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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第6章 : こびり付いた悪夢(コシュマール)
281/299

281.風

「忘れられちゃ、困るよ」


「お前、」


「貴方は、」


拓矢(たくや)、君、」


「っ」


 目の前に、突如上空から落下する形で現れた拓矢は、裕翔(ゆうと)に手を向ける。その背後で、大翔(ひろと)美里(みさと)碧斗(あいと)樹音(みきと)はそれぞれ目を見開く。すると。


「俺は、お前の事を許したつもりは無いよ」


「え、」


円城寺(えんじょうじ)樹音。お前の事だ」


「...」


「...どうして、僕なの?」


「はぁ、覚えてないんだったね、、なら、話しても無駄か、」


 首を傾げる樹音の隣で、あの時の拓矢との会話を思い出し目を細める美里。


「へぇ〜、そういえば居たね〜。どこに居たん?」


「ちょっと、、手こずっちゃってね」


「なるほど。秋山(あきやま)を、、倒したのかい?」


「いや、俺にはそれは無理だ。だから、少しの間、また動けない様にしてきたよ」


「なら、それを維持しながら僕の前に立っているわけだね」


「なら余裕じゃ〜んっ!」


 香奈(かな)はそう笑うと、拓矢の居る場所を爆破する。が、しかし。


「っと、」


「うぇ〜っ!?そんなん出来るん!?」


 拓矢は地面に風を起こし、大きく飛躍する事によって、爆破を避ける。と、そのまま空中で手を前に出し、二人を大きく吹き飛ばす。


「っ!」「うぇへっ!?」


「っと、、とりあえず、強風で彼らは遠くへ飛ばした」


「あ、ありがとう、」


 着地した拓矢は、碧斗達に振り返り爽やかにそう告げると、一同は駆け寄る。その中で、樹音に向かって歯嚙みしたものの、とりあえずと。拓矢は切り替える。


「それよりもまず。彼らをいくら飛ばしたからって、戻って来るのも時間の問題だよ。だから、その隙にーー」


「あらぁ?たったそれだけで、私に勝ったおつもりで〜?ふふ、私を、止めたつもりになってたの〜?ほんと、可愛い」


「っ!」


 拓矢だけで無く、一同皆が驚愕し振り返る。そこには、水の柱が出来ており、その上空からゆっくりと落下する美弥子(みやこ)の姿があった。


「みんな揃って、勝ったつもりになってたのね、、可愛い、」


「ハッ、随分な余裕だな。俺らは六人でお前は一人だぞ?それでも、勝ったつもりになってるのが可愛いか?随分と自信があるみてぇだな」


「そうね、、確かに、数で言えば私が負けてるかもしれないわ。数で言えば、だけれど」


「いや、、数でも、同等だよ」


「「「え」」」「なっ」


 突如、拓矢がそう零すと、手を横に出し、隣にいた大翔を風で吹き飛ばす。


「がはっ、お、おまっ」


「え、」


 それに起き上がりながら声を上げる大翔。そんな中、樹音は振り返り拓矢の元へ行こうとするものの。


「クッ!?え、?こ、これって、」


 彼の背後に、まるで見えない壁があるかの如く、樹音は近づくと同時に押し返された。


「まさか、」


「お前、一人で行くつもりか」


 碧斗が目を細める隣で、拓篤が低く零す。それに、拓矢は前を向いたまま美弥子に足を踏み出す。


「君達は、、ここで死ぬべきじゃ無いって、思うから」


「あら?あの大災害を起こした相手を守るのかしら?」


S(シグマ)の事かい?守る、、つもりは無いよ。更に言えば、樹音。君もね」


「っ」


 拓矢は美弥子を見据えながらも、僅かに振り返りそう続ける。


「でも、だからこそ、彼らにはそれを償う義務があると、俺は思ってる。そうでしょ?碧斗君」


