219.異様
「なっ!?」
突如、修也によって大翔の腕が凍り始める。それに驚愕し目を疑う沙耶と、ギョッと手を離し、思わず後退る大翔。
「てめぇ、」
「言っただろ?俺が優しいだの、何か考えがあるだの。そんなのは、妄想だ。過信してるだけだ、水篠」
「ち、、違うよ、、桐ヶ谷君は、、きっと、」
「本人が言ってるのにまだ否定するか。...お前、そうやって言ってきて、何人もの人に迷惑かけたの、知ってるか?」
「っ」
修也は、沙耶を見下ろす様にしながら、近づく。
「お前が俺を何の証拠もなく庇うせいで、多くの人間が巻き込まれた。伊賀橋碧斗やそこの橘大翔も、みんなそうだ。それに、他に、犠牲になる必要の無い人間まで、死んでいった」
「っ」
沙耶は、思わず愛梨の姿を思い出すと共に、戻しそうになり口に手を当てる。
「いいか?争いを終わらせたいだの言ってたが、それを起こした本人はお前なんだよ。水篠」
「う、、嘘、」
「てめぇ!いい加減にしろ!」
大翔は、そう告げる修也に拳を振り上げる。が。
「やめてっ」
沙耶が、既のところで止める。
「分かってた、、本当は、、私も、分かってたから、」
「認めんな。こういう奴はな、こうやって何も悪く無い奴に罪を着せる様に仕向けるんだ。そんな奴の言う事、聞かなくていい。全ての始まりは、どっちみちこいつのせいだろ」
「はぁ、、そう思ってんなら、安易に近づくのは危険だと思うけどな。さっき俺に触れて凍らされそうになったのもう忘れたか?」
「悪ぃな。忘れっぽくてよ」
大翔は挑発的に笑う。だが、そんな中、沙耶は震えながら、"あれ"を思い出す。
『つまり桐ヶ谷修也は元々、国王が言ってた魔王討伐の為に、皆が力を合わせ一丸となる事を願って。まとまりの無い、成果の見られないみんなに痺れを切らしてあの事件を起こしたんだ』
それを邪魔したのは沙耶本人。修也が本当にそれを望んでいたのならば、彼に殺し合いを始めさせる動機はなかった。沙耶にも、勿論そんなものはないが、しかし。"あのまま沙耶が何もしなければ"、こんな事にはならなかったのも、事実だろう。
「私の、、せいだよ、」
「沙耶、、認めるなって」
「ううん、、私、聞いたの、、桐ヶ谷君、本当はみんなをまとめるために悪役になったって。あのまま行けば、きっと桐ヶ谷君を標的に、一つにまとまったのは、、間違い無いよ、、伊賀橋君だって、そうだもん、」
「っ」
「そ、そうか、?」
沙耶が口にしたそれに、修也は目を細める。と、そののち、大翔はジト目を向ける。
「別に変わらなかったと思うぜ。みんな、疑心暗鬼になってた筈だ。この中に、あんな思考のやつが居るって、、そう思ってな。結局、争いは起きてた筈だ。俺も、みんなを最初は信じられなかったし、他の奴らもきっとそうだ。沙耶がこいつを守らなくても、同じ事になってた。だから、別に沙耶が気にする必要ねぇよ」
「でも、、少なくとも私のせいで桐ヶ谷君の予定を狂わせたのは、、本当だから、」
「おい、ちょっと待て」
「「?」」
沙耶と大翔が話す中、突如修也が怪訝な表情で割って入る。
「その話、どこで聞いた?」
「え、、その、」
その、普段とはかけ離れた真剣な表情と、低い声音。冷酷な瞳に貫かれ、沙耶は言葉を濁す。と、その直後。
「はぁ、、はぁ、はっ、はぁ、や、やっぱり、ここだった、」
「え、、美里、ちゃん、?」
「相原、何でここに」
息を切らしながら、美里が駆けつけ声をかける。 と、それに続いて、今にも倒れそうな重傷の樹音が現れた。
「樹音!?お前、まだ動ける体じゃねーだろ!?」
「そんな、、寝てる暇も、無いよ」
大翔が驚愕に声を上げると、樹音は苦笑を浮かべてそう返す。それに、対する沙耶は表情を曇らせた。
「みんな、」
「何で、?あそこで待っててって。そう言われたんじゃ無いの、?」
「...ごめん、、でも、もう、終わらせたかったの」
美里の問いに、沙耶は呟く。美里もまた、分かっていた。碧斗に軽く話をされただけでも、分かったのだ。皆、察しているだろう。
沙耶は、もう、こんな争いを終わらせたかった。修也という根源との話し合いか、はたまたそこで自分自身の命を絶つか。どちらかを、望んで、ここに来ていたのだろう。
