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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第7章 : 関わり合いと処罰する者(パニッシュメント)
231/300

231.新案

「ふざけんなっ!」


「がっ」


「ちょっと、」「大翔(ひろと)君!」


 グラムの家へと裏口を使って帰るや否や、大翔は碧斗(あいと)に殴りを入れた。


「いいんだ、、俺が、悪いから、、ごはっ」


 そのまま更に畳み掛ける。これは流石に止めた方が、皆がそう思った矢先。


「ふぅ、、っと。もう、頭冷えたか?」


「...ああ、、ごめん。申し訳なかった、、自分でも、、いっぱいいっぱいだったんだ」


「とりあえず、殴られっぱなしで終わるのは癪に触る。勝ち逃げはさせねぇ主義だ。これで、引き分けだな」


「ああ、、ありがとう」


 大翔は、小さく反省の言葉を呟く碧斗にそう告げると、息を吐いて呆れた様子で席へと戻る。


「それで?大丈夫だったのか?」


「大丈夫とは程遠いな、」


「碧斗君の傷ほとんど今ついた傷だと思うけど、」


 改めて聞く事じゃないだろう。まるでそういう様に、ボコボコになった碧斗がそう呟くと、樹音(みきと)もまた苦笑を浮かべた。


「でも、、こうして無事だった、、相原(あいはら)さんの、おかげで、」


「やっぱり、予想通りだった。伊賀橋(いがはし)君、もう死ぬつもりだったよ」


「...はぁ、、まあ、そうもなるか、」


「...それでも、気持ちを改められた、、みんな、ありがとう」


「僕は何もしてないけど、」


「いや、シェルビさんの時、それに今だって、仲裁に入ったり場を落ち着かせてくれてる。樹音君が居なきゃ、、もっと悪化してたよ。それにこうして、話してくれて、、ここに居るだけで、俺には救いなんだ。いつも居てくれる、、それが当たり前じゃ無い中で、、いつもと同じ人が近くにいてくれる事の、安心感は、、計り知れないよ、」


「「「...」」」


 碧斗の呟きに、皆もまた俯く。美里(みさと)の話によると、皆もまた動ける状況では無かった様だ。体の傷は勿論。心もだ。樹音は一度生死を彷徨い、大翔は元々ボロボロだった体で碧斗と戦闘。美里も先程ので体力は限界である。故に。


「...どうすんだ、?これから、」


「動こうにも、、今は体力的に厳しいな、、みんなも、俺も、とりあえずは回復に専念した方がいいだろう、」


「その先は、その間に考えるって事だな?」


 大翔の言葉に、碧斗は頷く。碧斗もまた、能力を突然多用し、応用技を使い過ぎて、体は限界であった。美里を運ぶ作業も気を抜けば二人とも落ちていた程である。今は倒れたい。すると、美里がふと口を開く。


「さっき、、帰って来る時に少し話したの。これから、どうするかって話」


「おいおい、先に話してたのかよ」


「まあ、、ちょっと、」


 碧斗はざっくりだけど、と、大翔に返すと、改めて美里は話す。


「あの作戦は、、変えたいって、」


「あ、あの作戦?」


「前話してた、戦ってみんなに話し合いを持ちかけるって作戦。あれは、、多分、また前みたいな事になって、、結局誰かを傷つける事になるからって」


「まあ、、だろうな、」


 美里の発言に、目の前で人を殺した大翔と、現状を考えた樹音は二人とも目を逸らし頷く。


「だから、、無理に和解を行わない。それが、私達の出した答え」


「は!?だったら、、どうするってんだよ!」


「誰も傷つけない。もう、戦わない。そうやって、この争いを終わらせる」


「そ、そんな事出来るの?」


 美里の真剣な表情と共に放ったそれに、樹音は首を傾げる。と、美里は渋りながらも答える。


「分からない、、でも、もし戦わないで終わらせられる方法があるなら、、やってみる価値はあると思う。犠牲も、無いんだから、」


「その方法とやらの案はあるのか?」


「今のところ、一番可能性があるのは、あいつ。不破渉(ふわわたる)の存在だと思う」


「た、確かに、、彼は、何か知ってるみたいだったね、、それに、彼を味方につければ、怖いものなしって感じだし、」


「でもよ、そんな事出来んのかよ」


「厳しいと思う。だって、彼が私達に協力するメリットはない。あの感じだと、まず私達に話すらしてくれないと思うし、あの人の狙いは争いを終わらせる事って感じでも無さそうだった、」


