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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第1章 : 終わりの第一歩(コマンスマン)
35/300

35.覚悟

「これは、、かなりヤバいかもね」


 追い詰められた樹音(みきと)は、思わず唾を飲む。


「諦めて潔く負けを認めろ。じゃないと痛いぞ?」


「あのー、その子、私の相手なんですけどー」


「お前、さっきビビってただろーがよ!」


「ちょっとびっくりしただけですぅー。こいつがゴキブリ並にしぶとかったからですー」


「お前なぁ、」


ー2人の言い合いになんだか僕の悪口が入って、、いや、この場合は褒め言葉、かな?ー


「とにかく。さっさとやっちまうぞ」


「りょー」


 やる気のない声で奈帆(なほ)は返し「じゃっ、ごめんね?」と付け加える。


「っ!くるっ」


 次の攻撃が来ると察知した樹音は、慌てて両手に剣を生成し、防御の姿勢を取る。

 先程と同じ羽根の攻撃だっただけに、なんとか弾く事に成功する。同じ手は2度も通用しないと言ったところだろうか。だが


「羽根を防いだ影響で、後ろがガラ空きになったみたいだぜっ!」


「!」


 背後から将太(しょうた)が襲いかかる。奈帆の羽根を防ぐだけでも精一杯だというのに、もう1人の攻撃なんて頭が回るわけがない。


ーでも、なんとか回避しないとー


 前回の将太との戦いでされた、爪を飛ばした攻撃の時のように、横に回避して、奈帆の攻撃を、後ろにいる将太に当てようと試みる。


「これでっ!」


 だが、


「ざんねーん」


 どんなに逃げようとしても、それを追うように羽根は樹音に向かう。


「くっ、ダメかっ」


 前回は攻撃の発信源が地面の上に立ち、樹音、将太と同じ目線に立っていたからこそ出来たのであり、今回のような「上からの攻撃」は、どれだけ逃げようともまた狙いを定め直し、避けられても地面に突き刺さり将太には届かない。

 つまり、これは


ー確実に、負ける!?ー


 い、いやいや。と慌てて首を振る。自分が弱気になってどうするのだ、と。何かあるはずだ。相手も自分と同じ学生なのだ、きっと抜け出せる穴がある。

 そう信じて樹音は策を考える。そう、碧斗(あいと)ならどうするだろうと。


「ほらほら、どうした!」


 上からの羽根の攻撃に加え、下からの爪の攻撃。

 この下は5階の筈だが、屋上の地面を爪で貫き、5階を経由(けいゆ)して攻撃してきているのだろうか。なんにせよ、この同時攻撃を打破しなければいけない。

 奈帆と将太、どちらも「距離」を取り確実に狙ってきている。


ー...距離を、、取る、?ー


「!」


 そこまで考えると、1つの案が頭に浮かぶ。それしか手はないと確信した樹音は、羽根を弾きながら右に移動する。


「だーかーら、逃げても無駄だよ?」


 その瞬間、跳躍(ちょうやく)して後ろへ下がる。


「あ?」


「えっ、何?」


 行動の意味を理解していないのか、間の抜けた声を上げる2人。着地する重力を利用して重い一撃を背後に居た将太に与える。


「くらえっ!」


 だが、それもまた爪で受け止められてしまう。


「ふぅ、残念、だったな、少し危なかったが、俺の爪には及ばない」


「いや、止めてくれてありがとう」


「は?」


 樹音の発言に耳を疑う。


ーこいつ、何を?止めたんだぞ、?何がありがとうだー


「てめぇ、頭やられたのかよ」


 動揺する将太に、淡々と樹音は言う。


「いや、最初に言ったでしょ?君達に危害は加えないって。だから、止めてくれてありがとう」


 そこまで言うと、少し声のトーンを下げて「それに」と呟いて続ける。


「止めてくれて本当に良かった。これで、僕は勝てる」


「何!?」


 そう言うか早いか爪に引っ掛かった剣に力を入れて将太を軸に回転する。


「なっ、まさか、俺を盾に!?」


 将太ごと後ろに向かせて、奈帆と樹音の間に将太という壁を(へだ)てる。いくら自分で思いのまま動かせる羽根での攻撃であろうと、味方に隠れて死角となった場所に攻撃をする事は難しいだろう。


