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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第7章 : 関わり合いと処罰する者(パニッシュメント)
230/301

230.唯一無二

「やれよ。早く」


「おぉっ」


 死を覚悟。いや、それを望む様な瞳と行動に、修也(しゅうや)は声を漏らした。


「やっと素直に殺される気になったかぁ!長かったなぁ、、でももう、打つ手なしってわけか!?」


「...いいから。早くしろ」


「ああ!言われなくてもそうしてやるよぉ、全く、みんなそんぐらい素直だと助かんだけどなぁ!」


 修也は、そう放つと同時。まるで沙耶(さや)と同じ様に終わらせてやる。そう告げる様に、巨大な氷山の様なものを斜めに生やし、その生える勢いを利用して碧斗(あいと)に向かわせた。


「じゃあなぁ!」


「っ」


 碧斗は強く目を瞑る。と、瞬間。


「...は、?」


 何も、感じない。痛みは愚か、刺された様な感覚もない。いや、寧ろ。碧斗はゆっくりと、声を漏らしながら目を見開く。と、そこには。


「はぁ、はぁ!あんたっ!馬鹿なの!?」


「...は、?」


 目の前には、美里(みさと)が居た。彼女は碧斗の肩を掴んでいる。どうやら、既のところで肩を掴まれ、二人で避ける事に成功した様だ。


「おぉいぉい!邪魔ぁ、すんじゃねぇよぉ!」


「はぁ、、はぁ、、残念だけど、、あんたにこれ以上、誰も奪わせない」


「ははっ!随分と立派な事言ってんなぁ!...でも、無理だよ。お前一人じゃ、もう何もかも、手遅れなんだよぉ!」


 修也は、真正面から強く放ち見据える美里にそう声を荒げると、氷の塊を無数に放つ。と、それに目を細めたのち、美里は手を払う様に横に流すと、それと共に。


「っ」


 その場に突如波の如く。横から炎が流れ込み、それはまるでカーテンの様に修也と我々を分断した。


「今度はお前らがかぁ!?」


 それを前に、修也は先程碧斗達と戦闘した際に使用した、巨大氷山で隔てるのを思い出しそう口にした。と、その隙に、美里は碧斗の手を取って走り出す。


「早くっ!そう長い時間はもたないはずだからっ!今のうちに、逃げるよ!」


「ま、待って、、相原(あいはら)さんは、、どうやってここに来たの?」


「一応屋上に行ける階段はあるから、」


「え、?な、なんで、」


「は、?何でって何?」


「いや、、どうして、、これだけのために、、だ、だって、転生者達が大勢居る王城内を通って、わざと危険なルートで、ここまで、来てくれたんだよね、?」


「馬鹿なの?」


「え?」


「はぁ、、なら、こっちも何でよ」


「な、何で、?」


 手を引かれながら、碧斗はそう漏らすと、美里は呆れを見せながらそう逆に問うた。


「何で、、あんたは、あの時。私の髪飾りを取りに行くってだけで、、王城にまで行ったわけ?」


「そ、それは、」


「どうして、髪飾りくらいで、こんな危ない時なのに、、わざとそんな一番危ない王城に侵入したわけ?」


「それは、、相原さんが、、大切にしてたから、」


「髪飾りを?」


「そう、」


「はぁ、、ほんと、、もう、言っておくけどね」


「え?」


「髪飾りより、あんたの方が大切に決まってんでしょ」


「え、、えぇっ!?」


「...何、その意外って反応は、」


「あ、いや、」


 碧斗の反応に、美里は力強く歩きながらも、ジト目を向けながら振り返る。


「その、、俺より、ずっと、大切そうだったから、、その、髪留め。その話をしてる時の相原さん。祖母を思い出してる時、何だか、いつもより柔らかい表情をしてた、、だから、」


「確かに、そうかもね。お婆ちゃんが居てくれた時に戻りたいとも思う。今までずっとそうだった。今という辛い現実から逃れるために、その時の思い出を逃げ道として、夢みるための、その入り口でもあったんだ、、髪留めは」


「...ならっ」


「でも、今は違う」


「え」


 美里は、ただ前だけを見て、碧斗の手を引いて屋上から降りるための階段へと走る。


「あの時とは違う、、あの時の、私とは違う。今は、みんな居る。私の事を、大切に思ってくれる人達が居る、、今までは、そうは思えなかった。実際、そんな人は居ないと思えるほど、親しい人はいなかったし、、でも、、でもね、、少なくても一人は、、自分のでもない、自分では大して重要じゃないもので、それでもその人が大切にしてるからって理由だけで、その大切なものを探そうと、命をかけてくれる人が、、そんな馬鹿な人が、私には居るんだって、、分かったから」


