291.進化
「嘘っ、、ぐふ!?」
「っと。邪魔だ」
凛は全員を串刺しにしたのち、それを既のところで避けた美里を空気圧で吹き飛ばすと、涼太に向かって足を進めた。
「ラストのワンピースっ!お前さえ手に入れば、この世界は作り変えられるのさ」
「随分な言いようだな、、俺が必要なのか?」
「ああ。正確にはお前の能力だけどな。お前自体は必要無い」
「なるほどな。でも、俺もお前を殺すつもりだ。安心しろ」
「そうか!安心したよ。俺から向かわなくても、いいんだからな!」
「その代わりっ、全力で抗わせて貰うぞ!」
涼太はそう放つと、毒を放出する。
「おとと、民家が近いのにそれ大丈夫なのか?」
「ふっ、だからこそだっ!油断しただろ?」
涼太はニヤリと微笑む。ギリギリまで引きつけての毒の放出。手で触れて攻撃なんて、彼相手には不可能だろう。こちらの能力を知られている以上、そんな隙なんて与えられる筈無い。だとしたら、彼の隙を突けるとしたら。
「民家が周りにある中での範囲攻撃っ、これで終わりだっ!」
その毒に、対する凛は浅く息を吐くと、手を振って涼太へと向かう。
ーチッ、、普通の人間なら致死量を与えた筈だぞ、、距離も完璧、それなのにっ、どうしてー
「やっぱりな」
「何、?」
「民家があるのに攻撃してきたから、もしかすると今までの全部嘘だったのかと思ったぜ。びっくりさせんなよ?」
「どういう事、だ、?」
「分からないか?俺を殺そうとするなら、罪の無い人を殺さないってのも、嘘なレベルじゃなきゃ、不可能だって話だ」
「つ、つまり、、それって、」
「甘いなっ!俺の能力には空気圧があるんだぞ?気づいた瞬間息止めて風起こせば毒なんて消えるだろ。お前の敗因は、民家を意識した事であり、それが嘘じゃ無かった事だ。俺に毒を放ったのは、民家に届かない近さまで来たから。だからこそ、この距離で出せばやれると思ったんだろ?民家の方には被害出さずにさ」
「クッ、」
「でもやっぱ甘いな〜。それを意識する事で、風に乗って飛ばされた時には毒の成分が無くなるレベルで薄かった。俺の能力も忘れたか?」
凛は、ニッと、そう笑う。それに、涼太は冷や汗を流す。どうすれば、切り抜けられるか。彼を倒せるか、と。手を伸ばして届く位置では無い。範囲攻撃も同じだ。だとすると。
そう、考えた矢先。
「「っ」」
目の前には、炎の壁が出来上がる。
「これは、」
「何?相変わらず邪魔するの?邪魔だって言ってるんだけどな」
「はぁ、、はぁ、でも、あんたを、見過ごすわけには、いかない、から、」
「俺は別に誰も殺してないし何もやってないだろ?全部お前らが殺したんだ。違うか?」
「っ」
彼の言葉に、美里が目を見開くと、突き刺さってぐったりとする碧斗もまた、僅かにピクリと手を動かす。
「俺はな?別に誰かを殺そうとしてるわけじゃ無いんだ。悪を成敗する。それが正義であり上に立つ者の定めなんだよ。上に立つ者は下の意図を汲み取るが、屈しない。俺は上に立つ者として、定めようとしている。だからこそ、俺とは違った思考の奴も出て来るだろうな。でもその時は、"どちらが上なのか"を、明確に証明しなくちゃいけない。だからこそ戦う。ただ、俺は無意味な争いは嫌いなんだ。だからこそ、能力を得るために殺したりなんてしないし。そもそもこの世界の奴らって弱いだろ?だからさ、興味無いんだよね」
「だからって、、見過ごせって言うわけ、?」
「そのつもりは無いけどさ。ただ、お前らが人殺しをしてる悪党なのに、出しゃばるのは違うんじゃ無いの?」
「私達が、、悪党、?」
「いいね。自分達が悪だと思ってない。正真正銘の悪。そうこなくっちゃ」
凛はそうニッと歯を見せ笑う。それに、美里は歯嚙みする。
「正真正銘の、悪、」
「ああ。そうだろ?俺は殺さなきゃいけない相手しか殺してない。というか、殺さなきゃいけない相手も、俺が殺すよりも前にお前らが殺してるんだ」
「ちが、、俺達が、、殺したわけじゃ、」
「ん?まだ声を出せるのか。凄いな!」
