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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第7章 : 関わり合いと処罰する者(パニッシュメント)
252/301

252.因縁

 ボヤけていた記憶が、鮮明になっていく。思い出したく無い。見て見ぬフリをしてきたそれだ。


ーああ、、また、思い出さなきゃいけないのか、ー


 思わず頭を抱えた。

 向き合わなくてはいけない。それは分かっていた。だが、未だに逃げ続けていたのかもしれない。あの時、全てを思い出して、母を思い出して。能力を克服した。だから、もう見なくていいと。そう、思い込んでいた。いや、もう見なくていい様に、あの時「終わらせた」のだ。まだ、思い出すべきものがあったのに。それを考えるのを拒否して。

 そうだ。いつも、助けてくれた人が居た。

 おかしな事があっただろう。分からないか。

 碧斗(あいと)は自分自身に問うた。

 今まで、母が父に暴力を振るわれている現場を目撃した事は無かった。父はいつも「あの部屋」に母を連れていくから。知らないのも当然だった。だが、何故そこに入らなかったのだろう。入ってはいけないという強い何かを感じたから。そんなもの、当時の碧斗に分かるものか。確かに、父の暴言と暴行については知っていた。恐怖していたのは事実だ。だが、あの部屋には入った事はない。音が、うるさかったからだろうか。いや、初めはその音が怖いものだとは思っていなかった様に思える。

 それを恐怖の対象と認識したのは、父の暴言が多くなり、母が辛そうな表情をする事が多くなったあたりだ。それ以前に、あの部屋からはあの音がしていた。それを一度入って目撃したならまだしも、一度も見ていないのに、興味が湧かなかったなんて不自然である。

 そう、碧斗はいつも入っていくあの部屋が、気になって仕方がなかった。二人で入っては物音が聞こえてくる。子供に聞こえない様声を抑える母。暴言と暴行が止まらない父。暴言を暴言と理解出来ない碧斗。そんな中、覗きにいかないなんて事、ありえない。

 碧斗は、そのドアを開けようとしたのだ。だが。


『...碧斗。お兄ちゃんと遊んでようか』


『え、?う、うん、』


『いい子だ。今二人とも忙しいからな。ちょっと外で遊ぶか。今日は鬼ごっこにするか?』


『かくれんぼがいい!』


『はは、そうか、よっしゃ!じゃあかくれんぼするか!』


「ああ、」


 思わず声が零れる。そうだ。そうだった。止めてくれたのだ。こびり付いて離れない衝撃的な「それ」から、離してくれた存在が、居たのだ。

 それは、いつもだった。

 夜目が冴えてしまって、近くに親が居ない不安でリビングに出た時、またもやあの部屋から音が聞こえた。それに「ゴミ、?居るの、?」と、母を呼びながら、向かって行った事もあった。

 あの時は、確か。


「っ」


 思い出し、目を剥く。あの時、先にあの部屋の前に誰かが居た。その部屋を覗いていた。その人物は、震えていた様にも見えた。

 その人物は、振り返り笑った。


『な、なんだ碧斗。起きちゃったのか?』


『ん、』


『はは、、じゃあ、、お兄ちゃんが絵本でも読んでやるよ、、ほら、戻るぞ』


『う、うん、』


 その人物は、またもや碧斗を部屋に戻してくれた。"あれ"を見せないために。

 そう、今まで忘れていた。いや、見ないフリしていた。大切な人。忘れてはいけなかった。そんな、大事な人。


「...兄、、ちゃん、」


「「「っ」」」


 碧斗は、弱々しく、そう呟き見上げた。それに背後の三人は目を剥き、対する拓篤(たくま)は目を細め、歯嚙みした。


「やっと思い出したか馬鹿が。ほんと、逃げてばっかりなんだな」


「に、兄ちゃん、、ごはっ!」


 拓篤は、碧斗を蹴り飛ばし足を進めた。


「のうのうと、生きてきたみたいだなっ!」


「ごはっ!」


「何もかも、、忘れてっ!」


「がはっ!」


 拓篤は、蹴り飛ばしては距離を詰め、またもや蹴り飛ばしを繰り返していた。それに大翔(ひろと)は身を乗り出すものの、樹音(みきと)美里(みさと)はそれ以上の衝撃に体を動かす事が出来なかった。


