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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第2章 : 喪失感と葛藤(アジテション)
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46. 策戦

「お前ら、騙そうとしてたくせに俺が本気だしたら尻尾巻いて逃げる気かよ」


「な、なんの話だよっ!?俺らは別に何もやってないだろ!」


「いや、伊賀橋(いがはし)君、何もやってないは流石に嘘だと思う」


樹音(みきと)に指摘されて言葉を詰まらせる。確かにちょっとは迷惑行為をしてしまったかもしれない、、いや、ちょっとでは無いかもしれない。


「だ、だけど、騙そうとか、そんなの知らねぇよ!一体なんの話ーー」


「うるせぇ!てめぇらみたいな奴には罰を与えねぇといけねーよなぁ、おい!」


そう言うが早いか疾風怒濤(しっぷうどとう)のごとく碧斗(あいと)の方へと拳を構えた状態で攻める。


「っ!?や、やばっ!」


「危ない!」


(すんで)のところで樹音が剣を生成し、碧斗の前に割って入る。両手に2本の剣を生成してクロスさせて防御した樹音だったが、それすらも朝飯前だと言わんばかりに軽々と()の部分を破壊する。その反動で、両者とも後ずさったものの、ダメージはないようだ。大翔(ひろと)は弾いた反動を右足を地面に力強くつけることで威力を軽減させ、その勢いを逆に利用して樹音に殴りかかる。


「っく!」


高速で右手に新たな剣を生成して慌ててガードする。だが、それも一瞬で破壊されてまたもや後退る。攻撃が一向に通らずに守りしか出来ない。防いだら弾かれ、2人で後退るの繰り返しである。


「おめぇ、ずっと同じことしかしねぇつもりかぁ?どっちが先にくたばるかなクソがぁ!」


「うっ」


そう言われ、ふと考える。このままこの方法で防ぎ続けたら、剣の生成をするだけでも相当な体力を消耗するのだから、先にどちらがダウンするかは一目瞭然である、と。それを察した樹音と碧斗は意思疎通をしたかのように一瞬で連携をとる。


円城寺(えんじょうじ)君!」


「分かった!」


碧斗が樹音の名を呼ぶと、何も言わずとも全てを理解したように大声で返事をする。その瞬間、碧斗は"樹音の背中"で隠れた大翔に向けて煙を放出する。それがくるのが分かっていたかのように樹音は左にずれると、目の前に広がった煙に思わず声を漏らす大翔。


「うおっ!?」


1点に集中させて出したのもあり、大翔にまとわりつく煙は周りが見えなくなるほどに濃いものになっていた。


「く、くそっ!なんだこれっ、全然見えねぇ!」


顔の前で手を振るものの、普段のように簡単には拭えず、苦戦している様だ。それを見計らった2人は、「今だ!」と言わんばかりに目を合わせると、碧斗が声を上げる。


「今のうちに逃げるぞ!」


それを聞き逃さなかった大翔は目を剥く。


「おめぇら、また逃げる気かクソ野郎共!」


目にかかる煙を無視して声のした方向へと足を踏ん張り、バネの様にして碧斗に襲い掛かる。


「させるかっ!」


煙で見えていなかったはずの大翔の行動を察した樹音が剣を生成してまたもや前に割り込み、攻撃を防ぐ。だが、壊された反動で大翔は後ろ飛びをし、足で力強く踏み切って跳躍すると、勢いそのまま再び襲い掛かる。


「なっ!?」


その続け様の攻撃に動揺した樹音は思わず声を漏らす。飛び上がって襲い掛かる大翔を見据えて剣を出して両手に握ると、空中にいる彼にそれを投げる。


「うわっとっ」


それに驚き、体制を崩すその隙を狙い大翔の方へと飛躍して追撃を試みる樹音。だが、先程飛ばした剣を足場にしてその上で跳び上がり、さらに宙へと移動する。


「えっ」


来るであろう場所へと剣を構えていた樹音はその予期しなかった動きに頭が真っ白になる。だが、考えている暇もないと直ぐに割り切り、あの時のように靴に短剣を作る。宙で回し蹴りをする事で靴から剣を切り離し短剣を飛ばす。だが


「意味ねぇっっ、ぜっ!」


そう言うと同時に飛ばされた短剣の側面を、大翔は空中に(とど)まったまま手に刺さらないように丁寧に"横"から殴る。その時に生じた一瞬の隙を狙い、樹音は峰打(みねう)ちを狙う。


「クッ、させるかっ!」


それを防ぐ様に大翔は腹を狙った樹音の刀を蹴り上げる。だが、それも予想済みだったのか、新たに剣を生成して、それを素早く手のひらの上で半回転させ、()を自分の方へと向ける。そのまま刃の方を、手を怪我しない様に慎重に握り、殴る姿勢のまま樹音に向かう大翔に、柄頭(つかがしら)の方を構えてそれを突き出す。


