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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第2章 : 喪失感と葛藤(アジテション)
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45.戦略

その聴き慣れた声に一同は、声の発せられた方向に振り返る。そこには赤茶色で跳ねた髪の、見慣れた男子が立っていた。その姿に表情を明るくした碧斗(あいと)沙耶(さや)が同時にその名を呼ぶ。


(しん)!」  「佐久間(さくま)君!」


「おっすー、久しぶりって程でもないけど、お久だな。碧斗」


その姿に安心した碧斗は笑いながら息を吐く。


「てめぇもこいつら側の人間だったか」


進の姿を見た転生者は眉を潜めてそう呟いた。それに対してニカっと笑って応える。


「いやー、それはどうかなぁ?と、いうか相原(あいはら)さん大丈夫だった?王城から突然いなくなるから気になって探しに来たんだけど」


「あ、ごめん。実は"向こう側"にバレちゃって、」


「「「「「え!?」」」」」


初耳だった碧斗と沙耶、樹音(みきと)と進、更にはマーストまでもが驚愕に声を漏らす。


「ば、バレたって、それーー」


「そう、この間"羽の人"からあんたを守った際に見られたみたい」


「うそ、だろ。ご、ごめん、俺のせいで」


「別に謝る事じゃないでしょ。いいよ別に、バレたのは私の不注意だし」


美里(みさと)はそう言ってくれたが、碧斗は罪悪感に押しつぶされそうだった。自分のせいで平穏に生活できたはずの人を、こんな残酷な世界へと引きずり落としてしまったのだ。そんなの、気にしないでと言われても出来るわけがない。


「いやー、なんか大変だったんだね。でも、元気そうで良かったよ!」


「元気に見えんの?」


「えっ!?元気じゃないのか!?」


小さく笑って割って入った進に対してあの時の戦いの事を何も知らないのに軽視していると感じた美里は鋭く睨んで返す。


「ハッ!相変わらずごちゃごちゃうっせぇなぁおい!1人増えたくらいで図に乗るなよ裏切り者がぁ!」


「くるっ」


「今だ、やれ碧斗!」


「任せろっ!」


男子が立ち上がったその瞬間に、進が碧斗に振り返り叫ぶ。その一言で察した碧斗は転生者の周りに煙を焚く。


「くっ!てめぇ」


「「逃げるぞ!」」


碧斗と進が同時に叫ぶと、皆はその場を後にする。転生者の周りを覆うように放出した事により煙が纏わりついて、煙が晴れた頃にはその場所に6人の姿が見られる事はなかった。


「クソ、、クソッ!」


膝に手をついて感情のままに叫ぶ。それと同時に、あの時S(シグマ)と名乗った謎の男の言葉を思い出す。


ーあいつらは君の事を守るフリして利用して、最後には裏切るつもりだよ。丁度聞いちゃったんだよねぇー


「クソが、、クソがぁぁーー!ぜってぇ逃がさねぇぇぇ!」


1人残されたその転生者の男子は顔を上げると、悔しさから声を荒げてそう叫んだ。


           ☆


「はあ、はあ、こ、ここまで来ればなんとかなる、、か、」


転生者を撒くべく、商店街の裏にまで逃げてきた碧斗達はホッと胸を撫で下ろした。


「あれ?でも、水篠(みずしの)ちゃんと相原さん、あと進君?も居ない、」


「どうやらはぐれてしまった様ですね、、無事だと良いのですが、」


「確かに心配だな、でも、3人が一緒に行動してるなら安心だ。向こうには進がいるしな」


その場にいる樹音、マースト、碧斗は不安の色を見せてそれぞれそう呟いた。だが、向こうもこちらの様に3人そろっての団体行動をしているのであれば、本当に危ないのはこちらの方だ。戦闘が出来ないマーストと、ほぼ戦力にならない碧斗が揃ってしまった。すなわち、それが意味するのは樹音しか戦力になる人が存在しないという事である。それを理解した碧斗は、バツが悪そうに樹音の方を向く。


