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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第7章 : 関わり合いと処罰する者(パニッシュメント)
227/301

227.死

 またもや、沈黙が訪れる。

 数メートルにも渡って飛び散る血の跡。狂った様に笑い続ける修也(しゅうや)の横に、夥しい量の血液が滴り落ちる氷山。そして、その目の前で。

 未だ驚愕し、現実を受け入れられない樹音(みきと)と、歯嚙みする大翔(ひろと)。拳を握りしめて、今にも修也を焼き殺そうと踏み出しそうな美里(みさと)。そしてーー

 今までとは似ても似つかない。怒りに染まった碧斗(あいと)が、足を踏み出した。


「ははははっ!馬鹿過ぎんだろぉ!自業自得なんだよマジでっ!言っただろ?俺はお話なんてするつもりなんてない。それをしようとした時点でおかしいんだよ頭がよぉ!馬鹿だなぁ、、馬鹿馬鹿バカバカバカッ!馬鹿ばっかだよマジでっ!」


「黙れよ」


 ゆっくりと、一歩一歩。声を上げ続ける修也に、碧斗は低く呟いて向かう。と、瞬間。


「聞こえねぇよ。そんなにびっくりか?なぁ?お前達は例外だとでも思ったか?この、誰が、どこで、いつ死ぬかわからないこの世界でっ!自分達だけは死なないとでも思ってたか?謎の自信があったんだな!俺が、そんな薄っぺらい言葉で、お前達を受け入れて、突然改心するとでも思ったのか!?甘過ぎんだよ!馬鹿どもがよ!あんなに必死になって、、ほんとっ!馬鹿みてぇだーーっ!?」


「だから、黙れよ」


 碧斗はその瞬間、足から煙を一点に。集中させながら高圧のものを放ち、一瞬にして修也の目の前にまで到達すると、彼を思いっきり殴った。


「ごはっ!?」


 どうやら、見誤っていた様だ。碧斗の、見せた事のないその速度に、修也はその一撃を受ける。だが。


「はははっ!今まで手抜いてたのか?」


 やはり怒りをみせていても、碧斗の肉体は彼のままである。彼のその細い腕から繰り出される拳では、身体能力が高く、戦闘慣れしている修也はビクともしない。だが。


「狂人ぶってんじゃねぇよ。偽善者が」


「っ」


 そう低く放ちながら、更に速度を早めて目の前に煙の放出を利用して詰めると、今度は腕に煙を纏わせて修也を殴る。と、それと同時に。


「ごはっ!?」「クッ!?」


「「「っ」」」


 その場には、軽い爆破が起こり、修也のみならず碧斗自身もまた吹き飛ばされる。


「はぁ、、はぁ、」


 その様子に、皆もまた驚愕する。今のは、何かと。だが、沙耶(さや)のあれを見た後である。そんな事、今はどうでもいい。皆もまた目つきを変えて、ゆっくりと起き上がる修也に向かう。


「おいおい、、粉塵爆発かぁ?いつの間にそんな使い方覚えたんだぁ!?碧斗ぉ!」


 修也は声を荒げながら起き上がる。と、同時。


「許さないっ!」


「っ」


 美里が目の前に現れ、彼女の炎を纏った殴りによってまたもや吹き飛ばされる。


「かはっ」


 空気を温める事で密度を急激に変化させ、圧力を生み出したのだ。と、そののち。


「許さないから!」


 美里は声を荒げ続け、更に距離を詰めながら殴りを続けようと拳を振り上げる。がしかし、修也もまた何度も同じ手には引っかからないと。その拳を避けて氷で美里の手を固める。