「っ、あ、ああ、、そう、だけど、」


「ごめん。さっき来る時にちょっと聞こえてたんだ。Sを庇う理由は、きちんと落とし前をつけさせるためって。俺も、そう思う」


「あら〜、カッコいい事言うのね。でも、そんなの意味ないと思うけれど」


 美弥子はそう笑うと同時。碧斗達に水の塊を放つ。が。


「「「「「っ」」」」」


 突如、彼らに到達するよりも前に水が弾け、消え去った。


「風で、、押し返したのか、」


「へぇ」


 美弥子は僅かに微笑むと、なら次はと。碧斗達の真上に直接水を生み出す。

 が。


「っ」


 それもまた、風によって分散される。


「俺が居る内は、絶対にみんなに触れさせない」


「ふふふ。いい目ね。みんなの為に前に出るって事かしら?」


「そんなカッコいいものじゃ無いけどね。ただの、自己犠牲さ」


 拓矢はそう告げると、振り返り告げる。


「ここは任せて、って、言いたいところだけど、、"俺が居る間"ってだけだから、、みんな、急いで逃げて。そう、"長くは持たなそう"だから」


「そ、そんなっ、そんな事出来るわけないだろ!?」


 碧斗はそう声を上げると、彼に駆け寄り、押し出される風の壁を抜けようと懸命に足を踏み込む。


「駄目だっ!秋山さん相手にっ、一人でっ、勝てるわけないっ!それにっ、他の二人だって、直ぐ戻って来るぞ!」


「そうだね。だからこそ、、早く逃げて欲しい」


「んな事っ!出来るわけねぇだろ!お前を置いて行ったら、寝つきが悪くなんだろうが!」


 碧斗の隣で、同じく大翔が足を踏み込む。強い風だ。気を抜いたら大きく吹き飛ばされてしまう程のそれ。彼は本気で、皆を逃がそうとしているのだ。それを見た、美里は口を開く。


「みんなの気持ちも分かるけど、、今は、逃げた方がいいと思う」


「っ!?お前っ、見殺しにしろってんのかよ!?」


「そんな事言ってないでしょ!?もしここでみんなで戦って、勝てる保証あるわけ!?」


「んな事っ、やってみねぇと分かんねぇだろうが!」


「命を削って、、私達を守ろうとしてくれてるんだよ?」


「だからってよ、!」


相原(あいはら)さんの気持ちも、、分かる、でも、、俺はもう二度と、あの時みたいな光景は見たくないんだ」


 碧斗は真剣な表情で美里に振り返る。(しん)沙耶(さや)を、思い出しながら。それに、大翔は目を見開き、樹音は目を逸らす。そんな中、美里は歯嚙みする。


「...それは、私だって一緒、、だけど、」


「お前らっ、伏せろっ!」


「「「「っ」」」」


 美里が零した、その瞬間。突如目の前からガトリングで撃たれたであろう数の弾丸が一同に向かい、それを防ぐために拓篤が手を前に出すと、マントルの壁を生み出しそれで防ぐ。


「クッ、、早いっ、!?」


 それに、拓矢は冷や汗混じりに零す。そう、彼の目の前で水を放つ美弥子の背後から。手を前にして地面からガトリングを出している裕翔が近づく。


「戻るのに時間がかかったけど、、揉めてるみたいで安心したよ」


「チッ、あいつ、」


「みんなっ!早く行って!みんな体力の消耗が激しい!一回逃げないと、絶対に渡り合えないよ!」


 その光景に、拓矢はそう声を上げると、葛藤する大翔と碧斗に美里は無言で頷く。と。


「クッ、ちくしょぉ!な、なら、俺だけでもっ!」


 碧斗が歯嚙みする隣で、大翔もまた悩みながらもそう声を上げる。と、その中で。


岩倉(いわくら)君、、もしかして、死ぬ気なの、?」


 樹音が小さく、零した。


「死ぬ気なんて無いよ。俺は君を許してないからね」


「うん、、そうだよね。そうだよ、、だから、絶対死なないで。僕は、ちゃんと向き合いたい。君が僕に抱いている怒りの理由、元凶を。しっかりと、受け止めたいんだ。だから、絶対だよ」


