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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第7章 : 関わり合いと処罰する者(パニッシュメント)
249/300

249.団結力

相原(あいはら)さんっ!」


 碧斗(あいと)は懸命に手を伸ばした。届いてくれ。強く願い、ただ一心不乱に。

 だが。


「いが、、はしくっ」


 明らかに間に合わない。碧斗はそれでもと、速度を上げるが、その瞬間。


「ブレードブロッカーッ!」


「っ」


 上空からナイフが降り注ぎ、それが変形して美里(みさと)とマグマの間に地面が出来上がる。と、同時。


「っと!」


「っ」


 落下していた美里がその刃の床に到達するよりも前に、落下した大翔(ひろと)が足を着き彼女を受け止め、そのまま跳躍した。


「待たせたな。碧斗」


「っ!ありがとう、、大翔君」


 跳躍した彼と、急降下する碧斗がすれ違ったその瞬間で二人でそう言葉を交わすと、そのまま碧斗もまた飛躍しS(シグマ)に向き直り、彼に向かった。


「これがっ!俺らの力だっ!」


 空中にナイフで足場を作り、そこに立つ樹音(みきと)。地上に降り立った大翔は、抱える美里に口を開いた。


「おう。無事か?」


「うん、、あ、ありがとう、」


「んだよ、、なんかお前が素直に感謝するとむず痒いな」


「は?それどういう意味?」


「そうそう。それだ」


 そんないつも通りの会話を背に、碧斗は証明する様に強く放つと、未だ有害な煙をSに纏わせたまま、殴りを入れに速度をつける。


「思ったより早かったな」


 それに、Sは僅かにそう零した、その直後。


「っ」


 碧斗の速度をつけた殴りを、避けられる筈の無い彼はーー


「クッ!」


 ーー地面自体を地殻変動で動かし、自身の足を使わずに避ける。とそののち。


「っと」


「ぐふぁっ!?」


 碧斗が殴り抜けようとする中、横からSは回し蹴りを背中に喰らわした。


「がはっ」


 それによりバランスを崩し、背後の割れた地面に落下しそうになったものの、慌てて煙で這い上がる。


「はぁ、、はぁ、」


「そんな焦る必要はねぇよ、けほっ、、お前は、殺さない」


「誰も、殺させない」


 微笑むSに、碧斗はそう告げる。がしかし、彼の背後にあった地面が未だ続く地震によって大きく動き、碧斗に激突し吹き飛ばす。


「がはっ!」


「正義のヒーロー気取ってんじゃねーよ。まあ、ちょいと合流が早かった気もするが、寧ろ好都合だ」


「あ?どういう意味だ」


「ここで公開処刑でもしようかって話だ。伊賀橋(いがはし)碧斗。君の絶望を、死ぬまでに一度は目にしたい」


「ハッ、出来るもんならやってみろ!」


「っ、大翔君っ!待って!」


 Sがニヤリと放つ中、大翔はそう声を上げ向かう。その様子に、危険だと。空中のナイフの上で佇む樹音が声をかける。が、しかし。


「間抜けが」


「っ!」


 Sが呆れた様に放つと共に、大翔の走っていた地面が割れ、美里と同様にこの星の核へと落下させる。そう。地面を歩く事でしか移動出来ない大翔と美里が向かうのは、分が悪いのだ。そう思いながら先程同様助けに行こうと樹音が足を踏み出す。

 だが。


「「「っ」」」


 その瞬間、大きく地面が揺れる。それに、Sだけでなく、樹音、美里もまた、皆が驚愕する。何が起こった。

 そう思った時には既に。


「よぉ!」


「っ」


 Sの背後に、大翔が拳を構え現れた。


「終わりだっ!」


 その隙を突き、大翔は殴りかかる。が、しかし。


「クッ」


 またもや地面を移動させて、Sは大翔と大陸ごと距離を取る。


「流石だな脳筋。落下した時、落下中に地面の壁を拳だけで打ち壊し、それによって裂けた地の中を移動して背後を取ったわけだ」


「丁寧な解説どうもっ!」


「だが、近くに壁が無くなれば、どうって事はない」


「っ」


 Sはその特性を理解して、自身の足場である大陸を大きく移動させて彼との距離を大幅に取る。それによって足場の無い大翔は落下する。と、思われたが。


「とぉ!それはっ、俺が一人だったらの話だ!」


 彼の足元に突如、ナイフの足場が出来、ニッと微笑む。それに、ほんの僅かに目を見開いたものの、Sはまたもや仲間というものの強さを見せつける彼らに対し息を吐いて。

 彼の下。即ちこの星の核からマグマを噴き出させる。


「っ」


「この程度でイキがるな」


「大翔君っ!」


 瞬間、まるで時が止まったかの様に、大翔は足元を見据え冷や汗を流す。樹音はナイフを放とうとしたものの、既に間に合いそうもない。それに、皆絶望を見せた。

 が。


「っ、、お、?」


 そのマグマは、大翔に到達する事なく既のところで堰き止められた。


「な、、んだよこれっ」


(たちばな)君!いいから早くっ!」


「っ、お、おう!」


 大翔はそれに首を傾げたものの、美里が強く放ったそれに改めて跳躍し僅かに反応が遅れるSに殴りを入れに向かう。そう。彼女が、炎のエネルギーを調整して、マントルを固め勢いを殺したのだ。Sの能力はあくまでマントル。熱エネルギーを奪ってしまえばただの塊と化する。