「そ、、それって、」


「だから、、もう、いいんだよ、、髪留めなんて、、それ以上に、、大切なんだよ、っ」


「っ」


 美里は、段々と掠れていく声で、弱々しくそう口にした。と、そののちに、彼女は碧斗に振り返って、涙を見せながら放った。


「だから、、死のうとしないでっ」


「っ!」


「もう、自分一人で、背負おうとしないで、、勝手に背負った気になって、、自分から自分苦しめて、勝手に耐えきれなくなって、、勝手に終わらそうとしないでよ、、馬鹿、」


「...ご、ごめん、」


「髪飾りの時もそう、、今もそう!勝手に、、やらないで、、やろうと、しないで、」


「ごめん、」


 美里は、目を潤ませながらそこまで告げると、足を止め、碧斗の目を正面から見据え、真剣に。強く放った。


「あんただけの命じゃないの!」


「っ!」


伊賀橋(いがはし)君の命が、、何よりも大切で、あんたの命のお陰で生きられてる人が居るの!だからお願い、、簡単に、死のうとしないでよ、」


「...あ、相原さん、、ごめん、」


 碧斗は崩れ落ちる美里に、歯嚙みしながらそう告げて目線を合わせる様にしゃがみ込む。


「...ごめん、、そうだ、、みんなの、言う通りだ、」


 碧斗は、大翔(ひろと)の言葉を思い出す。そんな事、沙耶(さや)は望んでない。そうだ。誰も、望んでない。その通りではないかと。碧斗は拳を握りしめる。周りが見えなかった。それくらい、追い詰められていた。沙耶という存在が大きかったからだ。

 でも、それは皆同じで、それはーー


 ーー自分もまた、誰かにとっては同じくらい大きいのだ、と。


ー俺は、、ここまでされないと、、分からないのかよ、ー


 碧斗は、目の前で、こんな体で。度重なる戦闘でボロボロな美里が、こんな戦場のど真ん中の様な王城に。しかも特に敵の多い彼女が、一人で、ここまで来て、更には修也と対立したのだ。体を張って、そして、言葉や感情をあまり上手く出せない、不器用な美里が、こうして泣き崩れて声を上げるまでしないと、碧斗自身は気づかなかったのだ。そんな、大切で単純な事に。


「馬鹿だ、、最低だ、」


 思わず、そんな言葉が漏れ出る。と、それが聞こえてか否か、美里はゆっくりと顔を上げて告げた。


「あんたは、、助けてって、思うけど、言えない人。ほんと馬鹿で、不器用。...だから、」


 美里はそこまで言うと、今度は真剣な顔で。だが、どこか優しく、そう続けた。


「私が、、何度だって殴って、ビンタしてでも、引き戻す。お節介でもなんでも、駆けつける。いい?」


「っ、、あい、はらさん、」


 美里は、天竺葵(てんじくあおい)のブローチを胸元に付けていた。

 それに碧斗は、思わず目の奥が熱くなり、声が震え、目を逸らす。こんな事を言われなくても、いつもそうだった。いつも、美里はそうやって道を正してくれた。それをしなくてもいいくらいに成長する。そう宣言したかったものの、自信は無かった。だから、その代わりに。


「ありがとう、、相原さん。俺も、、苦しくても我慢して、そうやって強がる、不器用な相原さんを引っ張れる様に、見てるよ。相原さんを」


「伊賀橋君、」


「ぜ、全然説得力ないな、、ごめん、でも、いつか、返せる様に、それ以上を出来る様に、なるから、」


 碧斗もまた涙目になりながらそう強く放つと、美里は小さく笑って立ち上がる。


「別に、返してくれなくていい。...引き分けでいいよ。私だって、私が望んでるからしてる。あんたを、そういう風にさせたくないから、私は動いてる。ただ、それだけ」


「なら、俺も、相原さんに全部返して、他のみんなも、もう誰も欠けさせない様に、したい。俺は、そうしたい。だから、させてもらうよ。直ぐには、、厳しいかもしれない、、明確なビジョンもない。それでも、」


