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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第7章 : 関わり合いと処罰する者(パニッシュメント)
235/301

235.上手

「っとぉ!」


「いけた、?」


「おおっ!そういうことか!」


 碧斗(あいと)が上昇する事で、電気の壁の"上"を通過すると、その様子に美里(みさと)は息を吐き、大翔(ひろと)はそこで初めて理解する。そんな中、同じく智也(ともや)もまたそこで理解し歯嚙みする。と。


「させるかっ」


「それはこっちの台詞だ!」


「ぐはっ」


 碧斗を逃すまいと。智也は手を前に出し彼に電気を放とうと。更にはその奥に二重に壁を生み出そうとしていたものの、大翔が背後から突き飛ばし、隙を作る。


「今だ碧斗っ!いけっ!」


「ああ!後は頼む!」


 碧斗は掛け声の様にそう告げると、勢いそのままその場を後にした。それを見届けながら、大翔は智也に追い討ちをかけようと更に畳み掛ける。が、その瞬間。


「ぐはっ!?」


(たちばな)君っ」


 恐らく、彼の周りから高電圧な電流が放たれたのだろう。近くに居たことによって、直接それが流れたのだ。


「くっ、はっ!」


 大翔はピクピクと。痙攣しながら倒れ込む。そんな中、美里は手を前に出し、空中にいくつかの炎の塊を作り上げると、またもやそれを飛ばす。が、それもまた以前と同様、智也に到達するより前に爆散する。


「クッ、、や、やっぱり駄目、、多分、あれは、」


 美里はそう呟き目を細める。彼に近づいたと共に爆散し、消え去る。その動きから察するに、炎の圧力と、電気のエネルギーが近づき膨張したことによって、爆発が起こったのだろう。即ち、電気を放っている智也に向かっての熱エネルギーの攻撃は、全て彼の電気のエネルギーによって到達前に消滅させることが出来ると言うことだ。智也の言う通り、能力の相性は最悪である。

 それを美里は察する中、智也は歯嚙みしながら起き上がる。


「余計なことを、」


「しくったのは、、お前だろ、?」


「あ、あんた、、起き上がって平気なの、?」


「ハッ、碧斗を逃すのに成功したんだ。これくらい、安いもんだ」


 大翔は未だ僅かに痙攣をしながらも、智也の背後で起き上がる。


「逃す、か。こんなので逃がせたと思えるなんて、幸せ者だな」


「ハッ、どういう意味だよ」


「お前らは俺の足止めにすらならないって話だ」


 智也はそう放つと同時に電流を全方向に流す。碧斗の煙の様な、範囲攻撃でだ。


「クッ!?」


「うっ!?」


「能力の相性最悪な二人くらい。すぐにスタン出来る」


 智也はそう言うと、範囲攻撃故にその場で倒れ込む二人を他所に、碧斗を追うため歩き始める。が。


「っ」


「ちょっと、待てよ」


「お前、」


 彼の足を、大翔は掴んでニヤリと微笑む。


「まさか、電気を利用したのか、?」


「利用する気は無かったけどな。でもどっちみち、離す気はねぇぞ」


 そう。智也からは電流が放たれている。そんな中、大翔が彼の足を掴んだら、一溜まりもないだろう。だが、それを顧みず、気合いのみで掴んでみせた。それ故に、電気が流れ続け、寧ろその手は動かす事が出来ず、逆に彼の足を離せなくなったのだ。