「はぁ、ほんと、嫌な奴だね。君は」


 拓矢は息を吐いて、前を向きながらそう口にすると。


「まずは自分の事、考えな」


 とだけ告げ、風で更に皆を吹き飛ばした。


「「「クッ!?」」」「きゃっ!?」


「早く!行って!」


 拓矢はそう言いながら、飛びかかる美弥子を避けながら、飛ばされる水を風で吹き飛ばし、それに追撃を行う裕翔の弾丸を風で飛行し避ける。


「ふふふ。逃げられるかしら?」


「邪魔だよ。さっさとみんなのところに行かせて欲しいな」


「行かせるつもりは無いし、逃げるとも一言も言ってないよ。俺は、ここで終わらすつもりだ」


「それは、どちらの意味かしら?」


 水を風で避けながら、美弥子にそう告げると、対する彼女は笑みを浮かべながら水の柱から水を更に伸ばし、彼の元へ一瞬で移動する。


「クッ!?」


 それに冷や汗を流すものの、拓矢は持ち堪えながら後ろの拓篤に目をやる。


「S。俺は、君を許さない」


「っ」


「円城寺樹音と同じくらい、俺は君を許せないと思ってる。だから。だからこそ、、生きて。ちゃんと、償ってくれ。絶対にだよ」


「はぁ、、言われなくても、そのつもりだっつーの」


 拓篤はそう息を吐くと、仕方ないと。


 マントルで巨大な壁を作る。


「っ!おいてめぇ!なんで壁なんて作った!?」


「お前ら。あそこであいつらと戦って勝てるとでも思ってんのか?」


「勝たなくてもいいだろ!拓矢一人の運命が、変わるかもしんねぇんだぞ!?」


「共に逃げると、そう言いたいのか?」


「ああ!」


「それは無理だ」


「は、?」


 拓篤は、振り返り大翔を真正面から見据え告げる。


「残念だが、世界はそう出来てるんだ。理不尽で、絶望的で、腐っている。それは、向こうの世界も、この世界も同じ。悔しいが、、今の俺たちに、あいつらを止められる力は無い。あいつらから逃げる事すらもな」


「クッ、てめぇ!」


「大翔君、」


「なっ!?」


 大翔は、歯嚙みし拓篤に寄るものの、間に碧斗が入る。


「く、悔しいけど、、これは兄ちゃんの、言う通りだと思う、」


「碧斗っ、お前までっ、」


 大翔は、そう声を上げながら、周りを見渡す。他の皆もまた、表情を曇らせ、無言を貫いていた。その姿に、大翔はそれを察し、拳を握りしめると、厚いマントルの壁に向かって。