「クッ!?」


 だが、怒りを覚えているのは、皆である。そう告げる様に、修也の背後にはーー


「っ」


 ーー大翔が現れた。


「うぉらっ!」


 今まで以上の勢いと力。それによって修也は瞬時に氷の壁を作って防ごうとしたものの、一瞬にしてその壁は壊され、彼に直撃し、大きく吹き飛ぶ。


「くはっ」


 と、その先で。

 地面から突き出た刃四本によって彼の腕と脚が貫かれた。


「がはっ!?」


「ごめんね、、桐ヶ谷(きりがや)君。ここまで、するつもりは無かったよ。...でも、沙耶ちゃんに与えた痛み。君はそれ以上のものを、受ける義務があるよ」


「ハッ!正当化しようとしてんじゃねーよ!いい子ぶんなっ!ただ腹立ってるからその腹いせだろうがよ!」


「ああっ、そうだよ!」


 修也が、突き刺され仰向けになる状態の中、近づく樹音にそう声を上げると、それを掻き消す様に碧斗が声を荒げて瞬時に目の前に現れ、その隣から大翔もまた拳を構えて現れる。だが。


「ショボいんだよ怒りがよぉ!」


「「っ」」


 修也は両腕に突き刺さった刃をその腕の力だけで肉を抉り、貫かせると、その腕を勢いのままそれぞれ碧斗と大翔に向けて、そこから氷の塊を出現させて二人の攻撃を防ぐ。どうやら、先程のを経験したからか、二人の攻撃を防げる密度の氷を、把握したのだろう。だが。


「させないよ」


「クッ」


「沙耶ちゃんの分まで苦しめ!」


 瞬間、樹音が地面からまたもや刃を生やして彼を貫くと、その後美里が声を上げ構えていた氷を炎の遠隔操作で溶かす。それによってガラ空きになった彼の腹を。


「うおらっ!」「らぁ!」


「っ!?!?」


 碧斗と大翔は同時に殴る。碧斗は勿論、粉塵爆発を利用して、だ。


「かはっ!」


 修也はその勢い故に、突き刺さっていた刃すら貫き吹き飛ばされる。


 すると、その先で。


「「「「っ」」」」


 なんと、立ち上がったのだ。


 あの傷で。既に体はもたないはずである。それなのにも関わらず、彼の体からは。

 一滴の血も流れていなかった。そう、彼は。


「はははははっ!ちょれぇんだよ、、マジでぇ。そんなお友達ごっこしてるから、死ぬんだ。分かっただろ?お前らがっ!どれ程平和ボケした間抜けかをよぉ!」


 修也は、全身を凍らせたのだ。先程まではそんな事は無かった。即ち、あのダメージは生身に刻まれている。がしかし、その傷も、痛みも、苦しみも。その全てを、氷という壁で隠し、冷却という方法で、感覚を殺したのだ。


「馬鹿が馬鹿が馬鹿が馬鹿が馬鹿が!」


 壊れた様に、宙を見て笑いながら声を荒げる修也。それに、僅かに恐怖すら感じながらも、それでも、と。皆は足を踏みだす。

 恐怖なんて関係ない。そんなものよりずっと。

 彼への怒りと殺意。そして、沙耶への悲しみが、大きすぎる。


「てめぇ!」


 碧斗は、感情のまま足を踏み出す。


「ぶっ潰す!」


 大翔もまた、地面を抉る程の力で踏み出し、修也に一瞬にして向かう。

 だが。


「クッ!?」


「がっ!?」


 碧斗には、目の前に突如現れた尖った氷の塊が心臓目掛けて向かい、大翔は足を一瞬にして凍らせた。


「っぶねぇ!」「っ!」


 大翔は慌てて足を止め、碧斗は既のところで避けて致命傷は免れる。がしかし。


「かはっ!」


 それでも尚重症である。対する大翔も、足を踏み出せば脚が引きちぎれるだろうという状態故、動けない。そのため、それを利用して。


「フローズンストライク」


「グッ!?」


 一瞬にして氷の塊が現れては大翔に大量に向かい、彼の体を傷つける。


「クッ!?」


 瞬時に腕で防いだものの、その量である。腕が限界を迎えるのも、時間の問題だろう。そのため、大翔と修也の間に巨大な刃が生えて壁を作り、彼の背後から回って樹音は刃を突き立てる。

 だが。


「おせぇんだよ!」


「っ!」


 樹音の振った剣よりも早く、修也は更に回り込み、瞬時に作った氷柱を手に持って首を狙う。が、樹音もまたそんな手には乗らないと。手に持った剣をそのまま首にまで回し、自身の頸を守る。

