284.規格外
「ごはっ!?」
突如上から大きな圧力が与えられ、碧斗達一同は地面に押し潰される形で攻撃を受ける。と、対する凛は、ニッと笑う。
「なんと素晴らしい仲間への思いだっ!だからこそ、俺の能力にいち早く気づく事が出来た。それもまた、ずっと近くで彼の能力を見て来たからに違いない。俺は今、感動しているよ」
「お前、、なん、で、」
「ん?何で俺がこの能力を使ってるかって?そりゃあ、彼が。佐久間進が、死んだからだよ」
「クッ、、違う、そうじゃ、」
「てめぇ、、何で能力二つ持ってんだよ、!」
碧斗が必死に起き上がろうとしながら放つ隣で、大翔は声を上げる。そうだ。彼は先程、岩の能力を使用していた。そして、更にそれと同時に空気圧の能力も使用していた。これは、一体どういうことだ、と。碧斗は目を細めた。
先程、彼は"俺の能力は空気圧"と言っていた。だが、岩の能力だとは言っていない。ならば、どこかで他の人物が岩の能力を使用しているのか、と。碧斗は周りを見渡す。が、その時。
「おいおい。質問していいって、俺言ったか?」
「クッ、てめっ」
凛は圧力で潰されていた大翔を圧力で持ち上げると、空中で固定させ、近づく。
「今、勝ってるのどっち?」
「は、?」
「はぁ、、勝ってるのはこの俺だろ?そして、お前は今成す術なくやられてる」
「はぁ、?この程度で、俺がーーごはっ!?」
凛は目の前にまで到達すると、手に岩を固めて彼を思いっきり殴る。
「ぐごはっ!?」
「「大翔君っ」」
碧斗と樹音は、身を乗り出し名を叫ぶ。と、対する凛は更に殴りを入れながら。
「おらよっと」
「ぐはっ!?」
背後から、岩の塊を突き刺す。
「負けてる奴が質問するべきじゃ無いだろ。もう少し、考えた方がいいな。タイミングだよ、タイミング。そして立場。今、君は俺に質問が出来る程の地位に居るのか?」
「て、、てめ、、ごはっ!?」
「殴られて、吹き飛ばされたいだろ?でも駄目だ。空気圧で、固められて、逃げられない。そうするとどうなる?その威力が。衝撃が。痛みが、分散される事なく自分に跳ね返ってくる。つまり、一番体にダメージがいく、最高の位置って事だな!」
「がはっ!?」
凛は爽やかに、歯を見せ笑いながら殴りを入れると、改めて一同に振り返る。どうやら、他に人物は居なさそうだ。もし仮に岩の能力者が別におり、その人がサポートしているのだとしても、これはいくら何でもタイミングが合い過ぎている、と。自分で生み出していない限り出来ないであろう動きに、目つきを変える。と。
「うーん、まあ、そうだな。気になる気持ちは分かる。意を決して言葉を捻り出し、仲間の能力を見た事により感情を出したその思いの強さに免じて、何故俺がこの能力を使ってるのか。それを教えやろう」
「はぁ、、はぁ、」
大翔は荒い息を零しながら朦朧とした意識の中、彼を見据える。そんな中、碧斗達もまた身構えると、それを聞き入れる。
「俺はな。ただ、彼らの能力がとてもいいと思った。だからこそ、彼らの能力にしたんだ」
「したって、、能力は、、一人一つじゃ無いのか、?」
「おい、俺はまだ話してるぞ?誰が割って入って良いって言った!?」
「がはっ!?」
凛はそう笑いながら突如声を荒げると、碧斗にかかる圧力を更に強めた。すると。
「でもまあ、それはいい質問だな。流れとしては丁度いい。せっかくだから説明しよう」
凛は碧斗に更に大きな圧力を与えながら、微笑み改める。
「能力は一人一つ。それは変わらない。誰もが平等に与えられた、転生者のルールであり、加護だ」
「加護、」
「そう。俺達の様な別世界の一般人が、この世界に来るに当たって与えられた魔力の塊」
「お前、、その事、」
「意外だったか?常識の範囲内だ。寧ろ俺は君達がそれを知っている事に驚きだけどな。さぞ、色々と頑張って調べたんだろうね」
「てめ、」
「そこでだ。俺に与えられた一人一つの能力を教えよう。...俺の能力は、"盗"だ」
「は、?」
「え、盗、?」
「盗み、、って、まさか、」
大翔と樹音が声を漏らす中、碧斗はそれを察して目つきを変える。と、それに凛は微笑み一同を見渡す。