美里は確認も含めたその一言に、沙耶がそう返した事によって改めて確信する。
「もう、、終わらせたいの、、私が、私じゃ無くなっちゃう、、前に、」
「「え、?」」
沙耶のその言葉に、美里と樹音は声を漏らす。だが、対する大翔は事情を把握している様子で、表情を曇らせた。
「私、、きっと、このままこの争いの中に居たら、、自分じゃ無くなる、、もう一人の私が、、語りかけてくるの。...だから、その前に。歯止めが効かなくなる前に。...この争いを、終わらせなきゃ、いけないの、」
「だからって、、まだ傷も癒えてないのに、」
「お前が言うかよ」
「僕は、、その、みんなを追って来たわけだから、、ちょっとニュアンスが違うよ」
樹音が沙耶に呟くと、大翔がジト目をして割って入る。それに、苦笑混じりに返すと、修也が微笑む。
「何、?あんた、何がおかしいわけ?」
「いや、、全部違うと、思ってな」
「え、?」
「まず、俺を納得させても、争いは終わらねぇ。それに、疑いまくってる連中だ。俺がはいそうですかって、お前達の言う通りにするって頷いても、きっとお前ら俺を信じる事しないだろ?」
「そ、それは、」
「え、」
修也の言葉は図星だったのか、大翔は歯切れの悪い返事をする。と、沙耶が驚いた様子で振り返る。
「な?だから、水篠。その、争いを終わらせたいって願いの元に行動してんなら、俺のところに来たのは間違いだ。俺の事を止める。俺の行動理由を知りたい。それだけをただ知りたいって来てんなら、別にそれでいいんだけどよ」
「わ、私はっ!その、桐ヶ谷君の事も、ちゃんと知りたくてっ!」
「少なくとも俺はお前の過去を聞きたくて来た。っつって、お前はそれに対して答えてくれるのかよ」
「それとこれとは話は別だ」
「なら、、さっきの、話」
「ん?」
大翔と修也に割って入る沙耶は、目つきを変えてそう提案を口にした。
「桐ヶ谷君が、みんなをまとめようとしてたって話。それを、どこで聞いたのか、どうして知ってるのか、話すから、、だから、桐ヶ谷君が何でこんな事を始めたのか、教えて欲しいの」
奈帆や理穂との会話から、相手から情報を聞き出すにはこちらも情報を吊り下げるしか無いと、そう把握していた沙耶は、慣れない様子ではあるものの、そう取引を行う。
「めんどくせぇ事言う様になったな」
それに、修也が息を吐いた。と、その瞬間。
「「「「!?」」」」
沙耶を含め皆が、その威圧感に、振り返る。
「何、、あれ、」
「...誰、?」
その威圧感は凄まじく、背中でも感じる程の、強いものだった。一歩、一歩と。少しずつ近づく。その人物が近づくに連れ、その威圧感と緊張感が強まる。これは、畏怖というものだろう。体が、動かない。まだ誰かもわからない。何もされていない。そんな、状況で、数メール先でも分かる、その異様さ。
「お前ら、、とんでもねぇ奴を一緒に連れて来やがったな」
「あれって、」
連れて来たわけでは無いと。修也にそう手を振りながら否定し、皆はその人物に視線を向ける。
と、そこには。
いつも気怠げで、無気力。声に覇気のない、気持ちの浮き沈みが平坦な人物。
不破渉が、そこには存在していた。
だが。
「あれって、、あの時の、」
「不破、君、だっけ、?」
「でも、、ちげぇ、、この感覚、何か、ヤバいものを感じる、」
美里と樹音、大翔がそれぞれ口にしながら、僅かに後退る。すると。
「ああ、、良いところに居たな。少しいいか?聞きたいことがある」
そんな、皆を前にして、いつもと同じ声音で、淡々と放つ彼に、目を合わせてはいけない者と、目を合わせてしまったと。そう思ってしまう程の恐怖に、冷や汗が溢れる一同であった。
☆
「マーストは、どこだ?」
碧斗は真剣な表情で。どこか挑戦的にそう放った。が、対する騎士の方々も同じ態度で返す。
「貴方に答える必要のない質問だ」
「...何故だ。俺は、、マーストの担当なんだぞ?」
「それは、もう過去の話です」
「は、?」
そんな中、一人の騎士の放ったそれに、碧斗は驚愕のあまり声を裏返す。
「どういう事だよ、」
