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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第6章 : こびり付いた悪夢(コシュマール)
242/300

242.正義

伊賀橋(いがはし)君っ!円城寺(えんじょうじ)君っ」「碧斗(あいと)っ!」


 突如、空からは鉄の塊が落下する。碧斗達とは対面の場所に居た美里(みさと)大翔(ひろと)はそれが落下した場所に声を荒げる。

 それは、まるで、二人を狙ったかの様な場所。


「クソッ!大丈夫かっ!?碧斗っ、樹音(みきと)っ」


 それに走り出す大翔と、それとは対照的に、それを落とした人物が必ず居る筈だと。美里は駆け出したい気持ちを抑え辺りを見渡す。


「はぁ、、はぁ、、な、なんとか、、大丈夫だ、」


「ありがとう、、大翔君、僕は、大丈夫だよ、」


 どうやら、既のところで二人とも避けることが出来たようだ。大翔は車の後ろで息を吐く二人に、安堵した。


「はぁ〜、、んだよ、、平気そうじゃねーか」


相原(あいはら)さんのお陰で、早めに気づけたからな、」


 それに碧斗が答え、二人で立ち上がる。そんな姿を、"その人物"は遠くで見据える。


「こんなところで潰すわけにはいかないよ。君達には、こんなところで終わってもらうつもりはない」


 そう呟き、その男性。黒に近い銀髪をした、七三分けの眼鏡の男子は手を前に出した。それによって、その車は稼働する。


「さぁ。まだまだ。君の負けじゃ無いよ阿久津智也(あくつともや)君。君の力、最後まで見せてくれよ。最後のステージを、僕は存分に盛り上げてあげる」


 僅かに目を細めて、表情はそのままそう誰にも聞こえないくらいの声で呟く。と、そんな中、ふと。


「っ」


「...」


 美里がその男子と目を合わせ、見開く。対するその男子は相変わらず表情は変わらなかったものの、その美里の姿に、小さくーー


 ーー微笑んだ。


「あいつ、」


 それを目にした美里が、小さく呟くと、その瞬間。


「「「っ」」」


 その車のエンジンがかかり、碧斗と樹音、大翔は肩を震わす。


「っ」


 すると、その振動でか、はたまた使命感によってか。反射的に智也は目を開き、その車を見据える。それで、何かを察した様だ。突如目つきを変えて、僅かに体を持ち上げる。


「さあ、いいよ阿久津智也君。君なら分かるだろう。その車は、"電気自動車"だ」


 まるで、思う存分楽しめ。そう言わんばかりにその男性は微笑むと、次の瞬間。


「碧斗っ!」


「っ」


 智也は、突如声を上げる。


「これで終わりだと思うなよ。ここまで来たんだ。もう戻れない。俺も、お前もだ。碧斗、俺は意地でも、お前を連れて帰る。絶対にだ」


「なっ」


 智也の発言に目を見開いた碧斗。と、瞬間。


「「「「っ」」」」


 突如車がふかし、碧斗達に向きを変え向かった。


「なっ、まさかっ、」


「えっ、何っ、これっ!」


 突如スピードを上げて接近する車を既のところで避けようとしながら碧斗と樹音は声を上げる。がしかし。


「マズいっ、間に合わないっ!」


「させっかよ!」


 目の前にまで車が差し掛かった瞬間、大翔が前に飛び出し車を拳で止める。


「っ!た、助かった、、ありがとう大翔君、」


「おうよ、、ってか、これなんだよ、」


「そんなんで止められると思うか?」


「「「っ」」」


 感謝を告げる碧斗と、この車に首を傾げる大翔。そんな中、ゆっくりと立ち上がり智也は口にする。


「おい碧斗っ!しばらく気ぃ失ってるんじゃ無かったのかよっ!体まで動いてんぞ!?」


「馬鹿なっ、、あの煙の量で、そんな直ぐに立て直せる筈が、」


 碧斗は冷や汗を流す。確かに致命傷では無かった。その様に調整した。だが、それでも、ここまで早く回復出来る量では無かった筈だ。


「これはただの電気自動車じゃない。電気量によって威力をも上げるっ、車だっ!」