 碧斗もまた立ち上がり、美里と顔を合わせてそこまで告げると、その瞬間。


「逃げる気も無くなったかぁ!?」


「っ!?」


「クッ、!」


 突如碧斗の背後から修也が飛び出し、美里は目つきを変えて炎のカーテンをまたもや生み出す。がしかし。


「もう効かねぇよぉお!」


「伊賀橋君っ!逃げてっ!」


「大丈夫」


 美里の必死の言葉を遮る様に、碧斗は低く放つ。修也は、体に氷を纏っており、炎のカーテンくらいではダメージを負わす事は出来なかったのだ。だが、それでも。碧斗に被害を出すまいと火力を抑えてくれた炎の幕でも。それのお陰で彼の氷は僅かに溶け始めていた。

 故に。


「うおらっ!」


「「っ」」


 美里と修也は目を見開く。碧斗は向かってくる彼よりも先に、腹に殴りを入れようとすると、拳が到達するよりも前に拳に溜めていた煙を爆散させて修也を吹き飛ばした。


「クッ」


 数メートル先で着地する修也を見据えたのち、碧斗は美里に振り返った。


「もう、守られてばっかりじゃいられないよ」


「っ、、あんた、」


「...相原さん、ありがとう。そして、水篠(みずしの)さん、ごめん」


 碧斗の心は、まだぐちゃぐちゃだ。分からない。美里の言葉にも、素直に喜べない。沙耶の死という大きな心への影響が、碧斗を苦しめている。だが、それでも。今は、ただ。


「もう、あんな事にはさせない。もう二度と、大切な人を奪わせたりしない。俺は、守らなくちゃ、いけないんだ。だから、背負うよ。この不甲斐なさを。そして、水篠さんを。ずっと」


 目の前の大切なものを、守るために。

 そう碧斗は目つきを変えて修也に向き直る。と、背後から美里が息を吐いて口を開く。


「何あんた一人でやろうとしてんの?」


「え」


「さっき言ったばっかりでしょ。背負おうとしないでって。一人で抱え込んでたら、私が意地でも駆けつけるって。...だから、二人で、、ううん、みんなで、みんなそれぞれを、守る。みんなで背負う。うん、、それでいいよ」


 美里は、自分でそう口にしながら、自身に言い聞かせるように。自分で納得した様子で口にすると、碧斗の隣で手に炎を纏わせて目つきを鋭くした。


「んだよぉっ!勝手にいい雰囲気作ってんなぁおい!でも、意味ねぇよ。気持ちだけで何とかなるなら、お前らはもうこの争い終わらせてんだろ!?お前らが戦おうとしてる相手は現実だ。俺が、現実を見せてやるよぉ!」


「ああ、確かにそうかもな。理不尽で、無慈悲で、最悪な世界。それでも、今の俺達なら」


 碧斗は美里の顔を一瞥して、まるで何かを訴える様な視線を送ったのち、美里もまた彼を一瞥して力強く頷き、足を踏み出す。


「「絶対、負けない」」


 二人はそう同時に口にして、修也に向かった。


「ハッ!ずぅいぶんと元気になってんじゃねぇかよぉっ!勝手に救われてんじゃねぇよ!悲劇と悲壮感に染まってろ」


 修也はそう口にすると、またもや氷を纏わせて飛び上がる。


「スモークミスト」


「意味ねぇよ」


「クッ」


 碧斗は、有害な煙で対抗しようとするものの、その時には既に氷を纏っている状態。即ち、外からの空気は一つも入らないという事である。それに気づき歯嚙みしながら、腕を剣の様にして斬りつける修也の攻撃を既のところで避ける。と。


「意味ないと思った!?」


 隣から美里が、碧斗を斬りつけた事により出来た一瞬の隙を利用して炎を放つ。だがしかし、それを避ける様に足の氷を突出させて跳躍すると、空中で美里と碧斗両方へと、両手の氷を伸ばして突き刺しに向かう。


「「っ!?」」


 二人とも、慌ててそれを避け、頰に擦り傷を負う。が、美里はそれを逆手に取り、その氷を掴むと、高速で熱を与え始める。


「させるか」


「っ」


 熱を氷に与え、溶かすのと同時に、本体にまでそれを伝えようとしたものの、修也はその先端の氷を分断させて、空中で回転しながら、新たに足と腕の氷を伸ばして、碧斗と美里に更に攻撃を放つ。