「さぞ楽しかっただろうなぁ。そうだろ?碧斗」


「ぐふっ」


 拓篤はしゃがみ込み、碧斗の胸ぐらを掴んで告げる。


(たつみ)碧斗を捨てて、伊賀橋(いがはし)碧斗を選んだお前には、何も出来っこ無い」


「っ」


 拓篤はそう告げると、強く放り投げ、碧斗を素通りする。


「がっ、がはっ、!クッ、待てっ、な、何をっ」


「お前に用はない。他のみんなを殺し、俺も死んで終わりだ。お前はまた一人になるんだよ」


「やめろ、、やめろっ、!」


 碧斗は必死に拓篤に向かうものの、体が震えて言うことを聞かなかった。


「お前が忘れていた兄を思い出して、"あの頃"を思い出して、苦しんで死ね」


「さ、させるかっ、!...っ!」


 碧斗は拓篤に向かおうとするものの、地面が大きく割れ、思わずふらつく。


「どうした?お前がやった事だぞ」


「っ」


「お前が地面を崩したせいで、ここはもう数十分ももたない。もし俺を殺したとしても、何も変わらない。結局はここでみんな死ぬんだ」


「俺は、、殺さないんじゃないのか、?」


「ああ」


 碧斗の問いに、拓篤はそこまで告げると、振り返り低く答える。


「"俺は"殺さない」


「っ」


「だから言っただろ?気が変わったって。あのままだったら違ったが、お前と美里が地面を煙の圧力やらで破壊した。それによって、俺は何もしなくても自然的に、時間が経てば地面が崩れてお前も終わりだ。...そう、この世界に殺されるんだ。現世に戻っても、記憶はなくならない」


「っ」


 拓篤は、ニヤリと微笑む。


「一生その過去を抱えて悩め。今まで、忘れていた罰だ」


 拓篤がそれを告げると、他の皆の元へ向かう。それに、大翔が足を踏み出し拳を構え、殴りにかかるものの、相変わらず地形を移動させて避ける。それを見据える美里もまた炎で遠距離援護をするものの、それすらも避けられる。いや、というより、二人とも動きが鈍い。そう、それ以上にいっぱいいっぱいだからだ。


「はぁ、はぁっ、はぁ!はぁ!」


 その光景を前にしながら、碧斗はただ荒い呼吸を零す。忘れていた過去。見ないフリをしていた過去。それを、穿り出された様な感覚。二度目の絶望。それに、碧斗の心は既に耐えきれなかった。


「伊賀橋君っ!」


 それを目にした美里は、碧斗の心配を口にするがしかし。


「心配してる場合かよ」


「っ、ごはっ!」


「相原っ!てめっ!」


 拓篤が背後を取り、美里を蹴飛ばす。それに大翔が駆け出すものの、一方の美里が吹き飛ばされた先は地面が無く、そのまま落下する。


「っ、嘘っ、!」


「っ!相原っ、、ごはっ!」


 大翔もまた目を逸らしたその時、拓篤に蹴られ落下する。彼はあえて、落下した時の対処法の無い二人を先に落としたのだ。碧斗の方に気が向いている間に。


「はぁ、、はぁ!はぁ!」


 それを目にし立ちあがろうとするものの、上手く煙が出せずに碧斗は転ぶ。


「クソッ、、クソッ!」


 思わず歯嚙みする。「あの時」を鮮明に思い出した事により、煙への恐怖がまたもや再発したのだ。今まで深く思い出そうとしてこなかった。いや、寧ろ深く思い出す事で、自分が壊れてしまう気がしたから。だからこそ、見て見ぬフリを貫いた。曖昧なまま、母との記憶を受け入れ克服した。

 そう、碧斗は。本当の意味で乗り越えたわけでは無かったのだ。自分で知らない内に、逃げていたのだ。


「はぁっ、はぁ!待てっ、、やめろっ、!みんなっ、!はぁ!」


 碧斗は必死に手を伸ばすものの、やはり煙が出ない。


「やめっ、ろっ、!」


「させないっ、!」


 碧斗が必死に手を伸ばす中、ふと。樹音が掠れた声で放ち、美里と大翔を支える様に刃の床が出来上がる。


「っ、、は、はぁ、はぁ、」


 碧斗はそれに、安堵した。がしかし。


「お前が助ける事は想定済みだ」


「っ」


 樹音の背後に回り込んでいた拓篤は、地殻変動で彼の居た地面を破壊し落下させる。


「クッ、あっ、!」


「終わりだ」


 そのまま、拓篤もまた落下し、樹音を上から押さえつける。


「碧斗。お前がさっきやった方法だ。ありがとな。勉強になったよ」


「っ」


 拓篤の言葉に、碧斗は目を剥く。先程自分の身を挺して落下した碧斗のそれを受けて、拓篤は考えたのだ。這い上がる術のない二人を先に落下させ、それを樹音が助けたと同時に彼を落下させる。その上から拓篤が押さえ共に落ちる事によって。二人を支えていた刃も、その能力者が消える事で無くなる。