 智也はそう放つと同時に、今の最大の力をその車に放ち、それによって。


「うおあっ!?」


「「大翔君!?」」


「っ、(たちばな)君っ!?」


 大翔は、吹き飛ばされた。


 その様子に思わず振り返り声を上げた美里。そののち、ハッと気づき、改めて先程の男子へと向き直るものの、その時には既に。


「っ、、クッ、、見事に踊らされたわけね、」


 彼は、そこには居なかった。


「っとぉっ、くっ!」


 すると、対する大翔は空中で向きを変えて足で着地すると、暴走する車を見て放つ。


「んだよあの車、、この世界に車なんてあったか?」


「いや、無いよ。だから、あれは間違いなく能力によるものだと思う」


 目を細める大翔の隣で、樹音は剣を生成して移動すると、そう口にする。


「智也が作り出したのか?」


「いや、その可能性は低い。智也君の能力とはまた別のものだ」


「だとすると、」


 割って入る碧斗に、樹音が促すと、彼は無言で頷いたのち、半ば確信した様子で放つ。


「第三者による介入。それも、智也君をサポートする様に。そして、、心当たりがある」


「あの時の、、だよね」


「あ、あん時って、、いつのだ?」


(しん)を探しに行く時。修也(しゅうや)君の居場所へと向かおうとしてる時に現れた男子だ。確か、車を用意してくれてた」


「っ!そういえばんな奴いたな。そうか、、なら、これもあれと同じ能力でか」


「彼の事は何も知らないし、能力も不明だ。だからこそ、弱点を見つけるのは難しいかもしれない。けど、少なくともその人物は、智也君と共闘している。その可能性が高い事は分かった」


「なら、ぶっ飛ばして関係性を聞くしかねぇな」


 碧斗の発言に、大翔は同意すると、拳を構えて前に出る。と、それに続いて碧斗もまた一歩踏み出し、目つきを変える。


「ああ。智也君の言うそのやり方で、俺たちもまたこの世界を変える」


「はははっ!随分と正義感出してっ!やってる事は一緒だろうがっ!」


「そうかもな。みんな、それぞれ自分の考えがある。自分なりの正義がある。だが、だからこそそれを貫いた事による結果がこの争いとなるなら、俺は正義よりも真実を取る」


「何の話だ」


「この世界の真理。俺は隠されたそれを知るために戦う。その真理を使ってこの争いを終わらせる。本当の意味で争いを終わらせられるのは、事実のみだ」


「そうか。それは随分と都合の良い話だなっ!」


 智也はそう声を荒げると、その暴走した車を無理矢理カーブさせて碧斗達に向かわせる。


「お前達のその真理を探すとかいう決意。それに、俺の覚悟が負けるわけにはいかないっ!」


 こちらに向かう車を止めるため構えながら大翔は冷や汗混じりに微笑む。


「本人を倒したと思ったら第三者によってデカいもので暴走するって、まるで戦隊モノみてぇな展開だなっ!」


 大翔は到達した車を拳で受ける。と、それを見据えながら、碧斗は樹音を掴んで煙で空中へと逃げ出す。と。


「でも特撮みたいにこっちはそういうのに対抗出来る兵器みたいなのは無いぞ!?」


「対抗出来るものならあるぜっ!」


 空中で碧斗は声を上げたものの、大翔は自信げに放ったのち、ニッと微笑んで車を持ち上げる。


「俺こそが兵器だ!」


 大翔はニッと笑いそう放つと、車を放り投げる。それによって転倒した車は、いくらタイヤを回そうとも動く事は無かった。


「ナイスだ大翔君っ!」


「ああ!まかせっ、、ごふぁっ!?」


「「っ」」


 碧斗が大翔に放ったその時。突如彼は口から空気を吐き出し倒れ込む。どうやら、電気を流された様だ。


「馬鹿か。それだけで終わると思うなよ」


「大翔君っ!」


「て、てめぇ、」


「さっきの車はカモフラージュだ」


「なっ、、と、とは言え、、智也君も限界に近い筈だ、」


 碧斗は、胸を張る智也にそう呟く。いくら量を調整したとは言えども、有害な煙を吸っているのだ。今までと同じ様に動けるはずはない。今もまだ、息苦しさは抜けていない筈だ。の、筈だが。