「これで貸し借り無しだから」


 美里は息を吐いてそう口にする。だが。


「随分と無理をしたみたいだな。相原」


「っ」


 Sはあくまで視線は大翔に向けたまま、背後の美里にそう告げると、瞬間。


「だが、それも無意味だ」


 Sはそう呟くと共に、彼の足元から広がる様にして、地面にヒビが入り、瞬間。


「てめっ、何言ってーーなっ!?」


「へっ!?」


 殴りに向かった大翔が向かった先。即ちSの足場。及び、背後の美里の居た地面が大きく割れ、またもや落下する。それを予期していた樹音がナイフの足場で降下しながら向かうが、しかし。


「おっと、させるか」


「っ」


 瞬間、落下していた樹音目掛けて、同じく落下していたSはマントルの塊を放つ。それに慌てて剣を生成し防ぐものの、その勢い故に吹き飛ばされる。


「さぁ。これで二人同時だ。大切なものが消える瞬間を、見届けろ」


 Sはそう口にしながら、核の方向からマントルを伸ばして足場を作り着地する。と。


「い、伊賀橋くっ」


 ふと美里が掠れた声で、願望を込めて名を呟くと、刹那。


「とっ!」


 割れた地面の間をぬって、碧斗が煙で浮遊しながら美里、更には大翔もまた回収し地上へと戻る。


「そう簡単には奪わせないぞ」


「流石だ、碧斗。余程大切なのを感じるよ」


 碧斗のその言葉に、どこか確信した様に笑う。その、まるで試していたかの様な姿に、碧斗は狙った事なのかと、一瞬冷や汗を流すものの、その瞬間。


「っと、隙を突くつもりか?」


「っ」


 背後から樹音が剣を構えて向かってる事に気づいたSは、前を向いたままそう告げると、そののち。

 振り返って低く続けた。


「そんなんじゃ隙すら突けてねぇよ」


「っ!」


 Sの言葉と同時、地中から大きく圧力で押し出し、地面を突き出して向かう樹音に直撃させる。

 だが。


「な」


 その瞬間、樹音は消えた。


「今のは、」


「ひっかかった、、今のは幻だから」


「まさか」


 Sが呟く中、美里は掠れた声で笑う。彼女のその反応。間違いない。今のは、美里の能力によって生み出された蜃気楼。ならば、と。Sは上空に目をやる。

 と。


「終わりだっ!」


 樹音が剣を構えSに向かっていた。それにたとえ隙を見つけても同じ事だと言わんばかりに笑い、手を出すが。


「っ」


 樹音はSとは違う方向に落下した。


 それに、彼は目を丸くし振り返るが、その先で。


「っと!」


 樹音は更に落下地点にナイフを生成して着地し向きを変え跳躍すると、またもやその先にナイフの足場を作り跳躍する。Sの周りでそれを繰り返し、周りを回る。それを続ける中で。


「スモークミスト、」


「っ」


 Sの周りに纏わりついていた有害な煙。それが突如濃い煙へと変化し、周りの様子を目視出来ないよう遮断する。


「なるほど。この一撃に全てを賭けるか、、だが、そんなもの、いくら頑張ろうと意味はない」


 Sはそう告げ音を頼りに樹音の動きを察する。が、しかし。


「っ」


「とぉ!」


 瞬間、背後から大翔が殴りを入れ、Sは既のところで避ける。


「樹音の邪魔ぁ、させねぇよ!」


「意識をこちらに向かせる、、ねぇ。随分と脳筋な考え方だ」


 Sは煙の中でそう放つと同時、またもや地面を動かし大翔の足場を奪う。


「だあっ!?」


「空中で戦えない人間が、出しゃばるなよ?」


「クッ」


 Sが告げると共に、大翔は落下していく。その様子を見据える中で、突如。


「っ」


 ふと、Sの右腕に僅かな痛みを覚え、手を見据える。


「いつの間に、」


 そこには、斬られた跡が存在していた。血が既に出ている。即ち、斬られてから時間が経ったのちに痛みを感じたと思われる。


ーつまり、知らない内に斬られてるって事かー


 Sは脳内でそう呟くと。


「今も尚、現在進行形でな」


「っ」


 そう口に出し告げると、その矢先。左側を横切った樹音の足元からマグマが飛び出し、彼を追い詰める。


「クッ」


 それに慌てて足場のナイフを大きくするものの、それは一瞬にしてその上に居られない程の高温となり、次の瞬間には溶け切る。


「っ!」


「ずっとこの煙と大翔の攻撃に混じって、回りながら少しずつ傷を入れてたんだろ?」


 Sは続いて左腕、足、横腹など、段々と傷口が開き始める中、それを見ながら足場のナイフから飛び上がる樹音に放つ。


「隙を突くなら一撃に込めた方がいいぞ。二度はない」


「っ」


 続いて、空中の樹音に同じくマグマが向かう。彼の能力はあくまでも刃。空中に居られるのはナイフの足場があるため。即ち、碧斗を始めとした、奈帆(なほ)などの空中戦が行える人物と違って思った動きは瞬時に出来ないのである。空中で避ける事が出来ない樹音は、それにーー