「このままじゃ、」


 碧斗は震えた体で必死に起き上がる。このままだと、皆が同時に。一斉に死んでしまう。拓篤の想定通りになってしまうと。碧斗は煙を出そうとするものの。


「クッ!?」


 またもやふらつく。気を抜いたら意識が途切れそうになる感覚。今にも戻してしまいそうな吐き気。それでも。


「させるかっ!」


「っ」


 碧斗は煙を出して樹音。では無く、拓篤を捕まえ樹音から引き離した。


「樹音君っ!足場っ、お願い!」


「っ、うん!」


 碧斗が促すと、彼はナイフを生成し広げて足場を作って着地すると、そのまま刃の階段を作り登っていく。

 そんな中、碧斗は拓篤を掴んだまま浮遊する。


「ここで動けたのは予想外だが、もう限界みたいだな」


「限界っ、だろうと関係ないっ、!俺はっ、みんなをっ、!」


「は?何善人ぶってんだよ。結局、お前はみんな死んだら忘れるだろうが」


「っ」


「なぁ。そうだろ?ここに支えてくれる仲間が居る。だからこそ、水篠沙耶(みずしのさや)の死は乗り越えられた。だが、仲間が居なかったらどうする?」


「そ、そんなのっ」


「お前は、忘れるんだよ」


「っ」


 空中で取っ組み合いをしながら、碧斗と拓篤は声を上げる。


「お前も本当は分かってるだろ?嫌な事は全部、忘れるんだよ。それがお前だ」


「そ、そんな事っ!」


「そんな事ない?ハッ、どの口が言うんだよ。俺の事、忘れてたくせに」


「っ」


 拓篤は歯嚙みして。初めて本気の怒りを露わにして放った。


「なぁ、転生して来た時のこと、覚えてるか?」


「えっ」


「初めは俺も気づけなかった。でも、お前をちゃんと見たら思い出したよ。いや、分かったよ。碧斗だって」


「っ」


「能力の訓練の時、俺はお前のことずっと見てたんだ。話しかけようとしてたんだけどな。まあ、その時はタイミングが無かった。ただそれだけだ。そう、思ってた」


「なら、」


「ん、?」


 拓篤の言葉に、碧斗は低く返した。


「ならっ、何で普通に話しかけてこなかったんだよ!?なんでっ、みんなを利用する様な事してっ、みんなの精神を壊した!?どうしてこんな事っ!」


「はぁ、、逆ギレか。まあ、お前からしたらそうかもな。でもな、いいか?それは全部、お前のせいなんだよ」


「っ」


 拓篤の一言に、碧斗は目を剥き"あの時の言葉"を思い出す。


『俺はS(シグマ)に頼まれて、碧斗君を狙った』


『全部君のせいだって』


 あの時、智樹(ともき)に告げられた言葉。それを思い出し手を緩めた、その瞬間。


「随分と余裕そうだなっ!」


「ごはっ!」


 拓篤に蹴られ、地面に叩き落とされた。


「がはっ!」


 落下した先で、碧斗は仰向けに倒れながらただ宙を眺める。そうだ。あの時智樹はSに頼まれてと言っていた。即ち。


ー最初から、、拓篤は、、兄ちゃんは、、俺を、狙ってたのか、?ー


 それを思うと、途端に呼吸が苦しくなった。先程と同様。体は震え、またもや起き上がれなくなった。そんな彼に、拓篤は近づき、目の前でしゃがみ込む。


「俺は腹が立ったんだ。お前がのうのうと生きている事に。平然と笑っていた事に。仲間に、囲まれている事に」


「な、なんだよ、、嫉妬で、、俺を狙った、のか、?」


「嫉妬、?まあ、そうかもな。初めはそうだった。ただお前を陥れたかっただけだ。俺が出て行くのは気が引けた。だから他の奴を使った。どいつもこいつも戦いたくてウズウズしてるくせに弱っちい馬鹿ばっかだったよ」