「ぜってぇ、、死ぬなよ、」


 と小さく零し、踵を返した。


 そんな言葉をマントル越しに背中で受けながら、拓矢は改めて美弥子に向かう。


「これで、君達は簡単に向こうにはいけなくなったね」


「ええ。まあ、それも長くは続かないでしょうけど」


「随分と自信があるみたいだね」


「明らかに勝つのが分かっている相手だから、顔に出てたなら申し訳ないわ」


「今更っ、遅いと思うけどっ、!」


 拓矢はそう告げると、またもや風を全方向から放ち、押し付ける。


「あら、同じ攻撃?」


「同じかもしれないけど、これが一番長く時間を稼げるからね」


「時間を稼ぐ事が目的なのね?」


「それは分からないな」


「強がっちゃって」


 美弥子はそう告げると、大量の水を降らせて彼を溺れさせようとする。と、その中で。


「はぁ、君とは、戦いたく無いんだけど、、退いてくれないかな」


「ごめんね、、でも、ここで彼を殺させるわけにはいかない。ここで殺してしまったら、彼の記憶は。ここで気持ちを入れ替えたそれが、消えてしまうから」


 拓矢は風で水を避けながら、奥で銃を構える裕翔にそう告げる。と。


「はぁ、そうか、、残念だよ」


 裕翔はそう零し、引き金を引く。


 と、その瞬間。


「あーっ!なんかもうやってんじゃん!マジズルい〜!」


「っ」


 突如、彼が銃を撃つと同時。その場には大きな爆破が起こる。


「ぐはっ!?」


鈴木(すずき)さん。ちょっと危ないよ」


「えぇ〜、それくらい避けてよ〜。てか、鈴木さん言うなし」


 爆破によって起こった煙の中。裕翔は自身の周りに鉄の壁を作って回避した様で、それを解除すると共に隣に現れた香奈に放つ。


「はぁ、僕じゃなかったら死んでたよ」


「べっつに〜?死んでても何でもいいし〜」


 香奈は、そう息を吐くと、対する美弥子もまた、上空で水を固めており、その後その中から顔を出す。


「あら〜、今のは刺激的だったわぁ〜」


 顔を赤らめ、彼女は嬉しそうにそう放つと、同時。そんな三人に暴風が襲う。


「「「っ」」」


「はぁ、、ほんと、みんな、凄いなぁ、、君達、仲間じゃ無いの、?」


 そんな暴風の中心。爆破の威力を風で防いでいた拓矢が、ボロボロになりながらも立ち上がる。


「仲間?別にあーしら仲間になったつもり無いし。てかなんなら敵ってーか?上手い事いけば両方殺してもいいかな的な?」


「随分と直球な物言いだなぁ、、はぁ。それよりも、君の方こそ、大丈夫?限界に近い様に見えるけど、、僕は退いてくれさえすればいいんだけどさ」


 裕翔は呆れた様に頭に手をやり口にする。その目の前に居る拓矢は、爆破による威力の軽減は出来たものの、その火力などには対応出来ないのだ。故に、それ自体のダメージに関しては、そのままのダメージを受ける事となる。

 故に、拓矢は既に限界であった。

 だが、しかし。


「ふっ、」


 拓矢は小さく微笑み、真剣に皆に告げた。


「退くつもりは無いよ。俺は、最後までっ、俺であり続けたいからっ!」


「ふふふ。カッコいいわね。なら、自分らしく死ぬのもまた、美しい終わり方だわっ」


 美弥子はそう告げると、大量の水を降らせる。それを拓矢は集中して自身の上空に風の傘を作り上げ、自分にだけ雨が降らない様に調整しながら跳躍する。


「絶対っ!先には行かせない!」


「あら」「ん」「うわっと!?」


 拓矢は空中でそう口にし手を前に出すと、美弥子、裕翔、香奈がそれぞれ強風によって動けなくなる。そう、まるで重力がかかっている様に。


「一人一人に個人的に風を与える事が出来るのか、、面白いね、それ」


「ふふふっ、これで、私を止めたつもり?」


「止めるだけで、終わりにするつもりはないよっ!」


 美弥子はそう微笑むと、留まったその場で拓矢に水の塊を勢いよく飛ばす。それに彼は風で飛躍しこちらもと、強い圧力を込めた風を凝縮させて、その塊を飛ばす。


「あら?」


 それによって、飛ばした水は切り刻まれ、消えていく。と、そんな中。


「あーもうっ、めんどくさいなぁ!これで終わりっ!」


「っ」


 香奈はそう声を上げ、拓矢を爆破させるものの、その煙の中から同じく現れる。


「えぇ〜!?これマ!?どうなってるん、?」


「マジだよ。俺は、はぁ、絶対、、倒れ、ないっ!」


「ガチやばじゃん、」


 拓矢は風で爆破の直撃を避けながら、その爆風を調整して最低限の被害で収まる様に能力を調整していく。だが、美弥子の水。そして香奈による位置指定型の爆破。


ー読めない、ー


 拓矢は奮闘するものの、爆破に巻き込まれては起き上がり。それでもその先で水が直撃し腕が抉れ、大きく吹き飛ばされる。それを、何度も。何度も耐えながら、拓矢は懸命に起き上がって皆を逃すために時間稼ぎをする。


