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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第6章 : こびり付いた悪夢(コシュマール)
275/299

275.罰

「は、?鈴木(すずき)、、恭介(きょうすけ)、?そ、それって、まさか、」


 美里(みさと)は、涼太(りょうた)の放ったその名に、顔を顰めた。


「...円城寺(えんじょうじ)君の、、友達の、」


「おお。流石の記憶力だな。あいつから直接聞いたのか?」


「...あんたが、いじめてたって人でしょ」


 美里は、鋭い目つきで涼太を見据えると、低くそう告げた。


「いじめてた、、まあ、彼からすれば、そうなるだろうね」


「何言ってるわけ?自分の事正当化しようとしてる?相手がいじめだと感じたらそれはもういじめなの。あんた、人に散々処罰をとか言ってるけど、あんた自身が、一番処罰を受けるべきなんじゃないの?」


 美里は、歯嚙みし強く放つ。許せなかった。あの話を聞いた時から、涼太の事が。その思いを、そのまま。彼本人に告げた。だが、それに涼太は鋭い目つきを返しながら、同じく低く告げた。


「まあ、そうかもな。それくらいの、覚悟は出来てる」


「は、?」


「言っただろ?俺は鈴木恭介に復讐しようとしてるって。俺は、あいつに復讐出来るなら、処罰を受ける覚悟がある」


「その人が、、一体何をしたわけ、?」


「...そうだな、、正確には、彼は何もしてないよ。だから、彼は巻き込まれた被害者さ」


「は、?何言ってるの?」


「正確には、鈴木恭介の、"兄"に、復讐しようとしてんだ」


「兄、?」


「ああ。恭介の兄。鈴木俊介(しゅんすけ)。あいつに復讐するため、俺は処罰を受ける覚悟で、全てを始めたんだ」


 涼太は拳を強く握りしめながらそう放つと、立ち上がる。それと共に、美里は炎を止める。


「...いいのか?そんな事して」


「...あんたも、、さっきから毒を出すの止めてるでしょ?」


「...」


「本当は、、聞いて欲しいんじゃないの?」


「...チッ、知った気になんなよ」


 涼太はそう小声で放つと、そののち。


「お前にっ!俺の何が分かるんだよ!」


「っ」


 涼太はそう声を荒げると同時に、全方向に毒を広く放った。それに、美里は驚愕しながらも、跳躍して後退ると、数百メートル先で口を塞ぎ小さく息を吐く。


「どうやら、、話し合いは無理そうね、、ほんと、遠くになればなるほど、毒が薄れてくれるのが救いね」


 美里はそう零すと、足を踏み出す涼太に鋭い視線を送る。と。


「俺はあいつを許さない。俊介を、俺は絶対っ!」


「でも、何も関係無い人を巻き込んだんでしょ?弟の方は、別に何もしてないわけでしょ?」


「ハッ、俺はそうは思わないけどな」


「少なくとも、確信が無い人を想像の範疇でしかない予想でいじめるなんて、、そんなの、絶対許せない」


「ハッ、それはお前個人の話だろ?勝手に思ってろよ。俺は、"先にいじめた俊介"を、絶対に許さない」


「え、」


 涼太が呟いたそれに、美里は目を見開く。


 と、瞬間。


「っ!?」


「はい。ゲームオーバー」


 突如、涼太は美里の背後に移動しており、気づいた時には既にーー


 ーー彼の手が、彼女の背中に触れていた。


「っ」


 美里はギョッとし、慌てて大きく退いたものの、時既に遅し。


「ぶっ!?ぐぶふっ!?」


 口からは、大量の血が溢れ出した。


「はっ、はぁっ、はぁ!」


「隙を見せたな。相原(あいはら)美里」


「ヒューッ!ヒューッ」


 美里は目を細める。先程の彼の攻撃。明らかに、手が触れていた。そして、それによって退いた先。それは、先程まで彼が居た方向。故に、毒が濃い場所である。


「クッ」


「焦って正常な反応が出来なかったみたいだな。自ら毒が充満している方へ逃げるとは、」


 涼太はニヤリと微笑む。彼の触れた事による毒の感染。そして、先程まで放っていた毒が充満している空間で息を吸ってしまった事による空気感染。その二つにより、既に美里の体は毒に蝕まれ始めていた。


