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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第1章 : 終わりの第一歩(コマンスマン)
32/299

32.拘束

 ギルドハウスに向かいながら「全ての始まり」を思い返す。一体何故守ろうと思ったのか。と


 祐之介(ゆうのすけ)が最後まで信じてくれたから、殺人鬼である修也(しゅうや)を信じた。だが、その人のせいで信じてくれた人を亡くした。それは、本当に正しい事なのだろうか。

 その殺人者を庇う沙耶(さや)を信じる事は、やはり罪なのではないかと。自分でも何をすれば良いのか、分からなくなっていた。あの時、咄嗟(とっさ)に「守る」なんて事を口走ってしまったのがいけなかったのか、食堂で逃げた時からか。

 一体どこから自分を「勇者」だと思い込んでいたのだろう。ただ自分に酔っていただけだったのだろうと、冷静に振り返ると同時に、どれだけちっぽけな存在だったかを思い出す。


 やはり、弱くても努力や気持ち次第で人を守れるなんて事は妄想だったのだ。


 そう理解した碧斗(あいと)は、歩みを進めた。だが理解はしたものの、迷いが生まれていた。


           ☆


「少し、来て欲しいんだ」


「え?」


「何処に連れてくつもりだい?」


 聴き慣れない声に驚き、樹音(みきと)と沙耶は同時に振り向く。そこには食堂での応戦時に風を使っていた爽やか系男子が立っていた。


「君こそ、どうしてここに?」


「いや、ただ様子を見に来ただけだよ?大丈夫かなって」


 そう言うと、その男子は樹音の方を横目で見据える。それに対して樹音は唇を噛む。


円城寺(えんじょうじ)樹音君。君は剣を使うんだったね?」


「!?」


 自分の名前を言われたことに対して驚愕する。


「それと、隣は水篠(みずしの)沙耶さん。能力は岩だったよね?」


「え!?ど、どうして、、私のこと、」


「君、もしかして"チーム"の連中?」


「ち、チームって、?」


 沙耶が理解できずに首を傾げる。


伊賀橋(いがはし)君が言ってたでしょ?僕らを倒すためにチームが出来てるって」


「え!?まさか、そこの、人?」


 目つきを変えて2人でその男子を睨む様に見つめる。すると、優しく笑って言う。


「まさか。そんなわけ無いよ、そんなのよく分かってるんじゃないの?」


「な、何の話してるの?」


 よく分からない事を言う目の前の男に首を傾げる沙耶。それに笑って「なんでもないよ」と答える。


「あ、あの、さっき大丈夫か見に来たって、言ってたけど、、その、助けに来てくれた、の?」


 恐る恐る聞くと、その男子は笑う。その姿は清々しく見え、その見た目からか爽やかにニコニコとしているようにも見える。だが


「何が面白いの?なんか考えてるでしょ?」


 その様子はどこか奇妙で、疑いが樹音を支配した。


「いや、何もないよ。水篠さん、気をつけてね」


 軽くそう笑うと、手を振って倉庫を出て行った。


「な、なんだか、不思議な人、だったね、」


「うん。よく分からなかったね、あの人」


 2人で顔を見合わせて呟く。彼は味方なのだろうか、はたまた敵なのだろうか。チームに所属していないというのは本当か否か、どちらにせよ、少し警戒した方がいいことに変わりはないのだろう。

 碧斗が居たらまた変わっていたのだろうか。この事も気がかりではあるが、今は何よりも碧斗の行方が心配である。


「大丈夫かな、伊賀橋君、」


 樹音は不意に誰に言うでもなくそっと吐き捨てた。


           ☆


 あれから数分後、ギルドハウス前でため息を吐く。迷いながらの歩みだっただけに随分と時間がかかってしまったように感じる。もうこれでいいんだ、仕方がないのだ。


ーきっと俺はもう必要ない存在なのだろう。手助け出来る力もなければ、守る力すらない。やっぱり円城寺君と一緒にいた方が、水篠さんも幸せだろうー


 自分への劣等感と、何もしてあげられない無力感が碧斗を襲う。自分の弱さを悔やみながら手が震え、目の奥が熱くなるのを感じた。樹音を見ていると自分がどれほどまで無能で無力なのかを理解する。

