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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第6章 : こびり付いた悪夢(コシュマール)
287/300

287.見越

「ふふ、さっきぶりね。伊賀橋碧斗(いがはしあいと)君」


「っ!」


 思わず、大きく退く。


「あら、そんなに怖がらなくていいのに、、寂しいわ」


「ど、何処にやった、?」


「おや?」


「グラムさんを何処にやったんだって、言ってるんだ!」


「グラムさん、?って、どちらの事かしら?」


「クッ、、グラムって名前は知らないのか、」


「あら。それはまるで、私がグラムって人の事をどこかにやったのに、名前を知らないからってしらばっくれてる。そう、言いたいみたいじゃないの?」


「ああ。その通りだからな」


「ふふ。それは、流石に暴論ではなくて?だって、私は今ここに居るだけ。そして、君を狙ってるわ。寧ろ、君を狙ってる様な人が、君以外の他の人をどこかにやるかしら?」


「それは、、何か、理由があるんじゃ無いのか、?それに、俺を絶望させようとか、」


「ふふ、なら私では無いわね。だって、そんなの私のやり方に合ってないもの。それに、どうやら色々乗り越えた様な顔してるみたいだし」


「え、」


 碧斗は、美弥子(みやこ)の言葉に目を見開く。


「あら、分からない?自分でも気がついている様に見えたのだけれど。貴方、前見た時とは違う。何か、覚悟が決まった様な表情をしてるわよ?というより、目標が定まった、、と言った方がいいかしら」


「目標、」


 碧斗は目を細める。確かに、この世界で生き延びて、兄を覚えたまま向こうに戻る。それが目標となったのは間違いない。だが、


「...そんなに違く見えるか、?」


「ええ。だからこそ、貴方を絶望させるつもりはないわ。話を戻すようだけど、今更貴方に何かをしても、、覚悟が決まった貴方には影響は無さそうだしね」


 美弥子がそう微笑むと、碧斗は足を踏み出す。


「なら、、誰がやったんだよ、」


「あらあら、そんなに怒っても、私は分からないわ。貴方達の事を狙ってる連中なんて、いくらでも居るわけだし、、それに、本人自らが動いた可能性だってあるわけだしね」


「...それも、そうか、」


 そう零し、碧斗は悩む。グラムは、我々を助けたいと考えるだろう。それ程までにお人好しで、優しい人物だ。そんな彼が、我々に隠れていてくれと言われたまま、動かない事はあるだろうか。


「でも、何をするつもりなんだ、?」


 碧斗はそうぼやきながら、最悪な予想をして歯嚙みしたのち、踵を返す。

 グラムがもし、居ても立っても居られなくなって動いたのちに災害に巻き込まれたのだとしたら、それは。と、そんな事を考えながら窓から外に出るため足を進める。

 が。


「っ!?」


 突如、外側から何かが雪崩れ込み、碧斗は吹き飛ばされる。


「ごはっ!」


 その威力は大きく、起き上がる事が出来ない。


ーマ、マズいな、、背中、やったかもしれない、ー


 碧斗は歯嚙みしながらゆっくり起き上がろうとする。が、そんな彼に。


「駄目じゃ無い。私が居るのに、逃げようとするなんて。そんな簡単に、させるわけないわぁ」


「ここで話してる場合じゃ無いと思ったもんでね、、悪かった。話してる途中に」


「勘違いしないで欲しいのだけれど、お話してたのはただの流れ。私は伊賀橋。貴方を狙って来たのよ?そのグラムとかいう人には興味は無いけれど、貴方を殺すのには、興味あるわぁ」


「元々俺の事狙ってたっけ?」


「ふふ。まあ、私の邪魔をした事を根に持ってると言われれば、そうかもね。でも、それ以上に」


「それ以上に、?」


 碧斗は目を細める。確かに、彼女は今まで、碧斗を狙っていた。というよりかは、美里(みさと)を狙っていた様に思える。それだというのに、突然何故。こちらよりも美里の方を狙えばいいでは無いか、と僅かに考える。グラムの家の場所を知らないのか、あるいは。


