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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第1章 : 終わりの第一歩(コマンスマン)
36/300

36.大切

今回は前回告知した通り、来週の更新が出来ないため、2話分のボリュームでの更新となります。そのため1話が長くなっておりますが、ご理解ください。

 王城へ続く道を歩く。近づくにつれて、見慣れた建物や景色が増え、そのたびに胸が締め付けられる感覚に(おちい)る。

 お腹の奥がまるで何者かにキツく縛り付けられているかの様に痛む。猛烈な吐き気に襲われ、咳き込む。かと言って吐き出す物も無く、口からは空気が吹き出すばかりである。


 怖い。


 またあそこに戻ったら、今度こそ引き返せない。ここの選択を誤ったら、「普通な生活」に戻る事は出来ないのだ。

 またあの痛みを受けるのだろうか。

 怖い。

 考えまいと歩みを進めるものの足がすくみ、手は震え、上手く進めない。どんなに覚悟を決めようとも、いざ"それ"を目の前にすると思い通りに体が動かない。

 助けたい。その一心でここまで来た筈なのだが、恐怖心が抑えきれない。


ー引き返したい。怖い。でも、今引き返したら必ず後悔するー


 そんな事は(かま)うか、死んでしまったらそれまでなんだぞ。と自分の中で葛藤する。

 皆を思う事で自分の命を落としてしまうなんて滑稽(こっけい)であると。足の痛みを思い出し、来た道を戻ろうと振り返ろうとする。

 だが、それと同時に、まだ新しい頬の痛みを思い出す。


ーあっそ、ならいいー


 心に1番響いた言葉が脳内を過ぎる。ああ、そうだ。だから走って来たのだと。どうして自分はここまで急いで来たのか、どうして体が勝手に動いたのか。思い出した碧斗(あいと)はそっと自分の頬に手を添える。


 この痛みに比べればまだマシだと。


 フッと微笑むと、後ろから息を切らせて追いかけて来たマーストの方へと振り返る。


「碧斗様っ、どうされましたか?」


 不安げに訊くマーストに、覚悟を決めた碧斗は真剣に言う。


「マースト、水篠(みずしの)さんと円城寺(えんじょうじ)君が何処に連れてかれたか分かる?」


「別館という事しか分かりませんが、それなら裏口を使えば他の方にバレずに侵入する事が可能です」


 「そうか」と小さく呟くとマーストに近づいく。恐怖はまだ消えない。手足は未だ震え続けている。だがそれでも、それよりも"大切な者"があるのだ。

 一呼吸置いて、碧斗は続ける。


「じゃあ、案内してくれ。マースト」


 その覚悟を決めた碧斗の眼差しを見て、マーストは嬉しそうに微笑む。


「はい、任せてください。碧斗様をサポートするのが、わたくしの役目ですから」


 すると碧斗も自然と微笑み、2人は王城へと駆け出した。


           ☆


「くそっ!させるか」


 不意に発した樹音(みきと)は剣を生成すると、突き刺されていた爪を回転しながら切る。


「何っ!?地面を貫くほど頑丈にした爪だぞ!それをこんな簡単に斬れる筈がないっ」


「僕の剣を"普通"だと思わない事だね」


 もう既に理屈では説明がつかない、異常な能力が数々とあるのだ。今更切ることが出来ない爪や、その爪を斬れてしまう剣があったとしても、不思議ではない、、はず。


 なんとか抜け出すことに成功した樹音は、後ろへ下がり、距離を取る。

 だが、体はボロボロであり、これ以上対抗出来る気力が残っているとはとても思えない。なんとか沙耶(さや)を回収して逃げたいところではあるが、下にも2人居ると考えると、このまま逃げるように4階に向かっても、また返り討ちに遭って終わりのようにも思える。