 だが。


「間抜け」


「ぐはっ!?」


 瞬間、本命はそれでは無いと告げるかの様に彼が呟いた直後。地面から生えた氷柱により樹音の体は貫かれる。


「クッ」


 歯嚙みした口からは、耐えきれずに血が吹き出る。一撃で仕留めるつもりだったのだろう。狙いは完璧だった。だが、その一瞬で、樹音は急所を外す事に成功した。ものの。


「くっ、あ、」


「馬鹿だなぁ!もっと辛くなってんじゃねーかよっ!」


「があっ!?」


 樹音は急所を外したものの、横腹を氷柱によって抉られたのだ。普通に歩くこともままならず、思わず蹌踉めく。それに追い討ちをかける様に、修也は手に持った氷柱で何度も斬りつけ、そのまま倒れそうになった樹音にーー


 ーー地面から無数の氷柱を生やして体を貫く。


「がはっ!」


「さっきお前の言ってた事が正しいならよ。お前は俺に剣を突き刺してるんだ。その与えた痛み。お前はそれ以上のものを、受ける義務がある事になるよなぁ!」


「クッ、」


 薄れた意識の中、樹音は歯嚙みしながら尚も修也に目をやる。と、そんな中。


「っと、」


 とどめだと言うように樹音に氷の大きな剣を作り、それを突き刺そうとした瞬間、その剣は消えた。いや、一瞬にして溶けたのだ。


「っ」


「絶対にっ!潰す!」


 そう、目の前からはそれを行った張本人。美里が目の前に迫り、炎を手に宿した状態で殴りにかかる。それを受け止めようと氷を生成しようとしたものの、それは先程同様、瞬間的に消え去ってしまう。と、それと同時に。


「かっ!」


「味わえぇぇっ!」


 美里の本気の殴りが鳩尾に入り、修也は口から空気を吐き出すと、その直後、手に宿していた炎により圧力を生み出し彼を吹き飛ばす。恐らく、先程の氷の生成が止められたもの、彼女が既に空気中に暖気を作り上げ、好きなタイミングで高温に変化させたり、炎を出したり出来るよう、調整していたのだろう。だが、と。修也は笑う。


「おいおいっ!芸がねぇなぁ!」


「っ」


 修也はそう声を上げると、目の前に氷の塊を作り、高速で美里に向かわせる。それを、反射的に彼女は炎で溶かすと、それによって溶かされた氷が水となり、その勢いもあって美里の足元に付着する。と、同時。


「馬鹿かっ!アイスロック!」


「っ」


 付着した水は高速で冷やされ氷のなり、美里の足を大翔同様固定する。と、それと同時に周りから氷山のような物が現れては形が変形し、美里を閉じ込めるかまくらのような形の氷となる。と、その中でいくつもの氷の塊を生成しては美里に向かわせる。


「うっ、、そっ!」


 美里は思わず声を漏らす。


ーこんなっ、見えない遠距離でも生成が出来るわけ!?ー


 彼にはこちらは見えていない。更には能力で生み出した氷の中である。その中に、更に能力で氷の塊を作るなんて事、出来るのだろうか。美里はまずは抜け出すためにと足の氷を炎で溶かし、続けて周りから向かう氷の塊を一つずつ溶かしていく。だが、量が多く、直ぐには周りの氷の破壊にまで行けない。それを思った、瞬間。美里は理解する。


「っ!かはっ!」


 そう、炎によって氷を溶かし続ける。それをする事によって、どんどんと空気が薄くなっているのだ。広い空間ならば、空気中なんていくらでも調整出来るものの、この氷の中である。ここまで何度も炎を使用していたら、時期に呼吸が出来なくなるだろう。


ークッ、このために氷で閉じ込めた!?ー


 美里は拳を握りしめながら、咳を零しても尚、周りの氷を溶かし続ける。と、それを察したからか、はたまた感情のままか、碧斗は本体である修也の方に迫り、粉塵爆発で吹き飛ばすと、そのまま彼の周りに有害な煙を発生させる。


