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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第1章 : 終わりの第一歩(コマンスマン)
33/300

33.対敵

 その場に集められた4人の顔を凝視する。

 将太(しょうた)を除き、男子1人と女子2人が、背後から現れる。1人目はとてもチャラそうな見た目をした男子。そして2人目は、前に市場で襲ってきた「羽」の能力を持った清宮奈帆(せいみやなほ)と呼ばれていた女子。もう片方は、ショートの水色の髪でお洒落な服を着ているのもあり、見た目はチャラそうだが、悪い人では無さそうだ。

 奈帆がその水色の髪の女子に抱きつくが、恥ずかしそうに逃げる。その姿は愛らしく、とても今から拷問が始まるとは思えない。だが将太の


「おい、みんな。こいつの処分をどうする?」


 という言葉と共に、沙耶(さや)の周りに集まる。やはり「数人に囲まれる」というのは恐怖を覚えるものだ、声を全く出す事ができない。


「とうとう捕まえれたんだ?」


「私の出番、、無かった」


「大丈夫だよ!まだまだ活躍する場所はあるんだから」


「ははは、観念しろよ水篠(みずしの)!」


 4人は全く別々の話をし始める。残念そうに俯いた水色の髪の女子を、奈帆は(なだ)める。対する将太はそう言うとゆっくりと近づいてくる。

 すると、右側からチャラそうな男子が、意外にも真面目な顔で耳打ちする。


「水篠、だったよな?お前、あの殺人鬼を庇う理由がもっとなんかあるんじゃないのか?それだけでいいから聞かせてくれ」


「あ、えと、その」


 恐怖心から言葉が出ない。話を聞こうとしてくれているというのだから、このチャンスを逃すわけにもいかない、のだが。


「その、あの人は、理由があって、」


「理由、か。それにもよるが」


 そこまで言うと、将太が声を上げる。


「まあ、肝心の大将がまだ来てないが、大丈夫だよな?」


 確信がないのか、訊くように周りに促す。


ーた、大将、?そ、それって、この人達の中で1番上の人、の事かな、?ー


「いや、大将は終わった後に来るって言ってたでしょ」


「あれ?そうだったか」


 その場の4人で会話を始める。なんだか普通に、いつもの教室の風景を見ているような感覚だ。正直、自分が今から危険な目に遭うなんて気は全くしない。


「じゃ、俺"残りの奴ら"に脅迫してくるから後は任せたぞ」


「りょー」


「お前1人で大丈夫かよ」


 笑いながら冗談めかしてチャラ男が言う。それに応えるように将太も笑う。


「でーじょーぶだって!」


 そう言うと、先程3人が入ってきたドアから帰って行く。


「じゃーあーこの子どうしよっかー?」


「まずは、情報、吐かせる?」


「ああ。正直、聞きたい事は山ほどあるからな」


 奈帆と水色の髪をした女子、チャラ男が次々と詰め寄る。


ーい、今言うしかないんだ、今言わなきゃ手遅れにー


「あ、えと、そ、その」


 脳内では理解しているというのに、上手く呂律(ろれつ)が回らない。緊張と圧によって、沙耶の頭は完全に動かなくなっていた。


「安心して、まだ何かする訳じゃないから」


「"まだ"ね」


「え!?」


 最後にとても不安になる言葉が聞こえた。だが力を振り絞り、訊きたい事を口にする。


「あの、みんなを脅迫って、何しに行ったんですか、?」


「んー?ただ報告しに行っただけだよ」


 そこまで言うと、奈帆は目つきを変えて呟く。


「君が捕まって大変って事をね」



           ☆


「水篠ちゃん遅いな、大丈夫かな」


「ここが今の君達が住んでるマイホームか」


 何かを考え込むように座るマーストの隣で樹音(みきと)が呟くと同時に、外から声がする。


「だ、誰!?」


 振り向くとそこには、将太の姿があった。


「君に一言言いに来たんだ」


「どうしてここを、?」


 先程の爽やか男子が場所を教えたのだろうか。理由は分からないが、とにかく自分達を追っている人達に場所がバレるのはまずい。これ以上の拡散を抑えるためにも、ここで口止めをした方が良さそうだ。


「どうしてって、大将から教えてもらったんだぜ?」


「た、大将?それって、君達のチームの(おさ)って事?」


「お、長、?がよくわかんねぇけど、まあそんなとこだ」


 一体大将というのは誰の事だろうか。先程の男子だろうか、少なくとも自分達の居場所を分かっている人物である。


 その正体不明の大将という人物に、思考を巡らせるものの、結局それらしき人物は思い浮かばない。


「君を口止めしても、その大将ってのを止めないと無駄みたいだね」


 観念した様にため息をつく樹音。それに将太は「やっと聞く気になったか」と呟くと、少し間を開けて言い放つ。


「君の大切な仲間の水篠、ってやつを預かってる。痛い思いさせたくなければ付いてくるんだな」


「なっ!?」


 まさか、沙耶が捕まっているとは思わずに驚愕の声を上げる。この言い草は完全に揺さぶりであり、罠である事も十分承知だったのだが、


ー辛い思いをする人をまだ救える手があるのなら僕はそれに賭けたいー


 複雑な感情が頭の中をよぎる中、覚悟を決めて歩き出す樹音だった。それを陰で見届けたマーストはおぼつかない足取りで倉庫を飛び出した。


           ☆


「はあ、」


 しばらくの間、ため息だけを溢してベンチに腰掛ける碧斗(あいと)。胸の奥が苦しい。お腹の中がキリキリして、まるで締め付けられている様だ。

 気のせいか呼吸も上手く出来なくなっている。息苦しくなって咳き込み、またため息をつく。それの繰り返しである。これがどういうものなのかは分からない。普段なら腹の虫が鳴く時間なのだが、不思議とお腹が空く気配は全くない。