「確かに、、あの人の能力があれば、協力者なんて必要ないよね、」


「ならどうすんだよ」


 美里が歯嚙みしながら話す中、樹音もまた表情を曇らせる。と、それに頭を掻く大翔に、美里は告げる。


「でも、ヒントはくれたでしょ。あの本。新たな情報があった。きっと、この争いを終わらせられるのは、その真実。それしか無い」


「あ?どういう事だ?つまり、ヒントを貰いながらやってくって事か?」


「違う。彼もまた私達と同じ、現実世界から来た転生者なの。そんな人間が、あそこまで辿り着いた。きっと、争わなくても、その答えは見つけ出せるはず」


「つまり、渉君との協力では無くて、僕達は僕達で情報を集めて、修也(しゅうや)君が争いを始めた理由を突き止めるって事?」


「そう、、簡単じゃないのは分かってる。でも、あの人もゼロから始めて、情報を得た。大事になんてせずに。だから、きっとそのヒントは至る所にあるはずなの」


 美里は、そう強く告げる。戦わずとも、答えは導き出せると。それに、そう簡単にいくかと大翔は頭を悩ませたものの、それでもと微笑む。


「ま、可能性があるなら、やってみなきゃだな」


「そうだね、、もう、誰も傷つけたくないし、失いたくない、」


「...ありがとう、、これ考えたのは伊賀橋君だから、後でちゃんと言っておかないとね」


「その本人は呑気だな」


 美里が優しくそう口にしながら、隣の碧斗を見据える。そこには、能力を突然多用したせいで限界が来たのか、そのまま倒れる様にして眠る彼の姿があった。


「ま、私達も限界だし、、とりあえず今日は寝てーー」


「...帰ってまして?もう、腹が立って眠れもしなかったですわ」


「「「っ」」」


 皆が休息に専念しようとしたその時。奥の部屋からシェルビが現れた。どうやら、静かに寝る事は難しそうだ。


「う、嘘でしょ、」


「最悪だな」


「そ、それっ、わたくしに言っておりまして!?ほんとっ、無礼ですわ!」


「いえ、そういうわけじゃないんです、、あの後色々あって」


 明らかに嫌な顔をする美里と大翔に、シェルビが憤りを見せる中、樹音が慌ててそう放った。


「わたくしだって、、色々考えてあの後は何も出来ませんでしたわ。未だに、、その、沙耶(さや)が亡くなっただなんて、、信じられないですのに、」


「...ごめんなさい、、私達が居たのに、」


「何を言ってるんですの、、一番辛いのは貴方達ですわ、」


「ハッ、、ロクに話もしてない奴が、俺らの気持ちを察せるかってんだよ」


「なっ!?無礼にも程がありますわ!わたくしはまだ碧斗の発言も許してなくてよ!?あなた方を追い出す事くらい、容易いの、忘れないでくださいまし!」


「大翔君、、色々思う事あるのは分かるよ、、辛いけど、それでみんなの仲が悪くなるのは、沙耶ちゃんは望んでないと思う」


「...クッ、、それも、そうだな、」


 シェルビの言葉に大翔が後から来たくせにと言うように放つ姿を見て、樹音が割って入る。それに、碧斗に対し自分が言った内容を思い出し、大翔は口を噤んだ。すると。


「...まあまあ、、シェルビ、、皆もまだ安定しとらんのじゃ。...話すのは、少し、お互いに頭を冷やしてからの方がいいんじゃないのかの?」


「なっ、わたくしが冷静じゃ無いと言いたくて!?」


「ああ、、儂もそうじゃ。寧ろ、、こんな状況で冷静な人なんておらんよ。...皆、混乱しとるんじゃ、、お主らの言う通り。ここで仲違いしても、何も変わらんよ」


「っ、、知りませんわ。勝手にしてくださいまし、」


「「「「...」」」」


 同じく奥から目を擦りながら現れたグラムが皆を諭し、それを受けたシェルビはどこか寂しそうに歯嚙みしてその場を後にした。その姿を同じく寂しそうに見据えたのち、グラムは改めて口を開く。


「それよりも、大丈夫、、じゃったのか、?アイトが、居なくなったと聞いたが、」


 が、ふとその様子に大翔はジト目を向ける。


「おいジジイ、、確かに寝てていいとは言ったが、本当に寝てたのかよ」


「悪いの、、でも、この歳になると眠気には勝てんよ、」


「碧斗君は、、大丈夫でした。ちょっと、能力を使い過ぎて倒れてますけど、」


「そ、そうか、、良かった、」


「でも、、沙耶が、」


「...」


 大翔の一言に、皆が黙り込む。沙耶は死んではいない。元の世界に戻っただけである。それは、分かっているはずだというのに。それでも、辛かった。その辛さを改めて思い出し、皆が歯嚙みする中、美里はふと目つきを変えて口を開く。