「っ!?」


「がはっ!」


 突然の攻撃に、美里は反応出来ずに横腹を斬られる。美里が熱を伝えているその体勢を、逆に利用されたのだ。先程の氷に熱を与えるために、意識をそちらに全て向けていた。それを切り離して次の攻撃が来るまでの時間、僅か一秒と経たない速度である。

 それ故に避けられるはずがない。対する碧斗は、それを全て避け切ると、口から血を吐き出す美里を見据え目を剥く。と、それに容赦無くとどめを刺す様に、修也は碧斗の目の前に氷の壁を作り上げ、そう簡単に割って入れない状況を作ったのちに、地面に着地したと同時に腕の氷を伸ばして彼女の心臓部へと向かわせる。

 だが、その瞬間。


「がっ」


 修也の隣から空気が突如暴発した様に衝撃が走り、彼は吹き飛ばされる。


「な、」


 思わず声が漏れ出る。そう。修也は、碧斗が煙を発動させる事は不可能だと。そう過信していたのだ。


「悪いな。煙を出せないと思ってるそれを、更に利用させてもらったよ」


 言い返す様に、碧斗は氷の向こう側で微笑む。それに、修也は目を細める。先程同様、空気は冷却している。この短時間でそれに対応出来る程、碧斗は能力を使いこなせていないはずだと。そう考えた、その時。


「っ」


 修也は空気中の違和感に気づき、ニヤリと微笑む。


「そういう事かよぉ」


「...分かった?」


 それに、息を切らしながらも、美里が放つ。そう。即ち、彼がどれ程空気中の温度を下げようとしても、美里という存在がいる以上、温度を上昇させられるのだ。彼の冷やした空気を美里が元に戻す。そうする事で、空気中の煙を扱い易くなり、碧斗が攻撃を放てる様になる。

 これは、二人が揃う事で成し遂げられる作戦であると。二人は微笑む。


「ハッ」


 だが、修也は思わず吹き出した。それに、二人が怪訝な顔をした、その直後。


「どれ程息が合っていようとっ、越えられない壁が確実に存在するんだよ!それを実感するんだなぁ!」


 修也はそう言うと、地面から氷柱を生やして美里に向かわせるものの、既のところで避ける。対する碧斗にも、壁から無数の氷柱を生やして追い詰める。


「どうだぁ!?こっちまで意識回んねぇだろぉ!」


「クッ」


 思わず碧斗は歯嚙みする。


「いくら炎のお陰で煙を扱えるからとはいえ、遠隔が難しいのは代わりないんだよなぁ!?特に壁の向こう側の煙を扱うのはただでさえ難しい。それを、目の前に迫る攻撃を避けながらだっ!どうだ?出来るかぁ!?」


「はぁっ、はぁ!」


「お前もだよ!」


 息を切らしながら逃げる美里に、修也は跳躍して、空中で氷の塊を無数に作り上げる。と、それを彼女に向かわせながら、地面から氷の塊を生やして彼自身を押し上げ、美里に向かって速度をつけて修也もまた降下する。


「クッ!?」


 それを避けるのみで、美里は攻撃をしようとはしない。恐らく、ギリギリなのだろう。修也はそう、思う。

 はずもなく。


「なるほどなぁ!」


 修也は叫ぶと同時に、氷の壁に振り返り、それが突如破壊される。すると、その先から碧斗が速度をつけて現れ、修也は左手を前に出すと、それを盾の様に変形させて彼を止める。


「っ」


「相原ぁ!お前、本命はあっちの壁だったってわけだなぁっ!向こうに全意識を集中させ、全ての力を。炎を向こう側に集中させた!それによってあのデカい氷さえも脆くさせ、碧斗の粉塵爆発でも破壊出来るほどにまで劣化させた。だが、それだけじゃあまだ未完成なんだよぉっ!」


 修也はそう言うと、盾を変形させて碧斗を掴むと、大きく振って吹き飛ばす。がしかし、それから抜け出した碧斗は瞬時に煙で方向転換をすると、彼に攻撃を入れようと試みる。が、それすらも予想通りだと言う様に、まるで碧斗が向かってくる場所が分かっていたかの如く、綺麗に蹴りを入れた。


「がはっ!」


 それに応戦するべく美里は遠距離で炎の塊を飛ばし、空気中を熱し、彼の周りに更に炎を出現させる。だが、その遠距離攻撃も、使っていない右手を回転しながら出すと、その氷が変形し全てを受け止める。


