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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第7章 : 関わり合いと処罰する者(パニッシュメント)
237/302

237.先制

「はぁ、はぁっ」


ー待っていてくれっ、みんな、、直ぐにこっちを終わらせて、戻るからっ!ー


 息を切らしながら、王城へと向かう碧斗(あいと)は心中でそう呟く。煙での浮遊は走るのとは違い体の負担はないものの、能力をフル活用しながら、神経を集中させなくてはならないのだ。勿論、体力にも影響が現れる。

 それでも、と。碧斗は急ぐ。悠介(ゆうすけ)は我々の居場所。即ちグラムの家を特定したのだ。それを転生者に告げ口するつもりだろう。

 碧斗はそう考えたのち、気づく。ならば悠介よりも先に王城へと到達し、光の魔石で彼に成りすまし、別の場所に案内すれば良いのだ、と。碧斗は飛行しながら考える。

 先に転生者達と移動していれば、悠介が到達する時に入れ違いになる事が出来るだろう。そして、そこが我々の居場所ではない事を悟られたその時、信用がなくなるのは悠介の方である。それはこちらとしても有利となるだろう。彼がそこからグラムの家を促したとしても、それを信じる人は少数派となる。

 それとも、拓矢(たくや)にそれを伝えた方が良いだろうか。樹音(みきと)以外に敵意がない彼に伝える事によって、他の転生者を説得してくれるかもしれない。彼も馬鹿ではない。そう簡単に他の人達には我々の居場所を教えたりはしないだろう。美里(みさと)を一度助けたのだから、その可能性は高い。また、それなら涼太(りょうた)に先に告げるのもアリだろう。彼はこの世界の人には手を出せない。

 ならば、グラムには手を出さないだろうし、我々だけが移動すれば、涼太はそれを理解し碧斗達が移動した事だけを他の皆に伝えてくれるだろう。


「...」


 碧斗は飛行しながら悩む。どれが最善か。悠介は一体どの選択をするだろうか、と。彼は非常に頭が切れる存在だ。故に、簡単な突破策では既に読まれている事だろう。彼の考えそうな事を逆手に取り、裏の、更に裏を読まなくてはならない。だが、悠介の人物像が、未だに上手く掴めていない。いや、寧ろそれが狙いなのかもしれないが。

 まず彼の目的が分かっていない。我々を捕まえる事が目的だとすると、以前我々を騙す様な行動をしながら、仲違いをさせた理由が分からない。碧斗達を捕まえる。連行する。国王に差し出す。それが目的なのであれば、その時に捕まえる事が出来ただろう。いや、出来ない理由があったのだろうか。確かに彼の能力は一対一の戦闘向けではないが、光の点滅等で碧斗達を再起不能にさせる事は可能であったはずだ。


「...どれが正解だ、?」


 碧斗は未だ答えが出ないまま王城に到達すると、密かに裏から倉庫に侵入し、光の魔石を取り出そうとする。と、その時。


「いや、、待てよ、」


 ふと、手を止めて碧斗は目を細める。相手は悠介である。ここまで簡単な事をするか、と。以前の戦闘の際、彼はこちらの裏を読んでいた。そんな人が、ここまで瞬時に考えられる打開策で突破出来る様な方法を選ぶだろうか、と。碧斗は考える。

 ここに来るまでの間で三つの策が浮かぶ程、それを突破するのは容易である。ならば、彼がする可能性があるのは。


「っ」


 碧斗はそこまで考えて、やっと理解する。そうか、そういう事か、と。歯嚙みする。これは、少し遅れたら手遅れになると。そう確信して。

 そう。転生者達に我々の居場所を伝えるという行為自体は良いが、そこには穴が多くあった。それを理解していない筈がない悠介は、転生者では無く。


 国王側に、それを伝えに行くだろうと。


「クソッ、」


 それを確信して、碧斗は光の魔石を握りしめて、一棟へと向かう。その姿を、魔石で消しながら。

 相手が転生者では無く王国の人間になるならば、話は別である。先程の策が、全て効かなくなるのだ。王国側の人間ならば、グラムに対し危害を加えるどころか、寧ろ指名手配となっている勇者を匿ったとしてグラムを連行する事も出来るだろう。そして、我々もまた、相手が転生者でない以上、むやみに攻撃は出来ない。そうなった時、我々には逃げる事しか出来なくなる。だが、逃げられない。グラムを置いて行ける筈がないのだ。転生者に悠介のフリをして案内をしている間に、王国側の信用を奪われては意味がない。