「ああ。もう分かったか?俺の能力は他人の力を盗む能力だ」
「力を、、盗む、」
「ああ。こんな風になっ」
「「「「っ!」」」」
凛はそう告げると同時、辺り一面に煙を放つ。
「こ、これって、」
「俺の、、煙、?」
「ああ。驚いたか?さっき、お前の煙を吸収した。それを、そのまま返したって感じだな」
「な、、って事は、まさか、」
「ああ。力を奪うのは、何も能力だけってわけじゃ無い。こうやって、攻撃して来たものを吸収する事が出来るってわけだ。最高だろ?」
「なら、これも吸収出来んのか、?」
「ん?」
煙の中、拓篤がそう掠れた声で放つと、巨大なマントルの塊を彼に向かって放った。煙の中故に、ギリギリまで気づかなかった様で、凛が振り返ったその時には既に。
目の前にそれが迫っていた。が。
「おお、ありがとな。俺の能力の説明を手伝ってくれて」
「は、?」
凛はそう笑みを浮かべると、一瞬にして、その巨大なマントルは消える。
「なっ、」
それに、碧斗は目を剥き冷や汗を流す。これが、彼の能力。盗むとは名ばかりな、吸収の能力だ。先程、碧斗が煙で窒息させようとした時も、圧力を与えていた時も、ギリギリ生き延びる事の出来る様、煙を吸収していたのだろうか。
「マズいな、」
それが出来るのであれば、碧斗の煙の力は無力になると。そう思った矢先。
「じゃ、そろそろ消えてくれ。もう用無しだ」
「っ」
凛はそう笑って放つと、先程吸収した巨大なマントルを放つ。それに、拓篤が驚愕した、その瞬間。
「クッ、兄ちゃん、、ここで、終わらせたりなんて、させないっ、!」
碧斗は無理矢理体を起こして、煙を噴出し拓篤を回収すると、そのまま飛躍する。
「チッ、冷める事すんなよ。怠いな」
その様子を見据え、凛が小さく。低く息を吐くと、その時。
「っ!」
瞬間、背後に炎が放たれ、凛は瞬時に岩の壁を隔てて、それを防ぐ。すると。
「はぁ、、はぁ、」
「炎か。その体で起き上がるとはなっ。素晴らしいよ。こんなにも一生懸命にっ、頑張ってるんだな!」
凛は爽やかに歯を見せ笑い、振り返る。と、対する、手を前に出して近づく美里は口にする。
「あんた、、今、岩で防いだでしょ」
「ああ、そうだな。そうするとどうなるんだ?」
「本来なら吸収出来た筈なのにね。私の能力、炎であって、更には塊で吸収しやすい様に放ったつもりだったんだけど、、煙も吸収してて、炎を吸収出来ないとは思えない」
美里はそこまで告げると、冷や汗混じりにニッと微笑み付け足した。
「あんた、意識しないと吸収出来ないんでしょ?」
「ふ、はははっ」
「な、何がおかしいわけ、?」
「いやぁ、、なんかな。それで?そうだと言ったら、どうするんだ?」
「こうするに決まってんでしょ!」
美里はそう、凛の後ろを見据え笑みを浮かべると、声を上げ彼の周りに炎を生み出した。だが、それは一瞬にして吸収され、美里の目の前に瞬時に現れる。
「原理知ってんなら尚更今はマズいっしょ」
「ふっ、私は、このタイミングが一番だと思ったけどね」
「ん?」
美里は目の前の彼にそう微笑み告げると、その瞬間。
「うおらっ!」
背後から。大翔が腕にマントルのグローブを付けて殴りを入れる。
「相原のお陰で分かったぜ。お前の盗む能力は、意識しないといけない。つまり、逆を言えば不意を突きゃあいいって事だよな!それにっ」
大翔はそう放つと、吹き飛ばした凛に跳躍して近づくと、そのまま殴りを入れる。
「クッ」
「物理攻撃は、吸収出来ねぇよな?」
大翔はニッと微笑み低く放つと、そのまま彼を吹き飛ばす。
「っとぉ!おらおら、まだまだ終わんねぇぞ!」
大翔は空中でそう放つと、回転して、それに合わせて現れた刃に足を着きそれを蹴って彼に向かう。
が、しかし。
「おい」
「ぐはっ!?」
大翔が彼に向かった瞬間、まるで見えない壁にぶつかったかの如く、押し出される。と、その瞬間。
「あんまり調子乗んなよ?お前のステージじゃない」
「っ」
凛は腕に岩のグローブを。大翔のグローブの二倍以上の大きさで作り、そのまま殴り吹き飛ばす。
「ぐごはっ!?」
更には空気圧を含めたものだろう。大翔は物凄いスピードで地面に叩きつけられた。