「もう、マーストは貴方の担当ではないという事です。そして、」
その騎士はそこまで言うと、その隣から。ふとニヤケ面の騎士が現れ、そう付け足した。
「私が貴方の新しい担当者です。よろしくお願いします」
「っ!?なっ、何でだよ、、マーストはどうなった!?どこ行ったんだよ!」
「ですから、貴方に言う話ではないんですよ。もう、何の関係もありませんから」
微笑みながら、その新たな担当者は告げる。と、碧斗は睨みながら、先程の騎士へと視線を送った。
「なら、何故担当者が変わった?そこに、関係があるんだろ?」
「はぁ、だから、貴方に話す話ではーー」
「はぁ、、伝えていただかないと困りますよ。こちらとしては、突然担当者を変えられた身ですから。その正当な理由を説明をするのが、義務ではないですか?」
「...はぁ、なるほど」
あえて、碧斗は口調を丁寧語に直し、そう告げた。関係ない。そんな言葉では片付けられないと。碧斗は強く放ったのだ。
「仕方がありません」
「ん?話して良いんですか?」
「良いですよ。貴方から話しますか?」
「じゃあ、遠慮なく」
新たな担当者と、その騎士が会話をしたのち、その担当者は碧斗に改めて向き直る。
「マーストは、現在騎士の職務から外されています」
「何、?」
「他の業務を任されているはずです。まあ、例えば雑用とかですかねぇ」
「な、何故だ、?」
「そこまで答える義理はないですけど、強いて言うならば貴方の所為です」
「は、?お、俺の、?」
碧斗は言葉を失う。何をした。マーストは、何故そんな事に。
「っ!」
そこまで考えたのち、碧斗は察する。地下に住める様に手を加えてくれた。恐らくマーストはきちんとそれを全うしたのだろう。だがしかし、その途中で他の騎士に見つかったのだとするならば。
「...まさか、」
「心当たりがおありで?」
「クッ」
碧斗は歯嚙みする。恐らく、転生者は地下にすら入るのを許されていない点から、そこに住まわせるのは勿論。それに協力し、地下で住みやすい様に手を加えるなんて事、違法行為に決まっている。それが、バレてしまった。という事だろうか。
碧斗は悩む。彼の言い方を考えると、マーストは捕まったわけでも、職を失ったわけでもない。今もまだ、騎士という業務を行なっていないだけで、彼の言うように王城内の雑用を行なっている可能性が高い。ならば、まだ見つけ出せる可能性が残っている。そういう解釈も出来るだろう。
碧斗は心中で僅かな可能性に賭けながら、一歩踏み出した。
「なるほど、、分かりました。それなら、今日からよろしくお願いします」
「はい。十四番目の勇者様。これから、よろしくお願いします」
碧斗は、ここは穏便に済ませた方がいいだろう。そう考えながら、更なる情報を引き出すために受け入れる。が、その直後。
「ですが、、残念ですね」
「え、?」
突如、担当者が、変わらずニヤニヤとしながら遠くを見据え口にする。
「せっかく担当になれたのに、捕まえなくてはならないなんて」
「っ!」
鼻で笑いながら、その担当者は告げると、瞬間。握手を求めて出した手。いや、その腕を、担当者は掴もうと前へ出る。がしかし、既のところで碧斗は後退り、瞬間。
「クソッ!」
視界を奪う煙を大量に放出する。
「また逃げるんですか?十四番目の勇者様」
「意味は無い。どちらにせよ、逃げられない」
担当者が笑いながら放ち、隣の騎士は碧斗の走力を知っているのか、自信満々にそう放った。そんな中、対する碧斗は走りながら、息を切らしどうするべきかと。思考を巡らす。
ーどうする、?このまま逃げるか、はたまたー
「逃げて良いのですか?マーストを捜しているんじゃ無いんですか?」
やはり、目的を読まれていた。だが、この発言がブラフである可能性もある。これに乗って良いものか、はたまた、乗らないのも手のひらの上なのか。
彼は王城内に居る。この機会を逃せば、マーストを捜し出すチャンスは限りなく低くなるだろう。マーストが作ってくれたチャンスは、数えきれない。
ー俺達だけで、、王城を制覇出来るはずないかー
