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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第1章 : 終わりの第一歩(コマンスマン)
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22. 目論見

「ごめん。マースト」


 時刻は9時。将太(しょうた)との激戦後、碧斗(あいと)はマーストの対面席に腰掛け、頭を下げた。理由は他でもない、家がバレ、マーストを巻き込んでしまった事である。


「そうでしたか。わたくしは大丈夫ですが、碧斗様達が危険ですね」


 困り顔で唸るマースト。家がバレたのはマーストの方だというのに、今でも碧斗の事を優先して心配している。その様子に罪悪感を更に感じた碧斗は申し訳なさそうに頷く。


「では、次の家を探さなければなりませんね」


「「「え!?」」」


 マーストは淡々とそう言うと、3人は声を揃えて声を上げた。


「次の家、って、ど、どういうこと、ですか?」


 沙耶(さや)が恐る恐るマーストに聞く。


「はい?ですから、この家が危なくなったのならば、碧斗様方は別の拠点を探した方が良いかと、という事ですが」


「い、いやいや!だから、危ないのはマーストの方なんだよ!?」


 碧斗の力強い物言いに、マーストは驚いた様だったが、何を言っているのか分からなかったのか、首を傾げる。マーストはこの状況で碧斗達の移動を促しているのだ。碧斗達がもし別の隠れ場所を見つけたとすると、その場合はマースト1人だけの家に皆を捕まえに来た転生者が集まってしまうという事である。それで捕まってしまうのならまだしも、危害を加えられたり、国王にバレて仕事を降ろされたりしたら、それこそマーストの人生自体も終わってしまうだろう。


「駄目だ。絶対に置いて行くことはしない。移動するとしても、マーストも一緒に来てもらうからな」


 少し怒ったように吐き捨てられた言葉ではあったが、マーストには碧斗の優しさが見て取れた。それに対し、沙耶は頭を縦に振っている。


「そうですよ。逃げる時も、この家で身構える時も一緒です!」


 同じく樹音(みきと)も優しく微笑む。


「皆さま、、ですが、わたくしの仕事は碧斗様方を手助けすることであり、こんな、」


「大丈夫だ、マースト。俺たちはもう充分助かってる」


「僕も先程この場に来たばかりですが、お世話になっているので、ご飯とか」


「そ、そうです!私だって、迷惑ばっかりかけてしまって、」


 碧斗と樹音、沙耶が順に言う。すると、マーストは驚いた表情から照れたように笑って


「そうでしたか、お役に立てていたようで光栄です。では、わたくしも碧斗様方と同行させていただきます。わたくしがやられてしまうと困ってしまう様子ですしね」


 と、冗談を言うような口調でそう言い「では、そろそろ夕飯の準備を始めますね。少し遅れてしまいましたが」と独り言のように言うと、奥のキッチンへと姿を消した。


「あ、僕お手伝いしますよ!」


 樹音はそう言うと、マーストを追ってキッチンへと駆けていった。


ー誰も、失いたくないなー


 優しく、手助けをし、いつも気にかけてくれるマースト。可愛くて、その割に能力は強くて、いつも癒しをくれる沙耶。会ったばかりではあるが、それでも馴染む事の出来る優しい性格と、戦いになると運動神経が良くてとても頼もしい樹音。誰1人として欠けて欲しくない。おそらくこの家に何十人もの人が、碧斗や沙耶を狙い攻め入ってくるのも時間の問題である。下手をしたら明日にはもう囲まれているかもしれないのだ。


伊賀橋(いがはし)君、」


ー大丈夫だろうか。そんな人数で襲い掛られたら勝ち目なんてないだろうー


「伊賀橋君、?」


ー駄目だ、駄目だ。弱気になってどうする。そうだ、大丈夫だ。怖い思いをしてる人は俺だけじゃないんだ。せめて俺は取り乱さないようにしなければー


「伊賀橋君、」


ーきっと解決策があるはずだ。考えろー


「伊賀橋君!」


「うおっ、え!?あ、うぇっ!ど、どうしたの!?」


 先程取り乱さないと言ったばかりだったのだが、早速で別の意味で取り乱してしまう碧斗。我に返った碧斗の目の前には、顔を赤くして膨れっ面をした沙耶が写し出されていた。


「どうして無視するの!」


「いや、ごめん!そういう訳じゃなくて、ちょっと考え事してて、それで」


 碧斗の必死の弁護にジト目を向ける沙耶。


「あはは、、で、で?どうしたの?」


 冷や汗を掻きながら慌てて話題を戻す碧斗。話題を逸らされたのを感じたのか、沙耶は唇を尖らし、俯いたまま不機嫌な様子で呟いた。


「べつに、、私達、手伝わなくていいのかなって思っただけ」


「あー、確かに。罪悪感あるよな、でも俺が入ったところで足手纏いになるだけだしな」


 何かの作業などならまだしも、料理となると無経験者の参加は仕事を増やしかねない。よっぽど才能がないとテキパキとは出来ないものだろう。


「あ、伊賀橋君もそう思う、?」


 碧斗の言葉に機嫌を直してくれたのか、顔を上げる。


「私、料理下手で、どうすればいいのかよく分からなくて、」


「へー、そうなんだ。料理って難しいもんなぁ」


 碧斗はそのままの気持ちを口にした。だが、対する沙耶は顔を赤らめ、無言になってしまった。何か悪い事でも言ってしまっただろうかと不安が襲う碧斗は、謝ろうと口を開けた。すると小さく沙耶が呟いた。


