男子が聞き返す。
さっき「風」を起こしていた青年だった。
「小さな魔獣の事です」
「要するに雑魚敵か。つまんねぇな」
国王の言葉に修也はだるそうに言う。
「小さいですが、魔獣は魔獣です。気をつけてください」
念を押すように言う国王の言葉に更に不安になる碧斗。
魔獣相手に煙の効果はあるのだろうか、今はただただ祈る事しか出来なかった。