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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第6章 : こびり付いた悪夢(コシュマール)
229/299

229.捨鉢

「クソ、、流石にいないか、」


 碧斗(あいと)は王城近くの広場に足を運んだものの、修也(しゅうや)の姿は無かった。今まで必ずここに来れば居たがために、今回もそうだろうと高を括っていた。沙耶(さや)との戦闘は、それ程までに消耗したということだろうか。はたまた、別の理由があるのだろうか。碧斗はそう脳内で考察をしながらも、いや、考える必要もないと目を細め、修也を探す。

 遠くには行かないはずである。寧ろ、碧斗一人で行動しているのを見つければ、彼の方から来るだろうと。そう考える。すると、ふと。


「っ」


 碧斗は息を吐きながら空を見上げたその時、王城の上に何者かの影が映り込む。


「屋上か、?」


 誰だ、と。碧斗は訝しげに目を凝らしながら王城に近づく。


ークソッ、、流石に遠いな、ー


 見たところ一人で屋上に居る様子だ。修也だろうか。いや、そうで無くても。

 碧斗はそう考え、覚悟を決める。もう既に、結末は決まっている。それなら、この気持ちが薄れるよりも前に、向かった方がいいだろう。碧斗はそう考え、その屋上へと向かった。


           ☆


「...ん?」


 屋上から、王城の皆を見下ろす修也は、ふと背後から聞こえた音に反応して振り返る。と、そこには、煙の圧力によって浮遊し、屋上にまで到達した碧斗の姿があった。


「ははっ、そうかぁっ!お前っ、飛べるんだったなぁ!」


「っ、、まさか、お前だとは思わなかったよ」


「分かってて来たんじゃねぇのかよぉ」


「あそこからじゃよく見えないんでね。でも、、助かったよ」


「あ?どういう意味だぁ!?」


「お前に、用がある」


「用?おいおい、、まさかリベンジだとか言わねぇよなぁ!」


「ああ。そのまさかだよ狂人」


 修也は、以前とは別人のようだった。沙耶の話とも、理穂(りほ)の話に出て来た修也とも、そして、今まで会った時の彼とも違う。今目の前に居るのは、殺人鬼であり、狂人という言葉が一番似合うそれであった。


「あははははははっ!狂人って!」


「ここで、殺す」


「おいおい、、お前こそ狂人じゃねぇかよ!?それに、自分の力を過信しすぎじゃねぇかぁ!?おいっ!」


「ああ。そうかもな」


「は、、はは、、そうか、なるほどなぁ!」


 修也は碧斗が低く放つ姿を見て、察したように頷くと、笑って声を上げる。


「お前、殺されに来たのかっ!」


「...」


「そうだろ?こんな記憶、忘れ去りてぇもんなぁ!一人で来たんだろ?雑魚。その気満々って事で、いいよな?」


「どっちみち死ぬつもりだった。でも、最後に、命が枯れる瞬間まで、お前という"ゴミ"を、、いや、違うな、、ゴミなんて称号、お前には勿体ない」


 碧斗は、ゴミと言いかけて、止まる。そうだ。碧斗にとって、大好きだったものだ。ゴミなんてものは、悪い言葉でもない。碧斗にとっては、大切な言葉だ。それを、こんなクズに与えるわけにはいかない。


「とにかくどうせ死ぬなら、お前を殺して死なせてもらう」


「おぉいおぉいっ!随分と威勢がいいなぁおい!俺と一緒に死ねると思うなよ」


「そうか、ならお前一人で死ね」


 碧斗はそう低く放つと、瞬間。煙を勢いよく放つ事によって素早く修也の裏を取り、圧力で彼を吹き飛ばす。


「っ!」


 それにより、碧斗もまた反対に吹き飛ばされ、互いに距離が出来る。


「はははっ!前より強くなってんなぁ!制御のリミッターぶっ壊れちまったのか?そんな全力でやってたら一分ももたねぇぞ」


「なら、その一分の内にお前をぶっ潰してそのまま死ぬ」


「ハッ、馬鹿な発想だ」


 修也は鼻で笑うと、空中に氷の塊を出して碧斗に向かわせる。


「これで、、水篠(みずしの)さんを」


 碧斗は、沙耶と同じ視点で同じ攻撃を見据え、呟く。沙耶はこれを全て対処しながら説得まで行っていた。碧斗はそれを考えながら目つきを変える。


「やってやるよ」


 瞬間、碧斗は足から煙を放出させて空中へと逃げると、それを避けながら修也に接近して爆破を起こす。


「クッ」


「おぉいっ!馬鹿かぁ?ここは屋上だ。俺だけじゃない。お前だって煙の能力なだけで圧力には耐性ねぇだろ!つまりお前もここから突き落とされる可能性があるって事、少しは考えろ?」


