280.贖罪
「なっ、マズいっ、!」
碧斗は瞬時に煙の圧力で勢いをつけると、そのまま大翔を回収して落下した鉄の塊を避ける。
「はぁ、、はぁ、だ、大丈夫か!?」
「ああ、、なんとかな、、でも、ヤベェ状況じゃねーか、?もう、戦う力、ねぇぞ、?」
大翔は冷や汗混じりにそう返す。それに、碧斗もまた目を細める。拓篤との戦闘によって、皆体力は限界であった。拓篤でさえ、マントルを安定させるので精一杯だ。
「逃げないとマズいな、」
「流石にあれでは殺れないか。残念」
「てめぇ!突然何しやがるんだ!?」
「言っただろ?僕は君達と共闘するつもりは無い。ただ、君達が居なかったから、君らよりも害をもたらす存在、Sを狙ってただけだよ」
「クッ、」
「ま、彼を庇おうとどうしようとも、どちらにせよ君達を殺すつもりではあったけどね」
裕翔はそう告げると同時、手を前に出し先の尖った鉄の塊を放つ。
「っ」
それを避けようと煙の向きを変えるものの、それもまた瞬時に向きを変え、追尾する。その速度に、碧斗は目を見開く。体力の限界が近い碧斗には、避けられないと。そう、思った矢先。
「っ」
カキンと。
どこからか放たれたそれによって、鉄の塊は弾かれる。
「これって、」
そう。それはーー
「碧斗君っ、はぁ、大丈夫!?」
ーー刃であった。
「樹音君っ!大丈夫だったのか!」
「なんとかね、、少し離れたところに居たから、、遅くなってごめん」
「いや、寧ろ完璧なタイミングだ。助かった」
樹音は、刃の足場を作り、碧斗達の元へと近づく。と、彼は拓篤に気づき目を見開く。
「っ、、説得、出来たんだね、」
「まあ、完全にでは無いけどな、」
碧斗はそう息を吐いたのち、目つきを変える。と、大翔が割って入る。
「それを完全にするための時間は、、残念ながら取れなさそうだぞ」
「マズい、、状況だね、」
樹音もまた、同じく"どう逃げるか"を考える。が、しかし。
「どう逃げようかな、、って、考えてるね」
「「「「っ」」」」
裕翔が小さく零し、皆は目を剥く。と、共に。
「っ、嘘だろっ」
一同の背後に、鉄の壁を作り出し行く手を阻む。
「さぁ。どう逃げる?」
「クッ、マズいな、」
「俺が、、相手しよう。元々は、俺が蒔いた種だ」
「それは駄目だ。兄ちゃんには、ちゃんと罪を償ってもらう。それだけで、この世界への降伏になると思うな」
「ハッ、随分とデケェ態度だな」
拓篤が小さく微笑みそう零すと、碧斗は目つきを変える。相手は裕翔と香奈。構築の能力と破壊の能力だ。こちらの体力を考えると、明らかに分が悪い。時間稼ぎでさえ、正面から戦ったら不利である。故に、碧斗は樹音に近づき耳打ちをする。
「え〜?なんそれナイショ話〜?気になるんですけどぉ!」
「させねぇよ!」
香奈はその行動にそう声を上げると、一同を爆散しようとする。が、しかし、それを察した大翔は碧斗の腕から飛び出すと、樹音による足場を伝って彼女を殴る。
「ごはっ!ってぇ〜、女殴るとか最低なんですけどぉ」
「ハッ、爆破しておいてよく言うぜ」
「飛べもしないのに来た勇気は認めよう。というよりは、そこまで考えてないのかな?」
「っ」
裕翔が零すと、空中に鉄が現れ、大翔を捕える。
「大翔君っ!」
「碧斗っ、!気にっ、すんじゃねぇ!早くっ」
大翔の体を鉄の塊が締め付ける中、掠れた声で放つと、碧斗は歯嚙みしたのち。
「樹音君っ!頼むっ!」
と掛け声の如く放つ。すると。
「まかせてっ!」
「おっ、やる気〜?」
樹音は剣を生成しそれを掲げると、その周りの空中に大量のナイフが生成され向かう。それに、香奈が微笑んだ瞬間。
「そんなにやっても意味ないんですけど〜っ、どっか〜んっ!」