「もしかして、兄ちゃんと同じ思考か?」


「貴方の、、お兄さん?」


「ああ。巽拓篤(たつみたくま)S(シグマ)だ」


「あら。貴方、、彼の弟だったのね、なるほど、だから、、ふふ。面白いわね、、でも、私をあんな人と同類にして欲しく無いのだけれど、、私のどこが同じなのかしら?」


「一人を狙う中で、その人を絶望させるため、周りの人に危害を加える事だ」


「ふふふ、だからさっきも言ったでしょ?私はそんな事はしない。その人を狙うって」


「なら、、俺を狙う様になったのか、?」


「まあ、相原(あいはら)美里。彼女が、貴方を意識している事には変わりはないけれどね」


「え、」


「あら?分からないのかしら?それとも、分からないフリ?」


「それは、、どういう、?」


「まあ、貴方がどう思っていようと関係ないわ。ここで、終わりにするもの」


「っ」


 美弥子は、そう放つと同時に手を下にやる。それに合わせて、水が窓から雪崩れ込む様に、碧斗に向かう。


「クッ!?」


 碧斗は目を見開く。これはマズい、と。


「ぐぼはっ!?」


「あらぁ、泳げないのね。可哀想、、辛いでしょう?この室内に、水が張っているなんて、、泳げないから逃げられないし、逃げ場もない」


 美弥子は水中で浮遊しながらバタバタと動く碧斗に微笑み、はぁはぁと零しながら頬に手をやる。


「...これなら、直ぐに終わりそうね。案外呆気ない最後ね、、でもそれもまた儚くて、現実的で良いわぁ」


 碧斗は必死に体を動かすものの、どこにも逃げ場が無く、ただただ意識が朦朧としていく。開いている窓からは、一定の量の水が永遠と流れ込んでいるため、その水は行き場を失い、どんどんと室内に溜まっていく。更に、部屋の入り口も美弥子に閉められ、完全に密室の状態。このままだと、ここで死ぬと。碧斗は必死に脳を動かす。だが。


「ぐぶっ!?」


 息が出来ないが故に、思考もまともに行えない。泳げないからこそ美弥子の元にも行けず、部屋から出ようと奮闘する事も出来ない。ただ浮かび、その場で苦しむのみである。更には水中。煙なんて放てるわけも無いだろう。そう思い、碧斗は僅かに考える。


 諦めを。


 いや、待てよ。


 先程、覚悟を決めたばかりでは無いか。

 ここで生き延びて、拓篤を覚えたまま、現実世界に戻るんだろ。

 碧斗は自身に問いかける。今出来なかった事を。現世で行うと。そう決めたんじゃ無いのかと。それを思うと共に。


「クッ!うっ!」


 碧斗は目つきを変えて体に力を込める。僅かな体力、意識。それを、「能力」にだけ集中し、それだけを放つ。


ーい、、けっ!ー


 碧斗は心中でそう掛け声を放つと同時。碧斗の体からは煙が放出される。水中で煙を出すのは難しい。だが、不可能というわけでは無い。外側からかけられる水の圧力を押し返して、煙の圧力を強めれば良いのだ。

 そう、やる事はシンプルである。ただ、水圧に負けないくらいの威力で、量で、煙を出す。そう碧斗は全身に力を入れて、とにかく煙を出すという事だけに集中する。と。


「っ」


 碧斗の周りから、煙が現れ、水中の空間を飲み込んでいく。


「水の中で、」


 それに美弥子が目を見開くと、同時。


「っ!」


 突如その煙は広がり、濃くなる。


「この感じ、、まさか、泡、?」


 煙を見据え、美弥子は零す。そう、煙を水中で放出させた事により、泡が発生したのだ。以前、水に沈められた一同が脱出出来た理由。それが、由紀(ゆき)による泡であった。それを思い出した碧斗は、この空間に泡を発生させて、僅かに息を繋ぐ方法を考えたのだ。それを察した美弥子は、それでもと煙に突っ込む。