「はっ、はぁ、はぁ、」


「これで一人目だな。次は伊賀橋(いがはし)達の方だ」


「はっ、はぁ、あんた、、私に、トドメ、刺さなくていいわけ、?」


「ふっ、それは必要無い。もがき苦しめ」


「ハッ、、あんた、げほっ、ふぅ、、ふぅ、最低、」


「何とでも言え。俺はこの世界でのやるべき事をやるだけだ」


 涼太はそう背を向けたまま告げると、そのまま碧斗達の方へと向かっていった。

 だが。


「っ」


 涼太の目の前に、炎の壁が現れ、彼は足を止める。そのままそれを避けようとするものの、それは大きく、幅広く広がっていき、終いには彼を閉じ込めた。


「お前、」


「はぁ、げほっ、クッ、う、、まだ、、はぁ、話は、終わってない、でしょ、?」


「なるほど。トドメを刺さないと俺もまた空気が薄くなって耐えきれないという状況を作ったか、、良い判断だ」


 涼太は息を吐きながらそう呟くと、改めて美里を見据えながら足を踏み出した。


「分かった。どうせ貴様はここで死ぬんだ。少し、話し相手になってもらうとするよ。どうせ、記憶は残らないんだからな」


「はぁ、、はぁ、」


 美里は、目を細める。涼太は、僅かに拳を握りしめた。それはまるで、思い出したく無い過去を、懸命に思い出そうとしているかの様に。


「お前が不明なのは、この俺の行動だったな。だが、それ自体はシンプルだ。この世界での俺は、ただ処罰を下す者として、転生者を裁く事を目的として行動してきた」


「だから、、私達を追ってたわけね、」


「ああ。逆に考えてみろ。この世界の人達には、この世界での生き方があった。恐らく、国全員の意見では無かっただろう俺達の転生によって、寧ろ争いが悪化してしまった」


「...確かに、」


 美里は、彼の言葉に目を細める。確かにそうだ、と。

 だが、それは不自然なのだ。この世界は、元々危険な状況だった。それ故に、我々が呼ばれた。だとすると。そう美里は眉間に皺を寄せた。と、対する涼太は続ける。


「つまり、この世界での我々はノイズでしかないんだよ。そいつらが、ただでさえ余所者であり、この世界の人達からすればストレスであるイレギュラーでしかない我々が。その中で争いを行ってみろ。元々存在していたこの世界の環境が、破壊される」


「...」


「だからこそ、俺が正す。そう決めた。この世界の国王は、きっと俺達の力には追いつけない。だから、その能力を持っている人間で、正さなきゃいけないんだ。そう、俺は思った。そして、みんなを集めて裁きを下す者(パニッシュメント)を作り上げた」


 涼太はそう告げたのち、美里の目の前にまで到達すると、またもや手を伸ばす。


「さて。ここからが本題だ。お前を殺す前に言っておいてやる」


 涼太は手を彼女の前で留めた状態でそう前置きすると、鋭い目つきで続けた。


「お前は、この世界を正そうとしている俺が、どうして現世ではあんな事をしているのか、と。そう思ったのかもしれないが、俺の気持ちは変わってなんかいない。現世でも、俺は裁きを下すために、動いてるんだ」


「っ、、そ、その相手が、、はぁ、兄だって、言うの、?」


「ああ。その通りだ。恭介の兄。鈴木俊介を、、俺は絶対に許さない。俊介は、、俺の大切な姉ちゃんを、殺したんだ」


「え、」


 涼太の放った衝撃的な一言に、美里は声を漏らす。


「俺には、、大切な姉が居た。いっつも生意気だったけどさ、、俺にとって、かけがえの無い存在だったんだ。それなのに、」


 涼太は掠れた声で零し、拳を強く握りしめる。それに、美里は目つきを変えると血を吐き出しながらも、懸命に口にする。


「何が、げほっ!はぁ、、あった、わけ、?」


「俺の姉ちゃんは、、明るくて、誰にでも優しかった。俺も、そんな姉ちゃんに憧れて、人に優しくしてたんだ。昔、俺のこといじめてくる奴らが居たけどさ。そんな奴らにも、優しくして、笑っていれば、向こうが変わってくれるって、姉ちゃんは言ってた」


「...そ、そんなの、」


「ああ。そんなのただの気休めだ。でも、俺はその言葉が、、姉ちゃんが、輝いて見えた」


「...」


「それから、俺は優しくした。いじめられても、決してめげずに、ずっと、優しい自分で居続けた」


「そう、なんだ、、凄いね、」


 美里は遠い目をして放つ。この言葉に、嘘は無い。皮肉でも嫌味でも無い。自分だったらと。そう考えると、心の底から尊敬の言葉しか出てこなかった。だがそれに、涼太は歯嚙みし続ける。


「...でも、、全然大丈夫じゃ無かった、、どれだけ優しくしても、どれだけ笑っても、それは変わらなかった。それでも、姉ちゃんが笑っていればと。俺は、そう思ってた。姉ちゃんの言葉なら信じられると、俺は、ただがむしゃらに、それを追い続けた。それだけで、、良かった。姉ちゃんが聞いてくれれば、それだけで、良かったんだ、」


 涼太はそこまで告げたのち、拳を握りしめて深呼吸すると、少しの間ののち口を開いた。


「...姉ちゃんは、、いわゆるミーハーというか、ギャルというか、、そんな感じだったんだ。生意気だけど、、みんなに平等でさ、、優しかった。女子からだけじゃ無くて、男子からも人気で。男子から人気だと女子から白い目で見られる事もあるけど、、それでも、それをどうでも良く思える程に、姉ちゃんは明るかった。そんな時だ。あいつが現れたのは」


