表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第7章 : 関わり合いと処罰する者(パニッシュメント)
240/300

240.処罰

「クッ、このための作戦だったのかっ」


 智也(ともや)は、血が噴き出す足を押さえながら刃の迷宮の中で声を上げる。その様子に、碧斗(あいと)は目つきを変える。どうやら、確実にダメージは与えた様だ。だが、これで諦める様な人物ではない。現に、まだこの空間は解放されていない。奥で美里(みさと)達が張り付いたままなのが証拠である。あと一歩。樹音(みきと)が作り上げてくれたこのチャンスを、絶対に無駄にしてはいけないと。碧斗は強い視線で智也に向かった。

 すると。


「終わりだっ!」


「なっ」


 その場に、濃い煙を放出する。それも。

 有害なものである。


「カッ、カハッ!?な、なんだっ」


「これがっ、俺の成長だ!」


 空中で、碧斗が声を上げる。智也は、まだ有害な煙を受けた事が無かった。そう、確実に油断していただろう。

 樹音の作り上げてくれたこの状況。先程までの空間であれば、こうも上手く煙は放出出来なかっただろう。何せ、障害物も何もない空間である。煙は分散し、彼の呼吸を苦しくさせる程、その場に充満はしないだろう。今まで、遠距離に好きなタイミングで、好きな場所に煙を発生させる事は出来たものの、その場で固定する事は難しいのだ。いくら能力であろうともそれは煙である。上空に昇るか、密度を調整して下へと下げるかのどちらかになるだろう。そのため、今まではその場に煙を放出し続けていたものの、この広い空間を覆う程の力は残ってはいなかった。もし煙を出しても、彼が移動し空気が残っている場所を見つけられればこちらが終わりである。

 何せ、煙によって呼吸困難になるよりも、電気が到達する方が早いのだから。

 だが、この、刃の空間。それにより、彼の逃げ場が限定されている。更に広く分散しないがためにより多くの煙を吸わせる事が出来、彼の電気から逃れられるよう、碧斗は刃の裏に隠れながら煙を発生させられる。


「がっ、がはっ!クソッ!」


 智也は焦りを見せた。先程の攻撃以降、碧斗は姿を現さない。つまり、攻撃が出来ないという事である。地面に電気を流そうとも、他の人とは違い空中を移動出来る彼には無意味。そうなった時、智也は。


「チッ、クソッ!ダウン取られてたまるかよぉ!」


 当てずっぽうに、雷を落とすしか方法が無くなるのだ。


「っ」


 碧斗はその雷を避けながら、煙を出し続ける。このままならいける、と。冷や汗混じりに口角を上げながら。


「クッ、!」


 智也は限界に近い様子だ。足の怪我もあり、走る事は不可能。故に、煙から逃れる事も困難。


ー樹音君、、ありがとうー


 碧斗は強く胸中で思う。彼のこの行動が無ければ、絶対に思い浮かばなかったものであり、たどり着けなかったものだ。碧斗はそう感謝を思いながら、ラストスパートだと言わんばかりに。人が気絶する程の煙を放った。

 が、瞬間。


「「「「っ!?」」」」


 その場の、倒れている樹音や美里、大翔(ひろと)までもが目を見開く衝撃。及び、閃光が当たりを包む。


「なっ、何だっ、?」


 思わず目を瞑った碧斗の目の前に。


「っ!?」


 瞬間、ガラスの破片の様なものが飛んで来ており、既のところで避ける。


「クッ!?」


 が、どうやら頬を掠っていた様だ。気づいた時には既に頰から血が出ていた。このガラス。いや、ガラスよりも鋭い。これは、もしや、と。碧斗はゆっくりとそちらに振り返る。


「ま、まさか、」


 すると、先程まで出来上がっていた刃の迷宮は、智也を中心に大きく破壊されていた。


「嘘だろ、」


「あ、ありえない、、雷だけで、、そんな、」


 碧斗が絶望を見せる中、美里は驚愕する。そんな彼女に、智也は振り返り告げる。


「普通ならね。でも、落雷の衝撃波、空気の膨張による破壊。そしてその雷鳴による空気の振動。それを組み合わせれば、不可能では無いよ。実際に、落雷が直撃した場合、窓ガラスが割れる可能性がある」