「どうすれば、っ!」


 不意に我に帰ると、目の前には巨大な爪が迫っていた。


「クッ!」


 急いで剣を使って防ぐものの、防ぎきれずに後ろに弾かれる。それを待ち望んだかのように、周りには羽の生えた岩や瓦礫が宙を舞う。


「バイバーイッ」


 その声と共に、それが一斉に樹音の方へと飛ばされる。最後の力を振り絞り、飛んで来た物を1つ1つ斬り刻むものの、斬った後の破片が身体に傷をつける。

 それに追い討ちをかける将太(しょうた)。前から来た爪を弾く反動で下がろうとするが、背後にも羽の生えた瓦礫が飛んでいる。


「に、逃げられないって、ことっ、ね」


 刹那、爪が樹音の下から突き出し左腹を突き刺す。


「ごはっ!?」


 下にまで意識が回らず、不意を突かれてしまった様だ。


「そろそろお前も終わりだな。樹音」


 将太が不気味に笑うと同時に、樹音の意識は遠のいた。


           ☆


「と、という事が、あ、あって」


「へー、なるほど。助けてくれたから、信じてるって事ねぇー」


「は、はい」


 一通り修也(しゅうや)の事を話し終わった沙耶は、ホッと息を吐く。

 なんとか理解はしてくれた様だったが、納得はしてくれていない様だ。2人とも悶々と何かを考えている。


「それでも、俺たちが信じる理由にはならないよね?ただ君が恩を感じてるだけなんだし」


「と、いうより、好き、なんでしょ?」


「へっ!?いやっ!そのっ、すっ!?すきっ、なんて、そんなっ」


 突然放たれた、核心を突く言葉に頭が真っ白になり、顔から火が出るほど真っ赤に染まる沙耶。それに畳み掛けるように愛梨(あいり)は続ける。


「図星?」


「いやっ、そのっ、〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」


 破裂するのでは無いかと言うくらいに赤く染まった顔を隠したかったが、手が固定されているせいで塞げず、ただただギュッと目を瞑る事しか出来ない。

 そんな沙耶に心配してか、隣に居た智也(ともや)が「その辺にしとけって」と呟く。それに「本当の事、なのに、」と口を尖らせる。


「ま、理由は分かったけど、修也を守るのには賛成出来ない」


「う、そ、そう、です、よね」


「残念だけど、敵」


 2人に分かってもらえ無いことはわかっていたのだが、いざ否定されると、なんだか辛いものがある。だがその後、その言葉の本当の意味を理解し、目を見開く。


「えっ!?そ、それって、まさか」


「そっ、君はここで終わりって事」


ーそ、そんな、私、殺されちゃうの、?そ、それに、私が死んじゃったらドアの前の石も消えて、円城寺君がー


 1番避けたかった事が起こり、パニックに陥る。せめて、樹音が逃げるまでの間は時間稼ぎをしたかったのだが。

 向こうの様子が分からない沙耶は、とにかく樹音の方へ皆が向かう事を防がなければと口を開く。


「ま、待ってください!も、もう少し、話を」


 沙耶の上げた声に「まだ何かあるの?」とめんどくさそうに呟く智也。だが、それとは対照的に隣の女子は興味深そうに詰め寄る。


「面白い話、もう少し聞きたい」


ーや、やった!これはもう少し時間を稼げるチャンス、かな?ー


「まあ、最後なんだし、聞いてあげるか」


 智也も賛同し、なるべく時間を稼げる話をし始める。だがその時、床に白い空気が充満している事に気がつく沙耶。

 これはなんだろう。と、最初は首を傾げたものの、「それ」の正体に気づき、ハッとする。


ーこれって、まさか、伊賀橋(いがはし)君の!?ー


 ドアの下から出ている"それ"に、向いている向きもあって、沙耶しか気づいていない様だった。

 これがもし「煙」だったのだとすると、碧斗が助けに来てくれたという事だろうか。それならば、与えてくれたこのチャンスを逃すわけにはいかないと唾を飲む。


「おーい、どうしたんだ?いきなり黙りこんで」


「あっ、いや、その、実はーー」


 なんとか足元に漂う煙に気づかせないために、自分も知らないフリをして話を始める沙耶。ここにきて初めて、上に吊り下げられている事を幸運に思う。


ーお願い!気が付かないでっ!ー


 そう願いながら、沙耶は話を始めたのだった。



 だが


「何か、、来てる?」


 話始めて数分後、腰の高さまで煙が溜まった事により、愛梨にとうとう気づかれてしまう。


「うおっ、本当だ。ずっと上の方見てたから気が付かなかったぞ!」


ーどっ、どうしよ、気づかれちゃった!?ー


「煙、って事は碧斗か!おい、伊賀橋碧斗が来たぞ!」


「私の、出番」


「させないっ!」


 扉の前に居るであろう碧斗に攻撃を仕掛けようとした様子を見て、慌てて声を上げる沙耶。

 それと同時に、ドアの前に作られた岩を破裂させて、部屋中に破片を飛び散らせる。


「なっ!?一体!?」


「沙耶の、攻撃っ!?」


 突然の反撃に戸惑う2人。その隙に、碧斗が部屋に入って来てくれる事を、沙耶は願う事しか出来なかった。


           ☆


「なっ、なんだ、今の」


 扉の向こうで何かが破裂したかの様な音が響き、慌てる碧斗。これは何かあったのか、助けに入った方がいいのか?と、思考を巡らせるが、今の音は確実に岩が弾けた音であると。

 それが意味するのは、少なくとも誰かの能力で沙耶の岩が壊されたか、あるいは沙耶がわざと破壊したのかだ。が、どちらにせよ碧斗が行かなければならないという「合図」である事には変わりがない。

 敵が壊した場合も、沙耶自身が壊した場合も、沙耶が危険であるか、碧斗の煙がバレたという事を意味しているのだろう。と

 即座にそれの意味を理解した碧斗は、勢いよくドアを開けて煙を大量に放出する。ドアの下から既に、部屋を半分以上を占める煙を出していただけあり、一瞬で前が見えない程に部屋を覆う事が出来た。