「ブレードブロッカーッ!」


 ーーナイフの壁を作る事でしか防ぐ方法はない。それが解けるよりも先に樹音は落下し、向かったマグマは避ける事が出来たのだが、それによってSは微笑む。ナイフのサイズ変更に気を取られ、彼は足元を疎かにしたのだ。ナイフの足場は早めに生成しておかなくてはならない。故に、そんな彼に向かって。


「なっ!?」


 今度は現在壁となっている地中からマグマを噴き出させた。が。


「させるかっ!」


「っ」


 またもや、碧斗が飛躍し割って入ると、そのまま回収して戻っていく。その先には、大翔も立っていた。恐らく、圧倒的に能力面で不利な皆を守るため、碧斗自身は回収に力を注いでいるのだろう。危ない時は回収し、何度でも立ち向かえるという状況を作り出したのだ。だが、甘いと。Sはまたもやマグマを放つ。と、それもまた。


「ブレードブロッカー!」


 目の前に刃の壁が出来留められる。


「めんどくせぇな」


 それに、Sは舌打ちを零す。この刃の壁自体には何の力も無いものの、それを溶かすまでの僅かな時間。それが、大きな変化となるのだ。それを阻止するべくSは地面を動かし、回収した人を待機させている場所へと向かいながら、またもやマグマを放つものの、同じく刃の壁に止められる。だが、それは今までとは違ってーー


「っ」


 ーー一瞬にして、Sの周り全てに刃の壁が出来ていた。


「閉じ込めたつもりか?」


 Sはそのまま地面を動かすものの、刃はどうやら地面から生えている様で、それを退けることは難しい。ならばマグマで溶かすしかないとSは手を出すがしかし。

 その瞬間。


「かかったな」


「何、?」


「人のこと言えないって話だ」


 碧斗が、ニヤリと微笑む。と、その瞬間。


「スモークミスト」


「くはっ!?」


 先程まで、そこには目眩しとして煙を放っていたのだ。彼はその時からその煙を吸っていた。そう、智也(ともや)の時同様、碧斗はその煙を有害物質に変換することにより彼を追い詰めた。


ークッ、この刃の壁はっ、このためかっー


 Sは目を細める。煙を外に逃がさないための壁。だが、甘いと、Sはマグマで壁を溶かす。と、その瞬間。


「フッ」


 碧斗はまたもや、微笑んだ。まるで、そこまで想定済みだと告げる様に。そんな彼の顔が、溶かされた壁の向こうから現れた。と、刹那。


「ぶっ!?」


 強大な圧力と共に、まるで圧死するかの様な勢いで地面に潰される。


ーこれはっ!?ー


「はぁ、、はぁ、どう、?これが、、熱の、エネルギーッ」


 目を見開くSに美里が微笑む。刃による密閉空間は煙を充満させるための方法であると考えていたがしかし。それは彼に煙を吸わせる。というよりかは、空気中の物質調整をしていたのだ。セッティングがされている中、Sはまんまと刃を溶かすためマグマを放った。そこに、美里による熱エネルギーの操作を加えることによって、密閉空間の気体に突然温度変化が訪れた事となる。即ち体積変化がないため、分子の運動が激しくなり、圧力が高くなったのだ。いわば、外からの圧力に押し潰された。その表現が適しているだろうか。


「クッ、、カッ、」


「はぁ、、はぁ、惜しかったな、S。お前の能力は、俺達には止められない。だが、お前は俺を意識し過ぎた。俺に絶望を与える事に集中したがために、自分が追い詰められていることに気が付かなかったんだ。だってお前は、自分は死んでもいいと思ってるからな。だからこそ、自分の身に降り注いでいる死を感じなかったんだ」


 碧斗は、これで終わりだと言わんばかりに手を前に出し告げる。マントルが抑えられているのは、圧力によってである。(しん)が居ない今、彼を圧力で抑えつけるのは不可能。だが、皆で力を合わせれば、進の様な圧力調整も可能なのだ。碧斗は、これが一人とみんなの違いだと示す様に足を踏み出す。

 が、その瞬間。


「はははっ」


「は、?」


 何故か、Sは声を上げ笑った。

 この状況で。一体何故。皆はそう怪訝な表情を浮かべたものの、その矢先。


「「「「っ」」」」


 皆はその理由を理解する。


「何が惜しかっただよクソが。勝った気になってイキがってんじゃねーぞ。いいか?俺の終わりはお前らの終わりだ。これこそが」


 そう、Sが笑う中、皆の背後でーー


「終末の始まりなんだよ」


 ーー火山が噴火した。

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