「っ!これはっ、、かはっ!こはっ!」


相原(あいはら)さんは炎の耐性はあっても煙の耐性はないから、空気が薄くなると命が危ぶまれる。でもそれは、お前もだろ桐ヶ谷修也!」


「クッ、、かはっ!」


 咳き込み苦しそうにする修也に、既に何も感じなかった。普段ならば、どんな相手だろうと母の姿がチラついていたというのに。


「おらぁっ!」


 すると、それによって身動きが上手く取れない彼に、大翔が足の氷を時間経過によって破壊し、走りながら現れると、拳を振り上げ、またもや彼を大きく吹き飛ばす程の一撃を放とうとする。が、しかし。


「ハッ!こんなもんでっ」


 対する修也は、そんな考えるのもやっとであろう状況の中、空中にいくつもの氷を出現させては彼に向かわせる。


「おいおい!それはこっちの台詞だ!」


 が、大翔もまた走りながらそれを全て砕くと、彼に殴りを入れる。だが。


「っ」


 彼の体には瞬時に氷の板を張り、彼の殴りによってそれは破壊される。と、それによって砕けた氷の破片が空中で止まり、それが元に戻るような軌道で大翔の腕にくっつく。


「なっ!?」


 それに、大翔が声を漏らした。直後。


「大翔君っ!後ろだ!」


「っ!?」


 碧斗が声を荒げ、大翔はそれに気づく。背後から、先程無数に飛ばし大翔が破壊した氷の数々が、またもや形を取り戻し、背後から向かう。

 のでは無く。


「グッ!?」


 空中で留まりながら、その氷が突如伸び、大翔の体を貫く。

 どうやら、碧斗の言葉によって、心臓を狙っていたであろうそれは避ける事は出来た様だ。


「チッ、、余計なことを、」


 それに舌打ちを零す修也。だったが、いくら致命傷を避けていようとも体を何度も貫かれているのだ。流石の大翔も既に限界が近かった。それでも。


「フッ、、でもてめぇも、、キツイんじゃねーか、?」


 大翔は微笑んだ。血を吐き出し、息を荒げながらも。それに対する修也は思わず。


「かはっ!」


 咳き込む。

 そう、先程から碧斗は煙を一切弱めていない。これ程までの有害な煙である。既に異常が出ていてもおかしくないのだ。


「終わりだっ!」


 碧斗はここがチャンスだと。そう言う様に、足から煙を出し、一瞬にして距離を詰めると、またもや近距離で爆破を狙う。

 だが。


「終わらせねぇよっ!俺のっ、無双ゲーはな!」


「っ!...てめぇ、ゲームと一緒にするんじゃっ、!ねぇよ!」


 すると瞬時に地面から巨大な氷山を生やし、皆と彼との間に大きな壁ができた。


「クソがっ!」


 それに、碧斗は声を上げながらも未だに殴り続け、それを破壊しようと試みる。がしかし。


「壊せねぇよっ!馬鹿だなぁ!てめぇら、、みんな平和ボケしたお花畑だなぁっ!」


「このっ!臆病者がっ!」


 碧斗は粉塵爆発を利用しながら氷の破壊を行おうとするものの、それに僅かにヒビが入るのみで、壊れる気配は全くしない。


「どうとでも言えよ雑魚。お前らが平和ボケしてるから大切な仲間は死んだ。その事実に変わりはない」


「殺すっ!殺す!許さないっ!てめぇをっ!絶対っ!」


 碧斗は、物凄い形相で、そう放ちながら煙の圧力によって少しずつ氷を破壊していく。


「はははっ!おぉ、、やってみせろよ。お前のっ、その最弱の能力でっ!何が出来んだよ!何をっ、、一体何をっ、守れんだよ!」


「うるせぇ。現にお前は俺の能力に敗北しかけてるんだよ間抜け!自分が不利になったら、そうやって逃げて、安全なところから挑発すんのか!?」


「勝手に言ってろよ無能がっ!これもまた作戦なんだよ脳死が。それにだ。実際に、守れてねぇじゃねーか!水篠(みずしの)沙耶をっ、、大切な、友達を!」


「黙れよ!お前な、自分のやった事分かってんのかよ!」


 碧斗は、ふと思い返す。

 初めて沙耶と話した時。その時は、お互いに緊張していて、(しん)の助け舟が無くては場がもたなかった。その後会った時には、碧斗の頑張りを、正面から受け止め尊敬の眼差しを送ってくれた。そして、皆が修也の行動に恐怖や怒り、殺意、異常さを感じる中、彼女は。