「ぐごあっ!?」


力自体はあまり加えなかったものの、空中でやり合った事により、重力がかかり、上手いこと(みぞ)落ちの近くに減り込んだ様だ。


「があっっ、くっ!」


そのまま地面に倒れ込んだ大翔と反対側に綺麗に着地した樹音は、振り返ると碧斗に向かって口を開く。


「今のうちに逃げるよ!今度はそう簡単には起きないはず」


「分かった!マースト、行くぞ!」


樹音の言葉に頷き、急いでマーストに促す。走り出した2人を追う様に樹音も走り出す。が、その瞬間、足を掴まれ盛大に転ぶ。


「っ!円城寺君!?」


音に気づいた碧斗が慌てて上げた声に反応し、マーストも同じく振り返る。そこには腹を押さえながら樹音の足を掴む大翔の姿があった。


「っく!い、伊賀橋君、行って、僕の事はいいからっ」


「おまっ!?で、出来るわけないだろ!そんな事」


碧斗は力強く否定して急いで駆け寄るものの、対する樹音は表情を曇らせる。


「で、でも、駄目だよ、、」


悔しそうに歯噛みしながら大翔に握られた足に目線を送る。それを見て碧斗は立ち止まる。大翔の手は樹音の足を強く握っており、碧斗とマーストだけでは絶対に引き離す事は出来ないだろう。それを理解した碧斗は、樹音と同じ様に歯噛みする。そして、更に追い討ちをかける様に大翔は息を切らしながら脅す。


「てめぇら、逃げんなよ、はぁ、少しでも動いたらこいつの足へし折ってやる」


「こ、こんな脅しに引っかからないで早く行って!」


「良いのかぁ!?こいつがどうなっても!」


「僕はいいから!早く!」


2人の双眸(そうぼう)に圧倒され、押し黙る碧斗。よくある人質を取るやり方に、何も言えずに立ち尽くす。この場合、本当に動かずして人質を解放してくれる確率は極めて低い。しかし、だからと言って、絶対に樹音を見殺しにすることは出来ない。ならば、皆で助かる策を考えなければならない。と


「わ、分かった、逃げない、だからやめてくれ!」


「伊賀橋君!」


「はぁ、も、物分かりのいい奴で助かったぜ碧斗」


大翔は息を切らしながら笑みを作る。おそらく腹の痛みが和らぐまでの時間稼ぎという事なのだろう。つまりそれは、腹の痛みが和らぐまで多少の時間があるということを表しており、逆説的にこちらにも解決策を考える時間が確保出来るという利点があるという事を意味している。がしかし、力技となると完全に碧斗の専門外である。脳をフル回転させ即座に思考を巡らせる。


ー何か方法はないのか、何か、何か、ー


「っ!」


その時、碧斗の脳には1つの案が思い浮かぶ。正直、これで上手くいくとは思えなかったが、一か八かダメ元で樹音に向かって声を上げる。


「円城寺君!足先から短剣を出して!」


その言葉に樹音はハッと目を剥く。すると、彼の中で何かと葛藤(かっとう)するような素振りを見せながら押し黙る。それはそうだ。今足から短剣を出すというのは、それで大翔の手を切り落とせと言っている様なものなのである。そんな事、斬り落とす以前に、傷すらつけてこなかった樹音には出来るはずもない事である。だが、それは碧斗も同じなのだ、と。それを樹音に伝えるべく真剣な眼差しで凝視する。


ー伝わってくれ!ー


と、何度も心で繰り返し見つめ続ける。すると、覚悟を決めたように目を開いて目つきを変える。刹那


「うああああああああああーー!!」


そう叫び足に剣を生成して、掴む大翔の手を斬ろうと思いっきり振る。それに驚き、反射的に足を握る手を緩ませる。それはそうだ、いくら力が強くとも怪我をしたら普通と同じ痛みがやって来るのだ。更には回復系の能力でも無いであろう大翔には大きな損害と言えよう。


「今だっ!」


手を緩めたその瞬間を見逃さなかった碧斗は、そう言うが早いか煙を大翔に向かって放出する。


「何っ!?」


それによって一瞬手を離す大翔。


一瞬だった。


だが、その一瞬が大翔の運命を大きく左右する結果となった。手を緩ませた結果、樹音がその隙を狙い抜け出す。それに気づいたのか慌てて握り直すものの、既に樹音の足はそこには存在していなかった。