「はぁ、、大翔。しょーじき、お前と戦うつもりはないんだって」


相原(あいはら)と碧斗狙ってる時点で、俺と戦うつもりなくてもやるっつーのっ!」


「はぁ、そっかぁ。それなら、仕方がないなっ!」


「ごはっ!」


「たちっ、ばなっ、君!」


 智也は呆れた様にそう声を上げると、それと共に足を掴む彼を蹴飛ばし吹き飛ばす。だが、大翔は直ぐに立て直し、起き上がると、対する美里もまたゆっくりと立ち上がった。


完全に(オール)ダウンさせてから碧斗のところには向かうとするよ。救助もさせないくらいにな」


「おうっ、やってみろよっ!」


 智也が覚悟を決めてそう告げる中、大翔と美里もまたここで彼を止めると覚悟を決め、向かったのだった。


           ☆


「残念。自ら首を絞める結果になったね。円城寺(えんじょうじ)君」


 悠介(ゆうすけ)は、笑う。その声は、刃の部屋によって反射し、音ですら場所を判断するのが難しくなっていた。


「クッ」


 未だ閃光が辺りを埋め尽くす中、樹音(みきと)は目を強く瞑り、耐えながら彼の居場所を想像する。


「はははっ、僕の場所を特定するつもり?難しいと思うけどなぁ」


 その、耐え続ける姿勢に、悠介はニヤリと微笑んだ。それに対し、樹音は目を細めながらナイフを生成して放つ。どれか、掠ってくれと。まるでそう願う様に。


「無駄だよ。それじゃあ僕の場所は分からない」


 悠介は、その悪足掻きに微笑んだ。と、同時。


「っ」


 瞬間、樹音の周りに刃の壁が生えては彼を箱に閉じ込める様に飲み込む。


「何を、?」


 悠介は、ここから出る道を探しながらも、樹音のそれを一瞥して怪訝な表情を浮かべる。と、瞬間。


「まさか」


 悠介は何かを察して急いでその迷路から脱出するべく足を早める。が、しかし。


「クッ、、遅かったか、」


 そう。既に、出口は存在しなかった。


「なるほどね、円城寺君。君の目的は、僕を倒す事じゃ無かったわけだ」


「そうだよ。言ったでしょ?僕は君に危害を加える気はないから」


 悠介は、空を見上げながらそう声を上げる。と、それに、樹音は"その刃の部屋の外から"声を上げる。

 即ち、樹音が刃の部屋を作り上げた理由は、ただ反射を利用して彼の場所を特定するための舞台を作った。というわけではなく、ただ単に彼を"閉じ込めるため"に作り上げたのだ。

 つまり樹音は悠介を元々閉じ込めるつもりで戦っていたという事である。樹音は以前同様刃で熊手(レーキ)を作り上げ、地面を通ってその部屋から脱出していたのだ。その後その脱出ルートを悠介に利用されない様、先に壁を作って孤立させておきながら。


「やられたね、、さっきのナイフもブラフか、」


「うん。僕は、ただ君を返すわけにはいかないって言っただけだよ。一ノ(いちのせ)君を倒すつもりはない。ここで、みんなを呼ぶまで大人しくしてて欲しかっただけだから」


「そのための捕獲。それが円城寺君の作戦だったわけだね、、でもさ。それをやって、その後どうするつもりだい?僕相手に説得でもするつもり?」


「きっと、そこから出した瞬間に逃げられるだろうし、話し合いも、君の言葉は信用出来ない部分があるから、、難しいかもしれない」


「なら、やっぱり殺す?」


「それはしないよ」


「そっか。なら良かった」


 悠介は樹音の言葉に息を吐くと、そののち。フッと微笑んで少しの間ののち告げた。


「それなら僕の勝ちだね」


「えっ」


 その一言に、樹音が声を漏らす。と、その瞬間。

 樹音は何かの異変を察知し刃の迷宮の外周を回る。すると。


「なっ!?」


 その刃の外側に、無数の転生者達が集まっていたのだ。その様子に、樹音は目を見開き退く。まさか、引き連れていたのか、と。


「僕が一人でここまで来たと思った?姿を消せるからとは言えど、こうやって戦闘になった時、僕は攻撃手段は限られてる。光に対する対策を取られたら、それ以外が使えない僕は、負ける可能性あるでしょ?」