「そっ、そんなの、、直撃しても確率は低いでしょ、、落雷は確かに衝撃を生むけど、、衝撃が強い現象では無い筈、、これも、能力による強化ってわけ、?」


 美里は、掠れた声でそう絶望の色を見せる。それに、智也は微笑む。


「ま、能力となると少し特殊って事だねぇ。実際、碧斗も煙で空を飛ぶなんて、通常ではほぼ不可能に近いわけだしさっ」


「つまり、、それを自分に落としたって事か、」


「そうそう。そんな感じ。俺は電気に耐性があるから、俺自身に雷を落として、その威力を周りに出す様調整すれば、俺の周りの刃は破壊出来るってわけだね」


 彼の言葉に碧斗が歯嚙みしながら付け足すと、智也はそう答えて改めて美里に振り返る。


「にしても、元気そうだね。もう声も出せないくらいの状態にした筈なんだけど」


「こ、このくらいで、、私が黙ると思った、?」


「へぇ。ガッツはあるんだねぇ。じゃあ、今度は意識を失って再起不能になる様な一撃を、送るよ」


「っ」


 智也はそう口にすると、美里に構えた。それに、来ると。分かってはいるものの、体が張り付けられているため逃げる事が出来ない。それに、目を強く瞑ったが、その瞬間。


「させるかぁぁっ!」


「がっ」


 横から、碧斗が智也に殴りを入れた。


伊賀橋(いがはし)君っ」「あ、碧斗っ!」


「はぁっ、はぁ!」


 息を切らして智也の目の前に立つ碧斗。そんな彼に、美里と大翔もまた名を口にした。


「おいおい、甘いよ碧斗。こんなやわっちぃ攻撃っ!俺には意味ねぇんだよっ」


「っ、ごはっ!?」


「伊賀橋君っ!?」「碧斗っ!」


 一度は彼に殴りを入れたものの、直ぐに立て直し、逆に碧斗は智也に殴りを入れられ後退る。

 そう。碧斗の能力は力には何の関与もない。そのため、彼の殴りは普通の人間による殴りと同等。いや、彼の場合元々力がないのでもっと効かないだろう。


「かっ、けほっ」


「おいおいっ、そんなもんかよ!」


 退いた先で呼吸を整える中、智也は瞬時に近づき、更に殴りを入れる。


「ごはっ!」


「まだまだっ!」


 更に続けて、蹌踉ける碧斗を追いかけながら何度も殴りを入れ、その威力、反動により大きく倒れそうになった碧斗の胸ぐらを掴み、引き寄せて更に強く殴り放り投げる。


「がはっ!?」


「終んねぇよっ!」


「ごはっ!」


 智也は倒れ込む碧斗に蹴りを入れながらそう口にしたのち、そのまま彼を持ち上げ更に殴る。


「ごぶっ」


「悪いな碧斗。だが、俺の邪魔をした罰だ。少し眠ってろ」


 その言葉通り、智也は腕に電気を集中させ殴ろうとする。が、しかし。


「ぐぅっ!?」


「っ」


 声を上げたのは碧斗。では無く、智也の方であった。

 そう、声を上げた智也の殴ろうとした腕には、刃が掠った事による傷が浮き出していた。


「かっ!?クソッ!またかっ」


 それにより手を離し、碧斗は倒れ込む。その奥で、倒れながらもこちらに手を伸ばし、鋭い目つきで見据える樹音の姿を見て、智也は歯嚙みした。


「もうそんなこと出来る体力は残ってないと思ったんだけどな」


「はぁ、はぁ、」


 近づく智也に、ただ息を荒げる樹音。その声は普段よりも低く、明らかに先程の援護攻撃に憤りを感じている様子であった。だが、樹音にズンズンと向かう中、突如。


「っ」


 足を引っ張られバランスを崩した智也が振り返った目の前に。


「おらっ!」


「ごふっ!?」


 拳が叩き込まれた。


「行かせねぇよ!」


「クッ、碧斗っ、てめっ、ごふっ!」


 まるで足を引っ張られたのち、この角度で、このタイミングで振り返ることを想定していたかの様に、智也の顔に殴りを入れた碧斗は、更に殴りを入れる。今しかないと。


「まだだっ!」


 更に煙を至近距離で放出し、有害な煙を与えながら追い詰めていく。

 が。


「があっ!?」


「あ、碧斗くっ、!」


 殴ったと同時、碧斗は突如声を上げ崩れ落ちる。そう、彼は殴られたと同時に。


「おいおい。俺に近距離攻撃って、随分とデカくなったな、碧斗」


「クッ、」


 彼は、電気を発したのだ。

 常に電気を蓄えている智也は、少しでもそれを体外に出せば触れることすらままならない存在となる。故に、近距離攻撃は行えない。そう、分かっているが、しかし。


「負けてったまるかよっ!」


「っ」


 碧斗は尚も、殴りを入れた。このチャンス。もう訪れない。そう強く思う様に、電気によって痺れ、感覚がない。立っているのもやっとの状況。だが、近距離で煙を発しながら、殴りを入れ続ける。少しでも手を緩めれば、その瞬間に弾き飛ばされるだろう。今はただ智也に隙を与えぬよう殴りを入れながら、この距離での煙の放出を続けるしかないと。碧斗は無理矢理体を動かす。

