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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第7章 : 関わり合いと処罰する者(パニッシュメント)
218/300

218.再挑戦

「ここまで、、読まれてたのか、」


 碧斗(あいと)は力無く呟きながら後退る。


「間抜けで助かったよ。いや、、寧ろ逆に頭の良い奴で助かった。そう言うべきか」


 涼太(りょうた)はそこまで言うと、微笑みながら碧斗達の背後に追いついた騎士達に視線を向ける。


「クソッ、」


「挟み撃ちにされたな。もう地下への入り口も俺が塞いでる。逃げ場はないぞ」


「...クッ」


 自信げに放つ涼太に、碧斗と美里(みさと)はそれぞれ歯を食いしばる。

 辺りを見渡す。どこかに、逃げ道はないかと。


「その反応はつまり、、相原(あいはら)さんに毒は与えてなかった。そういう事だな?」


「ああ、その通りだ。焦ったよ。地下に移動した時は。地下がある事にも驚きだが、俺は地下の全貌を知らない。だからこそ、知らない地形での戦闘が不向きな俺の能力では分が悪かった。でも、お前らは何故か深く考え、外に出て来てくれた。その可能性に賭けて、近くの出入り口を探索しておいて良かったよ。そのお陰で、こんなにも上手く追い詰められた」


「...そうか、それは良かったな」


「ああ、良かったよ。それで?時間稼ぎはもうネタ切れか?」


 碧斗の反応により、時間稼ぎだという事がバレていた様だ。涼太がわざと長々と解説をする中、二人は策を考えていたものの、得策と呼べるものは見つからなかった。


「さあどうする?逃げられる唯一の方法は、後ろの騎士を全員倒す事だ。だが、この世界の無能力者で、別に自身の仕事を全うしているだけの人間を、お前らは倒せるのか?もし倒せたとしても、お前らは更に悪行を重ねる事になるぞ」


「ク、」


 究極の選択だろう。碧斗は冷や汗を流す。これもまたブラフだ。正面から聞く必要はない。だが。

 そんな事を考える中、ジリジリと。騎士の方達も何やら会話を交わしながら距離を詰める。と、それと同時に、涼太もまた。


「フッ、じゃあ、もう時間稼ぎも無いみたいだし、終わりだ。スプリードポイズン」


「っ!」


 手を前に出して、技名であろうそれを、口にした。

 が、その直後。


「ぐはっ!?」


「「っ!?」」


 瞬間、涼太は口から空気を吐き出しながら倒れ込む。そんな、倒れた彼の背後には。


「ご、、ごめん、、みんな、」


樹音(みきと)君!?」「円城寺(えんじょうじ)君!?」


 そこには、ボロボロの体の樹音が、剣を持っていた。どうやら、涼太を後ろから峰打ちしたのだろう。早くて気づけなかったものの、あの瞬間、出入り口から一歩二歩碧斗に近づくために移動した涼太の背後。その隙に地下から樹音が飛び出していたのだ。


「ありがとう、樹音君」


「話は、、あと、とりあえず、戻ろう」


 樹音は背後の騎士達に目をやりながらすぐに碧斗達を地下に促すと、それに釣られて走り、向かう騎士とギリギリになりながらその出入り口を強く閉じた。


「とりあえず逃げるしかないな、」


「残念だけど、もう、、地下は、」


「使えないな。みんなから存在がバレた」


 続いて地下にまで追って来る騎士達を背に逃げながら、碧斗の小声に返した樹音に返す。


「それなら、、もう王城に居られないんじゃ、」


「...とりあえず、今は立て直さなきゃいけない。一回みんなと合流して、王城を出よう」


 碧斗はまだ次の案が定まっていないという様に、そう呟く。一度出て問題無いだろうか。王城内に居続けた方が、何かと都合は良いのだが、だからとは言え居続ける場所が見つからない。ならば、仕方がないと。碧斗は脳内で割り切る。

 が、その直後。


「分かった。...でも、大翔(ひろと)君と沙耶(さや)ちゃんは、、今どこに居るの?」


「え、」


 ふと、神妙な面持ちでその先を考える碧斗に、樹音は疑問を投げかける。それに、碧斗は声を漏らし、足を止めた。


「樹音君、、二人に、、会ってないのか、?」


「え?うん、、目が覚めたら、、僕一人で。...それで、上が何だか大変そうになってたから、歩いて、碧斗君達の声が聞こえたところから、上に出たんだけど、」


「...二人は、、居なかったのか、?」


「うん、、え、、どういうこと、?」


「ち、ちょっと待って、私も、話が見えない、、さっき、みんなのところに行こうって言ってたから、てっきりみんな同じところに集まってるんだと思ったんだけど、」


「いや、、その解釈で合ってるよ。俺は、、二人に樹音君を任せたんだ。俺が別行動で相原さんを捜してる間、見ててって、」


 疑問符だらけの三人は、互いに顔を見合わせながら、それぞれの記憶を話す。いや、おかしい。先程まで、二人は樹音のところに向かっていたはずだ。一体何が。そんな事を考えている中、ふと樹音は、恐る恐るそう呟いた。