「っ!てめぇらぁ!」


「あ、ありがとう伊賀橋君」


「おう、結構危なかったな、今のは、」


走りながら樹音が優しく頬笑みながらお礼を言う。その言葉には、助けてくれたという意味と、傷つけさせないでくれた事に対しての感謝が表れていた。それを理解した碧斗は付け加えて言う。


「あと、相手を傷つけたくないのは、俺もだからな」


これを覚えておいて欲しいと言うかの様に宣言する。それを聞いた樹音は安心したように笑う。


「そ、そうだよね、」


たが、そう呟くと何かを噛み締めるように俯く。


「と、というかっ、走ってるのはいいが、どっ、どこに逃げる!?」


「あ、そうだよね1回人目につかないとこにーーっ!」


樹音が言い終わる前に碧斗達の前に巨大な轟音(ごうおん)と共に大翔の姿が現れる。


「にがさねぇよぉ!碧斗!」


「は!?」


数十メートルは大翔と距離を取ったはずだ。はず。だったのだが、目の前には碧斗達をジャンプで飛び越え、先回りした大翔の姿があった。


「あ、碧斗様、この方を撒くのはおそらく不可能です!今までの行動を見て察するに"力"の能力はただ力を強くするだけでは無く運動神経までも向上させる能力だと予想できます!」


「つまり、逃げても意味ない、、と」


マーストの考察に碧斗は渋ってそう呟く。


「やっぱりここは僕がやるから、伊賀橋君はマーストさんを連れて逃げて」


「は!?出来るわけないだろそんな事」


樹音の提案に碧斗はすかさず割って入る。すると、息を切らしてそれを眺めていた大翔は口を開く。


「てめぇら、騙してばっかのくせにそいつは騙さないのか?ああ?」


自分に向けて言ったであろう言葉に苛立ちを覚えた碧斗は、目つきを変えて言い返す。


「何の事か意味分かんないけど、俺らの事勝手にグチグチ言ってんじゃねーよ」


「はっ!どうだかな、、まっ、今は他の奴を騙して楽しむので十分か?」


「だから、何の話だよ。勝手な想像で敵対意識持ってんじゃねーぞ」


何故か分からない、どうしてこんなに腹が立っているのか。だが、友達を汚されている気分なのだ。自分が信じている人を、よく知りもしない誰かに、分かっているかの様に言われる事が許せなかった。その思いが碧斗の形相から読み取れたのか、樹音とマーストは目を見開く。対する大翔は前屈みだった姿勢を正して言う。


「にしても、てめぇら裏切りもんに味方してるみてぇだな。んだったら、その感覚も納得がいくか」


「裏切りもん、、ってのは修也(しゅうや)君の事か。納得がいくってのはどういう意味だ?」


「あ?いやいや、裏切りもんの味方する様な奴はそんな性格でもおかしくねぇなと思っただけだ」


その言葉に何か言いたげに口を開く碧斗だったが、それより先に大翔は「それにしてもだ」と続ける。


「んな奴の味方してどうするつもりだ。あの殺人者に」


「味方ってわけじゃない。ただ俺は信じーー」


「まさか、信じてるとか言わねぇよなぁ!?あの殺人者を信じたって、意味ねぇの分かってるだろ?それとも、あいつに裏切られたりしないなんて思う理屈でもあんのか?」


核心をつくような物言いに表情を曇らせる2人。それを理解した大翔は少し口角を上げる。


「図星かぁ?ほらな、別に騙されないとか、それでも信じるなんて宣言は出来ねぇわけだ。ほんと、ゴミ共だなぁ!」


大翔が声を荒げて叫ぶと、碧斗はそれに反応して目をピクッと、反射的に動かす。


「ここでてめぇらに教えてやるよ。人を騙すとどうなるかをよぉ!」


そう大声を上げると、地面を削るほどの力で蹴って、物凄い勢いで碧斗達に向かう。


「っ!まずい!伊賀橋君、下がって!」


樹音が碧斗とマーストの前に出てそれを止めようとした直後、大翔は謎の力に押し出され弾かれるように吹き飛ぶ。


「ぐぼぁっ!?」


「ふぅ、ギリギリセーッフ!」


「やっぱり、あんた達だった、、わけね、」


「はぁ、はぁ、だ、大丈夫!?伊賀橋君、円城寺君、それとマーストさん!」


「「っ!みんな!」」 「勇者様方!?」


後ろからパタパタと現れた3人の姿に、皆はホッと声を漏らす。


「てめぇらぁぁーーー!揃いも揃ってうぜぇ奴ばっかりだなぁ!クソがぁー!」


荒々しくそう叫ぶと戦闘態勢に移る。それに反応した碧斗達も同じく体勢を変えるのだった。

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