「うおっ!?なんだ、今の!?」


「今、一瞬見えた。あれが、伊賀橋、碧斗」


 碧斗も一瞬ではあったが、沙耶を含めた3人の姿を確認し、その位置に警戒しながらゆっくりと侵入していく。


ーまずい、向こうにも見られたか、一瞬だったけど、この部屋には男女の2人。どんな能力かによって変わるけど、場所がバレなければこっちのもんだー


 壁を伝いながら、奥に見えた沙耶の元へと静かに進む。

 だが


「そこ」


 ヒュンという音が鳴り、碧斗の目の前に鋭く尖ったものが写し出される。


「!?」


 驚愕に声を漏らしそうになるものの、なんとか抑える。

 息が荒かったのだろうか、バレる様な事はしていないはずなのだが、どうして位置が分かったのだろう。今はただ、当たらなかった事にホッと胸を撫で下ろした。


「や、やったのか?」


「いや、当たってない」


「耳が良いのに珍しいな」


 その言葉にハッとする。相手は音で場所を判断しているのだという事と同時に、その聞いたことのある声に。


ーまさか、智也君が!?ー


 動揺に声が出そうになるも、(すんで)のところで抑える。今はそれよりも、耳の利くもう1人の事を考えなければならないのだと。

 よし。と心で気を取り直すと、今度は息を殺して進み始める。


「音、消えた」


「消えたん!?それって逃げたって事か」


「違う。まだ、居る」


「は!?一体それってどういうーー」


「静かに」


 「はい」と申し訳なさそうに智也が呟くと、部屋には沈黙が訪れる。やはり、女子の方は騙せなかったようだ。

 居るのに音がしない事が分かっているということは、突然息を止め始めた理由も分かってしまうだろう。

 そう、先程の攻撃が碧斗にとって危ないものであったのだということを。


 先程の攻撃の近くにまだいる事を予想されかねない今、息を止めていられる時間的にも、なるべく早くに沙耶を救出しなければならない。

 そう考えた碧斗は、静かではあるものの、急いで壁を伝い沙耶の元へと向かう。


「ぃっ」


 沙耶の足であろうものに当たり、小さく声を上げる。


「い、伊賀橋君っ」


 対する沙耶は、小さいながらも喜びが伝わってくる声を上げた。それを慌てて止める。


「し、しー!」


「あ、う、うん、」


 しまった。と言わんばかりの様子で口を噤む沙耶。戦闘態勢に入る前に、急いでここを去ろうと試みる。

 が、そんな大声を逃すわけもなく、相手に場所がバレてしまう。


「そこか」


 またもや攻撃を放たれるが、碧斗の背中を擦る。これは命中してしまうのも時間の問題であると唇を噛む。


ーど、どうすればー


 沙耶の手錠の外し方も分からない今、どうやって切り抜けるか思考を巡らせる。と、その時


「伊賀橋君、さっきの石がどこかに」


 小さく放たれた沙耶の言葉を理解した碧斗は床を探る。破壊された岩の破片が飛び散っているはずだと。

 予想通り、足元には小さな石があった。だが、それで壊せるのだろうか?考えている時間すら惜しい今、何も考えずに手錠に石を打ちつけ始める。

 だが、その瞬間


「そこ?」


 耳のいい女子はそう小さく言って攻撃する。が