 今もこうして、痛みが怖いという理由で逃げ出している。こんなクズのような存在に、皆を守る資格なんてない。


「よし」


 意を決してギルドハウスに足を踏み入れる。が、


「あっ!あんた、、無事だったんだ。っていうか、何やってんの?」


 少し引き気味に背後から声が聞こえる。刺々しい、聴き慣れた声だ。ゆっくりと振り返ると、そこには美里(みさと)の姿があった。


「こんなとこになんか用事?」


「いや、その、実は、その、」


「何ウジウジしてんの?さっさと言ってよ」


 圧に押され、静かに俯く。今の精神状況にこの言い草は心にくるものがある。それでも、なんとか言葉を振り絞り、呟く。


「いや、その、俺、勇者辞めようと思って」


「え?勇者辞めるって何?」


 言葉自体は淡々としていたが、表情はキョトンとしていて、意味を理解していない様だった。


「えと、その、俺は店で働いて、お金の方面でみんなをサポートしようと、」


「は?何それ、それってまさかみんなを置いてきたって事?」


 美里は理解したのか、目つきを変えると碧斗に言い寄った。


「いや、そういう、事じゃなくて、俺が居たって何も力になれないし、こうやって陰ながらに手助けするのが、1番似合ってるかなー、なんて」


 目を逸らしながらどんどん声を小さくして話す。


「それって、怖くなっただけなんじゃないの?」


 ぶっきらぼうに吐き捨てられたその言葉は、全て正論でしかなく、ぐうの音も出ない。だが勝手に、口から言葉が溢れた。


「あ、ああ!そうだよ、怖いよ!仕方ないだろ、弱いんだから、最弱最弱って言われ続けて、いいところが無い。みんなを守ることすら出来ないのに、傷ついて殺されるのなんて御免なんだよ!相原(あいはら)さんは、強くていいね、本当に羨ましいよ」


 刹那、左の頬に電気が走るのような激痛が襲う。


 パチンッ!


 思いっきり、躊躇(ちゅうちょ)なく叩かれた碧斗は、態勢を保てずに後ろに尻餅をつく。


「い、いった、、」


「あっそ、もういい」


 本来であれば渡すはずだったであろう本日分の食材を手に、来た道を足早に引き返す美里。その後ろ姿を、ただただ涙目になりながら見据える事しか出来なかった。


         ☆


 未だにヒリヒリと痛む頬を撫でながら、無心で空を眺める。心の痛みが大きいせいか、頬の痛みはあまり感じなかった。


ーあっそ、もういいー


 その言葉が脳内で何度もリピートされる。一体どうすればいいのだろうか。気持ちの整理がつかない。また、失望させてしまったのだ。

 では戻るかと訊かれたら、恐らく頷く事が出来ないだろう。戻って何になるだろうか。碧斗1人が戻ったところで、現状が(くつがえ)るとは到底考えられない。それならば、無謀に挑戦して死んでしまうくらいなら、生きて地道に手助けしたい。と、脳内で正当な理由付けて逃げるのだ。

 分かっているのに動く事が出来ない。そんな自分に嫌気がさしてため息を吐く。


「どうすればいいんだよ、」


 ここに来てからできた今まで触れることのなかった感情が次々と溢れ出す。それに押し潰されそうで、どちらを選べばいいかが分からなくなっている。これは、今まで人と触れ合わずに生きてきた自分への罰なのだろうか。何も出来ないまま、その日は夜を迎えた。


           ☆


 気持ちの整理がつかないのを紛らわせるために外の空気を吸う沙耶。辺りには誰もいない。そこにはただ一面に野原が広がっていた。仕方がない事だ、わかり切っていた事だ。いつかはこうなる事を理解していたのだが、心のどこかで未だに戻ってきて欲しいと願ってしまっている。ここまできてまだわがままを言ってしまう自分が嫌になる。自分のせいで1人の平穏な異世界ライフを奪い、戻れないところにまで運び込んでしまったのだ。それなら、今のうちに1人での行動を始めて"普通"の生活に戻れるようにして行った方が幸せだろう。それすらも、自分のわがままで妨害するわけにはいかない。