凛が話す中、背後から。突き刺さった碧斗が、掠れた声でそう零す。
「進も、、水、篠さんも、、俺達が、やった、わけじゃ、」
「そうか、、お前らじゃなかったか。それは悪かったな!だってお前ら、あれだろ?争いの無い世界を望みながらも、反対の勢力から攻撃されたら殺そうとするんだろ?」
「っ!そう言うわけじゃっ」
「そういうわけじゃ無い?本当にそう言えるのか?お前らが清宮奈帆とか神崎愛梨とか殺したって聞いたぞ?」
「っ!」
「やっぱり、それは本当なんだな。まあ、そういうことだ。だからこそそう勘違いもされるわけだな。まあ、それで結局言えるのは、俺はこの能力を得るまでの間。何もしてない。空気圧の能力は佐久間、、だったか。彼が死んだ後にその死体から奪った能力だし、この岩の能力もそうだ。もう死んでたからこそ、そこから奪った。ただそれだけだ。つまり、俺は誰も殺すつもりはない。だが、対するお前らはどうだ?もう、人を殺してるみたいじゃ無いか」
「クッ、」
「それの、どこが悪党じゃ無いんだ?」
「...じゃあ、、あんたは、、今から、何をするつもりなわけ、?それで、、人を殺めるんじゃ無いの、?」
「ん?今から、、ああ、最後のピースを得るって話か?」
「俺の能力を奪って、何するつもりだ」
美里と凛が話す中、ふと。涼太が割って入った。それに、凛は僅かに目を見開いて少し悩んだのち、まあいいかと。口を開いた。
「さっきも話したと思うが、俺の能力で吸収出来るのは三つまでだ。そして、今その二つが埋まってるわけだな。空気圧という能力でほとんどの事は出来る。ただ、ものを生成する事は出来なかった。だからこそ、岩の能力を手に入れた。そしたら、後は」
「後は、?」
「世界を次のレベルに引き上げるために必要なラストピースが必要になるわけだ。分かるか?」
「次のレベル、?あんた、、一体何を目指してるわけ、?」
凛がそう微笑み告げると、美里は鋭い目つきで放つ。
「言ったと思うけど、、俺は強者と弱者はハッキリしてないといけないと思うんだ。いいか?強き者が上に立つ。それを考えた時、この世界の仕組みは、間違ってる。そう思わないか?」
「あんた、、まさか、この世界を、?」
「だから世界を次のレベルにって言っただろ?強い者が上に立つ世界を作る。そして、その差を明確にする必要がある。そこで、俺は考えた」
凛はそこまで告げると、少し間を空けて告げた。
「毒を、風に乗せて世界に広げようって」
「なっ!?」「えっ!?」
彼の言葉に、涼太と美里が同時に声を漏らす。
「完璧な考えだとは思わないか?空気圧の力で風を起こす事が可能なんだ。それで毒を放出し、世界中に広げる」
「そんな事したら、全員、」
「全員死ぬって?安心しろよ。そこまで強力な毒を放つつもりはない。寧ろ、抑えるよ。全員消えたら意味ないからな」
「だからって、、それでも、」
凛はそう答えると、美里の零したそれに街の方を見据え口を開く。
「いやぁ、正直、そのレベルで死ぬ弱い奴要らないんだよね」
「「っ」」
凛の一言に、美里と涼太は共に目を見開く。
「まず、最弱は消える。それは、仕方ない事だ。そして、それ以外は耐えるものの、毒による症状が変わってくる。それによって、強者か弱者かが分かるって事だ」
「何それ、、別に強いか弱いかなんて、毒に耐性あるのと比例しないと思うけど、」
「それはそうだな。だが、それだけじゃ無い。たとえ、耐性が無くても、強い奴なら強いなりに色々と行動をする筈だ。ガッツで耐える奴。毒を弱める方法を心得てる奴。毒の侵食を止める奴。毒の成分を把握しそれに対する対応を練る奴。俺の言う強いは力だけじゃ無い。それに対応出来る頭もまた対象だって事だな」
「なるほどな。それで、行動によって強弱が変わってくると」
「その通りだ。この世界は弱過ぎる。その中に転生者という能力持ちの俺らがやってきた。それによってこの世界の支配構造もまた変化させないといけないわけだろ?強き者が、上に立てる様に」
凛はそう告げると、同時に。
「どらっ!」
「ん?」