「水篠さんはっ!お前を守ろうとしてたんだよ!犯罪者であるお前をっ!ずっと、信じてたんだよ!分かるか!?そんな事する人じゃないって、みんなが、周りがみんな敵になろうとも、彼女は意見を変えなかったんだ!お前という一人の人間を、本気でっ!信じていたんだ!」


「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


「っ」


「ハッ!何が守るだ。何が信じるだ!こっちの事何も分かってねぇのに守るだの信じるだの、俺はただの殺人者だ。快楽主義者だ。この世界で、能力がある今の力で、無双したかっただけの俺を、、ハッ!馬鹿だなあいつ、、ほんと、何が信じるだよ。何も、ねぇだろ。...ほんと、信じる方が馬鹿だ。信じたからこうなった」


「ふざけんなっ!ずっと、、ずっと信じてたんだぞ!?お前はっ、絶対にそんな事する様な人じゃ無いって!」


 碧斗はただ声を上げた。沙耶と過ごした日々。二人で夜の街に逃げ出し、マーストと合流して三人で過ごし、そこに樹音君が手を差し伸べてくれて、四人になった。その後何だかんだと美里も力を貸してくれて、大翔という一人の人間を沙耶は救い、六人になった。そして、大翔のお陰でグラムと出会い、マーストは王城に戻ったものの、今ではシェルビも含めて七人となった。

 本当に、色々な事があった。どれもこれもが大切で、忘れてはいけない程、濃いものだ。大切な、時間だった。そう、それが、彼の手によって崩され。

 その記憶が全て、無くなるんだ、と。

 碧斗はそれを思うと同時に、更に拳の力を強める。


「だから意味分かんねぇよ!どうしてそこまでして信じられるんだよ!」


「それはなっ!水篠さんはっ、お前の事がっ!」


「もう黙れよ!いい加減によぉ!」


「クッ!?」


 碧斗がそう声を上げると同時、修也はそれを遮る様に声を荒げ、叩いていた氷山を砕いて皆に向けて放った。それによって吹き飛ばされ破片を受けた碧斗だったものの、怒りからか、痛みなど感じずに、直ぐに立ち上がっては彼に向き直る。がしかし。


「っ!」


 そこに、既に修也の姿は無かった。


「ふざけんなっ!逃げんなよクソ野郎がっ!」


 碧斗は蹌踉めきながらも足を踏み出し、煙によって速度をつけて後を追う。だが、しかし。


「碧斗!」


「っ!なんだよ!?」


 ふと、大翔が声を上げる。


「行くのは、、やめろ」


「っ!ふざけんなよ!見逃せって言うのかよ!?まだ遠くには行ってない筈だ!まだ、、今直ぐ行けばーー」


「やめろって言ってんだよ!」


 大翔は、ボロボロの体に先程の氷の破片が向かい、更に重傷を負っており、立ち上がるのがやっとであったがため、その場でただ碧斗に声を上げた。


「どういう事だよ!?大翔君はっ、、お前はっ!腹立たないのかよ!?」


「ああ!すげぇ腹立ってるよ!あいつをぶちのめしたいのは同意見だ。でも、、その前にこっちを見ろ」


「っ!」


 大翔が振り返ると、その視線の先。


「はぁ、、はぁ、、かはっ!...はぁ、、はぁ、けほっ」


「は、、はぁ、、、はぁ、」


 息を荒げながら倒れ込む美里と、その奥で全身から大量の出血が見られる樹音の姿があった。


「あいつを許せねぇのは俺も一緒だ。俺だって、追いかけてぇんだよ。...でもな、、そうもいかないんだよ」


「...それでも、」


「碧斗。もし、俺が二人を運ぶとして、お前一人を行かせたとして、、何とかなると思うのか?」


「っ」


「相手は、、桐ヶ谷修也なんだ。どれ程怒りを感じていようと、あいつの強さは本物だ。今の俺たちを見りゃ分かるだろ。碧斗だって、平気でもねぇだろ?その状態で、一人で向かって、、ほぼ氷で防いで致命傷が少ない修也に、勝てると思うのか?」