「はぁ、全然駄目だなぁ、私、」


 口に出してはいないものの、頭では次々と溢れる自分勝手な願いが判断力を狂わせる。そんな自分が嫌いで、鬱陶しくて、ため息しか出てこない。


「もう、私が諦めれば、みんな幸せなのかな」


 そう呟いたのを聞いていたかのように木の影から1人の赤の混じった暖色の茶髪女子、歩美(あゆみ)が現れる。


「やっ!えーとえーと、水上さんだっけ?」


「あっ、水篠です!お久しぶりです!」


「そっかそっか、みずしろさんね!おひさ〜」


 そう言うと、スキップをしながら近づく。すると、周りを見て首を傾げる。


「あれ?いがらし君は?」


「い、伊賀橋君は、その、」


 途切れ途切れになりながらも事情を話す。すると、歩美は意外にも冷静に聞き入る。


「ふーん、そか。もー、守るって約束してたのにね」


 遠くを見て発せられた言葉に、無言のまま俯く。


「で、でも、いいんです。勝手に色々言っちゃったのってこっちですし」


 「だから」と続けて振り向こうとした瞬間、体が動かない事に気がつく。


「あ、あれ!?」


「どうしたの!?」


 慌てた様子で、声を上げた沙耶に心配そうに近づく歩美。


「う、動かない!身体にっ、力が入んないっ」


「え!?嘘、金縛りみたいなやつ?」


「それよりも、ヤバイ、かもっ」


 それを聞いて歩美がオドオドとしていると、今度は目蓋が重くなる。眠たくされてる、のだろうか。身体中の力が抜け、その場に倒れ込む。すると、眠るかのようにゆっくりと意識が遠のいた。


「み、みずしろさん!?みずしろさーん!」


 薄れた意識の中、名を呼ぶ声が聞こえたが、答える事は出来なかった。


           ☆


「よくやってくれた」


 遠くから声が聞こえる。誰かと話している様だが、もう1人の声は聞こえない。


「でも、お前は俺たちのチームじゃないだろ?」


 なんの話をしているのだろうか。暗闇に包まれながら思考を巡らせる。チーム、とは碧斗の言っていたものの事だろう。


ーで、でも、チームじゃないって、一体ー


「そうか、だが助かった事には変わりない。片方だけだったが、充分だ」


 そこまできて、やっと話の意味を理解する沙耶。


ーえ、片方、?よくやった?充分、ってまさか、私がー


 反射的に目を開くと、目蓋と同時に動かなかった身体が動き始める。


「あ、あれ、動く」


 と、思ったのも束の間であり、体は張り付けにされて身動きが取れないように固定されていた。小さい部屋の入り口であるドアの正面に吊り下げられており、綺麗なマットレスに転生者の靴にでも付いていたのか、小石が転がっているのが気になる。


「うっ、やっぱり私、捕まって」


「起きたか、さっきはよくも逃げてくれたな」


「え、」


 目線を上げると、そこには将太(しょうた)の姿があった。その顔はやっと捕まえる事の出来た喜びからか、いっぺんの曇りなき笑みを浮かべていた。


「はは、覚悟しろよ?今までの恨み、受けてもらうからな」


 その殺意的な言葉にビクッと体を震わせる。だが、そこまで言うと将太は後ろ向いて「と、言いたいところだが」と付け加えて続ける。


「もう1人をお引きよせるために何もするなとの命令だ」


「え、」


ーそ、それって、伊賀橋君も危険な目に遭うかもしれないってこと、?ー


「だ、駄目!伊賀橋君達には何もしないで!」


 自分以外の犠牲者は出さまいと声を上げる。だが、


「くくく、それは駄目だ。いくらなんでもアイツの命令には逆らえないんでね」


 そこまで言うと、将太の後ろから数名の足音が響く。足音としては3人ほどだろうか。


「おっ、と。みんなが来たみたいだ」


「み、みん、、な?」


 疑問に思い、聞き返すとドアの向こうから3人の人影が浮かび上がる。予想が当たった様だ。それを見た将太は笑みを作り、声を上げる。


「紹介するよ。これが俺達のメンバーだ」

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