香奈は笑みを浮かべ手を上げると、それに合わせて、ナイフが彼女らに向かう途中で爆散する。
「量多くしてもマジ意味無いし。こっち爆破だよ?分かってる〜?」
「分かってると思うよ」
「え?」
香奈の発言に、裕翔がそう零すと、その瞬間。
「寧ろ、それ狙い、かもね」
爆破した事で生まれた煙が、更に濃くなる。
「あいつっ」
そう。爆破によって発生した煙を碧斗が更に濃くし、その直後、その中から。
「っ」
大量のナイフが向かう。
「クッ」
「なるほど、という事は」
それに香奈が歯嚙みする隣で、裕翔は何かに気づいた様に口を開くと、周りに鉄を生み出して今度は自身を包み込む。それによって、大量に向かってくるナイフを防ぐと同時。
「おっ、それマジ助かる〜っ!」
香奈はそうニッと微笑むと、自身から大きく爆破を起こした。
「っと〜っ、能力耐性あるからあーしは無事だけど、周り巻き込むからマジだるいんだよね〜これっ!て事でっ、今度は外さないよ!」
鉄を解除する裕翔の隣で、香奈が笑みを浮かべると、煙の中に向かって爆破を行おうとする。
が、しかし。
「それが、ただの攻撃だと思った?」
「ん?」
「えっ」
煙の中、樹音がそう笑みを浮かべ返すと同時。裕翔は鉄を解除した事により。香奈はハッと周りを見渡し気づく。
そう、先程大量に放ったナイフが、空中に止まっている事に。
「まさか」
その一瞬で、裕翔は察するがしかし。もう遅いと言うように、樹音は手を前に出し握る。と、先程の裕翔の鉄の如く、空中に留まったナイフは形を変え、それが繋がり、刃の大きな壁を作り出し、二人を包み込む。
「あ〜、そゆこと」
「時間稼ぎだろうけどね。無駄な足掻きだよ」
裕翔はそう微笑むと、先程同様鉄の鎧を作り自分を覆い隠すと、香奈は爆破を行って周りを囲んでいた刃の壁を吹き飛ばす。
「ざんね〜んっ、数秒も持ちませんでした〜」
「数秒は持ったんじゃないか?」
「はぁ〜?萎え〜、いいじゃんノリで。釣れないなぁ。オーラ感じてよ」
香奈が項垂れる中、裕翔は目の前の煙を凝視し目を細める。まるで何かに、気づいた様に。
「あの、一瞬で、?」
「ん?どした?」
首を傾げる香奈を他所に、裕翔は銃を作り上げ煙の中に発砲する。すると、それにより。
「っ、やっぱりね」
「はぁえ!?ど、どゆこと!?」
煙は薄れ、その中には既に碧斗達の姿は無かった。
「さっき、俺の能力に違和感があった。遠隔で感じる能力では無いが、なんとなく分かるもんだな」
裕翔はそう言いながら、奥にあった鉄の壁まで移動し見上げる。と、そこにはーー
ーー人が入れる大きさの穴が、開いていた。
「なんこれ、」
「向こうにはSが居るんだ。何も不思議な事は無いよ。彼の能力なら、余裕で鉄なんて溶かせるだろうからね」
裕翔はそう言いながら、マズいのは連携の方だと、目を細める。あの一瞬で碧斗は逃げる方法を考え、それを実行出来そうな人をまとめて作戦を話した。そして、その間、そちらに気を向かせない様に我々の方に一人接近し、碧斗の作戦通りに他の二人は動いた。
「長らく一緒に戦ってるわけだからな、、流石と言うべきか」
裕翔はそう零すと、改めて香奈に向き直る。
「とりあえず、遠くには行ってない筈だ。僕が鉄の能力に違和感を覚えたのはほんの少し前。移動出来ても数メートルだ」
「なら、今から行けば間に合うくね?」
「そうだな。まずは、先回りしようか」
裕翔はそう言うと、二人で歩きながら鉄の壁を解除し抜け出す。と。
「彼らは一人、逸れているメンバーが居た。相原美里だ。行くとしたら、彼女の元に行く事だろう」
「え〜、それって先回りして待ち伏せするん?でもそこに居るのが相原って、、自分が先回りしたいからじゃね?」