「くそっ、俺からまず殺る気か!?」


水篠(みずしの)ちゃんを、返してもらうよっ!」


「ふっ、今更戻っても、手遅れかもしれないぞ?潔く諦めろ」


「手遅れかなんて分からないよ。もしこの体が動かなくなっても、僕は諦めない」


「はっ、口だけは元気な野郎だ、なっ!」


 瞬間剣を弾かれ、ガラ空きになったボディに爪を立てようとする。が


「危なっいっ!」


 左手で生成した、普段により少し長い剣で防ぐ。


「あ、危なかった、普通の剣だったら間に合わなかった、」


「安心する暇なんて無い!お前は両手が精一杯かもしれないが、俺は足でも攻撃出来る事を忘れるなよっ!」


「くっ!?」


 下からの追撃に、今度は弾かれた反動で、後ろに構えていた右手の剣で防ぐ。この両手が塞がったその瞬間を狙ったかのように左爪を伸ばす。


「終わりだ!円城寺(えんじょうじ)樹音ぉ!」


 刹那、足の爪をガードしていた右の剣を、攻撃を防いだまま地面に突き刺し、それに体重をかけて足を浮かせる。そのまま浮かせた右足で将太の"左手"を蹴る。


「ぐあっ!?」


 蹴られた腕を反射的に引っ込ませ、それにより爪の軌道をも変える。

 樹音は軌道が変わった事により、既のところで爪を避ける事に成功する。頬に少し擦り傷が入るものの、大したダメージはない。

 そのまま体勢を崩した将太に、足をかけて後ろへと倒す。倒れた将太の服に、両手に握る剣を身体を避けて床ごと貫き、地面に固定しようと腕を上げる。だが


「誤ったな、樹音!」


「なっ!?」


 倒れた事により、将太の背後に居た奈帆の全体像が露わになる。

 それと同時に、先程と同じ様に大量の羽根が樹音を襲う。

 慌てて両手の剣で羽根を防ぐ。が、それを狙い、将太は下から蹴りを入れる。


「ぐはっ!?!?」


 蹴りを受け、後ずさった樹音に隙が生じ数本の羽根が突き刺さる。


「ぐっ」


 急いで剣を顔と体の前で構えるものの、既に刺さった傷口からは血が流れ始めていた。


「おいおい、もうだいぶヤバイんじゃねーか?」


「こ、こんなもんでくたばる訳ない、だろ」


 強気に振る舞ってはみたものの、体は悲鳴を上げていた。致命傷ではないため、気合いで立ち上がる事は出来ているが、長時間の戦闘には身が持たないだろう。


ーなるべく早くに倒さないとー


 そう思った瞬間、背後から爪が生える。おそらく奈帆の攻撃は、将太が5階を通して樹音の元にまで爪を伸ばすための時間稼ぎだったのだろう。


「するしかないか」


 意を決した樹音は「靴」から短剣を生やして回し蹴りで爪を弾き返す。そのまま前に向き直り、再び羽根を防ぎ始める。


「何!?」


 予想外の行動に困惑する将太。驚愕に歪めたその顔に更に樹音は畳み掛ける。


「これで両手両足だよ。一緒になったね」


 体力が限界である筈の樹音の、爽やかな笑顔に背筋がゾッとするのを感じる。この状況でまだ(あらが)う力があるのか、と。


「く、だが1対2のこの状況、お前が勝てる可能性はゼロだ」


 将太がそう笑った瞬間、樹音は靴に固定されていた短剣を回し蹴りと同時に切り離す。そのまま吹き飛ばされた短剣は奈帆の方へと向かう。


「えっ!?」


 突然の反撃に戸惑う奈帆。だが"わざと"当たらないように飛ばした剣は、奈帆を突き刺すことはせずに羽に擦り傷をつける。


「うっっ!」


 怯んだその隙を狙い、将太に襲いかかる。先程と同じ、奈帆の死角となるように向きを調整し、ターゲットを将太に絞って仕掛ける。


「くそっ!俺かよっ」


「言ったでしょ。動かなくなっても諦めないって」


「カッコつけてんじゃねぇぞ!この野郎ぉ!」


 剣に対抗しようと爪を伸ばし、オオアリクイのように頑丈な爪で樹音を斬りつける。だが、それをしゃがんで避けると同時に、右手の剣を回転させるように振り付ける。

 が、その対象は将太ではなく、彼の伸びきった「爪」。


「っっ!?ぐああああっっ!!」


「少し痛いけど我慢してよっ!」


