267.対流
「なっ」
拓篤は僅かに目を見開きマントルの壁を作ると、自身の地面であるマントルを動かして距離を取る。
「お前、」
「あらぁ、随分と水というものを甘く見てるのね。その余裕そうな表情、崩すのが楽しそうだわぁ」
「そういえばお前の能力は水か、、だからこそ水に免疫がある」
「そう。水の中でも息が出来る。そう言った方が分かりやすいかしら?そして、水の圧力を舐めない方がいいわよ?水によって地形は削れ、変わり続けてきたのだから」
「まさか、マントルに穴を、?」
「ええ。普通では不可能でしょうけどね、、でも、貴方が言えたものでは無いわ。貴方の力の方がよっぽど非現実的ですもの」
美弥子は隔てたマントルの横から顔を出し、頰に手をやりながら微笑む。彼女の下には一直線に水が柱の如く昇っており、その上で美弥子は浮いていた。
「水を操る、、それは空中にも生み出せるわけだ」
「ええ。貴方もそうでしょ?」
「同じ操作型の能力か、、面白い。空中に水を固定させれれば、空中浮遊の出来ない能力者だろうと泳いで移動する事が出来る、、中々な能力だな」
「あら、褒めてくれるの?嬉しいわ〜」
「まあ、俺の能力の前では意味はないけどな」
拓篤はそう口にすると同時、マントルを生み出してそれを美弥子に向かわせた。
「ふふ、そういう使い方も出来るのね」
「ああ、お前と同じでな」
それに対し、美弥子は水を同じく伸ばし、移動させながら、その中を泳いで避ける。
「逃げるのか?」
「ええ。流石にあの一瞬でマントルを削れる程の威力は水には無いわ。それに、もしマントルを溶かされたら、勝ち目はないもの」
「冷静な判断は出来るみたいだな。だが、もう遅い」
「ぐっ」
拓篤はそう呟くと、右手を上に上げ、それと共に下からマントルが突き出ると、美弥子に直撃する。
「かはっ」
それにより吹き飛ぶ。
よりも先に、マントルを変形させて彼女を飲み込む。
「水の中でも平気なんだろ?なら、その中でゆっくりしていろ。お前の望んだ世界の終わりを、見れないまま死ね」
「あらぁ、、閉じ込められちゃいました〜」
美弥子の余裕そうな声に、拓篤は息を吐いて街の方を見据える。確かに彼女の能力は水の能力。故に、水というものに耐性があるのは勿論であるがしかし。空気に関しては、別である。彼女の場合、水の中でも息が出来るというだけで、空気を作り出す能力ではない。故に、水中で、この密閉された空間の中ずっと閉じ込められていたら、時期に息は出来なくなるだろう。
拓篤はそれを想像しながら、余計な手間をかけさせやがってと、水で塞がれた地割れの中で更にマントルを冷やす。
「まあ、マントルの冷却という意味合いでは、水も悪くないか、、だが、密度が変わるのは厄介だな。それで動かされたら問題だ」
拓篤はそう呟き空を見上げる。流水によって、地面ごと移動されてしまう恐れがあるのだ。そんな事になる前に磁場をなんとかしようと目つきを変えた。
が、その瞬間。
「おやぁ?まさか、また勝ったおつもりで?」
「っ」
ふと、背後からこもった声が聞こえた。そう、先程のマントルの中だ。拓篤は彼女を閉じ込めたのち、マントルを調整して圧迫していた。それにも関わらず、彼女はまだ声を上げる事が出来るというのだろうか。それに僅かに目の色を変えた。
その、直後。
「まだまだ、これからが本番。みんなの悲鳴を、聞かせて頂戴、?」
「まさか、」
美弥子が呟くと同時、空からパラパラと、水分が落ちる。それに雨かと見上げるとーー
ーー大量の水が降り注いできた。
「あの時よりも多いな」
拓篤は小さく零す。そう、王城の中庭で降らせた大量の水。それを簡単に上回る程の量の水が、一斉に押し寄せた。
拓篤はそれを見ると共に、自分の足場としていたマントルの形状を変化させ美弥子と同じ様に自身を閉じ込め守る。