 が、しかし。


「いい加減にっ、しろよっ!」


「ぐぅっ!?」


 碧斗に突如強い電流を与えながら、強く足を蹴る。それによって、ただでさえ崩れ落ちるほどの衝撃を受けた碧斗はバランスを崩され、蹌踉けると同時、今度は智也がその倒れ込んだ彼の顔に膝蹴りをする。


「ごぶっ!?」


 強い衝撃。思わず鼻からは血が垂れる。碧斗はその勢いのまま顔を上げると、その目の前には更に智也の拳が向かっていた。


「ぐはっ!」


 先程の仕返しの如く、更に、何度も殴りを入れられる。対抗出来ない。殴られる度に軽い電気を流されている。そのため、それが蓄積し、上手く動かす事が出来ないのだ。


「かはっ!」


「調子乗んなよ碧斗。お前の様な力の持った奴が調子にでも乗ってみろ。簡単に崩れるぞ」


「ごはっ」


 碧斗の腹に殴りを入れ、血を吐き出した。と、同時に。


「ぶっ!?」「ぐっ!?」


 その場に突如爆破が起こり、二人は引き剥がされる。と、共に、今度は智也の背後から無数のナイフが向かい、それを避けるものの、そのナイフは向きを変えて追尾する。


「チッ、めんどくせぇ」


 向かうナイフに智也は手を向けると、バチッと。電気が放たれ、その空気膨張によってナイフの勢いは崩れ地面に叩きつけられる。が、そのナイフの後ろに炎の塊がおり、それに気づいたと同時に、智也は吹き飛ばされた。


「がっ!?」


 数メートル先で立て直す智也。対する碧斗は、咳き込みながらも美里に振り返った。どうやら、彼女が援護してくれた様だ。先程の衝撃。あれは恐らく炎と電気による膨張のもの。あまりに一方的にやられていた碧斗と智也を引き剥がすために、二人の間に炎を出現させたのだろう。碧斗はそれを認識して、ただ智也を力強く見据える美里に微笑んで脳内で感謝を告げたのち、ゆっくりと立ち上がる。


「碧斗っ、、チッ、大丈夫かよっ」


 大翔は無理矢理体を剥がそうとしながら、碧斗の様子に呟く。それに大丈夫だと。まるでそれを返すかの如く双眸で、碧斗は僅かに振り返ると、智也に向かう。


「っ」


「くらえっ」


 碧斗はナイフや炎に気を取られている智也の背後に回り込むと、その声に反応し振り返った彼の顔をまたもや殴り抜け、煙を放出し尚も呼吸の乱れを狙う。


「また同じことをっ」


 智也は歯嚙みしながら向き直ると、碧斗は更に腹に殴りを入れようとする。それに遅いと。智也は電気を放とうとするものの、それを阻止する様に炎が現れ、またもや二人は吹き飛ばされる。


「クッ」


 それに智也は歯嚙みすると同時に、碧斗はそれをまるで分かっていたかの様に瞬時に目の前に現れると、またもや殴り抜ける。


「ガッ」


 碧斗は先程同様、殴り続け、煙を放ち続ける。だが、今度は周りをナイフが漂っており、一瞬の隙を見つけては飛ばされた。また、それに反応し電気を放とうとすると、炎が現れ爆散し、僅かに反応が鈍っているその間に、碧斗が間合いを詰める。


