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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第7章 : 関わり合いと処罰する者(パニッシュメント)
274/300

274.罪

「犯罪者共しか居ないのは好都合だな。思う存分、やれるよ」


 ニヤリと、突如上空から現れ着地した涼太(りょうた)はそう告げると、全方向に毒を放つ。


碧斗(あいと)君マズいっ!」


「クソッ、一旦引くぞっ!」


 それに驚愕しながらも、樹音(みきと)は瞬時に彼との間に刃の壁を作り隔て、大翔(ひろと)が碧斗と樹音を回収して跳躍する。と、対する拓篤(たくま)もまたマントルで自身を包んで回避する。と。


「チッ、逃げ足だけは速い野郎だ」


 涼太は息を吐いてそう口にすると、拓篤の入ったマントルに振り返る。


「まあ、こいつはここで終わらせられそうだな。その後、碧斗達はやればいい」


 涼太はそう言うと、そのマントルの前で更に毒を放つ。


「さぁ。これでもう出て来れなくなったぞ。出た瞬間。この空間の空気を吸うのは避けられない。気づいた時には既に、命は無い」


 涼太がそうニヤリと微笑んだ。と、同時、バリンと。目の前のマントルが砕かれ、そこから手が伸びる。


「っ」


 それを視界に収めた時には既に遅し。涼太は拓篤に首を掴まれた。


「クッ、がはっ、おま、」


 それに驚愕する中、そのマントルからはーー


 ーー"顔含め全身がマントルで包まれた"拓篤が現れた。


「俺がこの程度で屈すると思うか?」


 体に纏わせていたマントルを伸ばし、顔にもマントルの防具を作ったのだ。それに気づいた涼太はまた、毒を放つ。


「はぁ、はっ、はぁ、なるほど、、顔もマントルで塞いだか、、だが、目は見えてないだろ?」


「...」


 涼太の発言に、拓篤は無言を貫く。


「ハッ、図星か?はぁ、一回、はぁ、俺を掴めたから良かったものの、どのくらいの毒が充満し続けるのか分からない中、いつマントルを解除すれば良いのか、タイミングが掴めなくなるぞ」


 涼太はそこまで告げたのち、「それに」と続ける。


「その様子だと、毒を完全に、はぁ、遮断するために、はぁ、、空気を出す穴すら無いんだろ?つまり、そう長くはそうしてられないって、はぁ、事だ」


「安心しろ。お前を殺すのに、そんなに時間は必要ない」


 僅かに聞こえた、マントル越しの彼の発言に、涼太が目を剥くと、同時。


「じゃあな」


 拓篤は手のマントルを伸ばして涼太に向かわせる。またもやマントルで相手を包み、それを溶かして体ごと溶かそうとしているのだろう。涼太はそう察して、どうにかしなくてはと悩んだ。が、その矢先。


「「っ」」


 突如、反対方向からまたもや爆破が聞こえ、二人は振り返る。と、その一瞬の隙を狙い、涼太はそこから抜け出す。


「っ!お前っ」


 抜け出した彼が逃げ出す方向に手を伸ばし追おうとする拓篤だったものの。突如として目の前に現れた壁によって遮断される。


「なんだこれ、この感じ、鉄か、?っ、まさかっ、」


「前が見えてないみたいだね」


裕翔(ゆうと)っ、てめぇ」


 鉄の壁の上に立つ裕翔は見下しながら微笑む。幸いな事に、毒は上まで昇って居なかった様だ。この状況、利用しない手はない。裕翔は微笑みながら手を前に出すと、そこに拳銃が現れそれを握る。


「涼太君の言う通り、息は続かない。時期に、解除しなきゃいけなくなるよ」


「ハッ、毒如きが、そう長く空気中に充満するわけないだろ」


「そうだね。だからこそ、解除の瞬間、僕が止めを刺すよ」


「ふっ、笑わせんな」


 拓篤はそう吹き出すと、次の瞬間。


「っ」


 マントルの塊が、裕翔に向かって放たれる。それを既のところで避けると、その塊は空中で留まり、突如広がって裕翔の体を飲み込もうとする。


「お前は俺との会話でこのマントル内の空気を薄くしようとしてたんだろうが、逆効果だったな。長く話せば話す程、自分の位置を教える事になる。ありがとな、助かったよ。目の見えない俺でも、お前の居る場所が手に取るように分かる」