「っ!?」


「終わりだ」


「碧斗君っ!?」


 空中の碧斗に、電気を放ち、それによって彼と、抱えていた樹音もまた共に地面に落ちる。


「う、嘘だろ、、そんな、体力が、」


「はは。もう空中にまで電気を飛ばせる力は無いと思ったか?それは甘いぞ碧斗。俺はな。この戦いに命かけてるんだ」


「...どうして、、俺にこだわる、?」


「...」


 碧斗が、掠れた声で放つと、智也は目を逸らす。と、そののち、大翔が割って入る。


「碧斗が、独裁者になるだとか、、んな事言われたからだろ?」


「なっ、、だ、誰にだ、?」


S(シグマ)だ。な?そうだろ、智也?」


「...」


「!」


 大翔の促しに、智也は目を逸らす。あの反応、嘘では無さそうだ。碧斗は目を細める。


ーまさか、、智也君も、、Sに誘導されて、?ー


 碧斗の額から汗が噴き出した。彼の動きは止まったと思っていた。いや、寧ろあの後姿を現していない事の方が不気味である。何か、大きな何かを、企んでいるのではないか、と。すると、対する智也は息を吐いて口を開いた。


「随分と野暮だな大翔。こんなとこでそれを話すなんて」


「ハッ、別に、だからやってるわけじゃねーんだろ?なら、話しても良いじゃねーか?」


「分かってるのに、そんな聞き方をしたのか、、相変わらずめんどくさい奴だ」


「んだとっ?」


 智也が呆れた様に放つと、改めて告げる。


「ああ、碧斗。俺はSにお前の事を聞いた。そして、そこで言われた。お前は独裁者になるってな」


「お、、俺が、?独裁者、?」


「そ、、そんなの、、あるわけないよ、」


「本当にそう思うか?」


 樹音が恐る恐る放つと、智也は被せて放つ。


「碧斗はな、人を操る力があるんだよ。分かるだろ?こうして長い時を一緒に過ごしてれば、嫌でも分かってくる。碧斗は、頭がいい。そんな理由だけじゃ無い。その何かによって、皆はそれを最善だと思い込んでる」


「お、俺はっ、別に最善なんてっ」


「そう言うけどな。その最善かも分からない策を、みんなに話してやらせてるのは誰だ?」


「そ、、それは、」


「やらせてるなんて言い方やめてよ。僕らが好きでやってるんだ」


「ほらな、見ろよ。これだよこれ。碧斗の一番恐ろしい部分だ。碧斗が考えているその策。最善かも分からない、自身の野望や傲慢な考えも含まれているそれ。それを、言われたからでは無く、碧斗の考えだからと。好きでやろうとしている。これが、どれほど恐ろしい事か分かるか?」


「そ、そんな事、」


「なぁ碧斗。無意識に、自分の望んだそれを、周りが行ってくれる様になった時。正義だと考え行い続けているそれが、第三者から見たら正義では無かった時、どうなると思う?」


「な、」


「それは、ただの独裁者だ。お前の望んだ世界を作り出すために、その思想に染まった奴らにやらせているだけのな」


「そ、そんな事っ!」


「いや、、そう、かも、しれない、」


「碧斗君、?」


 智也の発言に、反論しようとする樹音だったものの、対する碧斗はそれを遮ったのち言葉を失う。今まで、見て見ぬふりをしてきたそれを、突きつけられている感覚であった。しかも、それをSが発している。それが、心を抉った。


「碧斗。Sは、随分とヤバい奴だな」


「っ」


「俺も一度会って。それだけで分かった。みんなが奴に踊らされるのも分かるってな。でも、碧斗。お前も分かっていないだけで同じ様なものだ」


「だからお前っ!一緒にすんなよ!」


「まるで信者だな。そう声を荒げるなよ。一個人の感想だろ?」


「っ、、てめっ」


「大翔君、、やめてくれ、」


「そういう碧斗も、ずっと煙出してるんだろ?」


「っ」


 どうやら、智也は気づいていた様だ。


「この会話も、時間稼ぎか?碧斗。また見えない煙によって俺を内側から侵食しようとしてるわけだな?だが、二度も同じ攻撃は喰らわない。空気中の煙の成分を変化させるのにも体力と時間を要するのはさっきの様子で分かった。なら、それよりも先にお前を仕留めれば良い」