「僕は僕の目的がある。だからこそ、僕は僕の最善の行動をするよ。それに乗るか乗らないかは僕が言えた話じゃ無い。君もまた、好きな様に動いてよ」
裕翔はそう笑みを浮かべると、改めて飛び出す。それに、香奈は「りょ〜」と軽く返すと、同じく飛び出したのだった。
☆
「は、はぁ、はぁ、はぁ、」
「相原さんっ」
「い、伊賀橋君、、っ!あ、あんたっ!?」
「そう身構えるなよ。俺が能力戻してんの、熱エネルギーを察知出来るお前なら分かるだろ?」
「え、それって、」
「なんとか、、話は出来たんだ、、でも、ちゃんとした話は、、って、それより、、相原さん、、それ、」
「え、?あ、そう、、そういえば、私、毒喰らって、死にかけてたの」
「「え、」」
「涼太にか!?」
「そう、、でも、さっき眼鏡の奴が来て、、そいつは逃げて、私に、解毒剤を、」
「え、、眼鏡の奴って、」
「まさか、」
「ど、どうなってんだ、?」
数百メートル先に居た美里の元に碧斗は浮遊しながら近づくと、彼女は抱えた拓篤の姿に目を見開く。だが、それよりもと。美里は肌が僅かに溶けている様な姿になっており、それに碧斗と樹音、大翔が慌てて返すと、美里は先程の光景を思い出して放つ。
「その眼鏡の奴って、前に車を出した、?」
「そう、、何だけど、」
「とりあえず話は後にしねぇか!?」
「そ、それもそうだね、、まずは早くここから離れないとっ、相原さんっ、来て!」
碧斗はそう言うと、美里もまた抱え、飛躍しようとする。が。
「クッ!?さ、流石に三人はキツいか、」
「僕が足場を作って、、なんとかならないかな、?」
「そう、、だな、分かった。大翔君も、一緒に行ってもらっていいか?」
「あ?別にいいけど、何でだよ」
「多分、あのメンバー的に樹音君の足場は直ぐ崩されると思う。だから、俺が時間を稼ぐ。いや、俺と、兄ちゃんで」
「っ」
「おい、なんで俺が、」
「落とし前はつけるんだろ?」
「はぁ、そうだけどよ、」
「僕が君達二人に一杯一杯になるって?」
「「「「「っ」」」」」
突如、背後から彼の声が聞こえる。それに、皆は目を見開くと、冷や汗混じりに振り返る。
「マズいっ、みんなっ、早く行ってくれ!」
「残念。もう遅い」
裕翔はそう放つと、手を上げ、走り出す樹音達の進む先に鉄の壁を作り出す。が、その瞬間。
「させるかっ!」
碧斗が煙を出し視界を奪うと、拓篤が振り返りマグマで鉄を溶かして道を作る。
「あんた、」
「っ、お前、やるじゃねーか」
「いちいちうるせぇ。行け」
美里と大翔が驚きに目を見開く中、拓篤はそう息を吐く。が、対する裕翔が深く息を吐く。
「はぁ、、二度も同じ手は通用しないよ」
「っ」
裕翔はそう放つと、一瞬にして溶かされた壁を戻す。それに、向かっていた樹音、美里、大翔が驚愕する中。
「チッ、ギリギリに溶かす!その一瞬で出ろ!」
拓篤はそう声を上げ、タイミングを見計らう。
「そろそろだな」
と、一同が壁の前にまで到達したその時。拓篤は同じくマグマを放った。が、刹那。
「なっ」
そのマグマが向かう先に、突如新たな鉄の壁が生まれる。
「クッ」
が、それだけでは終わらず、新たに出来た壁と、先程の壁。その間に居る三人を押し潰す様に、二つの壁が動く。
「え、、これ、動いてない、?」
「嘘、、けほっ、こんなのっ、げほっ、動かせるわけ、?」
「クソッ、瞬間的に溶かすしかないかっ、!碧斗っ!もう少し耐えろ!」
拓篤はそう放つと、皆が潰されるその瞬間、鉄を溶かして皆を脱出させる。が。
「グッ!?がぁっ!?」
「クッ!?うっ、!?」
「ひっ、ぐっ!?」
瞬間的に溶かしたが故に、皆にもまた、僅かにその火の粉が飛んでいた様だ。皆がそれぞれ苦痛の表情を浮かべる中、拓篤は彼らに近づきながら歯嚙みする。
