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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第1章 : 終わりの第一歩(コマンスマン)
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03.王国

 かつてこの国には、魔物が住み着いてしまった。魔物に襲われない事を祈るしか出来ないこの国に、1人の救世主(きゅうせいしゅ)が現れたのだった。


 彼の名は「ライル」。目立たない街の少年だったが、魔王退治を宣言したライルは魔物を全て浄化(じょうか)し、この国は元の輝きを取り戻したのだった。


 だが、それも束の間、ライルは国を救った事を良い事に、この国の"独裁者(どくさいしゃ)"へと成り下がってしまったのだった。


 後にこの国は壊滅的(かいめつてき)な状況に陥り、ライルはその国を奴隷のように扱ってしまったという。


                   「謎の本」


           ☆


「魔王を倒し、この世界に新たな平穏をもたらしてください。」


 目の前にいる男は碧斗(あいと)に言った。他の人に言っていると思いたかったが、ここには碧斗と男の2人しか居ない空間であるがゆえに、完全に自分の事だと言わんばかりの威圧感を感じた。


「も、もう、なんでも良いや、」


 考える事を放棄(ほうき)した碧斗は指示に従うのだった。


「では、これで全ての勇者が揃いました。応接間にご案内します」


「あ、そう言えば14人目、とか言ってたな。それって俺以外に13人も居るってことか?」


「いえ、正確には30人をこちらの世界へ転生させました」


「さっ!30!?俺の友達を上回ってるぞ!」


「正直2、3人しか来てなくても上回ってたけどな。」碧斗は悲しいツッコミを心の中でするのだった。


「はい。あなた方の現世からこちらの世界へ30人ほど転生させてもらいました。転生された瞬間から、特殊能力がそれぞれに与えられるのですが、」


「なるほど、それで俺は不幸にも最弱能力を引いちまったわけだ」


「残念ながら」


「ツッコミとかしてくれよ!逆に悲しくなるだろ!」


 ゲームなども最近まともにしていないので、こんな突飛な話をすぐには受け入れる事が出来ずにいたのだが、少し冷静になったのか、なんとなく理解はしてきた碧斗。


「まだ全然何するとか、どこなのか理解出来てねぇけど、でも、まあ」


 碧斗は少し考えるように間を開けたが、覚悟を決めたかのようにそれを口に出す。


「なんとかしてやるよ。この世界救うために呼ばれたんだろ、ならやってやろうじゃねーか」


 魔王なんてどんな奴かも分からない。まず雑魚敵に殺される可能性だってある。だが、何かの為に全力になりたかったのだ。たとえそれが命をかけた戦いだったとしても。


           ☆


 気合いを入れる為に強気な発言をした碧斗は、その男に案内され応接間に集まった。


 改めて見ると、自分の衣服が制服だという事に気がつく。下校後に転生されたので当たり前ではあったが、他の転生者(ひと)が普通の服を着ていたとしたらなかなか恥ずかしい状況である。