「だが、、1番心配すべきなのは、俺たちの方だ、」


「え?」


「おっしゃる通りですね。現在、あちらには空気圧を扱う8番目の勇者様、20番目の勇者様である相原様、5番目の勇者様である水篠様と、確かに女性は多いものの、能力値に関してはあちらの方が圧倒的に優勢でございます。それに対しこちらは、誠に僭越ながらわたくしは能力を持ち合わせてはございませんし、接近戦となると、円城寺(えんじょうじ)様のみしか対抗する事が出来ません」


「そ、そっか、、僕らの方が圧倒的に不利って事なんだね、」


事の現状を理解した樹音は表情を曇らせる。


「ごめん円城寺君、きっと体育の授業でガチ勢が弱い奴とチーム組まされた時みたいな気分だろ?」


「ん?そんな事ないよ?」


隣に壁にもたれかかっていた碧斗が申し訳なさそうに小さく言い放った。それに対していまいち言っている意味が分からない様子で返す樹音。


「相手側の能力を把握しておきたいところですが、今までの戦闘で得た情報を元に考察してみましょうか?」


マーストが提案するが、碧斗は小さく手を振って口を開く。


「いや、その必要は無い。俺の記憶が正しければ転生して間もない頃に食堂で聞いた記憶がある」


「あっ、そうなの?それはだいぶ有利になるね」


正確に言うと、「聞いた」と言うよりかは盗み聞きしたと言った方が正しいのだが、それだと人聞きの悪さが目立つ為そう言った方が正解だろう、おそらく。


「それで?なんの能力なの?」


樹音が悶々と何かを考えている碧斗にそう小さく聞くと、ゆっくりと口を開いて言い放った。


「あの人の能力はーー」


           ☆


「あいつの能力は"(ちから)"だ」


進が小さくトーンを落として呟いた。人が多く来場している場所では大きな事は出来ないと考えた美里達は近くの店に逃げ込み、相手の情報を話し合っていた。店に、と言っても通貨を持ち合わせていない3人は中に入る事は出来ずに店の外で集まっていた。


「ち、力、?」


「ああ。転生して間もない頃に直接本人から聞いたんだ。力っつっても力が強くなったり、自身の身体能力が向上する能力だそうだ。本人からってだけあって信憑性(しんぴょうせい)は高いと思うけど」