「そんな一度に全力出していいのかぁ!?碧斗のあれ見てんだろ?このままじゃ二人とも力尽きんの見てりゃわかんだろぉがよぉ!」


 修也はそう言いながら、尚も向かう碧斗に更に蹴りを入れるが、瞬間。


「これは、全部前置きだ」


「は、?」


 碧斗の、自信げな表情と言葉に、修也がそう漏らした。その直後。


「っ!?がはっ」


 突如、有害な煙が修也を襲う。おかしい、と。修也は咳き込みながら思考を巡らせる。現在は勿論、先程からずっと氷を装備しているのだ。煙は愚か、外の空気さえ入れていない。筈だというのに、と。修也はそこまで思った。その直後。


「クッ!?」


 背後から美里の追撃が襲い、修也は慌てて氷の壁を作ってそれを抑える。対する碧斗はニヤリと微笑みながら煙を駆使して接近戦を行なった。


「まさか、、お前っ、一番最初に、?」


 そう。一番最初。美里との話をしているところに、修也が割って入ったあの瞬間。美里が炎のカーテンで修也の纏っていた氷を僅かに溶かしてくれた、あの時である。その一瞬で、碧斗は煙を既に中に忍ばせておいたのだ。こうなる事を、予期して。


「てめっ、本命は圧力で飛ばす事じゃなかったわけかぁっ!」


「ああ。圧力で吹き飛ばしたのは、それのフェイクでもあり、時間稼ぎだ!」


 碧斗は足から噴出する煙で瞬時に移動しながら、修也の背後を取っては拳から放たれる煙の圧力で吹き飛ばす。


「クッ」


「どうした!?動きが鈍くなってるぞ!」


「てめ」


 今顔の氷を解除すれば、恐らく外側の空気が入り込み、爆破を起こすであろう。だが、それを行わずとも、その中は有害物質が集まっている。どちらにせよ、既に涼しい顔をして戦闘を行うのは厳しい状態であった。だが。


「なら、もう終わらせるだけだっ!」


「っ」


 修也は、そう放ち、碧斗との間に氷の壁を隔てる。すると、それは天へと伸び、修也の元へ飛躍してでも届かない位置へと遠ざけた。と、そののち、最後のとどめだと言うように、碧斗の背後にも壁が出来上がり、それがどんどんと迫る。


「クッ!?」


「どうしたよ!?やってみせろよっ!」


 修也は声を上げ笑う。碧斗は抜け出すために煙で飛躍するものの、それに合わせてどんどんと氷の壁も上へと伸びていき、彼を追い詰める。


「クソッ」


 碧斗は踠きながら、その時を待つ。がしかし。


「おおっと、ここで終わりだ。勘違いするなよぉ!?間抜けぇ!」


「っ!」


 突如、その壁が碧斗に到達するよりも前に、全面から氷柱が無数に飛び出し、向かう。

 そう。修也は既に、碧斗の考えを把握していたのだ。

 碧斗は壁が迫る中、恐らくこのまま潰されるのだろうと察し、逃げる選択をした。ように、見せた。それはギリギリまでその策を見透かされない様にと考え動いたものであったがしかし。彼は騙せなかったようだ。