「親切にどうもっ」


 碧斗はそう掛け声の如く放つと、未だ追ってくる氷の塊を避け、修也に近づく。だが。


「おっとぉ!」


「っ」


 修也は目の前に氷の壁を作り出す。


「水篠沙耶の岩と同じだと思うなよ?氷は空気を冷やせばいくらでも生成出来る。地面に面してなくても壁は一瞬で作り出せるんだよ」


「クッ」


 碧斗は修也の言葉に歯嚙みしながら回り込むものの、その先でも壁を隔てる。どうやら、氷の壁で自身を隔離する様だ。


「クソッ」


 思わず愚痴が零れる。壁に隔てられているのにも関わらず、氷の塊は勢いが衰える事なく碧斗に迫り、更には新たな氷の塊が空気中に現れる。どうやら、氷の中でも、好きな場所に氷を出現させる事が出来るようだ。


「どぉしたぁ!?碧斗ぉ!さっきの威勢はよぉ!全く、お前の能力と俺の能力じゃ相性悪りぃんだから、諦めろよっ!」


 修也は、高笑いをする。確かに、修也の能力は遠距離でも近距離でも攻撃が出来るバランス型だ。対する碧斗は自身から放出させるため、ある程度近づかなくてはならない。と、いうわけではなく。


「残念だな。俺の能力は遠距離でも起動できる」


「は?」


 碧斗が放った、瞬間。


「っ!?」


 突如爆破が起こり、彼を包んでいた氷は弾け飛ぶ。と、同時。碧斗は上空へと飛躍しながら、彼の周りに煙を放出する。それは有害なものでありながら、更に濃い煙だ。彼の視界を奪い、じわじわと体力を削る。それこそが煙の能力の使い方である。


「ハッ!先に煙を忍ばせておいたかっ」


「ああ。逆に氷で覆ってくれて助かったよ」


 笑う修也に、碧斗は淡々と。だがどこか怒りを見せながら返す。即ち、既に煙を放っていたのだ。その中で修也は自身を氷で覆ったがために、碧斗の放った煙ごと中に閉じこもったという事である。その時はまだ目に見えない様な薄いものであったがしかし、それを遠隔で物質変化させ、突如膨張させる事も可能である。それによって、先程の氷の壁は"内側から破壊された"という事になる。

 そう。この様に、碧斗は遠隔でも攻撃が可能なのだ。そう、告げる様に。


「相性が悪い。それはこっちの台詞だ。残念だったな」


 碧斗は、煙に飲まれ、既に姿すら見えない修也を見据え、上空から放つ。が、瞬間。


「っ」


 煙の中から。濃い煙である事をあえて利用して、中から氷の塊をいくつか放つ。それを、瞬時に理解し碧斗は慌てて避けると、少し高度を下げて息を吐く。


「はぁ、無駄な抵抗を」


 碧斗は呆れた様に息を吐く。すると。


「っ!」


 突如、煙の中から巨大な氷柱が生え、碧斗の頰を擦る。それに、碧斗は冷や汗を流す。これで、沙耶を、と。


「お前っ」


「はははははははっ!勝者ぶってんじゃねぇよ!」


「っ」


 そんな事を考えていると、突如、煙の中から氷に包まれた修也が、腕に纏っている氷をまるで剣の様に変形させた状態で碧斗に襲いかかる。


「おらよぉ!」


「クッ!?」


 煙の噴射は、奈帆(なほ)の翼とは違い、空中を自由に移動出来るものではないがために、その攻撃が横腹に掠る。


「くあっ!?」


 思わず声を漏らしたものの、どうやら傷は浅い様だ。碧斗は大きく後退りながら彼を見据える。そこには、あの時の沙耶の様に、鎧の如く氷を体に纏う修也の姿があった。それを見て、碧斗は気づく。


「お前、、そうか、そういうことか、」


 そう。唯一沙耶の岩の鎧とは違うもの。それは、顔も全て氷で覆っており、その密度を変化させることによって、顔の部分は透明になっており、前方が見える様になっているところである。即ち、鎧以上。まるで、宇宙服の様に、外と完全に隔離しているのだ。


「はははっ!気づくのおせぇよ!」


 そう声を上げると、彼は碧斗に瞬時に向かう。

 彼は氷の能力。即ち、空気を冷却、またはその逆を起こすことも可能なのである。つまり、氷にしたものを、能力解除する事でそれは時期に水分となり、気体と変化させる事が可能なのだ。それを利用し、循環させることによって、その外とは完全に隔離しているマスクの中で、空気に困ることはない。故に、どれほど有害な煙を放とうとも、彼には意味のない攻撃となるのだ。


「クッ!?」


 碧斗は瞬時に目の前に現れた修也に驚愕しながらも、煙の圧力を利用して彼と距離を取り攻撃を避ける。


「どぉしたよぉ!?一分以内に終わらすんじゃねぇのかぁ!?このままじゃ、お前の体力の方がもたねぇんじゃないのかよぉ!?」


 碧斗は、煙を使って彼との距離を保ちながら、その隙を見つけると、刹那。


「俺が、逃げてるだけだと思うか?」


「は?」


「っと」


 碧斗は手を前に出し、煙を出して圧力で修也を押し出し、本人は空中へと煙で飛躍する。それと、共に。


「おいおい、バリエーションが少ねぇなぁ、、っ!?」


 押し出されたその先で、突如。修也は見えない何かに殴られたかの様に。左からの大きな衝撃と共に押し出され右に吹き飛ぶと、それに続いて。更に今度は右側から殴られた様な圧力と共に吹き飛ぶ。