 拓篤はそう告げ、裕翔にマントルを伸ばした。が、その瞬間。


「っ」


 今度は拓篤の背後から、直接爆破が放たれ、彼は吹き飛ばされる。


「クッ、なんだ、」


「あっひゃぁ〜、さっすがマントル。全然ヒビも入んないじゃんすっごぉ」


 吹き飛ばされた先で、拓篤は見えないものの振り返る。すると、その先には、香奈(かな)が驚きながら近づいていた。


「俺を狙うなんて、珍しいな。お前の性格的に、全員を狙うと思ってた」


「悪いね、S(シグマ)君。ちょっとお話してね?彼女とは共闘する事にしたんだ」


「そそそ。ちょ〜っとやりたい事出来ちゃったんよねぇ。だからさ、死んで?」


「お前ら、」


 それぞれが微笑みながら、裕翔はその鉄の壁から降りて、彼に向かいながら銃を構える。香奈もまた少しずつ近づきながら手を前に出す。それを、拓篤は足音で察しながら、それぞれの方向から近づく彼らに対応しようと見渡す。と。


「図に乗ってんじゃねぇぞ。束になっても勝てねぇクソ雑魚共がっ!」


 拓篤は手を地面の方に伸ばすと同時。周りから先の尖ったマントルの柱が無数に生えた。


           ☆


「これで、、とりあえずは大丈夫。まあ、ちょっと傷が大き過ぎるものとかは、これでは治せないけど、」


「...いえ、、その、ありがとう、ございます、」


 美里(みさと)からの回復を終えた由紀(ゆき)は、目を逸らしながら小さく口にした。


「その、何で、助けるんですか、?」


「え?」


「私、あなた方の事、殺そうとしてるんですよ?」


「そうなの?」


「そっ、そうですっ!」


 美里が驚いた様に口にする中、由紀は顔を赤くして声を上げる。それに、美里は目を丸くしたのち、小さく微笑むと、改める。


「まあ、、どっちみち放っておけなかったし、」


「う、、そ、そんな事言ったって!私の気は変わりませんよ!?も、元から、貴方達を倒すつもりだったんですからっ!」


「はいはい。それだけ話せれば大丈夫そうね」


「きっ、聞いてますか!?」


「確かに、貴方は私達を殺そうとしてたのかもしれないけど、、助けてくれたじゃん。さっき」


「え、」


「あのままだったら、、私達、絶対死んでた。だから、ありがとね」


 美里は微笑む。そうだ。先程の水の中。あのまま泡が出てこなければ、美里達は全滅だっただろう。あそこから抜け出して、こうして今生きているのは、紛れもない。由紀。彼女のお陰だ。美里はそう思いながら優しく放つと、それに由紀は目を剥き頭を押さえた。