「あら、こんなもので私から逃げられるとお思いで?」


 煙の中で美弥子が浮遊しながらそう口にする。煙の中の泡。その中の空気を吸うかの様に言葉を口に出しながら。


 だが、その瞬間、異変に気づく。


「おや、?」


 そう、どこを探しても、碧斗の姿が無いのだ。それに、美弥子は気づくと同時、目を見開き煙の中を突っ切ってその奥へと向かう。すると。


「っ!やっぱり、」


 美弥子は水を止めて、窓から外に出る。そう、先程の煙は窓まで続いていたのだ。まるで、そこから逃げるための道を作るかの如く。


「ふふ、これは一本取られたわねぇ、、本当の目的はこっちだったのかしら」


 美弥子は外で息を吐く。先程、煙を発生させると共に泡を出現させ、それによって息を繋げようとしたのだと察したがしかし、碧斗にとって、泡による息継ぎはその瞬間のみ出来れば良かったのだ。意識が朦朧とする中、少しでも一度空気を体に取り込むために。そして、彼にとっての一番の問題はそれ以上に泳げない事にあった。即ち、この場で戦っても不利であるのは一目瞭然であった。

 故に、少なくとも密室にはならない外で戦闘を可能にするため、碧斗は「煙の圧力」で外に飛び出したのだ。

 いくら水の中であろうと、その空間内で充満した水を押し出して広がるくらいの煙の圧力である。その威力があれば、泳げない碧斗もまた、それに押されて、流れによってそのまま外に出る事が可能なのだ。


「ふふ、、面白いわ、、そう遠くには行っていない筈だけれど、」


 美弥子は小さく宙を見上げ零すと、足を踏み出した。その、後ろ姿を見据えながら、碧斗はマーストの家の上で倒れ込む。


「はぁ、、はぁ、、な、なんとか、、上手くいけたな、」


 息を切らしながら、碧斗は仰向けになったまま空を見上げる。一か八か。そして、体力勝負の賭けであった。それでも尚、彼女から逃げる事が出来て良かった。

 だが、しかし。


「グラムさん、」


 碧斗は小さく口にする。彼女では無いのであれば、誰がグラムを、と。碧斗は目を細める。美弥子に関しては、どうやら見たところ美里達の居る拠点には気づいていない様子であった。どこかに居ると勘づかれても、場所の把握には至っていない様子だ。故に、碧斗が彼女を撒けば、皆に被害が出る事はとりあえず無いだろう。と、それに関しては問題は無い、が。


「とりあえず、、ここで考えてても仕方ない、戻るとするか、」


 碧斗はそう零すと、煙を使用して地面に戻り、グラムの家に戻ろうとする。


 が、その瞬間。


「っ!」


 突如、背後から手が伸び、それに気づいた碧斗は煙を膨張させてその威力で距離を取る。


「チッ、また逃したか、、やっぱ、気が張ってる時にやるもんじゃねーな、」


「っ!大内(おおうち)君、」


「逃げてるところを見かけたからな。お前一人みたいだったし」


「俺ならやれるって?」


「寧ろ、やられないとでも思うか?俺の能力とお前の能力、、相性悪そうだぜ」


「クッ」


 碧斗はじりっ、と。一歩後退る。彼の能力毒は、範囲攻撃も可能である。それを防ぐためには、壁や物を生成出来る能力者で無いと厳しいだろう。対する碧斗は煙の能力。毒を防ぐ事は不可能だ。