「はぁ、なんなんだろ、これ」


 何故ここまで苦しいのか分からない。皆を助ける道を選んだ方が辛い思いをする筈なのに、手の震えが止まらない。

 これは、美里(みさと)に叱られたからだろうか、ビンタを食らったからだろうか、だがビンタの痛みよりもずっと美里のあの失望した眼差し、沙耶の悲しそうな表情、マーストの呆れた物言い、それの一つ一つが、脳裏に浮かぶ度に昼食べたものを戻しそうになる。


 苦しい。


 どうしようもなく苦しい。


 本来ならもうギルドハウスに出向き、転職(ジョブチェンジ)をしているはずなのだが、何もする気になれない。


ー俺は、やはり選択肢を誤ったのだろうか、間違っていたのだろうかー


 確かに自分勝手である事には変わりない。だが、無理に自分が入ったところで何も変わらないのだ。それならこの道で間違いないだろうと、何度も自分を納得させているが、体が動く気配はない。ただただお腹の奥が苦しくなるばかりである。


「じゃあ一体、どうすればいいっつーんだよ、」


 弱々しい声音で誰に言うでもなくため息と一緒に吐き出す碧斗だった。


           ☆


「さあ、ここだ」


 将太に案内された場所は王城の渡り廊下を渡った先の別館であり、そこの3階はそのチームが愛用しているらしい。いや、正確に言うと占拠(せんきょ)している様だ。


「この中に水篠ちゃんはいるって事?」


「ああ。その通りだ」


 少し口角を上げて話す将太の姿は何かを企んでいる表情そのものであり、樹音はその単純さに驚きながらも「演技」を続ける。


「この中に君の仲間も居るの?」


「ああ、3人の見張りがついてる。お前はあくまでも話すだけだと言っておこう」


 それを言うと同時に樹音は指を鳴らす。すると宙に剣が現れ、それを掴んだと思うとそれを将太に向ける。


「そんなの、信じると思う?」


 目つきを変えて将太を睨む。だが、


「こんなのを信じると思ってる。と、思うか?」


 将太がそう言った瞬間ドアの向こうから鋭い何かがドアを貫通して樹音に向かう。


「なっ!?」


 反射的に剣で「それ」を弾く。だが、そのせいでガラ空きになった背中を狙い、将太が爪を立てる。それに急いで振り返り、足で防ぐ樹音。深い傷にはならなかったが、その反動で廊下の1番奥へと叩きつけられる。


「ごはっ!?」


 壁に打ち付けられた衝撃で血を吐き、倒れ込む。そんな樹音に向かって、ゆっくりと近寄る将太に、なんとか対抗しようと足を震わせながらも戦闘態勢になる。だが


「こっちだよ〜」


「えっ!?」


 背後の窓が開き、樹音の(えり)を掴むと窓の外へと引っ張られる。


「クッ」


 背中を掴まれながら外に出される。掴んだ正体は奈帆であった。背中に翼を生やし、樹音の背中を掴んだまま浮遊している。


「な、何をっ!」


「フフフ〜ッ、さあ、どうしよっかなー」


 少し悩む動作をすると、閃いた様に指を鳴らす。


「そうだっ、屋上行こーっと」


「屋上、!?」


 その瞬間物凄い力で持ち上げられ、王城の壁に樹音の背中を擦り付けながら屋上へと運ぶ。


「ぐっ、あああああああっ、!いっっっっ!!」


 屋上へと到着すると、手に持った樹音を放り投げる様に屋根に打ち付ける。


「ぐはっ!ぐああああああ!いっっつぅっ!」


 痛いともとれる叫び声を上げて、その場に(うずくま)る。背中全てに激痛が走り、痛すぎて全身に傷がついているように体全体がじんじんと痛む。

 転げ回ろうとすると、背中が床に当たり、激痛がまたもや樹音を襲う。どの体勢になっても襲ってくる痛みに何もする事が出来ずに声を上げることしか出来ない。


「い〜っ、痛そーう。頑張れっ、頑張れっ!」


「き、君、だいぶ、やばいね」


 薄れる意識の中、必死に奈帆を睨みながら小さく言う。


「ふふー、どう致しましてっ。でも、君はまだ伊賀橋(いがはし)をおびき寄せるまで殺しちゃ駄目って言われてるからそのまんま我慢しててね」


 その言葉に心がチクリと痛むのを感じた。身体がそれどころではない筈だが、心は勝手に感じ取ってしまうもののようだ。


「い、伊賀橋君は、もう、来ないよ」


「え?それってどういうこと?」


「もう、戻ってこないんだ。もう、会えないんだ」


 口にすることで実感が湧き、目の奥が熱くなる。そうだ、もう戻って来ないんだ。


ー悲しいけど、その方が伊賀橋君も幸せだよねー


 一緒にいなければ、今の自分のような辛い目には遭わない。ならば、これで良かったのだ。と、そう自分を納得させて気持ちを振り払う。すると、奈帆は邪悪な笑みを浮かべる。


「ふーん、じゃあ、もう殺しちゃてもいいって事かぁ」


「!?」


 その言葉に現実に戻された樹音は、周りを見渡す。すると、周りには羽の生えた瓦礫(がれき)や岩などが集められており、逃げられないように囲まれている。

 樹音は、剣を杖代わりにして立ち上がる。剣を固定していないと立っていられない状況だ。


「誰も来ないみたいだし、これで終わりだね。さよーなら」


 次の瞬間、樹音の真上に固定されていた岩の翼が消えた。

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