「クッ、クソッ!させるかっ」


「もう遅い。煙如きが、電気の速度に勝てると思うな」


 智也はそう放ち手を碧斗に向けようとする。と、同時。


「「「「っ」」」」


 智也の周りに、炎の幕が現れる。


「やってみたら、?電気を発した瞬間、爆発するかもね」


「相原か。もう少し電気を流しとくべきだったか」


 智也は僅かに目を細めながら、炎で見えはしないものの、美里の声のした方向へ振り返り放つ。対する美里は、冷静な声音とは裏腹に必死の様子であった。先程の電流は、この様な事をしてこないようにと放ったものであるがため、以前同様体が動かない程のものだった。故に、彼女は必死に体を起こしながら手を構え続ける。ものの。


「サポートはいらない」


 智也の言葉と同時に、彼は地面に電流を流して美里に電気を流す。


「うぅっ!?」


「「相原さんっ!」」


「相原っ!」


 碧斗は樹音と共に空中に逃げ、大翔は跳躍し電気を避けながらそう名を叫ぶ。が。


「クッ、、うぅっ!」


「な、馬鹿な、」


 尚も、炎の幕が消える事は無かった。


「この電流で、」


「相原さん、」


 歯を食いしばり、拳を握りしめ、必死に目を見開く彼女に智也もまた驚愕し、碧斗が不安げに呟くと、そののち。碧斗は悩んだ様子で目を瞑り、その後見開くと、目つきを変えて告げる。


「大翔君!」


「ん?あ、お、おう!」


 碧斗は何やら大翔に伝えると、彼は頷く。それに反応し、智也は振り返る。


「なんだ、?」


 と、瞬間。


「っ」


「これでもっ、受け取れっ!」


 目の前に、突如先程の車が現れた。そう、炎の幕の外側からだ。それに智也は目を見開き、避けようとした。が、その瞬間。


「「「「「っ」」」」」


 その場には、巨大な爆破が起こった。


「クッ、、で、でけぇなっ!?これっ」


「リチウムイオン電池かっ」


 それに身を低くし耐える中、碧斗はそう放つ。先程の炎の中に、この電気自動車を入れる。それによって、ただでさえ衝撃を受けていた車に、炎が注ぎ込まれ、爆破を起こしたのだ。ガソリン程ではないが、電気自動車も爆破を起こせば大きく燃え上がるのだ。


「クッ!クソッ!?こんなっ、、あいつっ!?図ったな、?」


 するとその中から、息を切らして、服が燃える智也が現れる。


「あ、あれ、、大丈夫かな、?」


 敵ながら、心配する樹音。確かに、服の燃え方が本格的である。このままでは彼も危ない。炎があるため煙で追い打ちをかけるのは容易い。だが、と。碧斗は留まる。彼は電気の能力者。炎には何の耐性もないのだ。