 攻撃したその先は、沙耶の右手にはめられた手錠であった。


ーなっ!?こ、これは大チャンスじゃねーか!ー


「やったか!?」


「いや、この音は、、手錠の方に、当てちゃったみたい」


「何!?」


「逃した、みたい」


「おまっ!何やってんだよ!」


 2人が揉めている隙を狙い、残りの左手に()められた手錠に急いで石を打ち付ける。


ー頼む!壊れてくれ!ー


 そう願った刹那、左手の手錠が壊れる。それに安堵するのも束の間、何か言いたげな沙耶の口を塞いで急いで部屋から脱出する。


「ぷはっ!い、伊賀橋君!ありがとう、助けに来てくれたんだ、、でもどうしてここが分かったの?」


「マーストが教えてくれた裏口から入ってここまで一部屋ずつ探した。声が聞こえたからここかと」


「そ、そっか」


 助けに来てくれた碧斗の顔を、様々な感情を抱きながら見つめる沙耶。前を見て走るその姿は、今までで1番輝いて見えた。

 そんな碧斗は、息を切らしながらも更に続ける。


「それでっ、円城寺君はどこに居るか分かる?」


「あっ!円城寺君は、屋上って言ってた、、けど、本当かは、、わかんない、」


「えっ、屋上?屋上に続く階段は本館にしか存在しないってマーストが言ってたが、もしかしてあの翼の人が連れて行ったのか?」


「え!?屋上、行けないの!?」


「うん、だとするとかなりやばいね、本館に行ったりなんかしたら他の転生者に襲われる可能性がある。確かに俺たちには行けない場所で、1人を確実にやるってのは、いい考えではあるな」


「ちょっと!感心してないでよ!」


 「ご、ごめん」と返すと、沙耶は碧斗の袖を掴み走り出す。


「えっ?どうしたの!?」


「伊賀橋君。私に良い方法があるから、ついて来て!」


 手を引く沙耶を見て、驚きながらも嬉しさが沸き起こり、力強く頷く碧斗だった。


           ☆


「はぁ、はぁ」


「は、はぁ、はぁ、あ、あった、」


 息を荒げて辿り着いたのは王城の裏、前に来た時に、(しん)に疑いがかけられないようにと生成していた岩が、2人の目の前には写し出されていた。

 それを前に、急いで走った2人は膝に手をついて息を吐く。


「みっ、水篠さんっ、それで一体どうするの?」


「さっ、さ、さっきのっ、部屋のドアをっ、塞げたから、きっといけるはずっ!」


 なんの事を言っているのか分からずに、首を傾げる碧斗。さっきの岩の音はやはり沙耶のものであり、ドアの前に生成されていたのだと知る。

 だが、それを理解した瞬間、碧斗には1つの疑問が沸き起こる。



「えっ、あそこ3階だよね!?今更だけどなんでーー」


「う、うん。伊賀橋君、見てて」


 そう言うと、前回進を庇うために生成した岩が、更に大きな岩へと姿を変える。


「え!?」


 一瞬何が起こったのか分からずに声を上げる。


「実は、さっきの部屋に"小さい石"が転がってたの。ほんと、砂利くらいの、なんだけど、円城寺君のところへ敵を行かせないようにしなきゃって思ったら、それが岩になって、、自分でもその時はよく分からなかったけど、たぶん」