「マズいっ」


 故に、碧斗は冷や汗混じりに足を早める。

 が。


「っ!」


「何、?本当ですか?」


「はい。僕が案内いたしましょう」


 一棟の廊下を、既に悠介と騎士達が歩いていた。恐らく、もう既に国王に伝達が行われた後だろう。騎士達が集まって悠介の話を聞いているのが証拠である。彼は一人の力に限界がある事は理解している筈だ。そのため、安易に一人で騎士にその話をしに行く事が、どれ程無謀な事か。時間の無駄になるかをよく理解しているだろう。だからこそ、先に上に報告を行って、自身が転生させた勇者である相手故に、聞かないわけにもいかないという状況を作り上げたのち、騎士達にそれを伝え案内をしているのだ。


「クソッ、、遅かったか、」


「っ、、ふっ、」


「っ!」


 碧斗がその光景に歯嚙みする中、悠介は光の耐性があるがためにこちらに気づき、ニヤリと微笑む。これでは、あの時と同じでは無いか、と。碧斗は思いながらも、どうにかして阻止しなくてはと思考を巡らせる。


「こうなったら、、仕方ない、」


 碧斗は、それならばと。悠介について行くよりも大きな事をするしか無いと。目つきを変える。王城に被害が出る程の何かを、ここで行えば、きっと彼らはそちらを優先する筈である。だが、と。そこまで考えたのち碧斗は悩む。


『背負おうとしないでって。一人で抱え込んでたら、私が意地でも駆けつけるって。...だから』


 美里(みさと)の言葉で、思い留まる。また、自身を犠牲にする様な、囮作戦だ。碧斗は最初から、皆が居ないと囮になる事しか、思い浮かばないのだ。一人じゃない。それは分かっている。皆が待っている。美里が待っている。だからこそ、ここで、そんな事をするわけにはいかないとも、それも分かっている。後先を考えずに行動するべきではない。それをして、生きて戻れるビジョンが、碧斗にはあるのか、と。自身に問いかけ押し黙る。

 爆破だけを起こして姿は魔石で隠し続ければ良いだろうか。いや、そんな事をしたところで、大した時間稼ぎにはならない。王城には他にも多くの騎士が居る。その人達に任せれば良いと。悠介が言葉巧みに促すだろう。それすらも予想しているよと。先程の笑みには、まるでそう言っている様なものも感じた。だが、それもまたブラフなのだろうか。

 と、そんな事を悩んでいる内にも、騎士達を連れた悠介はどんどんと向かって行く。ならば、と。碧斗は改めて外に出て、煙を放出して家に向かった。どこかで悠介と入れ替わる事は出来ないだろうか、と。だが、姿が見えている彼を相手にするのは難しい。

 ならば、王城側に何も出来ないのなら、グラムの家の方に対策をすれば良いのだ。そう碧斗は先回りして光の魔石で上手い事住民に成りすまし、騎士達を欺こうと考えたのだ。

 碧斗はそうと決まればとスピードを上げてグラムの家へと向かう。が、その中で改めて考える。

 先回りをして住人に成り済ましたところで、何か変わるだろうか、と。寧ろ、国王側が民家の情報を調べた際、登記簿などがこの世界に存在した場合、グラムとは違う人物が出てきたら逆に怪しまれる可能性が高い。恐らく、グラムもまた今までも騎士達を追い返している点から、今回も同じく理由をつけて追い返す可能性が高い。だが、今回は悠介が一緒なのだ。もし家の中なんて入られたら、布団の数、準備されている料理の数などから、我々の存在を察知されるだろう。故に、どちらにせよそれは得策ではないと。碧斗は空中で止まる。

