41.歓迎
その後、数分尾行を続けて1つの真相にたどり着く。
あの後、何度も大通りを行ったり来たりを繰り返していたのだが、その理由すらも一言で片付いた。
「買い物、してるだけ、か?」
そう、先程から大通りを行き来しているのは、大通りに構えられた屋台の商品を確認している様で、"その行為"に怪しい点は無かった。
しかし
「ですが、それも少しおかしいですね」
「「え?」」
マーストの静かな言葉に対し、樹音と沙耶は聞き返す。対する碧斗は、意味を理解した様に口を開く。
「だな。普通、王城で食事は出されるはずだ、わざわざ買う必要はないだろう」
愛華の様に食べ歩きしているだけという可能性も考えたが、手に持っている量を考えると、ただの食べ歩きとは考えにくかった。
あの体の大きさだと食べられてしまいそうにも見えるが、普通に考えてあれは「2人分」だろう。
そこまできて碧斗には1つの仮説が浮かぶ。
ーあの人も俺達と同じで王城に帰ってないのか?ー
可能性は充分ありえる。そう考えた碧斗は、樹音と沙耶に振り向く。
「あの人も何処かに住まわせてもらってる可能性がある。その場所を突き止めるためにももう少しの間ついて行こう」
正直、これは犯罪の様な行為である事は理解していたのだが、今はそんな事を言っている場合では無い。
それにその前から、殺人犯に肩入れしている沙耶を庇っている時点で、犯罪者である事には変わりないのだ。今更そんな事を言うのも違うと感じた碧斗達はその男子の後をつけ始めた。
☆
あれから更に数分経ち、とうとう買い物を終えたであろうその男子は、家と思われる場所へと向かい始める。
「やっと帰り始めたな」
「これで、どこに身を隠してるか分かる、、のかな?」
「多分な、」
樹音が自信なさげにそう呟くと、碧斗も同じく言葉を濁らせた。と、丁度その時
「おーい、てめぇらいつまでつけてくるつもりだ?」
振り向く事はせずに、碧斗達に背中を向けたまま言い放つ。
「ば、バレた!?」
「正式にはバレてた。って感じかな」
「どうしよ、、また私のせいで、」
「いや、水篠さんが悪いわけじゃないけど、危ない状況なのには変わりないな」
「仕方ない」と呟くと同時に、屋台と屋台の隙間に隠れていた碧斗は、大通りへと足を踏み出す。
「てめぇら、一体なんのつもりだ?」
「いやっ、別に怪しい者じゃ、、って言っても1番信じらんないよな」
「ただ、わ、私達と同じかもって思ってただけで、何もするつもりは、」
碧斗に続き、沙耶も姿を現してそう告げる。だがその瞬間、その男子は歯嚙みすると声を上げる。
「てめぇらと一緒なわけねぇーだろ、ボケが!この争いを始めた張本人に肩入れしてる奴らなんかと一緒にすんなよ!」
「クッ、」
「知らねぇと思ってたか?あの後何があったのか、だいたい知ってるぞ」
その男子から放たれた言葉は全て正論であり、自分達がやっている事が本当に正しいのか頭を悩ませる。
故に、正当な意見をぶつけられた碧斗は口を噤む。
すると、今度は樹音が割って入る。
「そう言いたくなる理由もわかるよ、僕たちがやっていることは決して良いことでは無いし、悪い事をしてるとは分かってる。でも、じゃあ君は一体"どっちの人"なの?戦いと殺人者を嫌っているのに王城には帰らない」
そこまで言うと、間を空けて続ける。
「君は、どうしたいの?」
そう言うと、彼は小さく舌打ちをし、こちらに初めて振り返る。
「お前らに教える義理ねぇから、もうついてくんなよ」
そう小さくも力強く呟くと、そのまま足を進めた。その後ろ姿を追う事は今の碧斗達には出来なかった。
初めて見せたその顔は、どこか悩んでいる様な、険しい顔をしていた。
☆
「ご、ごめん、俺が言い始めたのに、その俺が、その、何もいえなくて、」
「ううんっ、私も、言えなくて、、ごめん」
「やっぱりいきなり声をかけるってのは良くないかもね、、だけど、せめて王城に帰らない理由だけでも分かれば良かった、かもね」
転生者との交流後、碧斗達4人はいつもの公園で頭を悩ませていた。
自分がわがまま言い、それなのに何も出来なかった罪悪感が碧斗を襲う。
ーこんなに辛かったのか、水篠さんもいつもこのくらいー
そう思ったその時、マーストが横から入る。
「ですが、王城に帰っていなかった。という事は確信に変わりました。後は、少しずつお話を伺っていき理由を聞いていきたいところですが」
「今は、、それが難しいんだよね、」
マーストに続き、樹音がバツが悪そうに呟いた。それを聞き、4人全員が表情を曇らせたその時
「何?そんなみんなで死にそうな顔して」
突如聞こえたその尖った声に、皆が振り向く。
その姿を見て、誰よりも早くに碧斗は声を上げる。
「あ、相原さん、!」
碧斗が笑顔を送ると、美里は目を逸らしながら小さく「さ、さっきぶり、」と呟いた。
「ど、どうしたの?あっ、もしかして今日の食料をーー」
「そっ、そうだっ!私、ずっと相原さんに会いたくて」
