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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第2章 : 喪失感と葛藤(アジテション)
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48.見張

音を立てずに大翔(ひろと)の入った家へと近づく。


「それで?この家調べてどうするわけ?それに、その後どうするのかとか考えてるの?」


「と、とりあえず遠目から見張って、この家が本当にさっきの人の拠点なのかどうかを確認しよう」


とは言ったものの、向かいの建物からバレずに覗く様は異常であり、長時間の見張りは出来そうにない状況である。更に、家の周りには塀が建てられており、ここからは出入り口であるドアの周りしか視界に入らないため、観察というほどの事は出来そうになかった。


「でもずっとここに居たらバレそうだし、みんなの迷惑になっちゃうよね、」


「そうだよな、、やっぱ長い時間は無理っぽいな」


「な、何か進展があるといいんだけど、」


碧斗(あいと)の思った事を代弁する樹音(みきと)に表情を曇らせる。それに不安そうに沙耶(さや)は小さく呟く。


「とりあえず数分様子見るか、」


そんな不安を振り払う為、碧斗は誰にいうでもなく独り言を口にした。


           ☆


数分後、大翔どころか人1人として玄関から出てくる様子はない。もう諦めかけていた碧斗達はため息混じりに呟いた。


「そろそろ時間もあれだし、もうやめた方が良さそうだな」


「これ(はた)から見たら相当ヤバいから直ぐにやめて」


遠くから第三者の目線で眺めていた美里(みさと)は碧斗にジト目を向ける。


「う、そ、そうだよな」


「手掛かりになりそうなものは見れなかったね、」


碧斗が表情を曇らせると、樹音と沙耶も残念そうに俯く。その空気を変える様に美里が手を叩いて割って入る。


「はいはい、残念がってる時間ないから。早く寝れそうな場所探すよ」


「これだからこいつらは、、」と言った様子で呆れながら嘆息すると、スタスタと歩き始める。


「ち、ちょっと待って!」


早歩きでズンズンと進んで行ってしまう美里の背中に必死に声を上げる碧斗。


「行こっ!伊賀橋(いがはし)君、円城寺(えんじょうじ)君!それとマーストさんもっ!」


沙耶が美里を追う様に走り出すと、笑って碧斗達の方に振り向く。向けられた笑顔に口角が上がるのを感じる。残された男性陣は顔を見合わせ微笑むと、足を踏み出した。


だが、その時


「っ!?」


「痛っ」


「あっ、ご、ごめん」


碧斗が突然立ち止まり、後ろを歩いていた樹音がぶつかる。


「えっ、ど、どうしたの?伊賀橋君、あっ、まって相原(あいはら)さん!伊賀橋君がーー」


碧斗の声に気づいた沙耶は慌てて美里を引き止めにパタパタと走り出す。対する樹音とマーストは神妙な顔持ちで碧斗に詰め寄る。


「何か見たりしたの?」


「あ、ああ。今、さっきの人が出て行ったところが見えた」


「「!」」


樹音とマーストはその言葉に驚き、目を見開く。


「そ、それは、確かですか?」


驚いたまま恐る恐る聞き返すマースト。それに無言のまま頷く。


「何やってんの?早くしないと日が暮れるでしょ」


「あ、いや、家からさっきの(たちばな)って人らしき人が出てきたのを見たんだ」


「え?それって」


美里が事を確認するかの如く身を乗り出す。それに応えるように碧斗は真っ直ぐと瞳を見据える。


「うん、今だったら家に潜入出来るかもしれない」


           ☆


ゆっくりと、だが「普通」に見えるように静かに家へと近づく。


「でも、もし同居人がいたらどうすんの?1人で家計をやりくりしているとは考えづらいし、普通に考えて誰かの家に居候(いそうろう)してるって方が可能性は高いと思うけど」


「「あ」」


碧斗と樹音は家の前で美里の言葉にあんぐりとした。考えてみればそうだ。"あの時"、大翔は確実に2人分の食料を持っていた。その事実を思い出した碧斗は汗が吹き出した。だが、それをフォローするかのように沙耶が慌てて割って入る。