「俺はっ!はぁ、俺ならいける!あともう少しだったんだ!上手く煙を使えばっ!俺はっ!」


「よく自分の姿見てみろよ!」


「っ」


 碧斗が理想論を語る中、大翔はそれを遮る。


「...体、、震えてんぞ」


「これは、、はぁ、ちょっと、ここら辺の空気があいつのせいで寒いだけだ」


「なら、さっきからずっと息が上がってんのは何でだ?」


「はぁ、、はぁ、ちょっと、、疲れただけだ、、普段から俺を見てれば、、分かるだろ、?運動不足だよ」


「俺には、そうは見えねぇけどな」


 碧斗には、まだ可能性と策があった。まだ、彼に対抗する方法はある。この、今までは使えなかった煙の応用。有害な煙と噴射の圧力による飛躍。そして、粉塵爆発。やっと、戦える様になったのだ。時間を置いて対策を取られるよりも前に、碧斗は最弱の煙だと思っていたために大した対抗策を考えていない今。狙うしかないだろう。そう思ったのだが、大翔の言葉に口を噤む。

 そう、既に、限界がきていたのだ。


「いきなり飛ばしすぎだ。俺が、、俺らが見たことない攻撃。お前今日どのくらいやった?」


「...そ、それは、」


「俺はあの爆発なんて見たことねぇよ。いつ出来る様になったのか、どういう原理なのかも分からねぇ。でも、少なくとも今までは絶対に出来なかった事だ。そんな事を、突然バンバン使ったら、体がもつわけねぇだろ」


「...」


「気持ちは分かるが、、俺は二人を連れてグラムの家に戻る。あいつを許せない。あいつをぶっ潰すって思うなら、今ここで力尽きたら逆に意味ねぇだろ?」


 大翔の言葉は、正しい。そう、感じた。だがそれでも、納得は出来なかった。


「...クソッ、」


 それでも、今はそうするしかないだろう。碧斗は納得は出来ないものの、今はそれしか無いと受け止め、頷くと共に大翔達とグラムの家に戻った。


           ☆


「...ど、どうしたんじゃ、?」


 皆、希望が消えた表情をしていた。その様子と、今にも倒れそうな一同の姿に、グラムは慌てて玄関にまで顔を出すと、口を開くと同時に放った。


「いきなり飛び出して、、すみません。...でも、、一人にさせてください。...あと、回復の魔石、借ります」


「...ア、アイト、?」


 低く放ち奥の部屋に魔石を撮りに行く碧斗に、怪訝にグラムは振り返る。すると、前に居た大翔は呼吸を整え、覚悟を決めて放った。


「水篠沙耶が、、死んだ」


「な、、え、?じ、冗談じゃろ、?」


「...」


「な、、なんとか、、言ったらどうなんじゃ、、流石に、趣味が悪いぞ、」


「んな趣味の悪い冗談言うかよ」


「っ」


 掠れた声で、彼はそう放ち、周りの皆は表情を曇らせ歯嚙みした。その大翔の言葉と皆の反応に、グラムは力無く口にする。


「ほ、、本当、、なのか、?」


「悪い、、ジジィ、、今はちょっと、、話せねぇ、」


「...ヒロ、ト、」


 そんな中、大翔だけがその事実を伝え、皆と共に碧斗同様回復の魔石を取りに行く。その大怪我と反応、間違いない。グラムは冷や汗と共に震えた。少し前まで、話していた。そんな、沙耶という一人の人間が。この、一瞬で。


「...絶対に、、なんとかする、」


「え、?」


 皆で回復をする中、碧斗がふと口にしたそれに、美里は聞き返す。


「なんとかって、、どういうこと、?」


(わたる)君の能力だよ。あの時空をも司る能力なら、あの時の様に時を戻して、沙耶を、生き返らせる事が、、出来ると思う」


「っ!そ、そうかっ、流石だな碧斗!」


 碧斗の案に、大翔が目を見開くものの、対する美里は唇を噛んで目を逸らした。


「それは、、多分無理だと思う」


「っ!?なんでだよ!?」


「...あの人の能力は時空。あの時全員があいつに殺されて、時を戻したのは、別に本当に殺して戻したわけじゃないの。あれは、そうなる未来を、今に存在する私達の脳に見せただけだから、、いくら時空の力を持っても時を戻すのは不可能だと思う、」