「あいつ、、っていうと、お兄さんのこと、?」


「ああ、鈴木俊介。あいつのせいだ。あいつは、、妄想癖があるクズ野郎だった」


「妄想、?」


「ああ。ちょっと話しかけられただけで、気があるとか思い込む、根暗野郎だよ」


「なるほどね、」


 美里は、小さく零す。


「姉ちゃんはみんなに優しかった。だからこそ、俊介にも勿論優しかった。そしたら、あいつは勘違いしやがった。勝手に自分が一番だと錯覚して、勝手に裏切られたと思い込み、引きこもりになった」


「げほっ!グッ、、う、それって、」


「ああ。そこで終われば、まだ丸く収まったんだ。まあ、あいつからしたら、たまったもんじゃ無いかもしれないけどな。それでも、あいつが勝手にやって、勝手に選んだ道だ。俺らには関係無い。そう言って、終わらす事が出来た。それで、終わってればな」


「それで、、終わらなかったわけね、」


「ああ。あいつは、ネット上で姉ちゃんの悪口を書きまくった」


「っ」


「ある事ない事言いふらして、クラスでも話題になって、、それで、段々と、姉ちゃんは学校に行かなくなった。ざまあみろって。そう思っただろうな。あいつは」


「そう、だったんだ、」


 美里が視線を落とすと、対する涼太はふと伸ばした手を戻して続けた。


「まあ、姉ちゃんが何もしてないってわけでも無いんだけどな。あの時、姉ちゃんも少し言い方が良く無かったと俺は思ってる。しつこいんだって。そう言ったんだ。勘違い野郎に対して、現実を見せたんだ。人によっては、もしかすると辛いものがあったかもしれないな。だから、、完全に向こうに非があるとも、言い切れないが、それでも、」


 涼太はそこまで口にしたのち、目つきを変えて、今にも崩れそうな表情で放った。


「姉ちゃんはあの後、、居場所が無くなった。学校という閉鎖的な空間でも居場所を無くして家に逃げ込んで、塞ぎ込んで。ネットに逃げたらそこでもずっと悪者扱い。逃げ場が無かったんだ。姉ちゃんには」


「それは、、キツイね、」


「ああ。逃げられなかったんだ。ネットを見ない様にしても、気になるもんだろ?結局は現実を目の当たりにする。"何を言うかよりも誰が言うか"の世界だって、ネット上ではそれがひっくり返る事もある。たとえ、クラスで浮いてる奴でも、ネット上ではそれは分からない。それを隠す意思を持って、ボロを出さない様にすれば、そんなの、確認する術なんて無いんだから」


「...そ、それで、」


「それでどうなったと思う?逃げる場所が無くて塞ぎ込んで、部屋からも出てこなくて。返事も無くて。だから鍵を開けたんだ。うちは昔の家だったのもあって、爪とか使って頑張れば、外側からでも開けられたから。そしたらそこで、姉ちゃんは、クッ、うっ、うぐっ」


「え、、う、嘘でしょ、」


 涼太が思わず戻しそうになる中、美里は目を見開く。その反応によって、何かを察して。


「クッ、うっ、、ああ、多分、想像した通りだよ、、その、姉ちゃんは、、そこで、自害してたんだ、」


「...嘘、」


「だから、、あいつだけは許さない。姉ちゃんを殺した、クズ野郎を」


 涼太が低くそう放ち、手をまたもや構える。それに、美里は衝撃に目を逸らし、少し考えたのち、改めて口を開いた。


「でも、、だからって、貴方が、人をいじめていい理由にはならない」


「なんだと、?」


「だって、、そうでしょ、?あんたは、その兄だけじゃ無くて、弟を、いじめてるんだから。そして、円城寺君にまで、、しかも、暴力まで、してたんでしょ、?最低、、ほんと、あんなの、」


 美里は、樹音(みきと)の言っていた内容を思い出し、そう強く放つ。と、それに、涼太は目を剥き、歯嚙みしたのち、声を上げた。


「ふざけんなよ!」


「っ」


 美里はビクッと、大きく肩を震わせる。


「暴力だ?そんなの、何も変わんねぇよ。なぁ、この世界、おかしいと思わないか?」


「え、」


「おかしいよなぁ?暴力やいじめという行為には、処罰が存在する。そして、訴えられれば処罰が与えられる。それなのに、ネット上はどうだ?自分達は安全なところに居て、そこから、言葉というものを使っていじめてんのに、、言葉で殴るのに、」


「っ」


「それなのに、、なのにおかしくねぇか、?どうして、何も与えられねぇんだよ、、なんで姉ちゃんは、あいつに殺されたのに、自殺になるんだよ、、どうしてネット上の法律は、あんなにガバガバなんだよっ!」


 涼太はそう声を荒げたのち、美里の肩に、手をやった。


「だから、、俺が全部変えてやるよって。そう、考えたんだ。俺が暴力を使わない。処罰を与えられない分類のクズ共を、暴力を使う、処罰が下される方法で、裁く。それが、この俺の目標であり、野望であり、理想の世界だ」


「あうっ!?ぐっ!?」


 涼太はゆっくりと、美里に触れた手から毒を与える。


「俺の目的は現世でもこの世界でも変わらない。罪には罰を。それが、俺の意思であり、目的だ」


 涼太の、言葉と共に放たれた毒に蝕まれた美里は、そのまま崩れ落ちながら、その主張に目の色を変えた。

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