「あっ、あぁ!そうでしたぁぁっ!あのままにしておけば、自然と殺せたのにっ!どうして私はっ!ああっ、もうっ!私の馬鹿ぁ!」


 由紀の言葉に、美里はきょとんとすると、そののち。微笑んで付け足した。


「なんだ。貴方も、放っておけなかったってわけね」


「う、、つ、次は手加減しませんよ!」


「はいはい」


 由紀がそう放つと、美里は笑みを浮かべたのち改めて碧斗達の方へと視線を向ける。


伊賀橋(いがはし)君、」


 先程の轟音。恐らく拓篤のものだろう。早く合流しなくては。美里はそう思いながら、足を踏み出す。


「ごめんねっ。私、早く行かなきゃいけないからっ!」


「あっ、ま、まだ話は終わってませんよ!?」


「また今度、相手してあげるから!」


 美里はそう告げると、皆の元へと向かう。それに、悔しそうに唇を噛む由紀。と。


ー早くっ、行かなきゃっー


 対する美里は焦る。回復の魔石を持っているのは美里のみである。もし皆がやられているとすると、早くしなければ、手遅れになると。そう歯嚙みし足を早める。

 が、その瞬間。


「っ!?」


 美里は背後のその気配に気づき大きく距離を取る。


「誰、?」


 由紀では無い。そう思いながら、振り返る。

 と、そこにはーー


「はぁ、まぁた失敗か、、何で毎回駄目なんだ、?少し殺気が強過ぎるのか?」


「っ!あ、あんた、」


 そこには、涼太が居た。


「奇跡が重なって、こうしてまた会える事が出来たな。相原(あいはら)美里。前はよくもやってくれたな」


「前はよくも?別に、私はあんたに対して何もしてないけど」


「随分と人をコケにするのが上手くなったな美里。ここで、終わりにしてやるよ」


「はぁ、、話すのは無駄みたいね。悪いけど、私、急いでるからっ!」


 美里はそう放つと同時、涼太の立っている地面から炎の壁を作り、その隙に走り出す。


「なるほど。炎の壁か。これで、毒を殺すつもりだな?だが、俺の毒はその程度では消えない」


「っ」


 涼太はそう放つと同時。全体に毒を放つ。


「クッ!?」


「口を塞いだか。それでも、いつまでもつかな?」


「それは、、あんたも、ね」


 美里は目を細めて放つ。先程の炎の壁が変形し、彼をどんどんと包み込んでいく。それにより、その中の空気はどんどんと薄くなっていく。毒を吸えない美里と、吸いたくても空気が足りない涼太。果たしてどちらが先に力尽きるか。そう言わんばかりの表情を浮かべた。すると。


「はぁ、ほんと、しつこいな。そこまでして生き延びて、どうするつもりだよ。この世界がどれ程腐っているか、もう分かってんだろ?」


「腐ってる話と、生きる話は、別だから。それに、しつこいはこっちの台詞。なんでこんな時に私達を狙うわけ、?この世界が終わったら、これすら、意味なくなるけど?」


「確かにそうだな。だが、君が処罰の対象である事には変わりはない。それに、向こうは裕翔君達が何とかしてくれるさ」


「裕翔、?」


「ああ。あの眼鏡の男だ」


「っ!」


 美里は目を見開く。彼が、来ているのか、と。眼鏡の男子。この世界に来た時に見た際、眼鏡をかけた男子は一人しか居なかった。それが、あの時の彼。


「どうした?知ってるのか?」


 美里の反応が僅かに遅れたがために、涼太は目を細める。すると。


「...いや、ただ、前に話した事あるだけ。大した接点は無いよ」


 美里はそう告げながら眉間に皺を寄せる。何をしたかは不明であり、能力も不明ではあるが、智也(ともや)に何かしらを吹き込んだのは間違い無い。そして、あの時現れた車。彼は、何かを生み出す能力というのは、明白である。美里はそんな事を考えながらも、彼が"どちら側"か分からない今、それもまた問題だと、拳を握りしめる。


ーとにかく早く、伊賀橋君のところに、行かなきゃー


 もし裕翔が拓篤の味方をした場合、手遅れになる可能性が高い。と、そう考えると。


「話した事がある、か、、はぁ、随分と、、そいつとは良くない出会い方だったみたいだな」


「は、?」


「言い方で分かるぞ。きっと、相手が相原にとって良く無い立場だったんだ。その嫌悪感は、隠しきれてない」


「あんた、」


「確かに、俺も裕翔君に関しては百信用してるわけじゃ、はぁ、ねぇけどよ。でも、Sを止めようとしてるのは事実だ。実際、この世界を、はぁ、消されたら、あいつも困るだろうからな」