碧斗は目を細める。確かに、それもあった。マーストが居なくては、これからを考えるととても不利である事には変わりない。だが、それ以上に。
「...」
「おや、逃げなくて良いんですか?」
碧斗は、ふと立ち止まった。
「気が変わった」
「...と、言いますと?」
碧斗はゆっくりと振り返りながら、新たな担当者達を鋭い目つきで見据え、強く放った。
「マーストを、、俺達を救ってくれた、そんな人を、、俺自身が見捨てるわけないだろ。マーストの居場所、教えてもらうぞ」
「ですから、教える義理はないとーー」
「なら、力尽くで教えてもらおうかっ!」
碧斗はそう声を上げると、煙を放出した。
「けほっ、けはっ、、貴方も、そういう考えなんですね、やはり」
「は、?」
「力こそ正義。考える事は皆同じです。争いを望む貴方達は」
「っ、、俺は、そんな事っ」
「では、何故、、こんな、けほっ、事を、?」
「そ、、それは、、マーストを、、救う、ために、」
「ははは、、それ、彼は望んでますか?」
「っ」
煙の中で、咳き込む担当者は、碧斗にそう告げる。段々と、分からなくなってきていた。恐らく、碧斗だけじゃない。沙耶も、大翔も、皆だ。自分達がしてる事は、本当に正しいのか、それが分からなくなっていた。
だが、それでも。
「望んで、ないかもしれない。でも、たとえ俺が悪人になって、、マーストが望んで無い道を辿っても、、俺らのせいで全てを狂わされた人を、俺らで何とかしないと、いけないんだ」
この世界の人は、この世界が全て。たとえ碧斗達が死ぬか何かで元の世界へ戻ろうとも、この世界は続いていく。だからこそ、この世界の人くらいは、何とかしてから帰らなくてはならない。結果が、どうなろうとも。
「勘違い野郎が、」
「ああ、、そうかもな」
騎士の一人が聞こえない程の声でそう呟くと、碧斗は微笑む。
そうだ。勘違い。それでいい。マーストに救われたのは勘違い。マーストはそんな意思がなかった。それでいいでは無いか。そうすれば、彼が罰を受ける必要は無い。もう、関わるのはやめよう。そう、その一言だけで良い。もう、手出しはしなくて構わない。ありがとう。だがそれだけは、伝えなくてはならない。碧斗はそう考えながら、一か八か、騎士の人達に有害な煙を発生させる。とは言え、いつもより軽いものだ。
「ごほっ、こぼっ、、こんなもので」
「止められると、思うかっ」
「っ!?」
碧斗に、騎士の一人が槍の様なものを投げる。それに慌てて避ける碧斗の頰に、擦り傷が浮かび、血が滴り落ちた。
「クッ」
やめてくれ。頑張らないでくれ。碧斗は心中で思う。苦しむ姿は見たくは無い。こちらの世界の人だ。犠牲者を出すわけにはいかない。
「っ」
碧斗はそこまで考えて、冷や汗を流す。何を考えているのだ、と。この世界の人だから。碧斗はふと思ってしまったその一言に、焦る。逆に問うならば、"この世界の人以外は犠牲者は仕方がない"と、そう考えているのか、と。
碧斗はその思考の変化に驚愕し、慌てて首を振った。その、瞬間。
「碧斗君!こっち!」
「え、?」
ふと背後から、樹音の声が聞こえる。
「とりあえず話は後、この隙に逃げるよ」
「え!?」
更に、続いて美里が現れると、碧斗の手を引いてその場を去る。
「っ、、はぁ、逃げられたか、」
「ごほっ、けほっ、大丈夫ですよ、きっと」
「ああ、、そうだな。奴は多分、もう一度戻って来るさ」
煙から抜け出し、咳き込んだのち、騎士の人達はそれぞれそう口にした。
☆
「はぁっ、はっ、はぁ、、な、ど、どうしたの、?突然」
碧斗は、手を引く美里と、その前を歩く樹音に向けて、そう口にする。と。
「碧斗君、実は、マーストさんの居場所が分かったんだ」
「っ!?」
碧斗はその一言に、目を剥く。
「だから、、あんたが無理して戦う必要はない」
淡々と、美里はそう放つ中、碧斗は息を吐く。
「よ、、良かった、、無事なんだな、、マーストは、」
肩の力が突如抜けた気がした。
「それで、?何処にいたんだ、?」
「大丈夫。普通に一棟で仕事してる、、ただ、もう担当者からは外されてるみたいだけど、」
「それは、、さっき聞いた、、やっぱり、本当なんだな、」