 ならば、グラムの家に先回りをするのでは無く、その道中で追い返さなくてはならないと。碧斗は改めて目つきを変える。と、その瞬間。


「おい」


「っ」


 碧斗は空中から、地上を歩く騎士達に向かって放った。


「随分と久しぶりだな」


「この間お会いしたばかりでしょう」


 そこには、以前地下で遭遇した騎士の代表も居た。


「向こうから顔を出すとは、ありがたいですね」


「ああ。これから王城を襲う。その予告に来た」


「何っ!?」


 ざわざわと。騎士達は声を漏らす。それを、騎士の代表と悠介は無言で聞き入れたのち、碧斗はそのまま王城へと方向転換をして飛行する。

 それを見つめながら、悠介は息を吐く。


「ブラフだね」


「分かりやすい。今から向かっている家が、彼らの住処であると告げているようなもの」


「今までそんな事しなかった彼がそんな事をしてるんだ。相当焦ってるよあれは」


 代表と悠介がそう口々に放つと、それを耳にした騎士達はそうかと、安堵する。

 だが、妙だと。悠介は歩きながら目を細める。あそこまで分かりやすい事を、彼はするだろうか、と。


ーそっか、、伊賀橋(いがはし)君達はそう思ってるのかー


 それを察したと同時に、悠介はニヤリと微笑んだ。と、その時。


「ここからは、行かせないよ!」


「っ!」


 突如、目の前にはナイフを持った樹音が現れた。


ー樹音君っー


 空中で、魔石を使って戻ってきた碧斗は、それを見据え目を見開く。


円城寺(えんじょうじ)君、、彼も、グルかー


 その姿に、悠介は微笑む。


「丁度良いですね。彼も捕まえますか」


 騎士の代表がそう呟き、皆に促すと、騎士達は一斉に樹音に向かう。がしかし、その槍をナイフで弾きながら、距離を取る。


「あんなナイフ如きにっ」


 それに騎士達は歯嚙みしながらも集まっていく。それを見据えながら、碧斗は微笑む。グラムの家を渡さない。その強い意思を見せる樹音に、答える様に。碧斗は。


 騎士達の背後に、突如煙を大量に出現させた。それにより、悠介は察する。

 恐らく、我々を追う際に樹音にも話していたのだろう。これが、最初の作戦なのか。はたまた考え抜いた後でたどり着いたものかは分からないが、恐らく碧斗が考えている事はそうだろうと。どこかで確信する。


「ど、どうして我々の背後に煙が、?」


「これは、、妙ですね。二十四番目の勇者様。どういたしますか?」


 槍を振るう騎士が呟き、代表が悠介に促す。と。


「これもまたブラフだよ。彼らは確かに地下を使っていた。僕も一度はそこまで追い詰めたよ」


「わ、我々も、地下で彼らと対面しました」


「それをお互いに知ってるからこそ、伊賀橋君はこの選択をしたんだ。王城を襲う。その明らかな挑発を、ブラフだと察し、"王城に戻る必要はない"と、騎士達全員に思わせる。その中で、円城寺(えんじょうじ)君。つまり、刃の能力を持った彼が我々の相手をして時間稼ぎをしている間に、王城に戻るための道を煙で塞いだ。つまり、彼らの目的は王城の地下を占領する事。彼の能力は進化してるんだ。煙の成分を変えれば、彼一人で地下に居続ける事が出来る。煙に耐性のない我々は入れないんだから」


「っ」


 悠介のそれに、騎士達は目を見開く。ならば、戻らなくてはと。足を踏み出すものの、悠介はそれを押さえる。


「待って。まだ終わってないよ。それもまたブラフさ。これをすることによって、今から向かおうとしているのは住処ではない。本当は地下を狙っているんだと。そう考えさせるための方法だよ」


 悠介は、察したそれを口にしながら、前へと進む。そう。騎士も悠介も、彼らが地下に居た事を知っているのだ。他の皆も地下を経由している事は知っているものの、地下内を全て把握しているのは騎士に限られる。彼らは、騎士達に地下に居る事がバレた点に脅威を感じているのだろう。

 だからこそ、我々をあえて他の場所に誘導する様な事をして、その隙に地下を拠点とする準備をしようと。そうこちら側は考えるのでは無いかと予想したのだろう。


ーでも、甘いんだよねぇー


 悠介はニヤリと微笑む。だがしかし、どちらにせよ地下を拠点にしたところで不利である事に変わりはない。それはグラムの家に行ってからでも遅くはないと。悠介は考え尚も進む。