「思わないの、?」


「ん?な、何、を?」


「女子なのに、、とか思わないの?」


「え?あー、女子なのに料理とか出来ないんだ。とかの事かな?まず女子だからとかそんなの無いよ。みんなそれぞれ出来る事もあれば出来ない事だってあるし、同じ人間なんだから男子女子関係ないと思うよ。俺だって男子なのにスポーツもゲームも出来ないしな」


 自傷気味に笑った碧斗の姿に、沙耶は顔が熱くなるのを感じた。これはなんだろうか、特別な感情を抱いているのはただ1人だというのに。胸のドキドキは収まらなかったが、変わりに小さく「ありがとう」と呟いた。


           ☆


「お上手ですね」


「いえいえ!姉と一緒によく作るので」


「お姉様がいらっしゃるのですか。仲が良いのですね」


「まあ、いい事ばかりじゃないですけどね」


 マーストと樹音が楽しげに会話を交わしながら、手際良く料理している状況を遠目で眺める碧斗。碧斗達が争闘している間、2人は買い物に行っていたのもあり随分と打ち解けている様子であった。


ーというかまずお姉さんいたのか、円城寺(えんじょうじ)君ー


 自分達でさえ知らない情報が次々と出てくるものだから、盗み聞きはいけないと分かりながらも、聞き耳を立てる碧斗。


「はい。お待たせ」


「お、おお!早いな」


 耳を済ましていたのもあり、突然近くで発せられた声に動揺する碧斗。


「円城寺君料理上手いな」


 不意に口から溢れた言葉に樹音は照れた様に笑う。隣の沙耶も同じく頷き、称賛の声を上げる。


「凄く、上手いね、異世界の食材なのに、」


 考えてみればそうだ。と碧斗も驚いた様に振り返る。現実に近いものもいくつか王城で見てはきたが、店のメニューにあった食品も見た事がない物がほとんどであった。そんな未知の食材を綺麗に彩り、美味しく調理するというのは、よっぽど調理が上手な人でなければ出来ない事だろう。


「ありがとう。料理は得意なんだ」


「では、皆様揃ったところで食事にしましょうか」


 樹音が明るい笑顔でそう言うと、マーストが奥から残りの料理を運び、机に置く。4人で囲む暖かな雰囲気と、机に置かれた皿に盛り付けられた美しい食材達が食卓を彩らせている。その些細な喜びを精一杯噛みしめながら4人は声を揃えて挨拶をした。


「「「「いただきます」」」」



           ☆


「おいおい、まだ根に持ってるのか?」


「根に持ってるっつーか、なんつーか」


「結局まだ気にしてんじゃねーかよ」


 王城に戻った将太は、他の人達からの言葉に歯嚙みした。もう少しだった。そう思いたかった。だが、あの剣の男には、碧斗達と戦っていなかったとしても勝てはしなかっただろう。


ー今回、3人を連れて来れなかったのは俺のせいだー


 全て自分のせいだと。そう考えると胸の奥が苦しくなる感覚が将太を襲った。これは現世でもよく体験した感覚である。異世界では感じたくは無かったのだが。その劣等感というものはいつまでも将太を付き纏うようだ。どうして自分は出来ないのか、そんなマイナスな思考が将太を妨げていた。


「それでも、俺は約束したから、」


 不安に押し潰されそうな時はいつもあの人の言葉を思い出した。あの人の声が、言葉が背中を押してくれている気がした。


『自分を信じろ。お前は誰よりも悩み、自分で考え、努力できる力を持ってる。その力を弱い精神力で妨げるんじゃない。お前なら出来る。俺は信じてる』


 忘れることのない言葉が、記憶が、今の将太を突き動かしていた。背中を押された勢いに任せて、将太は前へと歩み出した。


           ☆


「へー、剣、ねぇ」


 赤い髪と赤い双眸が輝く1人の男子が王城のバルコニーで将太達の会話を聞いていた。


「ははっ、面白くなりそうだね、この闘い」


「てめぇ、なんか企んでるだろ?」


 突如上から声がして、上を見上げる赤髪の男子。屋根の上には桐ヶ谷修也(きりがやしゅうや)の姿があった。


「桐ヶ谷修也。氷の殺人鬼さんか」


「そう言うてめぇは、名前も能力も明かさないんだな」


 挑発を含んだ赤髪の言葉に、負けじと修也も嫌味のように呟いた。


「俺の面白い戦いっつーのは、俺が無双する俺つえーバトルロワイヤルなんだけどよぉ、後々めんどそうだから、ここで決着つけんのも良いかもしんねぇなぁ」


「ははは、能力も知らない相手に勝負を挑まない方が身のためかもよ?」


「はっ、舐めてんなぁ、その余裕そうな表情(かお)、恐怖で染めてやるよ」


 下卑た笑みを向ける修也に、意地悪な笑顔を向けるその男。だが、怯む事なく殺意を露わにして修也が応える。


「おお、怖い怖い。まあまあ、そう焦るなって」


 ヘラヘラとしながら胸の前で手を振り、考える様に空を眺めた。


「そうだな、じゃあ名前の代わりに、そーだな」


「は?何言ってんだ」


「俺の事はシグマと呼んでくれ。大文字のSって書いてS(シグマ)


「あ?Sって書いてシグマだと?それお前の頭文字かなんかか」


「さあ?想像は君にお任せするよ」


 そこまで言うと、Sは部屋の中に戻ろうと、足を進めた。


「君のその面白い戦いっての。期待してるよ?」


「はっ、精々殺される日を楽しみに待ってろ」


 去り際にSはそう呟くと、修也は挑発にわざと乗るように答えるのだった。

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