碧斗は俯き歯嚙みする。マーストは、我々を庇ったから担当を外されたのだろう。まだ想像の範疇からは出ないものの、それ以外に考えられない。他の騎士から放たれた、貴方のせいだという一言。それが脳内に響く。
「とりあえず、、マーストに会いに行こう。...それで、弁解するんだ」
「弁解、?」
美里が首を傾げる。
「うん。マーストは悪くない。まだ言い逃れは出来るはずだ。俺らが勝手に恩義を感じているだけで、マースト自身は何もしていない。助けようとしたわけではない。それを、上手い事口裏を合わせて証明さえ出来れば、きっと、」
「でも、、そんな簡単にいくかな、?」
碧斗の言葉に樹音が割って入ると、碧斗は無言で目を逸らす。確かに、確証はない。だが、何もしないわけにはいかないだろう。
「...簡単にいくかいかないかは関係ない。とにかく、その事を伝えに行こう。俺達がマーストと話しているところを他の騎士に見つかったとしても、それを逆手に取れば良い。だから、後問題なのは、」
碧斗は一棟へと皆で歩みを進めながら視線を落とす。と、それに付け足す様に、美里が口にした。
「転生者?」
「そう、、だね」
「今のところ、騎士達が追って来てる気配は無いし、地下から向かえば、道中で出くわす事は無いんじゃないかな?転生者は、入るの禁止されてるわけだし」
辺りを見渡し、地下なら問題無いと樹音は口にする。
「そう、だな、」
だが、対する碧斗は少し悩みながら、それでも他に方法は無いと頷く。もう既に存在を知られ、安全では無くなった地下は穴が多かった。他の転生者が居ないのは良い点ではあるものの、それ故に騎士の人達からすれば我々を見つけやすくする行為でもあるのだ。
そんな不安を僅かながらに感じながら、碧斗は皆の意見に頷き、地上には戻らず進んだ。
そして、一歩また一歩と、地下を進んで行く。すると、ふと。
「ここら辺だよ」
「わ、分かるのか、?」
「うん。地下を移動して来たから、だいたいの場所は」
樹音が出入り口の目の前でそう口にする。それに碧斗が冷や汗混じりに放つと、彼ははにかみながら答える。
「この上の部屋で、マーストさんには待ってもらってるから、多分居るはず、」
そう呟いて、樹音が先にドアを開けて地上を確認し、問題無いと判断したのち碧斗に促す。
「ど、どうだ、?マーストは居て、、っ!?」
碧斗もまた、ゆっくりと、恐る恐る地上に顔を出した。そこは、一棟の廊下であった。
残念ながら、そこにマーストの姿は見えなかった。
だが、それ以上に。
「...嘘だろ、、これって」
碧斗達の周りには、転生者が集まっていた。
「袋の鼠だっ、マズいっ!樹音君!早くっ」
碧斗が早く戻ろうと。そう先に地上に上がり碧斗に目をやる樹音に放つと、彼はーー
ーー微笑んだ。
「は、?」
「ははは、あんなに頭がきれるのに、こんなんで引っかかっちゃうんだ」
「ま、まさか、」
碧斗の額からは冷や汗が流れる。いや、ありえない。そんな事無い。そんな事、あってたまるか、と。碧斗は現実逃避をしながら拳を握りしめる。
そう、そこには。
「心を許せる相手には、こんなに隙だらけで、信じちゃうんだね。伊賀橋君」
「...クッ」
先程まで樹音がいた場所にーー
ーー一ノ瀬悠介が居た。
「そういう事か、、そして、こいつが、」
碧斗は何かを察したのち、逃げられない様にと地下で碧斗を塞ぐ美里に目をやる。と。
「冷静な判断が、出来てない。らしく無いね。冷静さ、足りないんじゃない」
そこには、美里。では無く、三久が居た。
「忘れてたよ、、大井川さんの能力は、ただ音波を放ったり、空間を揺らしたりする能力じゃ無くて、、"音"だったな、」
そう。幻覚を見せる悠介の光の能力。そして、違う音を発して耳に届ける"音"の能力を持つ三久。この二人が揃えば、出来てしまうのだ。
皆の、フリをする事が。
「最悪な二人が揃ったな、」
「残念だね。僕だって、完璧に円城寺君を演じられたわけじゃないんだ。ほんと、焦って細部まで気が回らない時の君で助かったよ」
「チッ、、クソッ!」
思わず舌打ちが零れる。そう、碧斗は。
嵌められたのだ。