「絶対っ!」


 拓矢は半ば気合いのみで、皆を風で抑え込む。それに美弥子は嬉しそうに震え、香奈はいい加減にしろと怒りを見せる。

 そんな中。


「はぁ、そろそろゲームオーバーだ」


 ずっと何もせずに見ていた裕翔がーー


 ーーそれを口にすると同時に、彼の着地する先に尖った、巨大な針の様なものを生み出し。それに。


 拓矢は、突き刺さった。


「がはっ!」


「タイムアウトだね」


 それを見届けた裕翔はそう告げ手を前に出すと、それと共に。

 拓矢に突き刺さした針に、更に七本の棘が様々な方向に突出し、全てが彼を貫通した。


「ごはっ、!」


 意識が途切れる拓矢は。


 皆が無事であってくれと。ただそれだけを、思った。


            ☆


「はぁ、はぁ、はっ」


「はぁ、はぁ、」


「け、結構、走ったな、」


「碧斗君、、大丈夫、?」


「あ、、ああ、なん、とか、」


 一方の碧斗達はまた、皆から逃げるために、ただひたすらに走っていた。皆が疲れを見せる中、誰よりも普段体力の無い碧斗に不安の色を見せる樹音だったものの、甘えている暇はないと。そう碧斗は改め懸命に走り出す。

 早く、とにかく早くここから離れなくては。轟音が鳴り響く度に、皆は進める足の速度を弱める。だが、振り返るわけにはいかないと。拳を握りしめ、目をギュッと瞑り、前を見て走り出す。

 拓矢が、覚悟を決めて作ってくれたこの時間。それを無駄には、絶対しない。


「はぁ、はぁっ、もう少しだっ、!」


「ここら辺から、道が戻ってきてんな、、お前が直したのか?」


「俺が直せると思うか?元々、道が破壊されて無かったんだろうな」


 大翔が口にすると、拓篤はそう低く答える。それに、碧斗は目を細めた。街中を歩くと実感する。先程の行動が、どれ程大きなものだったのか。拓篤は、どれくらいの被害者を出したのか。あの場では分からなかったものの、こうしていつも通っている道を歩くと、自覚する。

 道は割れ、家は崩れ、原型の無いものも存在していた。


「グラムさんは、、無事だと良いけど、」


 碧斗は小さく零す。マーストの家も、離れているとは言えども攻撃範囲内だ。いくら王城近くだとはいえ、転生者がそこまでガードするとも思えないし、国王もまた、王城のみの対応だろう。故に、碧斗のみならず、拓篤を除いた一同全員がそれを思う。と。


「とりあえず、まずグラムさんの家に向かうって感じで、良いんだよね、?」


「ああ。一回グラムさんの家で回復する。それで体力が回復したら、」


「え、、嘘、戻るわけ、?」


「...」


 樹音の促しに、碧斗はそう答えるものの、それに美里は怪訝な表情を浮かべる。いくら回復が出来たとしても、あそこに戻るのは危険だろうと。そう思う気持ちと、あの日、拓矢と話した時のことを思い返し葛藤する。彼を、見殺しには出来ない。かといって、その後から間に合うとも思えない。そんな事を、頭を押さえ考えていると。


「俺も、、不安だよ、」


「え、」


「でも、、助けには、行きたいんだ。偽善かもしれない。自己満足かもしれない。それでも、あのまま終わりなんて、、俺は嫌だ。少なくとも、俺は」


「...伊賀橋(いがはし)君、」


「ならっ!とにかく早く行かなきゃだな碧斗っ!それならグダグダしてらんねぇぞ!?急いで、回復しなきゃだからな」


「っ、、うん、そうだな!」


 大翔の促しに、碧斗は目を見開くと、ニッと微笑み頷く。それに、皆もまた頷くと、足を早める。


ー待っててくれっ、!拓矢君っ!絶対にっー


 碧斗は、そう強く思いながら進む。


 が、その瞬間。


「ごはっ!?」


「「「「っ!?」」」」


 突如、拓篤が口から血を吐いた。


「兄ちゃん!?」


「おまっ!?」


 そう。突然、地面から尖った「それ」が突き出て、彼を貫いていたのだ。


「ごはっ、」


「嘘でしょ、」


「一体、、誰が、、っ!」


 それに、どこから襲撃されたのかと周りを見渡しながら拓篤に近づく。と、それと同時に、碧斗は気づく。


「え、?」


「どうし、、え、」


「これって、」


 目を剥く碧斗の背後から、美里や樹音もまた目を見開き近づく。どうやら、分かった様だ。


 そう、拓篤を突き刺した、この尖ったものはーー


 ーー"岩"、だったのだ。

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