「残念ね。でも、私の事閉じ込めただけで止められると思ったら大間違い。この中からでも、この世界は終わらせられるわ。そして、この中でも悲鳴は聞こえる。うふふ、想像しただけで震えてきちゃう、」
「随分と喋る奴だ」
「ふふ、貴方は無口なのね。前はよく笑っている様に見えたのだけれど」
「そう見えたか?」
「ええ。今は、そうね、、冷静を装ってるというか、怒りを抑えているというか。悟られない様に取り繕っている様に見えるわ。それが本当の貴方?」
「あまり話過ぎると、息がもたなくなるぞ」
「ふふ、図星かしら?」
拓篤が淡々と返すと、美弥子はそう微笑む。と、更に水の勢いと量は増す。拓篤を包むマントルが僅かに揺れる程だ。だが、やはりマントルを破壊するには至らない様である。この状況。確かにマントルによる磁場の調整はこのままでも可能だが、時期に世界は水に飲まれる。
「とりあえずはこいつを利用させてもらうか。その後残ったやつらは俺が相手すればいいんだもんな」
拓篤は下で、未だ刃で包んで水害をも耐える碧斗達を見据えそう呟く。
が、その瞬間。
「おっと、これは見過ごせないなぁ」
「っ」
突如、津波の如く街へ向かう水が、堰き止められる。
「なんだ?」
拓篤は水の勢いが止まったと目を細める。
と、そのまま自身を囲んだマントルを上空にまで伸ばし、その上でマントルを僅かに解除して、その方向へと視線を向ける。
すると、そこには。街に差し掛かる手前で、大量の水が止められている。そして、それを止めているのはーー
ーー鉄の、壁であった。
「随分と大掛かりだな」
「誰のせいかなぁ?」
そこには、眼鏡をかけた七三分けの男子が居た。そんな彼に、拓篤は歯嚙みし足を踏み出す。
「邪魔すんなよ、クソが」
「いいや、邪魔させてもらうよ。このままだと街が危ないからね」
「お前、街を救うとかいうタチじゃねーだろ」
「そう見えてるのかい?なんだか寂しいねぇ。僕は、街の人々を守る、スーパーヒーローだよ?」
「は?何言ってんだよ」
「聞こえない?皆の声が、」
その男子はそう告げると、街の方へと耳を傾ける。僅かに聞こえる、救世主との声。助けてくれという懇願の声。お願いだと託す、期待の声。その全てが、その男子は耳で受け止め微笑む。
「みんなは僕を必要としてる」
「聞こえねーな。幻聴だろ」
拓篤は低くそう告げると同時、マントルを空中に生み出してそこから伸ばし彼に向かわせる。が、しかし。
「おっと」
その男子はそう軽く告げると、そこに黒い壁が現れ、それに射抜かれたマントルは切られる。
「っ」
「おお、マントルが切れるとは思わなかったな。タイミングと密度によってそれも可能なわけか」
「何一人で楽しんでんだよっ!」
拓篤はそう声を上げると、彼の立つ地面を大きく揺らし、鉄の壁を破壊しようと試みる。と。
「あれ?マントル、冷やしてたんじゃ無かったっけ?動かしたら、また活性化するよ?」
「お前、それが狙いか」
「狙いも何もないよ。どちらにせよ、俺はみんなを守るだけさ」
「ヒーロー気取りが。ほんと、反吐が出るよ」
拓篤はそう声を上げると、彼の周りからマグマを噴き出し、包み込もうとする。
「随分と普通な攻撃だね。焦ってる?」
彼は鉄の壁を自身の周りにも生み出しマグマを堰き止めると、自身の足元に鉄の足場を作って伸ばす。
「てめぇ、随分と高いところが好きみたいだな」
「君もね」
拓篤より上空を維持しながら、彼はそう微笑むと、同時。彼の手には銃が現れ、拓篤に向かって発砲する。
「そんなもん」
拓篤は息を吐いてそう呟くと、目の前にマントルを隔ててそれを防ぐ。が。
「っ」
受け止めた弾が突如変形し伸ばされ、そのマントルを包み込む。
「クッ」
「弾すらも操れる、それが僕の能力だよ」
それに、拓篤が目を剥き後退ろうとした。
その、瞬間。
「君のお楽しみもこれで終わりだ」
「っ!?」