「その、、突然ですみません。ちょっと、、グラムさんに聞きたいことがあって、」


「およ、儂にかのぉ?なんじゃ?」


 美里は、一番の謎。ずっと聞きたかったそれを、覚悟を決め問うた。


「あの本は、借り物だったんですよね?」


「ん?ああ、あの書斎にあった本か?そうじゃのぉ。みんなが読んどったあれは確かに借り物じゃ。儂も読んだ事ないから内容は分からんがな」


「誰から、借りたんですか?」


「「っ」」


 美里の言葉に、樹音と大翔は目を見開く。渉は以前、グラムの事を知っていた。いや、寧ろ彼に会うために行動している様子だった。即ち、一番の鍵は、グラムである可能性が高いのだ。何せ、渉が渡してきたあの本の内容と同じ本が、この部屋にあるのだから。

 つまり、それと同じ本がここにある事が何か繋がりがあるのかもと、美里は考え放ったのだ。すると。


「...命の、恩人じゃよ、」


「「「っ!」」」


 その発言に、皆は目の色を変える。


「命の、、恩人って、」


「確か、それって前に話していた、二重の意味で恩人って方ですか?」


「...ああ、、あっとるよ、」


 グラムは、話すべきか悩んでいる様子であった。その様子に、やはり何か根幹に関わるものがあるのだと、美里は更に詰め寄る。


「その方は、、何者なんですか?貴方にとって、どういう方なんですか?」


「どういうって、、言っとるじゃろ?恩人じゃよ、」


「何が、あったんですか?」


「...」


 グラムは、未だ答えを渋っている様子だった。


「私達他人に話せない話ですか?」


「そ、そういうことじゃ、」


「私達は、王城の人達から追われている話をしました。それなのにも関わらず、貴方は通報をしませんでした。そんな方の、大切な話を他言することはありません、、それとも、私達に聞かれたら、マズいことですか?」


 美里は、僅かに彼の反応を窺う様にしながら、迫る。と、その後、グラムは息を吐いて観念した様に告げた。


「...分かった、、話すわい、、だから、そんな急かさないでくれ、」


「す、すみません、」


「...あれは、儂にはもう何もないと思っとった時じゃ」


「そ、、そんな事が、あったんですか、?」


「まあ、儂にもそういう事はある」


 思い返す様に話すグラムに、樹音が割って入る。それに感慨深そうに返すと、改めて思い出しながら話す。


「作物が、何も取れんくなったんじゃ。儂が育ててるものは、今程多くは無かったからのぉ。それに、儂は一人じゃし、このままじゃ金もなくなる。なら、もういいじゃないか、と。そう思っとったんじゃ、」


「そ、それって、」


 グラムが視線を落として話すそれに、美里は怪訝な表情で割って入る。と、その様子に「それ」を予想した事を、グラムもまた察したのか頷く。


「儂一人が居なくなったところで、何も変わらない。そう思っとったんじゃ」


「そ、そんな事、」


 グラムは、樹音の言葉に苦笑を浮かべ返すと、改めて続ける。


「そんな時じゃった。魔物が出たのは」


「魔物、?」


「ああ、、あれは、魔獣じゃったのぉ。あの頃は、よくこの王国にも出てたんじゃよ」


「そう、、だったんですね、」


 樹音が返す中、グラムは頷くと、告げる。


「じゃから、、儂もここで終わりじゃと思ったんじゃ。もう、これでいいか、とな」


「それって、結局同じじゃないですか、」


「自分で終わらす勇気が無かったんじゃ。逆に助かったよ、、じゃがな、その時に」


「その時に、その恩人と出会ったんですか、?」


「そうじゃ。颯爽と現れて、その魔獣から儂を守ってくれた。最初は、、ちょっと残念じゃったよ。人生を終わらすつもりじゃったから」


「...」


 グラムの言葉に、その場の皆が視線を落とす。が。


「でものぉ。そこで考えが変わったんじゃ。この人生、もう少し、待ってみようと、な」


「...前を、向けたんですね、」


 美里が、僅かに微笑んで割って入る。すると、グラムは優しく頷いたのち、目を逸らしながら小さく続ける。


「...それに、その人はそれだけじゃない、、あの取れんくなった作物も、復旧してくれたんじゃ。魔法でな、」


「それで、、二重の恩人、」


「それ、凄い魔法ですね、、魔術師か何かだったんですか?」


「それはそうじゃよ。だって、その人はーー」


 樹音が呟くと、美里が魔法に目を細めながら疑問を投げかける。と、それに、グラムは一呼吸開けたのち、真剣に放った。


「勇者、じゃからな」


「「っ」」


「勇、、者、?」


 皆が目を見開く中、美里は小さく零したのだった。

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