ー煙の圧力で押し出すか、?いや、毒の成分によっては、毒煙と同じものであれば俺にも耐性がある可能性もある、、奇跡的にそれが当たれば、でもー


 碧斗はそんな事を考えながらも、どちらにせよ正面からやり合うのは得策では無いと考え、手を構える。


「ほう、やるつもりになったか」


「まあな、」


「でも、終わりだ」


「っ」


 今だ、と。涼太(りょうた)が毒を全体に放出した、その瞬間、碧斗は煙を噴射して大きく距離を取り、そのまま向きを変えて、煙で飛躍しその場を去ろうとする。

 そう。確かに毒から身を守る事は出来ないが、逆に飛躍する事が可能なのだ。彼は飛躍の能力は無い。即ち、ただ距離を取ってしまえばと。そう思った。

 が。


「ふっ」


 それを見据えた涼太は、小さく微笑む、と。


「がはっ!?」


 瞬間、突如碧斗の体が全身震え、コントロールが効かなくなり、そのまま地面に叩きつけられる。


「ごはっ!」


 それに微笑みながら、涼太はゆっくりと近づく。


「残念だったな。お前が逃げを選択するのは予想済みだ間抜け」


「な、」


「言っただろ?お前が一人で逃げるところを見たって。お前、さっきまで何してた?」


「俺は、、秋山(あきやま)さんと、」


「そうだ。つまり、その間の時間、俺はフリーって事だろ?」


「っ!」


「俺はそのままお前を追ってここに辿り着いた。つまり、ほぼ同じタイミングでここに来たといっても過言では無い」


「って、、事は、」


「ああ。先にこの場一帯に毒を大量に出しといたに決まってるだろ」


「ぐはっ!?く、クソッ!」


 碧斗は、地面で転がりながら、もがいてそう放つ。


「ははは、動けないだろ?毒素で身体が麻痺ってんだよ。今回使用したのは、テトロドトキシンだ」


「よく聞くやつだな、、フグ毒か、」


「ああ、その通りだ。量が多いと死ぬけどな。安心しろ。そこまでの量は出してない。薄めたのを充満させた」


「そ、、そんな事も、出来るのか、」


「ああ。さっきSに言われたけどよ。毒の能力は、確かに"外に出ると操作が出来なくなる"。つまり、俺の支配下じゃ無くなるわけだな。だが、それが外に出る前であれば、いくらでも調整は可能だ。それに、相手に直接触って移動、伝染させた時も、細かな調整が出来る。あいつらが裏切った時に発動する毒みたいな感じだな。まあつまり、"体の中で毒を調合する"能力ってわけだ」


「だからって、、なんで、俺を、殺さなかった、?」


「ん?ああ、なんで薄めたかか?」


 涼太はそう返すと、碧斗の目の前でしゃがみ、見下す様にして放った。


「お前に死なれたら困るからだよ。だから、先に体を動かせなくさせた。神経を麻痺させてな」


「なんの、ために、」


「なんのためって、、ははっ、!分からないか?仲間の居場所を吐かせるためだよ」


「ハッ、俺が、、みんなの居場所を、言うと思うか、?」


「ふっ、今なら、どうかな?」


「え、」


「さっきの話、聞いたぞ。そしてそれを踏まえて見ると分かる。お前、この世界で生きる覚悟、決めたんだよな?」


「っ」


「その顔見たら分かったよ。本気で死ぬのが怖そうな、辛そうな顔してやがる。...なぁ、なら、そう簡単には死にたく無いんじゃねーか?」


「...」


 碧斗は口を噤む。確かに、彼の言う通りだ。だが、今現状、毒が体に入っている状態だ。彼が体から出た毒は支配下に無いが故に操れないというのを知っていたとしても、この距離に居るのだ。もし口を割っても、割らなくても、追加で毒でも出すに違いない。それ故に。


「それでも、今の俺に出来る事を、、全力でさせてもらうよ」


「ほう」


「今の俺に出来るのは、、黙秘、くらいだからな、」


「はぁ、、そうか。残念だ、、だが、まあ、お前をここに置いたのにはもう一つ理由があるし問題ない」


「もう一つ、?」


「ああ」


 涼太はそう頷くと、少しの間ののち、空を見上げ告げる。


「お前を餌にして、他の奴らを呼び寄せる事だ」


「っ」


 涼太がそう告げたと共にーー


「っ!」


 ーー碧斗と涼太の間に、刃の壁が出来る。それと共に周りには炎のカーテン。そして、碧斗の背後には、跳躍し着地した。


「お前、一人で勝手に動くなよ!」


大翔(ひろと)、君っ、!」


 (たちばな)大翔が居た。


 それを見据えながら、涼太はニヤリと微笑み手を前に出した。


「な?こんな風に」

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