碧斗が言うより前に、沙耶が思い出した様に声を上げる。すると、美里は珍しく驚いた様に目を瞬かせた。
「えっ、わ、私に?」
「うん!その、あの」
言葉に詰まった様に濁らした後、意を決した様に、真剣な眼差しで美里を見据え声を上げる。
「そのっ、ほ、本当にありがとう!そ、それだけじゃ足りないくらいに色々してもらっちゃって、食べ物も、お着替えも、タオルとかも、、全部用意してもらって、ありがとう!本当に、言葉だけじゃ足りないくらい、だけど」
最後の方は小さくなってしまったが、気持ちを伝える事が出来た沙耶は、その安心感からか体から力が抜けるのを感じた。
「えっ、あ、うん、こちらこそども、」
どう対応していいか分からずに、美里も小声で答える。
すると、沙耶は小声で美里に耳打ちする様に呟く。
「その、、あのシャワーは、、恥ずかし、かったけど、」
「「「えっ!?」」」
マーストを除く、その場の3人が沙耶の言葉を聞き逃さずに驚きの声を上げる。
「つ、つまり、使った、の?」
「気がつかなかった」
碧斗と樹音が呆然としながら言う。それに対し、沙耶はみるみる顔を赤らめて俯く。
「ご、ごめん、」
その様子に罪悪感を感じたのか、美里がそう呟く。
それに続き碧斗と樹音も謝るが、逆効果だった様だ。更に顔を赤らめ、今度は破裂しそうな程に真っ赤に染まる。
その空気を変えるべく、すかさず碧斗もこれがチャンスと言わんばかりに割って入る。
「相原さん、、俺からも本当にありがとう。いつも助けてもらって、返せないくらいの事してくれて、その、俺に何か出来る事とかあるかな?出来る範囲ならするから」
「は?あんた弱いのになんか出来るの?」
「うっ!」
その率直な物言いに、言葉が形となって碧斗の心に刺さる。それに助け舟を出すかの様に、樹音が直ぐに割って入る。
「僕も、凄く助かったから。伊賀橋君と一緒に手伝うよ!」
「別に貴方の事助けようとした訳じゃないし、そういうのいらないから」
樹音相手にも直球な物言いに、その場に不穏な空気が流れる。沙耶も先程まで情熱的な瞳で美里を見据えていたのが、今では少しの怯えに変わっていた。
しかし、少ししたのち美里は口を尖らせながらバツが悪そうに小さく言う。
「でも、その、、私も、その、一緒に行動してあげてもいい、けど、」
「っ!」
皆が目を見開き、それが本当である事を理解する。言い方は上からであり分かりづらかったものの、碧斗達はそれの意味を一瞬で理解した。
つまり、一緒に行動したいと言う事である、と。
「えっ、それってつまりーー」
「へ、変に勘違いしないで。その、ば、バレたの。私があんた達に肩入れしてるって事、」
「「「「!」」」」
その真実を告げられた瞬間、皆は硬直する。
つまり自分達のせいで、とうとう関係のない人まで巻き込んでしまったという事を理解して。
「ご、ごめん」
「ごめんなさい」
「すみません」
「申し訳ございません」
碧斗と沙耶、樹音、マーストとそれぞれが罪悪感を露わにし、謝罪する。
「別に謝らなくていいから、、その、どうなの?」
珍しく、ほんの少し上目遣いで、申し訳なささから俯いている碧斗達に詰め寄る。
今までずっと助けてくれていて、返しきれない事をしてもらっているのだから、答えは1つしか浮かばない。
「も、もちろんだよ!むしろ、ありがとうというかなんというか」
「は?何それ」
「う、」
冷ややかな視線に圧倒され押し黙る。だが、逆に美里が唇を噛み、俯き気味に呟く。
「でも、あ、ありがとう」
聞き逃さなかった皆は表情を明るくすると、沙耶が一目散に美里へ駆け寄った。
「わ、私、役に立てるか分からないし、今まで色々してくれた分返せるかわかんないけど、その、よ、よろしく!」
前から思っていたが、やはり沙耶は美里と友達になりたかった様だ。
話しかけづらい美里とは、正直合っていると言われればなんとも言えない組み合わせではあるが、助けてくれた事もあり、沙耶は美里の「心の奥」を理解している様だ。
そんな沙耶の嬉しそうな表情に押されて戸惑う美里。
「あ、う、うん、よろしく、」
美里がそう言うと、それに続く様に他の人達も声を上げる。
「よろしく!」
「よろしくお願い致します」
樹音とマーストが順に言いったのち、少しの間を開けて碧斗も笑う。
「よろしく、相原さん。今度は、俺達が相原さんの居場所を作る番だ」
「うん!」
「そうだね」
「はい」
碧斗が振り向いて言い、答える様に笑う3人。
それに半分呆れながら美里は息を吐く。
「はぁ、そんな胸張って言ってるけど、あんたそんな大層な事出来ないでしょ」
「あ、いやー、その、こ、言葉が見つかりません」
図星を突かれて黙り込んでしまう碧斗。その様子を見た美里は、少し口元を緩める。
「でも、、その、ありがとう。これから、、その、よろしく」
恥ずかしそうに目線を泳がせながら呟く。皆も思わず笑みが溢れて顔を見合わせる。
そして、息を揃えるように目で合図を送ると、4人は満面の笑みで歓迎した。