「クッ、」


「どうする?今、円城寺君は一人だよね?この人数は、、厳しいんじゃないかな?」


 ニヤリと、悠介は微笑みそう挑発の如く放つ。それに、樹音は歯嚙みしながら後退る。確かに、この人数を相手にするのは、現在の樹音一人では厳しいと。


「どうするの?逃げるなら、今しかないよ」


「...僕は、、逃げないよ」


「っ」


 その予想外の発言に、悠介は目を見開く。


「僕はもう戦いたくないんだ。この力は、一ノ瀬君だけに有効なものじゃない。他の人達も、上手く捕えることが出来れば、少しは会話が出来るかもしれない」


「僕が光の能力者だからなだけで、他の能力ならこんな刃直ぐに破壊出来ると思うけど」


「それでも、、話し合いたいんだ。どっちみち、今逃げたら、君がみんなにそれを話すでしょ?」


「フッ、、少しは冷静に考えられるんだなぁ、、残念」


「えっ」


 悠介は、小さく呟くと、瞬間。


「なら、もういいや。君が燃えてくれ」


「っ!?」


 悠介が放つと同時に、樹音に向かって光が集まる。と共に、それは直ぐに発火し、樹音を燃え上がらせた。


「なっ!?」


「ただの時間稼ぎだよ。君がじっくり考えてくれて助かった」


「クッ!?どう、いうっ、、っ!」


 樹音は燃え上がる服を何とかしようと脱ぎながら悶える中、ふと、先程まで大勢の転生者が居た方向へと視線を向けて驚愕する。


 なんと。そこには、何も無かったのだ。


「まさかっ」


「はははっ、遅いね、気づくの」


 即ち、あれは全て悠介の幻覚だったのだ。だが、現在閉じ込められている身である。そんな事が可能なのか、と。そう考える中、更に悠介は続ける。


「君がそうやって悩んでるお陰で、"鏡を動かして調整する"事も出来たし」


「う、動かした、?あの、刃の壁を、?」


「あんな大きいのは動かせないよ。正確にはそれが生えてる地面を掘って歪ませたんだ。角度を調整すれば、ここからでも円城寺君に光を反射して飛ばすことも出来るよ。だって、君からも僕が抜け出さないか見える様に、角度が工夫してあるんだから」


「っ」


 バレていたか、と。樹音は冷や汗を流す。もし、何か抜け出せる策があるならと。樹音はそれを監視していなくてはならないと感じ、この場所から悠介を確認出来る様に手に持った剣の刃の角度を調整すればミラールームの彼を見る事が出来るよう、彼を閉じ込めた刃の壁もまた、少しずつ角度を調整していたのだ。それを逆手に取られた。樹音はそう感じながら退いた。と、共に。


「ほら、火を消さないと。死んじゃうよ?」


「クッ」


 悠介はこの場から立ち去らせるためそう後押しする。その様子に、樹音は拳を握りしめながらも、一度纏わり付いた火を消す事は出来ないと、近くの湖へと足を進めた。と、それ故に。


「っと、、はは。やっぱりか」


 数分後。その刃で作られたミラールームは消え去る。やはり、能力が遠距離で適用される場所には上限があるようだ。見えない位置に物を生やせないのと同様、それを維持する事すら難しい。それを考察した上での作戦だったのだ。


「じゃ、今のうちに」


 悠介はそれを思いながら王城へと戻ろうとする中、その瞬間。


「っ」


 ナイフが、放たれる。


「懲りないねぇ」


「君を戻すわけにはいかない」


「確かに、居場所がバレたらマズいよねぇ」


 樹音の真剣な表情に、悠介はニヤリと微笑む。


「さっきの人達は、、みんな一ノ瀬君の幻覚だったんだよね?」


「そうだねぇ。ま、それももう意味ないみたいだけどさ」


「どうやってやったの、?あの中から、あの場所に幻覚なんて、」


「そうやって聞いたら素直に教えてくれると思う?随分と平和ボケしてるんだねぇ。少しはマシになったと思うんだけどさ」


「クッ、」


 歯嚙みする樹音に、悠介は一度鼻で笑うと、そののち。まあいいかと、続ける。


「でもまあ、単純だよ。刃のこの部屋は完全密閉されてはいない。人が抜け出せないだけで、僅かな隙間がある。こっちは目視できればいくらでも光を調整出来るからね。僕は自分から光を出す事も出来るけど、光を操る能力。忘れちゃ駄目だよ」


 悠介は、内心時間稼ぎかと。樹音の考えを察して微笑みながらそう返す。それに対し、樹音は思考を巡らす。

 今までも、悠介から光を放っている時と、光自体の反射を利用して他の人の姿を消したり偽ったりしてきた。そのため、壁があろうとも幻覚を作り上げる事は確かに可能かもしれない。樹音はだとすると厄介だと、歯嚙みする。このまま全てを虚像として扱えればいいものの、もし悠介が本当に他の人を連れて来ていた場合、それが嘘なのか本物なのか。確かめる術は実際に触れないといけないのだ。彼はまた、それを利用した作戦を仕掛けてくるに違いない。そう樹音は冷や汗を流す。