 ずっと、壁がギリギリにまで迫り、煙の圧迫による圧力で氷の壁を破壊出来るタイミングを見計らいながら、そこで煙を出し続けていた事を、既に予想していたのだ。


「お前の望んでた死だ!存分に味わえぇっ!」


「っ」


 それに、思わず碧斗は震えた。が、しかし。


「「っ!」」


 突如、二人は氷の変化が見てとれた。碧斗の目の前の壁。向かう氷柱含めて、僅かにーー


 ーー溶け始めていた。


「ここだっ」


「っ」


 瞬間、碧斗は煙を利用して空中で回転し勢いをつけながら足で壁及び氷柱を蹴ると、溶けていた事もあり、それを破壊して抜け出す事に成功する。と、そののち。


「クソッ」


 修也が空気中に生み出しては放つ氷の塊を避けながら、碧斗は飛躍して美里の元に駆けつける。


「ごめん、遅くなって」


「遅いよばーか。それと、、ちょっと調子乗ってきてたでしょ」


「ごめん、ち、、ちょっと、、まあ、と、とりあえず、」


 小さく微笑みながら美里は放ち、碧斗が答えたのち、彼女を持ち上げようと手を出すものの、女子の体に触れる事に体が止まる。が。


「何してるの?」


「あ、ああっ!うん!」


 碧斗は美里の言葉に慌てて頷くと、意を決して彼女を持ち上げそのまま飛躍し空中へと逃げる。


「てめぇ!?おいおいっ、待てよっ、殺されに来たんだろうがっ!」


 それを追う様に、修也は氷の塊や氷柱を出現させて放つものの、彼らはそのまま王城自体から離れて行った。それを見据えながら、修也は歯嚙みする。


「全て、、計画だったってわけかぁ!?」


「ああ、、油断しただろ?」


 修也の言葉を耳にした碧斗は空中で振り返り告げる。


「"絶対負けない"。あれは、二人でこの時のために放った言葉だ」


「ハッ、つまりあれか?俺をここで殺すと思わせるためってことか?」


「ああ。あの時から相原さんと二人で、修也君を殺しにかかる様な言葉を放ってた。それは、修也君に君をここで殺すために我々が動いている事を認知、、いや、察してもらうためのものだ」


「だけど、それがフェイクで、逃げるための作戦の一部だったわけだなぁ?」


 修也が呟く中、碧斗は踵を返し勢いを溜めて飛び出す。と、そんな彼らの背中に、修也は笑った。


「はははっ!おもしれぇなぁ!でもただ執行猶予が出来ただけだ。待ってろ。全滅させてやるよぉ。いや、そうだな、、お前一人を残した世界にでもしてやるよ!」


 修也は、聞こえているかも分からない碧斗に、高笑いしながらそう宣戦布告の如く放ったのだった。


           ☆


 その数分後。王城から距離を取りながら、ふと空中で碧斗は美里に呟いた。


「とりあえず、、なんとか抜け出せたね、」


「私の予想的には、もう少し早い段階で抜け出せたと思うんだけど、」


「い、いやっ、中々難しかったんだよ!あの時はっ」


「まあ、別にノるくらいならいいけど、、もし、万が一のことだってあるから、、気をつけて、」


「べ、別にノッてたわけではない、けど」


 美里の、僅かに視線を落とした言葉に、碧斗は言葉を濁す。そうだ。もう、誰も、欠けてはいけないのだ。絶対。敵味方なんて関係ない。誰も、失いたくないのだ。


「それより、なんで手使わないわけ、?」


「え!?あ、ああっ!えと、煙で持ち上げないと、、えっと、」


 触るのが怖いから。煙で持ち上げないと持てないから。どちらにせよ、美里に言ったら殺されそうである。碧斗はそれを考えながらそこまで放ったのち、答えを渋り口を噤む。


「何、?まあ、、別にいいけど、」


 その様子に、どこか腑に落ちない表情を浮かべたものの、美里は小さく頷く。すると、その少しの間ののち。


「...あ、相原さん、、その、、改めて、ありがとう」


「え?」


「...相原さんが来てくれなかったら、、きっと、ここで死んでた、、いや、それでもいいって、思ってた、」


「やっぱり、、そうだと思ったよ、」


「...ごめん、」


「謝らなくていいよ。私だって、死にたいくらい辛いから、、でも、そんな事のために、沙耶ちゃんは向かって行ったんじゃないよ。この争いを、一刻も早く終わらせなきゃって。そう思って、きっと、」


「ああ、、じゃなきゃ、、一人で行かないよね、」


 二人は、沙耶の事を思い出し、押し黙る。きっと、直ぐには戻れない。いや、恐らくずっと引きずるだろう。だが、それでも。


「沙耶ちゃんの死を無理に乗り越えたり、忘れようとなんてしなくていい、、私だって辛くて、みんな一緒。だから、寧ろ彼女がやろうとしてた事を忘れずに、進まなきゃいけない。後ろを何度も振り返っても、足は進まなきゃいけない。ううん、、進むしかないの」


「そう、、だね。(しん)だって、祐之介(ゆうのすけ)君だって、みんなそうだ、、この争いを終わらそうと。平和を願ってた。ここで、、止まっちゃいけないんだ、」


「伊賀橋君、、目標は変わらない。...でも、その方法、変えたい、」


「うん、、俺も、そう思った。もう、誰も傷つけたくないから」


 浮遊しながら、グラムの家へと向かう二人は、まだ震えており、更には涙目だった。それでも、瞳は前を向いて、目つきを変えた。

 そんな二人を、まるで導く様に。応援する様に。上る朝日は二人を照らしていた。

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