「っ、、ふざけんなよっ、!そんな事でっ、(しん)をっ!」


「そんな事!?」


「ごはっ!」


 起きあがろうとした碧斗を、拓篤は上から押さえて地面に押し付ける。


「ふざけんなはこっちの台詞だ。お前は、母さんを見殺しにしたんだっ!」


「っ」


「それなのにも関わらず、お前は忘れていた!罪から逃れようとしていた!ふざけるな。お前が、それを忘れて笑ってていいはずがないだろ!」


「がはっ!」


 碧斗を、更に強く押さえつける。


「あの日、お前は母さんと一緒に居たんだろ!?知ってるぞ。お前が、家にいたのは」


「はぁ、、はぁ、、あ、ああ、、居たさ、」


 碧斗は頭痛を我慢しながら「あの時」を思い返し、掠れた声で返す。


「なら何でっ、、何で母さんを助けなかった!?なんとかなった筈だ!火事があそこまで大きくなる前にっ!何か出来ただろうが!」


「俺は、」


「どうして俺が居ないと何も出来ないんだよクソが!どうしてっ、どうして俺たちを必死に守ってくれてた、、俺たちに愛をくれた母さんが、、死ななきゃいけないんだよ、」


 拓篤は碧斗の胸ぐらを掴んで引き寄せ、声を荒げる。それに、碧斗は歯嚙みして目を逸らした。


「...ごめん、」


「ごめん、?ごめんってなんだよ、、その気持ちがあるのに、どうして今まで忘れてた!?どうしてっ、忘れられた!?」


「クッ、」


「あの日、通報したのは俺だ」


「っ」


 その一言に、碧斗は何の事かを察して目を剥く。あの日、火事があったその時。隣人やらが通報したとばかり考えていた。だが、良く考えてみると、近隣住民は働いているのか、あまり人が居る様子は見受けられず、通報出来る人は少なかっただろう。と、考えると。


「兄ちゃん、、だったのか、?」


「ああ、丁度外出してたからな。帰って来て、びっくりしたよ、、まさか、俺の家がってさ。近くの電話ボックス、初めて使ったよ」


「そう、だったのか、、でっ、でも、それなら何でっ」


「何で?どうして俺はお前の前に現れなかったかって!?俺だってな。お前のところに行きたかったよ。そして、もう二度とあんな生活しなくて済む様に、生きていたかったよ」


「なっ、、何が、あったんだ?」


「全部忘れる奴に、話す話なんてねぇよ!」


「がはっ!」


 拓篤は掴んでいた胸ぐらを勢いよく離し、碧斗を放り投げ、そののち上から踏みつける。


「ごはっ!」


「初めは母さんを救わなかったお前に、仕返ししようと思ってた。この世界で出会った時、運命を感じたよ。ここなら、いくらでも復讐し放題じゃないか。どうせ、"殺しても死なないんだから"」


「っ」


「でもお前らは仲間ごっこでみんなを圧倒した。俺がせっかく見つけ出した操り人形(おもちゃ)共を、協力して倒した。お前らのお陰で覚醒した奴も居るが、お前らのせいでそれが活かせなかった。だからこそ仕方ないと。俺が直々に向かった。お前らを、壊すために」


「クッ、、だからっ、あの時っ」


 踏みつけられながら碧斗は、掠れた声で返す。すると、拓篤は見下しながら頷く。


「ああ。もう既にお前らがどこを拠点にしてるかは分かってたからな。だが、転生者共に場所を教えるよりも、俺が"あの話"をした方が効果があると思った。母の話。そして、俺の話を」


「っ、兄ちゃんの、、話、?」


「だがお前はそれすらも覚えて無かった!俺の顔を見てもっ、何もっ、覚えて無かったんだお前はっ!」


「クハッ、、はぁ、はぁ、、そ、それは、、ご、ごめん、」


「だからごめんじゃねーよ。現に、お前は何もかも覚えて無かった。全てを、忘れてたんだ。あのトラウマから逃げた。向き合おうとしなかった。そんなお前に、腹が立ったんだよ!」


「がはっ!?」


 拓篤は尚も足に力を込める。


「お前の事をいつも気にかけてた。大切にしてた、そんな母さんを、お前は忘れて、俺のことも忘れて、、だから、俺はもうお前の精神をぐちゃぐちゃにしてやろうと決めた。思い出させてやろうって決めたんだ」