「そうか、、俺は、また、、使い捨てだったのか、」


 と、対する智也はそう声を漏らした。その言葉の意味を、碧斗は僅かに察した。と、その時。


「このままでは、、終わらせない。俺が、作り出してやる。新たな、、可能性を、」


 智也はそう誰にも聞こえない声で呟くと、その場を去って行った。


「なっ、ちょっ、」


 それに手を伸ばす碧斗。だったが、彼は裏路地へと姿を消し、それと共に。


 電気の結界は、消え去った。


「はっ、、はぁ、、はぁ、」


「っ、、相原さんっ」


 碧斗はそれよりもと。美里に駆け寄る。


「はっ、、はぁ、、はぁ、どうやら、、なんとか、なった、みたいね、」


「うん、、だから大丈夫だよ、もう、無理する必要は無い、」


「にしても、、何だったんだよ、」


 碧斗が美里に放つ中、大翔は遠い目をして呟く。恐らく、その言葉は、智也と彼の関係についてだったのだろう。それを察した碧斗は目を逸らす。

 と、対する美里は、ふと割って入る。


「さっき、、前の眼鏡の奴が居た、」


「っ!」


「っ!そ、それって、」


 碧斗と樹音が目を見開くと、大翔もまた思い出した様子で口を開く。


「眼鏡、?ああ、さっき話してた、あん時の車出した奴か、、やっぱそうだったんだな」


「まあ、、車なんて無いこの異世界で、それ以外はあり得ないと思ったけど、」


「でも、どうして、?」


 大翔に続いて碧斗と樹音が口にすると、美里は呼吸を整えながら起き上がり、座り込む。


「多分、、あいつなんじゃ無い?助けてくれた人ってのは」


「っ」


「なるほど、、でも、結局はただいい様に使われてただけだったわけか、」


「そ、そんなの、、分からないんじゃ、」


「いや、、多分、あの車一台で俺達を倒せるなんて思ってない筈だ。ただ、智也君は捨て駒として、利用されたんだと思う」


「でも、、車を出した理由は何なの、?それは、助けるためだったんじゃないの?」


 碧斗の発言に、樹音はそう返す。が。


「彼の目的が分からない以上、何とも言えない。多分、それは智也君も分かって無かった。ただ言えるのは、俺達を殺そうとはしてないって事だ」


「回収したいって話だったね、」


 碧斗の考察に美里が呟くと、その後。大翔は息を吐いて割って入る。


「ま、、とりあえず今は終わったんだ。難しい事考えてねぇで、俺達は俺達の出来ることを考えた方が良くねぇか?」


「...それも、、そうだな、、今はあの本を頼りに、この世界の謎を解かなきゃいけない。それが先だ」


 大翔の言葉に、皆同感だった様子で、とりあえず戻ろうと。グラムの家へと足を進める。


「大丈夫、?相原さん」


「う、、うん、、まだ、、ビリビリする、けど、」


「フッ、情けねぇなぁ」


「あんたが異常なの」


「...」


「?...どうした樹音。心配か?」


「え、、あ、、そう、だね、」


 ふと、先程智也がいなくなった方向を見据える樹音に、大翔が声をかけると、目を逸らす。


「相当燃えてたし、、この辺で水なんて、」


「一応向こうに川があっただろ?」


「それでも、あの燃え広がり方、、間に合うか分からないよ、」


「...」


「ご、ごめんっ!その、僕らを倒そうとしてた相手に、、こんな、」


「いや、何でもねぇよ。ただ、樹音らしいなって、思っただけだ」


「え、?お、怒らないの?」


「ん?まあな。そんなお人好しの樹音が心配なのは変わらねぇけどよ。それもまた良いところなのは知ってるし、それをカバーしてやるのが仲間ってもんだろ?だから安心しろ。お前のお人好しで誰かが傷つく事が無いように、俺が止めてやる」


「っ、、ひ、大翔君、」


 樹音は目の奥が熱くなる。前から。そう、最初から彼は気にかけてくれた。ただ真っ直ぐな、樹音を。こんな疑心暗鬼になる様な世界で、一番騙されてしまいそうな彼を。

 どこか不安だった。もう、呆れているのかもしれないと。そう思っていたから。だが、それは彼の本当の言葉の様で。それを聞けて、樹音は思わず微笑んだ。


「ありがとう」


 小さく、それだけを告げた。それに、大翔は返す事は無かった。ただ同じく微笑んで、前を歩く、美里を支えながら進む碧斗達に追いつく様に、大翔は歩き出した。どこか、恥ずかしかったのだろう。それを察して樹音が微笑んだその時。


「わ、わわっ!?」


「えっ」


 ふと、背後から声が聞こえ、樹音は振り返る。と、そこには。


「あ、あえ、、えっ、と、、い、行かせませんっ!」


「え、」


 何故か慌てた様子で、突如慣れない口調でそう放つ、オレンジ寄りの金髪で三つ編みでアレンジされた、ショートボブな女子が、手を前に出して、樹音に立ちはだかった。


 と、瞬間。


「っ」


 彼の周りには、"泡"が現れた。

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