 どれほど強化しようと、剣に勝るわけが無いと言っているかのように眼差しを送る。

 爪を伸ばすのも、頑丈にするのにも時間がかかる事から、1度爪を切り取ると数秒の隙ができる。


ー今しかないっ!ー


 峰打(みねう)ちをして今度こそ仕留めようと試みる。その瞬間、樹音の後ろにあった石に、羽が生える。


「なっ!」


 気づいた時には目の前に迫っており、抵抗する暇なく頭にヒットする。

 小さい石だった事により、血こそ出ていないものの、その反動で大きな隙が生じる。


ーわ、忘れてたっ!?清宮(せいみや)さんの能力は羽根じゃなくて、翼だったんだっけー


 その一瞬の隙を見逃さなかった将太は、両手の爪を伸ばし、先程樹音がしようとした服を貫き地面に固定するやり方をやり返される。今度は生憎、成功してしまった様だ。


「くっ!」


「ははっ、やっと、つーかまーえた」


「ざんねーん。背後(うしろ)を警戒してないからー」


 弱々しく嗚咽を漏らす事しか出来ない樹音にゆっくりと近づく2人。


 まずい、このままじゃ負ける。


 新たな策を考えようとするも、そんな弱気な言葉しか思い浮かばない。それにとどめを刺すように将太は笑って言う。


「形勢逆転だな。覚悟しろよ樹音」


           ☆


「はぁっ、はっ、碧斗様!碧斗様!」


 皆の緊急事態を察したマーストは、息を切らしながら碧斗を探していた。

 大通りから始まり、裏通りまで捜したが何処にも姿がない。「いつもの公園」にいるかと予想したが、それも不発。

 だが、数分後諦めかけてギルドハウス前を彷徨いていたマーストは、その向かいに建てられた喫茶店の様なお店の、横にあるベンチに座っているのを発見する。

 後ろ姿で頭の先以外背もたれに隠れて見えなかったのもあり、見つけるのに時間がかかってしまった。わたくしとした事が、と頭を抱えたが、そんな事をしている場合では無いと頭を振り、我に戻る。


「碧斗様」


 声に気づき、振り向く碧斗。だが、その声の主が分かったからか、彼はバツが悪そうに顔を背ける。


「碧斗様、大変です!」


 更に声を上げると、碧斗はその場から立ち去ろうとする。それを引き止める様にマーストは大声で語りかける。


「碧斗様!来てください!」


「うるせぇな、俺はもう、、俺にはもう戻る資格なんてねぇんだよ。見ろよ、笑っちまうだろ。俺、他の店で働こうと思ってギルドハウスまで来たのに数十分の間ずっとこのザマだ。こんな俺に、弱くて弱くてどうしようもない俺に、帰る場所なんて無い。だからもう追って来ないでくれ」


 去り際にそう言うと、そのまま路地裏へと歩き始める。その後ろ姿を見据えながら、声のトーンを落として真剣に呟く。


「5番目の勇者様、水篠様が連れて行かれました」


「えっ」


 突然の言葉に間の抜けた声を上げる。言葉を聞き間違えたのかと思考を巡らせたが、間違えてはいないようだった。

 今まで締め付けるように痛かった胸が、更にその痛みを強める。


「貴方には、まだやらなくてはいけないと思ってる事があるんじゃないですか?」


「クッ、」


 簡単に言うなよ。


 お前に何が分かるんだよ。


 思ってる事があるなんて、思ってる本人にしか分かんねぇもんだろ。


 またもや心の奥から黒い言葉が出かかったが、それを言うよりも早くにーー



 ーー碧斗は走り出していた。


「碧斗様っ!?」


 驚きながらも、嬉しそうに表情を明るくするマースト。

 進み始めた足は止まらずに、何を考えるでもなく勝手に体が動く。その行先は他でもない。足は今までずっと避けてきた、王城に向かっていた。

[速報]

          次回

再来週の更新が行えない分、来週は2週間分のボリュームの投稿になります。何卒ご理解いただけますようお願いいたします。


ー碧斗、樹音、沙耶。それぞれの思いが今、1つになるー

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