ーそうか、これが、これこそが、お前らの力なんだな、、いや、、違うな、これもまた、碧斗。お前が作り上げた環境。お前の、力かー


 それを見た智也は、それと共に確信する。

 碧斗はやはり、野放しにしてはいけない存在だと。


「悪いな、碧斗」


「?」


「お前のスクワットは全滅だ」


「は、?」


 智也は小さく呟いた。その瞬間。


「ぐっ!?」


「ああっ!?」「がぁっ!?」「クッ!?」


 智也に向かって雷が落ちると共に、近くに居た碧斗は吹き飛ばされ、同時に他の皆も声を上げる。


「な、、一体、」


 吹き飛ばされた先で、碧斗は倒れ込みながら皆を見据える。

 美里も大翔も、樹音も。皆、ぐったりとしていた。張り付けられている二人はその状態のまま。対する樹音はまるで地面に張り付けられたかの様に、動く事無く崩れていた。


「...嘘だろ、」


「死んでない。安心しろ」


「っ」


「ちょっと強い電気を流しただけだ。気を失ってはいるだろうけどな」


「何で、、俺は、意識を残したんだ、?」


「俺の強さを見せておこうかと思っただけだ。上に立つものはな。その権力をまずは知らしめなきゃいけない。俺が、涼太(りょうた)にそうされた様に」


「それと同じ事をするのか、、随分と幼稚だな」


「それがこの世界のやり方だ。そして、プラスになる事は真似する。それが俺のやり方だ」


 智也は、もう既に戻れないと。まるでそう言うかの様に呟くと、碧斗にゆっくりと近づく。それに抵抗しようと、立ち上がるものの。


「クッ!?」


「あの至近距離で雷を受けてるんだ。体にも相当なダメージが入ってると思うぞ」


「ハッ、、そんなに弱い奴を甚振るのが好きか?」


「自分をまだ弱い奴だと思ってるなら、碧斗。お前はもう少し俯瞰して見たほうがいいぞ」


 智也はそう告げると、次の瞬間。碧斗を殴った。


「ごはっ!」


 そう。電気も何も含まれていない。ただの拳で。


「かはっ」


「どうした。やり返せよ」


「クッ、クソッ!」


「っと」


 碧斗は蹌踉めきながら殴りを入れようとするものの、それを智也は華麗に躱し、通り過ぎた彼の腹を蹴る。


「ごはっ」


 それにより吹き飛ぶ碧斗だったが、まだまだと。立ち上がり殴りかかる。


「おお、そうだそうだ。頑張れ」


「クッソ!」


 だが、またもや彼には避けられ。


「がはっ!」


 足をかけられそのまま殴り抜けられる。


「かはっ」


 それによりまたもや倒れ込むものの、それでもと。碧斗は立ち上がり殴りかかる。

 それの、繰り返し。碧斗は既にボロボロである。手足は痺れ、体には皆と比べると大した事は無いが、僅かに火傷の痕が見られた。だが、それ以上に、生々しい殴られた痕が、幾つも現れ、口からは血が吹き出した。


「はぁ、はぁ、、まだだっ!」


「おいおい、いい加減諦めろよ」


「まだ、、倒れるっ、わけには、、いかない、んだっ」


「い、伊賀橋、君、」


「何、?」


 碧斗の掠れた声に反応し、智也の背後から声が聞こえる。


相原(あいはら)、、さん、?」


「どうやら、意識を取り戻したみたいだな。じゃあ、、他ももうそろそろか」


「は、?お前、、一体何を言ってるんだ、?」


「クッ、、あ、碧斗、」


「っ」


 智也の発言の通り、美里に続いて大翔もまた意識を取り戻した様子で、掠れた声で名を呟く。それに、碧斗は訝しげに目を細める。


「ああ。みんな同じくらいの電流にしたんだ。あえて、数分後に目覚められるくらいにねぇ」


「それって、、まさか、」


「ああ。力の見せしめは、一人にしても意味がない。皆に、知らしめるんだ。皆を率いる一人の人間を、圧倒する存在の力を」


「てめぇ、、腐ってんな、」


「腐ってる、?腐ってるのはこの世界だ。どうして、、どうして死ななきゃいけなかったんだ、、あんな、いい人達がっ!真面目で、自分を責める様な、弱いけど優しい奴をっ!元気で、はちゃめちゃだけどっ、あの場所を暖かくしてくれた奴をっ!静かで、だけど本当は色々考えてて、しっかり者な奴をっ!どうしてっ、ああも簡単にっ、」


「それは涼太君に向けた怒りじゃないのか?」


 智也の言葉に、碧斗は告げる。すると。


「ああ、それもそうかもな。勿論、これからあいつもどうにかするさ。順番に裁く。この俺が。新たな、処罰を下す者(パニッシュメント)となってな」


 その宣言とも取れる発言に、震えながら立ち上がる碧斗。そして、もう既に動く事すら出来ない皆は、目を見開いた。


「まずはお前らから罰する。そして、同じ悲劇を生まない様、タネは全て摘む。お前らのゲームオーバーは俺のリスタートとなる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