「ほんとに、そう思うわけ、?」


「は、?」


 美里は、少しの間ののち、一番懸念していた部分を口にする。


「確かに、あいつはこの世界が壊れる事を望んでるとは思えない。だけど、、たく、ううん、Sに何かを伝えて、グルになる可能性はある」


「は?グルだと?」


 美里は、拓篤と口にしかけて、留める。もし、拓篤が碧斗と兄弟である事がバレたら、それこそ、今以上に狙われるだろう。そう、察したからだ。


「そう思わない?確かにSは人の弱みに漬け込んで操る様な奴だけど、、あの裕翔って奴だって、そっち寄りだと思うけど」


「ならなんだ?この世界を壊すのを一時的に辞めてもらって、他の方法で手組んでこの世界壊そうとするとでも言いたいのか?」


「あくまで、、憶測だけどね」


「ハッ、お前らの話を、そう簡単に信じるかよ」


「別に信じてくれなんて言ってないけど」


 涼太が吹き出す中、美里は呆れた様に返す。すると。


「随分とどうでもいい話を長々としてるな。時間稼ぎか?」


「時間稼ぎでどうにかなるなら、、有り難いけどね、」


「俺に何を望む?」


「は、?」


 突如、涼太は放った。それに、美里が首を傾げていると。


「いや、お前、やろうと思えばこのまま炎を放って俺を殺す事くらい容易いだろ?それをしないで段々と空気を奪うやり方を選んだ。そこに、俺を殺さない理由でもあるのかと、思ってな。それとも、未だに人を殺せないのか?裏切り者のくせに」


「それもあるけどね、、正直、あんたの力も、必要になるかもしれないから」


「は?共闘でもするつもりか?」


「あの眼鏡の奴が、Sを止められるとは思えないし、ただ止めるだけで終わるとも、思えないから」


「それで、俺の力も欲しいわけか」


 美里は、無言で頷く。対する涼太は、その姿こそ見えていないものの、それを察してニヤリと微笑む。


「今更、そんな話に乗ると思うかよ。ここで、終わらせてやる」


 涼太は微笑むと、毒を更に広げる。それに、美里もまた目を見開きしゃがみながら距離を取る。と。


「あんた、、どうしてあんたは、そうやって人を殺めようとするわけ?争いを終わらせたいのは、私達も同じ。同じ、争いを無くす事を望んでいるなら、その目標を達成した後に私達は殺せばいいでしょ?特に今は、」


「そう言って、智樹(ともき)の時も逃げてただろうが。お前ら四人が全員揃ってる内は、殺せる時に殺さないと、後々厄介だと思うんでね」


 涼太は目を細める。そう。現在パニッシュメントは涼太一人である。未だ四人居る美里達を後にした場合、最後にやり合うのは四対一となる可能性が高い。このまま、今度は拓篤。その次は裕翔と。大きな相手に対して毎回協力するとしたら、最終的にはそうなるだろう。それを配慮し、涼太はその選択をしたのだ、と。強く告げる。が。


「私が言ってるのはそこじゃない。もっと前提の話。あんたはこの世界の人達は殺さないし、そういう人達を罰している。それは分かってる。でも、私達は何かをしたわけじゃ無い。もし裏切り者と扱うのであっても、殺しをしたわけじゃ無いでしょ」


「殺しをした奴を庇ってるって言ってんだよ。正当化すんな。同罪だぞ。それに、、お前らの中に人殺しが居るだろうが」


「え、?」


清宮奈帆(せいみやなほ)神崎愛梨(かんざきあいり)。お前らのせいで、二人は死に、パニッシュメントは俺だけとなった。これでも、同罪で無いと言えるか?そんな奴を庇うお前も、無罪と言えるのか?」


「...なら、あんたが円城寺(えんじょうじ)君を騙した事はどうなるわけ?」


「何、?」


 美里は、鋭い目つきで彼に突きつける。


「だってそうでしょ?庇うという行為に対して罰すると言うなら、そうやって人を騙して、利用して。それは許されるわけ?それこそ、正当化しないで欲しいんだけど。あんたは正義のためだとか言うのかもしれないけど、それに反した事してるのは。最初にしたのはあんたの方じゃないの?円城寺君は、現実世界の頃から、あんたに嵌められてるんだけど?」


「はぁ、、何も知らないからそんな事が言えるんだよ、」


「え?」


 美里の言葉に、涼太は歯嚙みし小さくそう零したのち頭を掻くと、顔を上げて低く告げる。


「確かに、、樹音を騙したのは認めるし、現実世界での事も、、多分あいつから聞いたのかもしれないが、事実だ」


「へぇ。認めるんだ」


「ああ。俺は、ある目的のために、全てを犠牲にする覚悟があったんだよ。ただ、それだけだ」


「ある目的、?」


 美里は目を細める。先程の何も知らないからという一言。彼側にも、何かあったのか。美里は、拓矢(たくや)の言っていた樹音の話を思い返し視線を落とす。と。


 涼太は、覚悟を決めた様に低く告げた。


「俺は、ずっと鈴木恭介(すずききょうすけ)に、復讐しようとしてたんだ」

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