「なっ!?おいっ!そんなのっ、分かんねぇじゃねーか!」


 美里の返しに、大翔が声を上げるものの、碧斗は拳を握りしめて強く歯嚙みする。言い返すつもりはない。いや、寧ろ、碧斗もまたそう思うからだ。過去に戻すなんて事は能力で出来る範囲ではない。特に難しい事だ。それならまだ未来を見せる方が容易だろう。それ故に、碧斗もまた美里と同感であった。


「おい、、なんで、、なんで何も言わねぇんだよ!」


「...ひ、大翔君、」


「言い出したのお前だろうがよ!碧斗!」


 大翔は声を荒げ、碧斗の胸ぐらを掴む。


「そう、、だよな、、まだ、分からない、」


「ううん、、あの能力では時は戻せない。確かに強大な力なのには変わりないけど、、でも、時を戻すなんて事、出来るはずない、」


「だからっ!分かんねぇだろうがよ!」


「だから無理なんだって!時を進ませる。未来を見せる。それが可能であっても、戻す事は困難なの。彼の能力が時戻しじゃない以上、そんな事は不可能なの!」


 大翔の荒げたそれに、美里は遮る様にしてそう返す。と。


「...おい、、何でそんな冷静なんだよ」


「は、?」


「俺はっ!僅かな可能性でもっ、信じてぇんだよ!お前はっ、沙耶が、、戻って来て欲しくねぇのかよ、、その可能性に、賭けたくねぇのかよ!」


「...ひ、大翔君、」


「樹音は黙ってろ。死ぬぞお前も。おい相原。どうなんだよ。いっつも理屈ばっかり捏ねやがって。沙耶が居なくなった時くらい、自分の思いで、感情のまま話してみろよ!可能性が、低くても、その希望にしがみつけよっ!それとも、そこまで大きな存在じゃなかったのか?沙耶は!」


「っ」


「んだよその反応。沙耶とはもう会えねぇ。それに対して、何とも思わねぇのかよ!?大事な存在じゃねぇのかよ!」


 大翔が、そう声を上げた、瞬間。


 パチンと。美里は思いっきり彼をビンタした。


「大切に決まってんだろ!」


「「「っ」」」


 美里は、大翔の声を遮る様にして、そう声を上げた。


「...大切で、、大好きだった、、だからこそっ、だから、、こんなっ、こんなっ、こんなにもっ、悔しいんだろうが!」


「っ」


 声を上げながら振り返る美里のその瞳には、涙が浮かんでいた。それを見た大翔は、目を剥き押し黙り、樹音は割って入る。


「大翔君、、今は、そんな事言ってる時じゃないよ。...みんな、、辛いんだ、、それは、変わらない」


「...チッ、、んだよ、」


 大翔は歯嚙みしながら、踵を返し部屋を出る。恐らく、これ以上この場に居たら、また言い合いになってしまうと、彼自身理解していたからだ。それを見据えながら、碧斗は絶望を見せたまま呆然とする。

 その後、その場にはまたもや沈黙が訪れる。それ以上、誰も何も言わなかった。大翔の信じたかった碧斗の可能性の話。言い出した本人でさえ、否定の言葉はいくらでも思いつく。彼の能力は時を戻すものではない。まず、もしそれが出来たとして、彼にそれを行うメリットはあるのか。どうやってそれをしてもらうのか。穴だらけだ。だが、皆碧斗と同じ気持ちなのだろう。美里も樹音も、もう彼女は戻らない事を、薄々察しているからこそ、何も、言い出さないのかもしれない。すると。