 と、そんな中。


「...」


「...っ!まさかっ」


 ふと、何も喋らず動きもしない悠介に、目を見開き地面に手をやる。


ーもう既にっ、幻覚だったっ!?ー


 そう。彼はもう既に虚像と入れ替わっており、その隙に姿を消して移動していたのだ。だとすると、彼は王城を目指すはずだ。だが、一応と。樹音は全ての力を込めて、その場一帯に。


「ミラーブレードルームッ!」


 先程同様、刃の迷路を作り大きく囲った。


「おおっと、、頑張ったねぇ、」


「はぁ、、はぁ、」


 樹音は、全力を出し切るが如し勢いで、瞬時に広く、大量の刃を生成した。そのお陰か、どうやら悠介を閉じ込める事が出来た様だ。樹音は刃を階段の様に空中に生成して、上空に移動し、上から見下ろし反射によって僅かに本物が見えた悠介の姿に安堵する。


「はぁ、、はぁ、」


 がしかし。樹音の体力は限界であった。


「円城寺君。凄いね!」


「はぁ、、はぁ、それは、どうも、」


「円城寺君にしては珍しい決断だね。もし少しでも角度、出現場所を間違えたら、僕を串刺しにしてしまう可能性もあったはずなのに」


「...それは、」


「その時は仕方がないとでも思った?」


「そんな事は、、無いよ、」


 樹音は、僅かに目を逸らす。普段ならば絶対に思わないはずだ。だが、悠介に場所をバラされる。それは、皆だけで無くグラムにも危険が及ぶ、一大事である。それだけは何としてでも回避しなければという、焦りがあったのだろう。そのもしもの時の事なんて、考える余裕すら無かった。

 そう、思いたかった。


「それでも、、良かったよ。そう、ならなくて」


「まあね〜」


 悠介は微笑みながら返す。が、しかし、その後直ぐに悠介はいつもの邪悪な表情へと一転する。


「...でも、円城寺君が大丈夫?」


「えっ」


「だいぶ息が上がってるみたいだから。心配でさ」


「っ」


 悠介のニヤリとしながら放たれた皮肉めいたそれに、樹音は冷や汗を流す。それは即ち、そう長くはもたない。そう言っているのだ。このまま皆が来るまで悠介を隔離しておく。それが一番の方法だろう。彼は会話が出来ない相手ではない。碧斗達と合流した後、皆で話し合って、上手い取引が出来れば、あるいは。悠介にこの事を黙っておいてもらえるかもしれない。だからこそ、ここは帰らせるわけにはいかないのだ、と。樹音は意地でも。拳を握りしめて歯嚙みし、無理矢理笑顔を作った。


「お気遣いありがとう。でも、大丈夫だよ。これくらいで、僕は甘えるつもりはない」


「ははは、、ストイックだね」


 悠介は尚も笑う。恐らく、息切れしながら放つそれには説得力が無いのだろう。だが、確信は得られた。現在居る悠介は虚像では無いという点である。もしこれが虚像であった場合、ここまで長く話す理由は無いだろう。絶望的な状況ではあるが、勝機は確実にある。樹音はそう確信し目つきを変える。が、そんな樹音に。


「でもさぁ。本当に来るの?伊賀橋(いがはし)君達はさ」


「っ」


「さっきの落雷見たよね?」


 恐らく、悠介は既に理解しているのだろう。樹音が、碧斗達を待っている。碧斗達頼りだという事を。


「み、見たけど、、あれは、」


「はははっ、こんな雨雲もないのに突然落雷?そんなの、他に無いでしょ?」


「...でも、碧斗君達かどうかは、」


「分かるよ。だって、阿久津(あくつ)君を連れて来たのは僕だ」


「えっ」


 悠介は微笑む。恐らく、向こうには智也が居る。そこで、彼らは足止めをされているのだろう。だからこそ、悠介のその表情には、確信が見て取れた。


「そ、、そんな、」


「待っててもいいけど、無駄だよ。きっと、今頃は向こうでもギリギリの戦いをしてる筈だからさ」


「...」


 絶望的だった。智也の能力の強大さは、知っていた。だからこそ分かってしまう。彼だけで、みんなを足止め出来てしまうであろう現実を。だが、それでも。だからこそ、樹音はあえて真剣な表情で告げた。