「はぁっ、はっ、はぁ、、だからっ、!あんなことをっ」


「ああそうだよ!」


「がはっ!」


 碧斗は必死に足を掴み、抵抗しようとするものの、更に力を込められ、血を吐き出す。と、そののち、拓篤は彼を蹴り飛ばし、更に首を絞める。


「かはっ!」


「最初はこの世界でお前を殺してやろうと思ってた。死んでも死なないこの世界で、お前に復讐しようと決めた。だがな、考えが変わった。お前には死よりも大きな絶望を与えないと気が済まない」


「クッ、はっ、!」


「そこで見てろ。みんなが死ぬ様を」


「やめ、、ろ、」


「あの日、母さんを見殺しにしたのと同じ様にな」


「ち、ちがっ、それはっ、かはっ!はっ、はぁ、はぁ、」


 拓篤はそれだけを告げると碧斗を放り投げる様にして手を離し、皆の状態を確認する美里のもとへと歩み出す。


「チッ、休んでる暇ねぇって感じだな」


 大翔は歯嚙みしながら立ち上がる。美里は能力の多用。樹音は体力の限界と噴石との激突で直ぐに戦える状態では無かった。それを悟った大翔は冷や汗混じりに微笑み息を吐く。


「一分。ってとこだな」


 と、それを告げたのち、先手必勝と拓篤へと飛び出し声を上げた。


「その後はっ、任せるぜっ!」


「っ!大翔君っ、!駄目だっ、足場がっ」


 必死に止めようとする樹音だったものの、大翔はニッと微笑み振り返る。


「そん時は頼んだぞ樹音!俺は、お前を信じてるからな!」


「っ、」


「ハッ、馬鹿が」


 そのまま拓篤に突っ込む大翔に笑う中、樹音は俯いたのち、力強く微笑んだ。


「ほんとっ、人任せなんだからっ!任せてっ、足場の方は、全力でサポートするよ!」


 大翔はマントルを固めて足場とする拓篤に殴りを入れながら、樹音が出現させた刃の足場を伝っていく。それによって拓篤の攻撃を避けながら、刃を蹴って跳躍し、その落下の勢いで殴りにかかる。だが、それを見越した拓篤は、その瞬間にマントルを破壊し、彼を突き落とす。がしかし、それは既に見えていると。樹音はそこに足場を作り大翔をフォローすると、その上で向きを変え、殴りに入る。と、見せかけ、その空中で現れた剣を握り、それを投げ飛ばす。


「っ」


 それに視線誘導された拓篤は、その隙を狙って大翔が殴りに入る。


「クッ」


 それを避け、大翔に固めたマントルを放って吹き飛ばすものの、彼もまた空中で回転しそれを見越して出現したナイフの足場を蹴って尚も殴りかかる。


「おい。拓篤とかいったな!?お前碧斗の兄貴なんだろ!?だったらなんでこんな事すんだよ!?」


「はぁ、ほんと、間抜けだな。深く事情を知らないくせして、上っ面の言葉を発する」


「クッ」


 拓篤は僅かに声を低くし大翔に蹴りを入れるものの、彼はそれを受け止め殴り返す。だが、それも拓篤は避け、彼の顔面に殴りを入れた。


「なら、兄は弟を守るものだって。誰が決めた?」


「がはっ、」


「おい。答えろ。どうして俺が奴の兄だったらこんな事をしたらいけないんだ!?」


「がはっ!」


「大翔君っ!」


 彼は大翔を殴ったのち、崖の下へと放り投げる。その姿を見下しながら、小さく告げた。


「そういうのが、腹立つんだよ」


「っ!大翔君はっ、そういう意味で言ったんじゃない!どうして君が、碧斗君をあんな目に遭わすのか、それが聞きたくて言ったんだ!」


 その様子に、樹音は大翔に足場を作ったのち立ち上がり、蹌踉けながらも拓篤に向かう。が。


「んな事分かってんだよ!それでも、そういう言葉が腹立つんだよ。そんな、兄はこうあるべきって言葉がよぉ!」


「そんな事、言ってないよ」


「もうどうにでもなれ。俺が守ってきた奴は、俺の事を見てなかった。なら、もう守る必要もない。寧ろ、奪ってやる。そいつから、全てを」


「っ」


 拓篤は大翔に追い討ちをかけようと手を伸ばし、足場の刃を崩すためマントルを打ち上げる。が、それを阻止するためにも、樹音は息を荒げながらもナイフで壁を作り、僅かながらマントルを押さえる。