「くあっ!?」


「っ」


 と、そんな事を考えながら足を進める中、樹音が騎士の槍によって弾かれる。


「残念だったね」


 悠介がニヤリと微笑みそう告げる。と、その瞬間。


「スモークミストッ!」


「「っ!」」


 既のところで碧斗が煙で目眩しをし、樹音を回収する。


「だ、大丈夫だったっ!?」


「う、うん、、だけど、」


 樹音は不安げにそう呟く。それに、碧斗もまた歯嚙みした。このままでは、グラムが危ないと。故に、樹音と地上へと戻り、碧斗は向かおうとする。が、しかし。


「っ!」


 ふと、遠くに何かが見える。


「...刃、?」


 あれは、少し前に見た記憶がある。あれは、確か、悠介を閉じ込めるために壁にした彼の刃。それを、どうしてここに、と。碧斗が疑問に思った。


 その、瞬間。


「っ!」


「捕まえた」


 碧斗の背後。先程まで樹音が居たところに、三久(みく)が立っており、碧斗の腕を掴んでいた。


「...まさかっ」


「これ」


 彼女は、ポケットに入った"光の魔石"を取り出し見せると、瞬間。

 耳を覆いたくなるほどの音波を出した。


「がはっ!?」


           ☆


「い、今の、」


「ああ。伊賀橋碧斗だね。ね?やっぱブラフだったでしょ?」


 悠介は彼に彼女を渡せた事に安堵しながら、改めてと足を進めた。

 が、その瞬間。


「「っ!?」」


 目の前に、刃の壁が現れた。


「これは、、まさか、」


 悠介は僅かに声を漏らし目つきを変えながら、辺りを見渡す。それに、騎士達はまだ気づいていない様だ。


「はぁ、どちらにせよ、、手遅れだったわけだ、」


 そんな中、悠介は左右を見渡し、遠くに同じく刃が見え歯嚙みする。その様子に、騎士は首を傾げる。


「どうなさいました?」


「...僕らは、閉じ込められたってわけだよ」


「なっ、それは一体、!?」


「さっきの煙はただのブラフじゃ無かったんだ」



「フッ」


「っ」


 一方の碧斗はニヤリと微笑む。


「き、君が、、樹音じゃないのは、分かってた、」


「っ!」


「さっき、大井川(おおいがわ)さんがナイフで戦ってる中、かはっ、、後ろに、見えたんだ。刃のっ、壁がっ」


「まさか、それで」


「ああ。あれは、あの時悠介君達の背後に煙を出したのは、その刃に気づかせないための手段だ」



 悠介は、理解が追いついていない騎士達に見解を告げながら、どこかに抜け道はないかと歩く。


「円城寺君の能力は瞬時にこの広さの刃を出す事は難しいんだ、、だからこそ、こちらに"囲われている事に気づかせない様に"する必要があったんだ」


「それが、、先程の、?」


「そうなるね。僕らは変に考察をしている中で、既に大きな刃の壁によって隔離されていたんだ」


 悠介は拳を握りしめる。本物の樹音の存在を観測していなかったと。彼は恐らく王城に向かうより前にここに残る選択をしたのだろう。だからこそ、この様な先回りの如く行動が可能となったのだ。それも恐らく、碧斗の作戦。故に、彼は元々こちらに戻ってくるという事を予期していた。いや、そうなった時の対処法。つまり保険の役割を、樹音にお願いしていたのだ。だからこそ三久を先に行かせたのだが、気づかれたか、と。

 だが、それでもと。そこまで考えながら、悠介はニヤリと微笑む。樹音の能力は遠距離も行えるとは言えども限度がある。恐らく、目に見える範囲あたりまでが刃の生成が行えるエリアなのだろう。即ち、樹音はそう遠くには行っていない、それが予想出来る。上手く、こちらから近くに居る彼に何か出来れば、あるいは、と。悠介は目つきを変える。


 が、その瞬間。


「クッ!?まさかっ」


「がっ!?」


「かっ」


 悠介が驚愕する中、騎士達が次々と崩れ落ちる。そう。この刃の壁によって生まれた閉鎖空間。そこにーー


 ーー有害な煙が、立ち込めていた。


「クッ、はっ、」


 悠介は歯嚙みした。人を殺める事、苦しませる事はしない碧斗故に、この方法は頭にはあったものの、それが行われるとは思っていなかった。恐らく、限界ギリギリのところまで煙を流し込み、そして。


 遠隔で、成分を変化させたのだ。


「かっ、、はっ、」


 すると数分後。ふと、背後の刃が崩れ落ちた。


ーや、やっぱりかー


 その予想通りの光景に、悠介は冷や汗混じりに微笑む。煙によって限界にまで達した騎士達。そんな中、"王城側"の刃が崩れる事によって、空気を求めた皆はそちらから出て、今から彼らの住処に攻め入ろうなんて考えは捨てるだろう。故に、誰かを殺める事無く、難しい小細工も無しに、皆を王城へ帰らせる事が可能となる。だが、それの一番の問題はそこではない。と、悠介は拳を握りしめる。


ーまさか、あいつら、、僕の考えがー


 悠介は怪訝な表情を浮かべる。と、そんな最中、皆はまるで碧斗のシナリオの通りだと言わんばかりにゾロゾロと外へ出て、空気を求めて王城への道を戻って行く。その光景を見据えながら、隣の騎士代表は口を開く。


