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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第1章 : 終わりの第一歩(コマンスマン)
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04.訓練

 碧斗(あいと)は誰かに話しかけようとしてみたが、なんだか3人で話している人が居たり、まるで同中同士で集まるような雰囲気を漂わせていたので、結局人間観察しか出来ずにいた碧斗だった。


「「ゆうくーん!ゆうくーん!」」


 ふと、女子達に囲まれている1人の男子に目をやる。「ゆうくん」と呼ばれた彼は、可愛らしい見た目から、恐らく小中学生だろうか。


 その見た目からかは分からないが、チヤホヤされているその姿に嫉妬の色を浮かべる碧斗。すると


「良いのですか?話さなくて。」


 心配そうにマーストがこっそりと話しかけてきた。ここではお付きの方の口出しは禁止されているのだが、仲良くなったのもあり、話しかけてくれたようだ。だが


「う、うるせっ!い、今から話そうとしてたところだ!」


 図星を突かれた碧斗はマーストにそう言うと、目の前に居た、がたいの良い人に話しかけようとしたが、迫力に押されて食い下がってしまった。後ろで笑いを堪えているマーストに気づかないフリをしてテーブルに置かれた食事を口に運ぶのだった。


          ☆


 その後、お付きの人に一斉に案内され、トレーニング場のような場所に案内された。なんだかどこかの魔法学校のような雰囲気の場所にテンションが上がった碧斗は本当にここが異世界だという事を思い知らされる。


 後ろには王座に座る王様が居た。外だと言うのに、金色に塗装された椅子に座り、プールのライフガードの様に眺めるその姿は王様と呼ぶにふさわしいオーラを感じた。それはみんなの能力の確認のため、という事らしい。


「や、やっべー。俺なんも出来ないんだけど、」


 他の能力者が気合いを入れているのを見て、碧斗は力無く言った。


 王の指示を受け、能力者は能力を自慢するかのように披露する。


ーこれ、あれだ。全然出来ないスポーツのテストを体育で受けされられる系のやつだわー


 最初にチャラそうな奴が電気を発して1本の木に稲妻を落として見せた。


「おー!すげぇ」


「カッケェー!」


「凄い凄い!本当に能力使えるんだー!」


 口々にそこに居る人達はそんな感想を口にした。


「れ、レベルがちげぇ。」


 元々能力を持っていたかのような制御の仕方に碧斗はガックリとうなだれた。


「君、君。伊賀橋碧斗(いがはしあいと)君、だったかな?」


「あ、へっ!はい!」


 後ろから呼びかけられて声が裏返ってしまったが、その声の(ぬし)を見据え更に驚く。


「お、王様!?」


「国王様とお呼びなさい。」


 横にいた秘書のような方に注意をされたが、大して変わらないような気がする。


「国王様が、俺に一体、?」


 そう聞くと国王は言いづらい顔をして、話し始めた。


「君の能力は最弱と言われている能力なのだが、」


「分かってます、分かってるんですよ!」


 異世界に来てまで負け組なのはマーストとの会話で理解していたはずなのだが、改めて言われると辛いものがあった。


「どのような戦い方が出来ますか?」


 意外にもマーストが国王に質問した。自分の事を想ってのセリフに感動しそうになる碧斗は、無理矢理涙を堪えてマーストに続き、頭を下げ能力の利用の仕方を聞いた。だが


「申し訳ないのだが、私もよくは分からないのだ。」


「なっ!? なんだよ、丸投げか!?」


 思わず声を荒げてしまったが、先程の秘書さんに「言葉遣いに気をつけなさい。」と注意を受けて怯む碧斗。


 すると国王は少し悩み、


「煙幕の様に周りを見えなくする事は出来ますが。」


「それしかねぇじゃねぇか!」


 また癖でツッコんでしまった。また秘書さんに睨まれたので慌てて咳き込み、言い換える。


「そ、それしかないんですか?」


「今のところは。」


 嘘だろ。圧倒的に不利な能力じゃねぇか。攻撃が出来ない、おそらくサポート面でしか活躍の場がないであろう能力を手に入れてしまった碧斗は心の中でそう悟り、軽い絶望を感じた。だが、碧斗は気になる点があった。


「あれ?さっきから今のところとかよく分からないとか言っているが、分からないだけで何か出来るかもしれないって事、ですか?」


「出来ない事はないでしょう。おそらく。」


 最後に自信をなくすような事を言われたが、それを無視した。


 まだ、諦めるのは早いな。何も出来ない能力でも使い方を考えれば強くなれる。どうすれば良いかは分からなかったが、輝く事が出来る道があるのならば、どんな道だろうとやってみる価値はあると思った。そうする事でしか、この世界では輝く事が出来ないのだから。


         ☆


「おーい!碧斗君!」


 聴き慣れた声が碧斗を読んだ。


「おう。佐久間(さくま)君。」


「俺は呼び捨てでいいよ!」


「お?おお。わ、分かった。」


 呼び捨てといういかにも友達感のある言葉に怯む。正直、碧斗は呼び捨てをした事がない。と、言うより呼び捨てが出来るほどの友達がいないだけなのだが。


「じ、じゃあ、さ、佐久間。俺の事も呼び捨てでいいぞ。」


 ぎこちなかったが、なんとか呼び捨てというものを口に出すことが出来た。


「おう!じゃあ、碧斗!」


 初めての呼び捨てに感動を覚えながらも、平常心を保つ。


「てか、さっき王様と何話してたんだ?まさか、お前最強の能力者とか!?」


 期待を込めた眼差しを前に言葉が詰まったが、泣く泣く事の顛末(てんまつ)を語る。


「あー、その逆だ。最弱なんだとよ。」


「えっ!?というか碧斗の能力って?」


「そういえば言ってなかったな、俺は煙。」


 バツが悪そうにそう返すと、案の定何かを察した顔を向けられた。


「なるほどなー。てか、本当にいろんな能力あるんだなぁ。」


 なんだか話を流された気がしたが、追及されても困るのでそのまま話を合わせる事にした。


「あれ?そういえば佐久間、、の能力は?」


 (くん)と口走りそうになり、慌てて押し黙る。


「おっ!知りたいか?じゃあ、見せてやる。」


 なんだかよく分からない自信だったが見せてくれるというので待っていると、


「なっ!?」


 突然何者かに、見えない何かに強い力で押された。碧斗は尻もちをつき、何が起こったかわからない顔をしている。そんな碧斗に(しん)


「どうだ、凄いだろ?」


 自慢げな顔で覗き込んできたが、いまいちまだ状況が飲み込めない碧斗。


「これが、俺の能力。"空気圧"の調整ができる。」


 「空気圧」これが佐久間進(さくましん)の能力。


 周りでは他の人達が能力を解放させている中、目の前の能力を身をもって体験し、自分の能力がどのくらい貧弱なものかを改めて感じる事になるのだった。

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