「それでも、来るよ。絶対」


「そっかぁ。どっちが先に来るか、見物だね。仲間か、限界か」


 悠介はニヤリとそう笑いながら告げる。だが、樹音は先程の宣言とは対照的に、息は上がり、もう既に限界という状況であった。まるで、この展開が分かっていたと言わんばかりに、悠介は笑いながらそれを待つ。

 だが、それでも、負けてたまるかと。樹音はここで彼を逃してしまったら、全てが終わると。そう考え必死に、歯嚙みして、既にボロボロの体で、全力で能力を維持する。


「くはっ、」


 口からは空気が溢れ、しゃがみ込む。このままではマズい。そう思いながらも、今ここで能力を解除してどうなると。自身に言い聞かせて改める。


「絶対、、諦めないっ!」


 樹音が、掠れた声で。恐らく彼には聞こえないであろう声量でそれを告げると、その瞬間。


「樹音君っ!」


「っ!」


 背後から、聞き馴染みのある、安心する声が響いた。


「碧斗君っ!」


「はぁ、、はぁ、よ、、良かった、、無事、だったんだな、」


 駆け足で駆け寄る、碧斗が現れた。それに、樹音は一気に肩の力が抜けた様に感じながら、刃の階段を降り、同じく駆け寄った。


「碧斗君こそ、、さっき、向こうで落雷があったから、」


「ああ、、相原さんと大翔君のお陰で、、何とか俺は抜け出せたけど、、相手は智也君だ。早めに戻らないと危険だ」


「や、、やっぱり、、智也君だったんだね、」


「ああ、」


 樹音の言葉に、碧斗は目を逸らしながら答える。と、改めて碧斗は目の前のそれを見据える。


「にしても、、凄いな、これ。こんな大きな建物、、樹音君が、?」


「あ、うん。これは、全て刃を生やして造ってるから、僕でも作れる。それに、、建物って程のものじゃ無いし」


「それでも、凄いよ。これがなかったら、多分樹音君を見つけるのにもっと時間がかかった」


 碧斗は、遠くからでも見えるこの刃の迷路に、圧巻されていた。と、そののち。


「そ、それよりも、、この建物は一体、?」


「実は、、こっちには一ノ瀬君が来てたんだ」


「なっ!?や、やっぱりか、」


 碧斗は目を見開く。やはり、樹音は彼の幻覚を見てここまで誘導されたのか、と。


「そう、、それで、この刃の鏡で出来た迷路なら、光の反射が無数に起こるから、彼の幻覚がバレる角度が出来ると思って、造ったんだ」


「なるほど、、凄いな、、そうか、そういう使い方も出来るのか、」


 碧斗は、皆もまたそれぞれの能力を工夫しているのだと。関心を見せながら呟く。と、その後。


「それで、その悠介君は?」


「あ、うん。今中に閉じ込めてる。実は、僕らの居場所がバレてるんだ」


「なっ」


「だから、返すわけにはいかなくて、、でも、僕一人じゃこれが精一杯だから、、碧斗君の力が必要なんだ」


「そうか、、頑張ってくれて、、ありがとう、」


「そんな、、碧斗君も、来てくれてありがとう」


 碧斗と樹音はそう笑顔で互いに感謝を告げると、その本人と対面するべく、二人で刃の階段を登り、悠介の見える位置にまで移動する。

 が、しかし。


「あ、あれか、、ん、?ちょっと待て、」


「えっ」


 同じ位置に、悠介は立っていた。


 が、しかし。碧斗はその異変に気づき、目の色を変えて、立っている悠介の右隣りの刃の壁を指差す。


「...あれ、、どういう事だ、?」


「っ、、嘘、でしょ、」


 碧斗の指をさした鏡。そこには、見える筈の悠介の姿が、見え隠れしていた。


「クソッ!やられたっ」


 それを理解した碧斗は、歯嚙みし崩れ落ちた。


 即ち、既に、彼はそこには居なかったのだ。

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