「俺が先に壁を作るしかないかっ、」
拓篤はそう零すと、皆と同じ位置に入ると、一同を包み込む様に生み出される鉄の中。マントルの壁を内側に作り出しそれを防ぐ。
と、対する裕翔は煙の中、笑みを浮かべる。
「お、なるほど。そこだな」
「っ!マズいっ!?兄ちゃん!?早くっ、逃げーー」
「おっ、って事はそこだねっ!じゃっ!」
碧斗が冷や汗混じりに振り返った。その時には既に。
「っ」
割って入った香奈によって。
マントルの内側を爆破した。
「みんなっ!?」
「気を抜いたね。碧斗君」
「っ」
碧斗は、爆破によって砕けるマントルを見据え、声を上げると。それによって煙が僅かに薄まり、裕翔はニヤリと微笑むと。
彼は碧斗の背後から。
「さようならだ」
「っ」
ーー生み出した拳銃で撃つ。
「がはっ、!」
「ん、?ギリギリ避けたか」
それに対し既のところで避け、掠っただけで済んだ碧斗は尻餅をつく。だが。
「が、がぁぁぁぁっ!」
碧斗は腕を押さえる。元々心臓を狙った一撃であった。故に、避けたとしても腕には直撃していたのだ。
「クッ、うっ、どうしてっ、どうして相原さんに解毒剤を渡したんだっ!?」
「勝手に死なれるのは困るからだよ」
「があっ!?」
裕翔はそう告げると、更に碧斗の足を撃つ。それに、冷や汗混じりに振り返り。
「スッ、スモークミストッ!」
碧斗は撃たれた左腕を押さえながら、懸命に煙を出し逃げる。その先は、先程まで皆が居た場所。
「はっ、はぁ!はぁ!みんっ、なっ」
「い、伊賀橋、君、」
「相原さん、っ!」
「碧斗、、無事、か、」
「っ、大翔君っ」
その先で倒れ、掠れた声で懸命に放つ美里と大翔に出会い、碧斗は息を吐く。と。
「あ、碧斗、、君、」
「チッ、危なかったな、」
「樹音君、、兄ちゃん、、みんな、無事、だったんだな、」
そこには、全身に傷を負い、ボロボロになった一同が居た。と、それに。
「あいつ。鈴木香奈ってやつ。爆破を行う座標を指定して爆破してるみたいだな。俺がマントルで覆ってても的確に爆破してきやがった」
拓篤は歯嚙みしながらそう零すと、冷や汗混じりにニヤリと微笑む。
「まあ、その中に二重にマントルの層があるのに気づかなかったのが敗北の原因だな」
拓篤はそう告げ立ち上がる。どうやら、先程のあれも大体の場所を把握し、現在皆が集まって壁を作っているという情報だけで爆破を起こしたという事だろう。座標指定故に見えない所でも爆破は可能だが、見えない部分はあくまで想像して座標を指定しなくてはいけないのだ。故に、"見えないところで細工"をしておけば、と。
拓篤はそう告げる様に笑う。だがしかし、マントルの壁を二重にしていたのにも関わらず、爆破によって皆ボロボロになっている。これを直接食らった時の様子は、考えたくもない。
「おっ!すっご!まだ生きてんじゃん!」
「これで死なれても困るからね」
「そん時は敵って事でおけ?」
「君がそう言うならな」
皆が倒れているところに向かいながら、裕翔と香奈はそれぞれそう放つと、能力を起動する。
「これで終わりだ。S」
「お前ら俺狙いかよ、」
「ま、待て、、兄ちゃんが今死んだら、この星はっ」
「どちらにせよ破滅するだろうからね。Sを殺して、僕が作り出す新たな世界で皆は暮らす。それが一番の解決策だ」
裕翔はそう言うと鉄の塊を上から降らせ、皆を捕獲しようとする。
が、その瞬間。
「「「「「っ」」」」」
突如、強い風が吹き、一同はそれによって吹き飛ばされ、その鉄を避ける。と、吹き飛ばされた先。倒れる碧斗達の前に。
「「「「「っ」」」」」
「おお、君か。忘れてたよ」
「忘れられちゃ、困るね」
岩倉拓矢の姿が、あった。