 すると、丁度他の転生者も集まったようでぞろぞろと入ってくる。


「あれ?みんな丁度今来たのか、?」


 小声で男に耳打ちする碧斗。


「はい。全員の目が覚めるまでさっきまで貴方が居たような個室で待機してもらっていました」


「あ、じゃあ、俺待たせてたのか、なんだか申し訳ないな」


「いえ、22人目の勇者様も先程お目覚めになられたようなので、気を落とす事はありませんよ」


 優しく微笑んでくれた男だったが、碧斗は引っかかるものがあった。


「22とか言ってるけど、名前教えられてないのか?」


「はい。私は能力の説明と、この世界の事を話すだけなので」


「そっか、よし!」


 何かを思い立った碧斗は笑みを作り、男に向かって言う。


「俺は碧斗。伊賀橋碧斗(いがはしあいと)だ。貴方は?」


「碧斗様、ですか。やはり本当に異世界人なのですね。私は名乗るほどでは無いですが、マーストと申します」


 碧斗の言葉を聞き、優しい顔をしてマーストと名乗った男は言った。


「マーストか、こっちからするとマーストの方が異世界人っぽいけどな!」


 マーストのその優しい笑顔を見て、自然に顔がほころぶのを感じる。


 そんなことを話していると全員が揃ったようで、とうとう国王が顔を出す。


 制服で転生された人も多く、ホッとする碧斗だったが。


その時、


「え?あ、あれ!?」


 ついつい大きめの声を上げてしまった碧斗。そんな事はお構いなしに碧斗は続ける。


「な、なんでここに、、?」


 ここで周りの人達に見られているのに気づき、小声になる碧斗。


 その目線の先には、ほかでも無い。相原美里(あいはらみさと)の姿があった。


 マーストが困った顔をしているのに気づき、「す、すみません、」と謝る。


「では、気を取り直して、私共の世界の救世主の方々を歓迎します」


 驚いた様子だった王様は、咳払いをすると話を始めた。


「はっ、歓迎って、お前らが勝手に連れてきたんだろ」


 小声で文句を言っているのが聞こえ、いや、わざと聞こえる様に言っているのかもしれないが、声のした方を見ると、見るからに不良のような見た目の男が立っていた。


 王様はなおも話を続けるが、碧斗はマーストに小声で話す。


「お、おい。マースト。あそこの茶髪ショートの女子も転生されて来たのか、?」


「はい。ここに居る方は皆、転生者でありますが。それと、国王様の話は静かに聞きましょう」


「お、おう。そうか、分かった」


 なんだが校長の話のように長々とした解説を聞いた碧斗は、その後広場に案内され、転生者同士の面会のようなものがあった。



 国王の話していた内容は、悪の手に苦しめられているこの世界を救う為にここの魔術師が100人以上も集まり、30人を転生させる事に成功。1つずつ能力が宿され、それぞれの力を使い、協力して魔王を倒す事を望んでいる。


 魔王を倒せば王様からの報酬を貰い、現世に帰ることが出来る。負ける(死ぬ)とそのまま強制的に現実世界に帰されるそうだ。


 能力に関しては、それぞれ1人につき1つずつ与えられる。

 更に、能力を自分自身に活用する事は出来ない。例えば自分自身を火にしたり、煙にしたりする事は出来ないとの事である。


 そんな内容を長々とするものだから、飽きている人も目立っていた。碧斗も、その1人だったのだが。


           ☆


 広場に出た碧斗は、誰に話すよりも早くに見慣れた顔の女子高生に話しかけた。普段の話しかけづらいというのが嘘のように。


「なんでここに? 相原さんも転生されて来たの?」


「なんでここにってのは、こっちの台詞(せりふ)。あんなにいっぱいの人が静かにしている所で大声を上げるなんて、学校では猫かぶってたって事?」


「いや、それは、その、驚きでさ。なんか、ごめん」


 案の定、いつものクールさに圧倒されてしまう。だが、聞きたいことが山ほどあるので緊張しながらも無理矢理話を続ける。


「それにしても、相原さんはなんでこっちの世界に来たの?やっぱり謎の男に関係が?」


 普段話していないのと、威圧感のせいで話し方がおかしくなってしまったが、なんとか話す事に成功した。


「私の場合女性だったけど、その人から本を貰って読んだらこの世界に来ちゃったって事」


 相変わらず素っ気なく返されたが、碧斗には十分な内容だった。


ーやはり俺と同じであの本が原因かー


 渡され方、渡した人が違くても、本を読んだ事に変わりはない。おそらくその本は、現実世界と異世界を繋げる役割を果たしているのだろう。


 高速で考えた自分の理屈に勝手に解釈して、広場に出された食事に手をつけるのだった。


 美里の他に、さっき応接間で小言を言っていた不良の男に話しかけようとしたが、あれこそ脅されそうだったので話しかける勇気が出なかった。その時


「おい、君!」


 後ろから声をかけられ、自分じゃなかった時の為に自然に振り返る。


「そうそう、君だよ!」


 やはり自分に話しかけられているのだと理解した碧斗は、活発な声で話しかけてきた人の事をまじまじと見た。


 そこには自分と変わらないくらいの男子が立っていた。赤茶色の髪で、身長は碧斗と変わらない様子なのでそこまで高くはないが、綺麗な顔立ちでイケメンであるのは一瞬でよく分かった。


「いやー、凄いね!さっきの沈黙では俺でも声出せない空間だったのに。」


 やはりさっきの事かと、話しかけられた理由をようやく気づいた碧斗はそのまま返す。


「あ、あれは、びっくりしたからであって、別に大声出したかったわけではないぞ」


 冷静を装いつつも戸惑いが出てしまったが、コミュ症である碧斗には良くやった方だと自覚した。


「びっくりしたって、そこの子に?」


 さっきの様子を見ていた人には一目瞭然だろう。碧斗は隠す事はないと思い、ああ。と返す。


「へー!あの感じだと現世で(ゆかり)がある人のようだね。凄くクールっぽくてイケメン女子ってやつ?」


 いつも通りヘラヘラとしていたが、的確な判断に驚く碧斗。言葉に困っている碧斗に気づいたのか、その男は笑顔を作り、手を差し出す。


「あ、ごめん!遅くなったけど俺、佐久間進(さくましん)だ!君は?」


 その異常なまでのテンションの子は佐久間進、か。最初に出会ったのもあり、すぐに覚えられそうだ。


「俺は伊賀橋碧斗。よろしく。」


 碧斗も笑顔を作り差し出された手を握る。


「かっこいい名前だな!」


 予想通りの活発な声での回答に思わず笑みが溢れるのだった。


 そんな中、さっきの不良っぽい人の事を見つめる静かそうな女の子がいる事に気づいた碧斗。「話しかけれないよなー。」と、内心で思うのだった。

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[良い点] 内容が面白い [気になる点] マーストはだれ? [一言] 早く次だせ
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