「う、ううん、もし居たとしても今はお留守にしてるかもしれないから大丈夫だよ!」


冷や汗を掻いて必死に否定するものの、あまり効果的とは言えなそうだった。だが


「そ、そうだよね!?やっぱりその可能性も高いよね!?」


「う、うんうん!水篠(みずしの)ちゃんの言う通りだよ!」


「だ、だよねっ!いけるよ!」


周りが大いに賛同する事によりなんとか沙耶の意見を押し通す。その光景に呆れてため息を吐いた美里だったが、それ以上は言うつもりは無いようなので家を覗く事にした。


ひょこひょこと碧斗を始めとして皆が塀から顔を出す。皆、と言っても2人ほど遠くで様子を見ているだけの人が見受けられるが。塀の中に映し出された景色はとても綺麗なものだった。庭が広く、入口から家の扉までの床は、色の違う石か何かで敷き詰められている。なんだかこの家はどことなく日本を感じさせる様なものであり、この世界では珍しく思える。だが、周りとは違った様式の物ではあるがその家が浮いているわけでもなく、この世界に合っている見た目に上手くアレンジされている。瓦屋根(かわらやね)煉瓦(れんが)の屋根になっており、壁は枯色(かれいろ)と呼ばれる様な優しい色をしている。造形自体は日本に良く似た三角屋根ではあるものの、童話に出てくる様な今の日本とは少し違ったメルヘンチックなものになっていた。


「す、凄いね」


「ああ、流石異世界」


「綺麗、、」


中を覗く3人は感動から息を吐く様に次々呟いた。そんな不審者丸出しな3人組に外から声をかける。


「で?なにかあった?」


「家があった」


「んな事分かってんですけど」


「すいません、」


少しふざけて返した碧斗だったが、美里を本気で怒らせてしまいそうだったので慌てて謝る。その後、樹音が「怪しい物とかは無いよ」と声を上げ、内心助かったと嘆息する。


「い、家の中は見えないね」


「やっぱり入んないと駄目か」


沙耶が家の側面にある窓を見ようと首を伸ばしながら言うと、碧斗は悔しそうに項垂れる。と、背後から美里が息を吐く音が聞こえる。


「やっぱり駄目みたいね、この世界でも人様の家に入るのは違反だと思うし」


そう碧斗達に向かって声を上げると、マーストの方を向いて「だよね、?」と小さく促した。


「はい。この世界にも住居侵入罪と言うものが存在します。この世界の場合、その住居者の意思によって違反かどうかが判断される事が多いですが、基本罰金を払う事が多いですね」


「う、、そ、そうか、そこは日本の法律とほぼ一緒か、」


マーストに法律名を出され、碧斗はバツが悪そうに俯く。


「そ、それじゃあ、中に誰かいるかくらいは確認していいよね、?」


「「「え?」」」


沙耶が不意に発した言葉に驚きを露わにする3人。それに対してマーストは冷静に口を開く。


「なるほど、チャイムを押して、"中に誰か居るかの確認"として庭に入るのは違法ではございませんね」


「っ!そうか、それだったらたとえ知り合いじゃなかったとしてもただの訪問者になるしな」


「でもそしたら中をジロジロは見れないね」


「いいんじゃない?それでも、どうせ中に誰もいないんだったら入れなくて家の中もまともに見れないんだろうし。庭に何かあるとも思えないしね」


沙耶の案に碧斗と樹音、美里がそれぞれの思いを言い放つ。それに賛同した3人は頷くと、塀から手を離して降りる。


「それじゃあ入るか」


「だ、誰かいたら、どうしよ、」


碧斗が気合いを入れる為にも強気でそう言うと、沙耶は対照的に不安を露わにした。


「確かにその可能性の方が高いけど、そしたら普通に話せば、、」


樹音がそう言って皆の方を向くとその場に居た碧斗、沙耶、美里は「ふ、普通に、、話す、だと?」といった様子でこちらを凝視していた。その表情に何かを察した樹音は苦笑いで答える。