大翔が自身に刺さった岩を破壊して無理矢理跳躍すると、そのまま碧斗と樹音の岩も破壊して回収する。その光景に、凛が目を見開き振り返ると。
「一瞬の隙が命取りだって、あんたも分かってるでしょ!」
美里がそう声を上げ、凛の周りを炎で包んだ。
「炎のカーテンか、」
美里は零す凛に目を細める。以前、進と対立した時、空気圧の能力相手にこの方法を取った。空気圧を強めると爆破。上空にも逃げられない。それを想定する間、僅かにロスが発生する。と、それを考えたのち。
「いいね。意味無いけど」
瞬間、その炎は消え去る。そう、彼は最終的に、その炎を吸収したのだ。その行動は既に予想済みだった。だが。
「それで、十分だ」
「っ」
その炎が消えた瞬間、目の前には涼太がおり、毒を放った。対する碧斗達は、近くにあった回復の魔石を使用して回復をする。それを見据えた美里はその毒を食らわないためにも大きく後退り、一同を回収しようとする。
だが。
「おい、逃げるなよ、どさくさに紛れて」
「っ」
目の前からは涼太の方が近づき手を出す。マズい、と。美里は歯嚙みする。恐らく、そこから毒を放出するつもりだろう。そう焦った、ものの。
「クッ!?なっ」
「っ」
突如、涼太の足元から岩が生え、上空に勢いよく生えると、それにより吹き飛ばされ、そこから更に空中で何かの圧力で吹き飛ばされると、その先に岩が現れて激突する。それに美里が驚愕した直後。
「がはっ!?」
美里にもまた更に大きな圧力を与え、その先に壁を岩で作り激突させる。と、そんな一同に、ゆっくりと、凛が岩で鎧を作って近づいていた。
「毒だろうと、この鎧があれば問題無い」
「あんた、、はぁ、」
凛は、沙耶の能力使用時とは違い、頭まで岩の鎧で全身を包みながらそう告げた。それに。
「毒を防ぐために、、頭まで岩で覆ったわけ、?あんた、死ぬつもり、?」
「ああっ!勿論、死ぬつもりなんてないぞ?俺より弱い奴を前に死ぬなんて、ありえないからな!俺は幸運な事に空気圧の能力も持ち合わせている。だから岩で顔まで塞いでも、空気穴が無くても、空気圧の能力を程良く扱えば呼吸に困ることもないんだ」
「っ!」
「つまり、毒も無意味って事だ。さっき言っただろ?毒を世界に蒔いた時に耐え凌いだ奴が残るんだ。それをやろうとした本人が出来なくてどうする?」
凛はそう笑ってそう告げる。と、その光景を見据えながら、大翔は歯嚙みする。
「クソッ、、樹音っ、回復の方どうだ、?」
「まだ、、完全じゃ無いけど、、時間も無いし、、碧斗君、大翔君が回復する間、僕らでなんとか食い止められる、?」
「いや、、俺はいい」
「「え」」
樹音が碧斗に促すと同時、大翔が割って入る。
「俺は、、別に耐えられねぇわけじゃねぇからな、」
「いや、、耐えられないだろ、、大翔君の能力は超人的な力。肉体。まあ、死ににくいのは確かだけど、、痛みは大して変わらないんだぞ、?」
「それでも、、俺がいいっつったら良いんだよ。俺がなんとかしてる間、お前ら回復して全力出せる様にしておいてくれっ」
「いや、、三人で行こう」
「え」「何、?」
大翔がそうカッコよく飛び出そうとしたものの、碧斗はそう止める。
「一人で向かってやられて、二人で戻って回収、回復している間に時間稼ぎ、、こんなの、一生終わらないぞ、」
「チッ、、まあそうだけどよ。なら、どうすんだよ、」
「進の能力と水篠さんの能力、、二人の能力は、、俺らが一番知ってる筈だ」
碧斗はそう真剣に告げると、立ち上がる。そうだ。進とは一度対立して戦った。彼の場合躊躇してくれたお陰で勝てた部分も多かったが、能力の幅は理解しているつもりだ。沙耶だって、彼女の発想の転換により沢山の技が生み出され、それを間近で見ていた。そうだ。我々が止めなくて、誰が止められるというのだ。
「大翔君、樹音君、、作戦、と、呼べるほどじゃ無いけど、、俺に、案がある」
「「っ」」
碧斗はそう告げると、沙耶の姿、進の姿を思い出し、絶対に止めて見せると、目つきを変えてーー
ーー作戦を告げた。