「別に疑うつもりないけど。でも思ったより単純な能力なのね。もう少し、なんかこう物にかかる圧力とか重力とかを操れるみたいなやつなのかと思ったんだけど」


沙耶が小さく聞き、進が笑って答える。それに対して意外といった表情で返す美里。


「いや、それは俺の能力の方が近いな」


「そういえばあんたの能力聞いてなかった、、なんの能力なの?」


進の言葉に珍しく身を乗り出して訊く美里。それにゴホンッと自信ありきに咳き込むと改めて言い放つ。


「俺の能力は"空気圧"だ」


「へー」


「...」


「...」


「なっ!?もうちょっと反応してくれてもいいだろ!」


「え、でもよくわかんない」


「だよねっ!最初は言われてもよく分かんないよね!」


「なんで嬉しそうなんだよっ!」


予想よりも薄い美里の反応に声を上げる進。対する沙耶は何故か嬉しそうに割って入る。


「それで?その空気圧とか言う能力は何が出来るの?あ、そういえばさっき私殴られたのに、平気だった、、それもあんたの能力?」


「おっ、察しがいいねー相原さん。そう、俺の空気圧は、基本的には空気の圧力を放出させて相手を押し出す事が出来る能力だけど、圧力の調整も出来る能力だ」


「「圧力の調整?」」


「ああ。さっきのは、攻撃にかかった圧力を弱め、更に相原さんの方からも微量の圧力を出させてもらった」


進が推理する探偵の様にカッコつけながら淡々と事のからくりを話していく。そこまで言うと、何かを察した美里は話に割って入る。


「なるほどね、つまり相手の殴る威力、圧力を弱めて、私の方からも同じ威力の圧をかける事によって吹き飛ばされずに済んだって事ね」


「そうそう!いやぁ、話が早くて助かるなぁ!」


「よ、よく意味は分からなかったけど、そしたら、佐久間君が居れば、こ、攻撃をむ、無効化出来るから、最強、、って事?」


「いや、今回は"殴り"だったから圧力の調整でなんとかなったけど、これが刃物とかだったら物にかかる圧力を調整しても身体には傷がつく事になるから、最強とは言えない」


「そ、そうなんだ、ごめんなさい、」


「な、なんで謝るの!?それ逆に傷つくよ!?」


少し残念そうに俯く沙耶にツッコむ進。すると、美里が小さくなりながら恥ずかしそうに目を泳がせる。いつもの様子とは真逆の姿に思わず声を上げる進。


「えっ!相原さんどうしたの!?」


「いや、その、えと、そ、その、い、一応助けて貰った訳だし、その、あ、ありがとう、」


「え、あ、ああ!ど、どういたしまして」


物凄く恥ずかしそうに呟く姿に、どう返していいのか分からず困惑する進。


「よ、よしっ!とりあえず、これからどうするか考えるか!」


場の空気を変えるためにも進はそう提案する。


「わ、わかった」


「うん!」


2人が賛同し、対策を考える。その瞬間、進は何かに気づいた様に目を見開いた。


「あれっ!?てか俺今ハーレムなんじゃね?両手に花ってやつか!」


何かに気づいた様に目を見開く進に、沙耶は「花」言われた事に顔を赤らめ、美里はジト目を向ける。その様子から、流石に場違いだと感じたのか申し訳なさそうに「わ、わりぃ」と呟いた。


「そういえば、こっちにこんなに戦力揃っちゃってあいつ大丈夫なの?」


「あ、確かに不安だな、とりあえず合流が先か」


美里に言われ進が提案する。それに皆異論は無かったようで2人は頷いた。


「よっしゃっ!じゃあ行くか!碧斗達のところへ」


「うん」 「うん!」


揃って返事をすると、皆で歩み始めた。


ー早く見つけなきゃ、あいつだけじゃ絶対っ、!ー


不安に鼓動が早まる胸を押さえながら美里は力強く足を踏み出した。


           ☆


「ち、力?」


「ああ。だが、その能力がどういう能力なのか分からない」


「たしかに、でも力が強くなるとかじゃないの?」


「もしかすると物にかかる力を制御出来る能力の可能性もある」


「ですが、どちらにせよ強力な能力である事には変わりませんね」


碧斗の考察にマーストが表情を曇らせる。その不穏な空気を断つべく樹音が慌てて声を上げる。


「能力が分かっただけでも大きな進歩だよ!力が強いだけで他は弱いかもしれないし、勝てる可能性は十分あるよ!」


樹音の慰めに思わず頬を緩ませると、笑って碧斗が伸びをする。


「そうだよな!ビビっててもしょうがない、奴の弱点みつけて逃げ切るぞ」


力強い眼光で樹音とマーストを見据える。その意思が伝わったのかマーストと樹音も覚悟を決めたように頷いて立ち上がる。だが


「ああ?逃げ切る?」


「「「!?」」」


真上から声が発せられ、その方向へと目線を上げる。話を密かに聞いていたのか、屋根の上で俗にヤンキー座りと言われるしゃがみ方で座っていた先程の転生者の姿が写し出される。


「奴って呼び方はちと(しゃく)だからよ、てめぇらに名前くらいは教えといてやる」


そう言うと、屋根から飛び降りて碧斗達の元へと近づく。数メートルまで近づくとその男子は口を開いて名乗りを上げる。


「俺の名前は橘大翔(たちばなひろと)。殴られる前に名前くらい覚えとくんだな」


その男子からは殺意や、狂気は感じないものの、こいつは逃すものかという殺気が漂っていた。そんな雰囲気を醸し出すその大翔と名乗った男に、恐怖心を抱き、後退る碧斗達だった。

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