「なら、もし誰かが出て来たら僕が話すから大丈夫だよ」


皆を想って言ってくれたであろう言葉に、なんだか申し訳ない気持ちになった。そんな碧斗に美里はサジを投げる。


「本当に大丈夫なの?誰か居たらってのもそうだけど、その前に転生者を目撃したのが本当かどうかも分からないんだから、もしこの家にまだ居たとしてもおかしく無いんじゃない?もしその人が出てきても大丈夫なの?弱いのに」


美里のごもっともな意見に碧斗を除いた3人は表情を曇らせる。対する碧斗は「そんな信用出来ないの!?」と声を上げる。だが、よく考えてみればそれもそうだ。自分自身でさえ確信のない事を、一緒に目撃したのならまだしも、見てもいない人達に信じろと言うのは難しいものがあるだろう。


「その時は僕が時間稼ぎするから、安心して」


不穏な空気を打破するかのように樹音は笑って言う。それにやれやれといった様子で美里が頷く。


「ま、そん時はまた逃げればいいんだし、とにかく行ってみたら?」


「そ、そう、だよな」と呟き、覚悟を決めると、碧斗は家の方へと向き返って庭へと足を踏み出す。ドアの前まで行くと、一呼吸して皆へ独り言を呟くように促す。


「行くぞ?」


ゴクリと生唾を飲み、インターホンへと指を近づける。皆もそんな碧斗と同じくドキドキとした様子で頷く。一度深呼吸をして思いっきり指をインターホンに押し込んだ。


すると


「...」


「...」


「...」


その場には沈黙が流れた。インターホンの音が聞こえなかったのでもう1度押してみたのだが、おそらく「向こう側」には聞こえている様子だった。だがそれでも、誰も出てくる様子はない。ましてや人の気配すら感じないのだ。ならば、と。人がいない事を悟った碧斗は皆の方へ向いてホッと息を吐いた。


「い、居ないみたいだな」


「よ、よかった〜」


「でも誰も居ないんじゃ結局振り出しに戻っただけじゃ、?」


碧斗と沙耶が安堵していると、樹音が恐る恐る言い放つ。それに「それに関してはもう考えている」と言わんばかりのドヤ顔で碧斗は胸を張る。


「誰もいないかは分からない。って(てい)で庭の探索をするぞ!」


「そ、それって、どういう、?」


「は?つまり、庭にはいるかも。と思って探していたって事を言い訳にして敷地内を探索しようって事?ほんと馬鹿なの?そんな無意味なことしてるんだったら普通に寝床を探した方がいい気がするけど」


「た、確かにそれもそうだけど、この家を1人で過ごしてるとは考えづらいし、あの時明らかに2人分であろう食材を持っていたことから誰かに養われていると考えた方が自然だと思う。つまり、その同居人に何かあるかもしれないって事だ」


「その人の事、疑うの?」


美里と碧斗の会話に寂しそうに割って入る沙耶。それに、慌てて碧斗は訂正する。


「いやいや!疑うんじゃなくて何かあるかもって思っただけだし、もし何かあったとしてもそれは悪い事じゃないから!だから、疑うとかその人が駄目だとかそういうのでは無くて」


不満げな表情の沙耶に声が裏返りながらも懸命に弁護する。別に元から疑ってなど無く、悪い人とも思ってないのだが、なんだか必死になってしまった。それに小さく息を吐くと、美里が声を上げる。


「分かったから、早く転生者が帰ってくる前に探索しなよ。それってやってる事れっきとした犯罪だからね?」


「あ、はい、分かりました、」


慌てて敬語で返して周りを探索し始める。庭は広いものの、何かあるとは思えなかった。だが、なんとか手掛かりを探そうと辺りを見回す。と、何かが目線の隅に写り、ふと違和感を感じる。


「誰か、今ーーえ、」


ゆっくりと目線をその方向へと移す。その先にはなんの変哲もないただの窓があった。何もない、ただの窓だった。だが、驚いたのはそこでは無く、その窓に映し出されていた「それ」だった。



何かの間違いかと目を逸らし、ゆっくりと窓へ視線を戻す。


だが、それでも「それ」は存在していた。


窓越しに今まで見たこともない見知らぬ男性が驚いた様子でこちらを見ている姿が。


間違いなく窓の向こう側に存在していた。

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