「残念ですが、、また日を改めた方が良さそうですね、、今の我々で、またあの煙を放たれたら、、ひとたまりもない」


「...」


 そんな事を放つ代表に、悠介が頭を悩ませた。と、その直後だった。


「「っ」」


 数十メートル先。そう遠くない場所である。そこで、落雷が起こった。


「...これは、」


 悠介はニヤリと微笑む。と、瞬間。


 突如、刃の壁が、消えていく。


「なっ!?」


 その光景を遠目で見据え、碧斗は声を漏らす。

 一方の悠介はやはりかと。何かを察して微笑んだ。


「皆さんっ!大丈夫です!もう、壁は無くなりました!行きましょう!」


 改めて、騎士達に向き直りそう促す。それに、怪訝な表情をする騎士。


「...二十四番目の勇者様、、彼らの住処を見つけたのは分かるのですが、、この状況では難しいかと、」


 騎士の一人が、振り返り告げる。そこには、息切れをしながら苦しそうにする騎士達が居た。


「大変失礼である事は承知の上で、お聞きしたいのですが、何か、そちらに今すぐ向かわなくてはならない理由がおありで?」


 どうやら、悠介を疑っている様だ。それはそうだ。先程から、悠介は急かしてばかりいる様に見える。それに、代表が割って入ろうとしたものの、悠介はいいと。そう言わんばかりに前に出て告げる。


「今すぐ、とは言いませんが、なるべく早くした方がいいかと思いまして、、何せ、反乱分子ですから、、どうなるか、分かりませんし。それに、僕を疑っているなら、それは間違いですよ」


 その発言に、「いえ、疑ってなどは、」と呟く騎士だったが、悠介は続ける。


「確かに、光の魔石を持って、光の能力を持つ僕に変化するのは得策とは言えます。元々光で見た目を変化させられる僕なら、僕が二人いても、どちらかが偽物と言い張る事が出来ますから。...でも、僕は最初から居ました。入れ替わる隙などありません。それに、そうだとしても急かす理由はありませんよ。先程の空間の中で、やろうと思えば皆さんを殺せたのですから」


 ニコッと笑い、悠介は放つ。その、皮肉めいたそれに、騎士達は歯嚙みしたものの、少しの間ののち頷く。


「分かりました、、ですが、全員で向かうのは、控えさせてください。すぐに戻った方が良い騎士もいらっしゃいます」


「はい、それでも全然いいですよ。なんなら、もし僕が裏切った時用に、見張りや王城へ報告する役割の騎士を用意してくれて構いません」


 悠介は余裕そうにそう告げると、騎士達も半信半疑だったものの、代表の後押しがあり、共にグラムの家に向かった。

 と、そんな皆の後ろ姿に、碧斗は冷や汗を流す。


ー嘘だろ、ー


 作戦は完璧であった筈だ。悠介は確かに瞬時に策を考えられる。だが、一人で行う事には限界があるはずだ。そのため、先程の状況下ではほぼ無力であった。だがしかし。


智也(ともや)君、」


 現在、三久と煙で距離を取り、光の魔石で姿を消した状態で見据える碧斗は思わず拳を握りしめる。智也の雷さえなければ、完璧であった。

 恐らく、樹音も三久が擬態しているのを知っていたからか、距離を取って刃を生やし、大きめの空間にしていたのだろう。だが、それが間違いであった。樹音の刃の能力には、限界がある。既に、先程まで悠介を閉じ込めていたため、彼もまた限界が近かった。そのため、彼らを帰すための出口を作り、早く終わらせようとしたのだが。彼の落雷。たったそれだけの一撃で、樹音の集中力が僅かに緩んだ。それ故に、壁が消え今に至る。


「クソッ、」


 碧斗もまた壁がないところで煙を動く相手に一定量、放ち続けるのは困難なのだ。そのため、マズいと。慌てて飛躍しグラムの家に向かう。が、しかし。


ーま、間に合わないっ!ー


 裏口から入ったのでは間に合わない。だが、正面から入れば少なくとも悠介にはそれがバレる。騎士達がそれを目撃したらそれこそグラムに容疑がかかる。このままでは、グラムが、そう思い何かないかと。慌てて辺りを見渡す。

 が、そんな抵抗虚しく、悠介率いる騎士達は、グラムの家をノックした。

 出ないでくれ。そう強く望みながら、碧斗は僅かな可能性を信じて裏口へ向かう。


 と、そのドアを開けた、人物は。


「うるっさいですわね。一体何事ですの?」


「シェ、シェルビ、、皇女、?」


「えっ」


 見慣れない女性が、現れた。


「何事ですの?人の家に勝手に押し入るなんて、分をわきまえなさいですわ」


「すっ、すみませんでしたっ!」


「...は、?」


 悠介は、その予想外の見慣れない女性と、その女性に慌てて頭を下げる騎士に力無く声を漏らしたのだった。

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