マントルを包んだ鉄が突如突出し、尖ったそれに、拓篤は貫かれた。
「僕の能力は"鉄"。鉄を生成、形を作り出す能力だ。あまり、舐めないようにね」
そんな、血を吐き出す拓篤を、目を細めほんのり笑いながら見据えた彼は告げた。
「ごはっ!」
「とは言っても、まだ生きてるんでしょ?これくらいじゃ、死なないよね」
「残念だな。鉄なんて雑魚、俺には通用しない」
口角を上げて微笑む彼に、拓篤もまたニッと挑発的に笑い返す。彼の放った鉄の刺は、拓篤に突き刺さる瞬間、マントルを溶かしたマグマによって、溶かされていた。
「マントルを包んだとしても、その中には俺が作り出したマントルがいるってわけだ。だからこそ、重なり合った順番によっては」
拓篤はそこまで告げると、鋭い目つきではありながらも微笑み口にした。
「マントルが圧倒的に有利となる」
「っ」
それを告げると同時、今度はマントルが彼の元まで一瞬にして伸びると、変形して彼もまた包む。
「お前も結局はこうなるんだ。世界を救うなんて、今更やって来ておせぇんだよ。それに、世界なんてお前には救えない。人の感情を弄ぶ、クソになんてな」
「酷い言い様だなぁ」
「事実だろ。クズ」
拓篤はそうぶっきらぼうに告げると、改める。
「鉄の壁で水を塞いだところで、何も変わらない。世界は終わるんだ」
「マントルを固めて、磁場を奪うつもりなんでしょ?」
「ああそうだ。それを、今更止めるって?馬鹿にも程がある」
「そっか、そうだよね。いくら僕が頑張って鉄を作っても、地球なんて大きな話、変えられるはずないからねぇ」
「随分と余裕そうだな。それともヤケクソか?」
拓篤が、彼の反応に目を細め低く告げる。それに、彼もまた小さく微笑み手を上げる。
「そうかもしれないね。でも、僕は全力でこの世界を守りたいと思ってるよ。それに、君は伊賀橋碧斗は殺さないつもりだろ?なら、全ての人を絶滅させる様な事はしない筈さ」
「なるほどな、それを狙ってるわけか。でも残念だったな。碧斗を守るのは俺だ。碧斗の事は守るのであって奴を基準として滅亡させるわけじゃない」
「奴を基準として?」
「ああ。つまり、世界は滅亡する。その絶滅から、俺は碧斗を助ける。ただそれだけだ。碧斗のために手加減なんてするつもりはない」
「つまり、、磁場の消失による滅亡は避けられない事象であるわけだ」
「ああ。それまでそこで見ていろ」
「はは、、流石に見てるだけなんて無理だなぁ。せめて、少しは足掻かせてもらうよっ」
彼はそう放つと、周りから鉄の塊が生み出され、拓篤を包むと、そこから尖った棘が大量に飛び出した。が。
「だから言っただろ。鉄なんて雑魚が。俺を貫ける筈ない。たとえ俺を包んでも、それは一秒二秒の差だ」
「あはは、、そっかぁ、、でも、それで十分だよ」
「は、?」
拓篤が低く放つと同時、彼は小さく口角を上げる。
「時間を稼がせてもらったんだ。上手く掴めたよ。ありがとう」
「何言って、、っ!?」
拓篤は、その"異変"に気づく。
「まさか、、お前、」
「はは、気づいた?流石だねぇ」
ーマントルが、俺の意図してない動きをしてる、という事は、まさかー
ニヤリと微笑む彼を前に拓篤は鋭い目つきを送る。そう。またもやマントルは動き出したのだ。固めて冷やして、磁場を消滅させようとしていたマントルが。
「今更気づいても遅いよ。分かるとは思うけど、星の核が冷え固まる事で磁場の発生が止まるって事だよね。なら、それが発生する条件は対流。そして、核の物質は」
「鉄、」
彼の言葉に続けて、拓篤は目を細め呟く。
「ピンポン。そうそう、星の磁場はね、星の外核にある溶解鉄の対流によって発生してるんだ。まあ、それを君が知らない筈ないけど。それなのに僕に負けるんだ。君の一番の敗因は」
彼はそこまで告げると、少し間を開け挑発的に笑った。
「僕の鉄の能力は、君と同じ、操作型だったって事だね」