「クッ!?がっ、あっ!?」


 それを、何度も繰り返す。空中で彼は見えない何かに殴られ続けている様子で、左右に行ったり来たりする。それを、上空で碧斗は見下ろしながら、右手を出す。


「スチームインパクト。俺が、手で触れないとお前を吹き飛ばせないとでも思ったか?」


「っ」


 碧斗の言葉が、僅かに聞こえた様子で、修也は目を細める。彼は遠隔でも煙を発生させられる。それだけでなく、煙の成分を遠隔で変えるのだ。即ち、碧斗は彼の周りに蒸気の如く薄い煙を張り、それを突如成分変化で膨張させて爆破させる事により、遠隔で彼を殴る様な事が可能となるのだ。それに、加えて。


「スモーク、スパイクッ!」


「グゥッ!?」


 上から煙の圧力を加え、彼を地面に叩き落とす。それを見据えながら、碧斗はゆっくりと降下した。その先には。


「は、ははっ!」


 パラパラと、先程まで覆っていた氷が砕け、またもや生身となった修也が笑っていた。


「なるほどなぁ!能力の使い方、、参考にさせてもらったぜ」


「何、?」


 碧斗は怪訝な表情を浮かべる。彼は、ニヤリと笑っていた。狂った様に、狂気じみて。


「お前、空気中の王にでもなったつもりかぁ!?」


「は、?」


「それは勘違いだぞ?」


 そう呟くと、またもや体に氷を覆って、修也は碧斗に向かう。それにまたか、と。碧斗も目つきを変えて、手を前に出し、同じ手法を行おうとするが、しかし。


「っ!?」


 上手く、煙が遠隔で発生させる事が出来ない。おかしい。先程まで、出来ていたというのに。有害な煙ならまだしも、遠隔で煙を出すなんて、前から出来ていた事である。それが、どうして出来なくなったのか。碧斗はそれに気を取られ、眼前にまで迫る修也にギリギリで気づくと、慌てて飛躍する。が、しかし。


「おせぇよっ!」


 修也は足の氷を突如突き出して跳躍すると、碧斗を斬りつける。


「がはっ!?」


 以前、沙耶が行っていた手法と同じである。それに、碧斗は成す術なく足を斬られると、バランスを崩し地面に叩きつけられる。

 そんな彼に、修也は近づく。


「形成逆転だなぁ、、無様だぜ」


「クッ、、ソッ!」


 碧斗は、気合いで起き上がろうとするが、しかし。


「っ!?」


 体は言うことを聞いてはくれなかった。そう、既に限界だったのだ。


「時間切れみたいだなぁ!宣言通りに俺を殺せなかったが、お前の方は宣言通り限界きたみたいだぜ?」


「はぁ、、クソッ、、お前っ、空気をっ」


「ああ。気づくのおせぇよ」


 掠れた声で放つ碧斗に、修也は息を吐く。

 そう。碧斗の能力は煙であり、煙の物質を変化させる事が出来る。それは即ち、空中の成分も変化させられるという事であり、それを利用して今までは攻撃してきた。がしかし、修也の能力もまた、それに近しいものである。そう。彼はーー


「空気中の温度変化で、、水蒸気を作り上げたか、」


「正確には違うけどなぁ!でも、原理は一緒だ間抜けぇ!勝った気になってたところ、どん底に落とされるのはどんな気分だぁ!?」


 修也は、ニヤリと微笑みそう放つ。彼は空気を冷却する事が可能なのだ。それによって、上手く空気中の物質を扱う事が困難となり、煙を生み出すだけでも一苦労となる。それを、修也はあの一瞬で理解したのだ。


「クソッ!」


 思わず愚痴が零れる。碧斗は普段の空気中に煙を出すのでさえ精一杯なのだ。それをやっと上手く行える様になったばかりだというのに。こんな例外に、瞬時に対応出来るはずがない。更には、もう既に能力を多用し過ぎている。体の限界にまで達してしまった。故に、もうこれ以外はないだろう、と。碧斗は立ち上がる。


「...」


「おぉい!まだ立つのかぁ!?」


「...」


 碧斗はユラユラと、修也にゆっくりと近づくと、瞬間。顔を上げ、ほんのりと微笑んだ。


「ああ、」


「あ?どうした。俺を殺さないのか?」


 数秒。碧斗はその言葉のみで、特に動こうとはしなかった。それに、修也は首を傾げると、そののち。


「やれよ。早く」


「おぉっ?」


 碧斗は、無防備に、首を出した。

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