 一生懸命事の現状を話す沙耶を、真剣な眼差しで見据え、何を言うでもなく聞き入る碧斗。

 そこまで言った沙耶は、考えるように黙り込む。だが、考えがまとまったのか、顔を上げると力強く続ける。


「石の大きさを変えられるんだと思う!だ、だから、私達が岩の上に乗ってそれを大きくすれば、、屋上に行けるんじゃないかな!?」


 黒板に書かれた問題の答えが分かった、無邪気な小学生のように表情を明るくする沙耶。

 前まで塞ぎ込み、恥ずかしがり屋だった沙耶が、今は自分で解決策を思いつき、自分の能力について理解し始めている。

 そんな様子に何故かとても喜びを感じる。やはり、沙耶は変わっていっているのだ。


「ど、どうしたの?」


 いつもなら「おお!良く思いついたね」などと声をかけるだろう。だが、それが出てこない程に、1人の子供が自立したような、そんな感覚に陥る。

 別段自分が何かしたわけではないが、、いや、何もしていないからこそ「自分自身」で変われた沙耶が立派だと感じ、同時に羨ましく思った。


「いや、凄いなって思って、感心してた」


「え!?そ、そんなっ、伊賀橋君が考えそうな事とか真似てしてるだけでっ、全然凄くなんて」


 顔を赤らめて俯く沙耶に、口元が緩むのを感じた。


「いや、水篠さんは本当に凄いよ。それじゃっ、試してみよう!それ」


「うんっ!」


 2人は笑って頷いた後、碧斗は下にあった適当な石を1つポケットにしまうと、沙耶が大きくした石に乗る。2人が乗れるくらいに巨大にはしたものの、落ちるのではないかという不安から、その石に全力でしがみつく。

 すると、隣の沙耶も震えているのが見て取れた。いくら自分の能力だからといって、落ちても平気ではないわけで。


「こ、怖いよね、、で、でも、だ、大丈夫だよ」


 心臓が破裂する程にバクバクと音を鳴らし、手が震えたが、意を決して沙耶の腕を握る。

 腕くらいなら大丈夫かと思ったのだが、恐怖とは違う意味で全身が震える。やはり、女子に触れるということが、どれほどまでにハードルが高いものかを改めて実感させられる。

 だが、それが沙耶にとっては安心したのか、深呼吸すると「じゃあ、行くよ」と呟き、石を縦に拡大し始める。

 遠ざかる地面に恐怖したが、それよりも伸び始めた石の方に驚愕する。やはり、と。




 俺たちに必要だったのは、"力"ではない。


 たとえ力を持っていても、きっと今のように「成長」は出来ないものだ。


 だが、俺たちに必要だったのは、強くなろうと、力を手に入れようと思う"意思"でもない。


 確かに必要なものだが、本当に必要なものは、それを(いだ)くために重要なもの。


 そう、本当に俺たちに必要だったものは、それの為に強くなって、力をつけて守りたいと思う、「大切なモノ」だった。


 力は、その大切な者を守るために身に付ける。


 大切なモノがあるからこそ、人は前に進めるんだ。


 そしてーーー





 それと同時に、屋上辿り着く。意外とあっという間に着くことが出来た。碧斗達が屋上に着いた事に気づいた将太は、驚愕の声を上げる。


「なっ!?なんで、お前らがここに!?」


「え、どうやって来たの、?ここは私の能力でしか、来れないはずなのに、」


「えっ、いっ、伊賀橋君!?」


 振り向いて驚愕する2人の奥に、重傷を負い、床に倒れ込みながらも力強い顔持ちでこちらを凝視する、樹音がいた。


 碧斗の足は恐怖で震えていたが、沙耶の方を見て1度頷くと、その足を持ち上げ屋上に踏み出す。





 ーーーそして



 今の俺に1番必要なものは


 恐怖に打ち勝つ心だ。

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