「...み、皆様方」


「...シェルビさん、、ごめんなさい。こんな事になって、、でも、今は、その、放っておいてください、」


 奥の部屋から、神妙な面持ちのシェルビが現れた。


「...話、、グラムから聞きましたわ。...その、、なんと、言えばいいか、」


「何を言えばいいか分からないなら、言わなくていいですよ」


「っ」


 碧斗の僅かに零してしまった本音に、シェルビは眉間に皺を寄せ睨みつける。

 確かに期間は短かったが、シェルビと沙耶は仲が良い方だった。それを思い出し、あんな事を言ってしまった事も相まってふと耐えきれなくなった碧斗は、ゆらゆらと。絶望を見せながら立ち上がり、歩き出した。


「何ですの?話したくもないって事ですの!?」


「あ、碧斗君、、お、怒らせちゃったかな、?」


「違う、、ただ、、ちょっと、、外の空気を、、吸いに、、一人に、なりたくて、」


「...そ、そっか、」


「逃げないでくださいまし。わたくしは、貴方の発言に怒ってましてよ?」


「シ、、シェルビさん、」


「何ですの!?」


 皆、それぞれ自分の事で精一杯だった。そんな中、シェルビを諭してくれている樹音に、碧斗は心中で感謝を告げると、グラムの家を出た。


「...」


 考えながら、歩く。外に出たのは、あのままではきっと、怒りやら苦しみやらで、皆にまで八つ当たりをしてしまうのではないか。そんな、不甲斐ない自分を、よく理解していたからこそだ。だからこそ、大翔と同じ選択をしたのだ。

 受け入れられない。きっと、何か方法がある筈だ。きっと、何か、ある筈である。碧斗は絶望の中、必死に光を探す様にしながら歩き、ある場所に到着する。


「...」


 そこは、今では行く事も無くなった、マーストの家であった。


「懐かしいな」


 碧斗は零して、ノックする。


「マースト、、居ない、、か、」


 反応はない。マーストも、あの後どうなったのか。不安でならない。通常は王城で泊まっている騎士なのだから、ここに居ないだけならなんら問題はない。だが、以前の事も相まって、碧斗は不安に押し潰されそうになりながらも、腕を押さえて必死に隠し、息を吐いてドアに背を当てゆっくりと座り込む。


「...なんか、、ないか、」


 頭を抱える。考えろ。彼女を、救い出す方法を。


「クッ」


 碧斗は思いつかない自分の頭に憤りを感じながらも、ポケットに入れていた渉から貰った本を取り出す。

 それを、必死に凝視しながら読み漁る。何か、方法はないか。能力について、何か書いていないか。

 何度も、何度も探した。が、しかし。


「クソッ!」


 思わず本を投げた。何も、時を戻す事や、人を甦らせる方法などは載っていなかった。


「...」


 頭を押さえて、膝を立てて座る足に顔を埋める。沙耶との記憶を、思い出す。あの笑顔を、何度も、何度も救われた、彼女の姿と言葉を、思い返す。

 何度も死にかけた。死を覚悟した事もあり、なんなら死を促した時もあった。彼女もまた、元々囮になろうと考える人だった。碧斗と、似ていた。話を重ねる内に彼女の事が分かっていった。彼女の生い立ち。性格や、隠された性質まで。

 能力の成長にはいつも驚かされた。能力だけではない。彼女自身も、何度も成長を重ねて、人見知りだった時を忘れる程に、成長していた。それに、修也に対する想い。恋愛についても、ハッキリとは言わなかったものの、見ていれば分かった。どういう出会いで、どこに惹かれたのか。沙耶のする過去の話を聞けば、そんな事は容易に理解出来た。

 そうだ。そんな彼女を。自分の想いの大きさ故に、少しズレてしまうところもあったが、いつも優しく笑顔で、元気をくれる、可愛らしい彼女は。


 想いを寄せていた相手に、殺されたのだ。


「う、うぅ、、うぅ!」


 碧斗はどうにもならない感情を、吐き出す様に頭を押さえながら嗚咽の様な、呻く様な声を上げ強く拳を握りしめた。そののち。


「...」


 ふと、目つきを変えて立ち上がる。


「許さない」


 碧斗は、小さく、そんな事を呟きながら。


 "二つの意味"で覚悟を決め、"二つの思い"を胸に、桐ヶ谷修也を捜しに足を踏み出した。

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