「大翔君っ!」
碧斗は声を上げる。彼の能力で無ければ即死だろう。そう思いながら、歯嚙みする。このままでは、勝ち目は無いと。それを思うと共に、奥の方から衝撃が伝う。
ーっ、、まさか、拓矢君が、、クッ、、ここも、長くは持たなそうだな、ー
碧斗はあの二人にも追いつかれる未来を想像し、目つきを変える。と。
「あんまり調子に乗り過ぎるのは良くない。自分の立場。状態をしっかりと把握しないと駄目だ。それを理解した上で自分の身の丈に合った対応をしろ。そうすれば、こうして争いが生まれる事も無いだろ?」
「て、てめぇ、、どの口が、」
「っ」
凛が倒れる大翔に放ちながら近づくと。そんな彼に、炎の塊が向かい、今度は圧力でそれを鎮火する。と、それに気づいた凛は、それが放たれた方向へと振り返る。
「あー、そういえば。忘れてた」
「はぁ、、はぁ、あんたに忘れられても、、はぁ、何とも思わないけどね」
その振り向いた先。そこには、震えながらも懸命に手を前に出し強気に振る舞う美里の姿があった。そんな彼女は、続けて放つ。
「あんた、、吸収した能力はその一回分しか使えないんでしょ?」
美里の発言に、僅かに凛は目をピクリと動かす。が。
「な、、そ、それはない、、だろ、だって、岩とか、圧力とか、、ごはっ」
対する大翔が、その話に掠れた声で反論を口にすると、凛が圧力を強め向き直った。
「どうしてそう思った?」
「伊賀橋君の煙、他にも使える場面は沢山あった筈、、さっきの肉弾戦でも、あれは使えたと思うけどね。でも、あんたがそれに気づかないとか、使わないとは思わない」
「へぇ、なるほど。だが、それだけじゃまだ足りないな」
「なら、使ってみれば、今。私は今炎を放ったばかりだから、煙でも放てば膨張して吹き飛ばせるんじゃ無い?」
「おお、なるほど!流石だな。俺を試すための前置きだったか!」
美里の言葉に、凛が爽やかに笑うと、改めて放つ。
「ああ、その通りだ。俺の能力は能力を吸収し、それを一回だけ使える能力。まあ、吸収した分だけ使える。って言った方が正しいか」
「それなら、、なんで、っ、ごはっ!」
「お前らに教える義理なくね?教えたところで、何も意味はないだろ」
凛の言葉に大翔が怪訝に放つと、更に圧力を与えて振り返る。と、それと同時に、美里にも圧力を与える。
「ぐぅ!?」
「安心してくれ!俺は不平等が嫌いなんだ。ほら、おかしいだろ?誰かを殺したくせして、誰かを生かすなんてさ。お前ら、同じ悪人なのに」
「悪人、?」
碧斗が目を細める。
「ああ。逆に聞くが、お前らはSを悪とは認識していないのか?」
「あいつは、、悪だろうな、」
凛の質問に、大翔は冷や汗混じりに微笑み返す。と。
「そうだろ?なら、それを庇ってるお前も悪人だ」
「っ」
「だから言っただろ?俺は不平等が嫌いなんだって。あいつが全てを起こしたからあいつが悪いなんて、、そんなの、間違ってるとは思わないか?陰で隠れて、そいつ守ってたくせして罰せられないのは不平等だ。それこそ、平等で争いの無い世界なんて訪れない。だからこそ、俺は平等に全員を殺そう。だから安心してくれ。みんな、直ぐに現世に戻れる」
凛はそうニッと。爽やかに笑って告げた。
が、その瞬間。
「お」
周りからマントルが伸びて彼を包み込み、それを溶かしてマグマにした。
「「「「っ」」」」
それに、一同が驚愕し振り返ると、その先で。
「はぁ、、はぁ、話なげぇよ、、はぁ、これで、お前も終わりだ」
拓篤が、ニヤリと微笑み手を前に出した。
が。
「おっと、お前、人の話してる最中に攻撃って、度胸あるな」
「っ!」
凛は、拓篤の背後に現れると同時。
「いや、ただ馬鹿なだけかっ!」
彼の腕目掛けて回し蹴りをする。が、それに気づいた拓篤はマントルで腕を固める。
だが。
「ぐぶぁ!?」
蹴ったその一撃の衝撃によってーー
ーー拓篤の腕が、マントルごと吹き飛ばされた。
「があぁぁっ!?」
「と、じゃっ、まずは利き手一本。次はもう片方も、行きますか!」
それに崩れ落ちた拓篤を他所に、爽やかに凛は放ち、圧力でスピードを速めた。