「確かに、覚えてない事は、辛いかもしれない。ずっと守ってきた大切な人が、何も覚えて無かったら辛くなると思う。でも、碧斗君はお母さんを見殺しにしたわけじゃないし、そんな事をする人じゃない。守りたくても、守れなかったんだ。炎に飲まれるお母さんを、守れなかったって。ずっと悩んでた。それは、拓篤君。君が、一番知ってるんじゃないかな?」


「うるさい。黙れよ。知った気になるな。碧斗から聞いたのか分からんが、主観的な意見を聞いただけで事実を語ろうとするな。部外者が」


「そうだね、僕は部外者だ。でも、僕は碧斗君の友達だ。だから、彼がそういう事をする人じゃないってのは、誰よりも強く言えるよ」


「ハッ、気にしてただの言ってるが、全て忘れてたんだぞ。逃げてばかりの臆病者だ。どうして逃げてる奴を可哀想と言い、そいつに手を差し伸べない奴を悪く言うんだ?」


「何の、、話、?」


 拓篤は歯嚙みしながら、地形を動かし、樹音に向かっていく。と、思われた次の瞬間。


「っ!」


 一瞬で彼は目の前にまで到達し、彼の首を掴む。


「かっ、かはっ!」


「樹音君!」「円城寺(えんじょうじ)、くんっ」


「碧斗は嫌な事から逃げてただけだ。母さんを見殺しにしたという罪悪感があったにせよ、それと向き合う事から逃げた。そいつを肯定して、それと向き合ってきた俺を悪者とするのか?殺しても死なないこの世界で、そいつを絶望に叩き落とそうとする奴を、そうやってみんなで悪にするのか?」


「僕が言いたいのはっ、そういうことじゃ、」


「っ」


 樹音が返そうとすると同時に、炎が拓篤の頰を擦る。


「...」


「かっ、かはっ、はっ」


 拓篤は樹音から手を離し、それをぶつけた本人へと視線を向ける。その先には、未だ立ち上がれずにいながらも、手を前に出し炎を放つ美里が居た。そんな彼女に、遠い目をしたまま拓篤は向かっていく。


「まっ、待ってっ、」


 掠れた声で樹音は止めようと放つ。が。


「樹音。お前は結局、俺が自分しか考えてないと言いたいんだろ。随分と回りくどい言い方をしてるが、結局は"そんな理由でこんな事するな"。それが正解だ。だが、自分勝手で何が悪い。こうして火山が噴火したら、人は皆自分を優先するだろ?助けを求めている奴を助けに行くなんて馬鹿がする事だ。だが、安全なところから見てる奴らはどうして助けなかったと怒る。そして、そいつを悪として扱う。自分を優先した奴よりも、自分の身を自分で守れない奴が、ただ助けてくれって望んで、待ってるだけの奴の方がよっぽどクズだと思うがな」


 吐き捨て美里へと向かう拓篤に、樹音は尚も声を上げる。


「だ、だとしたら、君のお母さんはっ、それに、含まれちゃうんじゃないの、?」


「違う。母さんは、碧斗を守って死んだんだ」


「「「っ」」」


 その言葉に、樹音のみならず碧斗と美里も目を剥く。


「俺が居ないと何も出来ないあいつを庇ってな。そんな奴が、忘れてたんだよ。その恩人を」


「はぁっ、はぁ!はぁっ、はぁ」


 続けて放たれたそれに、碧斗の呼吸はどんどんと荒くなる。拓篤はそれだけを背を見せたまま告げたのち、美里へと、炎を避けながら向かう。対する大翔は刃の足場が地上まで配置されているわけではないがために、必死にその崖を登る。


「はっ、はぁ、待ってろっ、!」


「ま、待ってっ、!駄目だっ」


 一方の樹音は息を荒げ炎を放ち続ける美里に到達する拓篤に、剣を生成し投げ飛ばし、それを避けた彼の一瞬の隙を突いて樹音は飛び上がる。

 が。


「はぁ!はぁっ、はっ、やめろっ、はぁ、やめろ、、やめてくれっ、」


 その「嫌な予感」に、碧斗が掠れた声で手を伸ばした、その瞬間。


「フッ」


「っ!」


 突如、地面からマグマが噴き上がりーー


「がふっ!?がっ、あっ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!」


 ーー樹音の腕を、僅か一秒とかからずに溶かした。

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