「なら、、二人は、?」


「っ」


 碧斗は焦りを見せながら慌てて騎士に背を向け踵を返すと、まさか、と。足を進めた。


「あ、碧斗君!?」


「二人とも、、目の前で死を見た後だった、、何をするか分からないっ!早くっ、見つけないとっ!」


 二人の心境を、思い返しながら察する。それぞれが目の前で。いや、自分の手で人を殺めているのだ。その直後。どうするだろう。何を考えるだろう。

 碧斗は(しん)の時を思い出しながら、自分ならばと。思考を巡らす。


「どこだ、?」


 未だ明確な目星はついていない。だが、きっと全てを投げ出したくなっている筈だ。進の時、自身もそうだった。何のために、今まで戦って来たのか、分からなくなった。それが、自分の手で殺めたとなると、その思いは計り知れない。


ーまさか自ら、?いや、水篠(みずしの)さんの精神状況は不安定だった。だけど、そんな行為をする人とは思えない。大翔君なら尚更だし、彼が一緒に居ると仮定すると、水篠さんもだ。...なら、こんな事を望んでいなかった二人が、あの出来事に絶望し、次行うとしたらー


「っ」


 ふと、碧斗は目を見開く。そうか、行く場所と言えば、恐らくあそこしか無い。同じ境遇だった人間を、もう既に一度見ているでは無いか、と。そう、向かうとしたら、彼と同じ。

 進と、同じ場所だ。


「樹音君、相原さん」


「「え?」」


 走りながら、碧斗は目つきを変えて低く放つ。


「なんと無く、、二人の居る場所が分かった」


「っ」


「えっ、、それって、」


 美里が目を細め、樹音が聞き返す中、碧斗は少し悩む素振りを見せたのち、それを確信したのか、視線を上げる。


「ああ。恐らく、"王城近くの開けた広場"に向かったんだと思う」


「「っ!」」


「そこって、」


 二人は目を見開いたのち、美里が聞き返す。


「うん。恐らく、もうこんな事は起こってほしく無い。見たくは無いと、強く思う筈だ。その時、真っ先に思い浮かぶのが、この争いを終わらす事。そして、その中で真っ先に向かう場所と言えば、」


「全ての元凶が居る場所、」


 美里が碧斗の考察に割って入ると、可能性の話だけど、と。碧斗もまた返す。


「確かに、、あり得そうだね、、他に候補は無いし、、可能性があるなら、それに賭けてみた方が良さそうだけど、」


「なら、このまま向かう?」


 樹音の言葉に、美里もまた頷き、碧斗に促す。と、碧斗は一度皆を見て頷くと、ふと。


「えっ」「なっ」


 碧斗は立ち止まり、背後から迫る騎士達に体を向けた。


「な、何考えてるの!?」


「二人は、、大翔君と水篠さんが居る可能性のあるあそこに向かって欲しい」


「えっ、それなら、伊賀橋(いがはし)君はどうするわけ、?」


「俺は、、俺の走りじゃ、騎士の人達を撒けないし、足手纏いになる。...それに、」


 碧斗はそこまで言うと、目つきを変えて、皆に背を向けたまま、力強い双眸で。声音で、そう告げた。


「少し、騎士の人達と話すことがある」


「...あんた、」


 話す事。それは、なんと無く予想は出来ていた。騎士にしか聞けない事。恐らくはあれだろう。美里は何かを察して息を吐いた。


「分かった、、でも、私達が向こうで合流して、まだあんたが来なかったら、みんなで戻って来るから。...みんなを王城から離れさせたいなら、あんたも早く来て、」


 美里はそれだけを残すと、樹音を促し足早にその場を去る。それに、碧斗は深く息を吐くと、小さく微笑みながら。


「はぁ、、ズルい言い方するな、、ほんと、」


 そう呟いたのち。


「なら、絶対負けられないな」


 強く放ち、騎士の方へと力強く進んだ。


「...自主する気になりましたか?」


「...その前に、まず、一つ教えてくれ」


「何でしょう」


 目の前の騎士は、怪訝な表情を浮かべる。それはそうだ。捕まえに来たのだから。それを把握しながらも、碧斗は深呼吸を軽くしたのち、真剣な表情で騎士を見据え放った。


「マーストは、どこだ?」


           ☆


「やっぱり、、まだ、ここに居るんだね、」


 息を切らしながら、表情を曇らせて、恐る恐る沙耶は放った。場所は、綺麗な空が全面に広がる、王城近くの開けた広場。そんな沙耶の目の前にはーー


「...悪いか?居たら」


「ううん、、良かった、」


 ーー桐ヶ谷修也(きりがやしゅうや)が、以前と変わらず立っていた。


「...ここに居るのがバレたから、居ねぇと思ったよ」


「バレた?この場で俺には勝てないって、証明しただけだろ?その事実を知って、ここに来る馬鹿こそ、居ないと思ったけどな」


「てめぇ、」


「本当の事だ」


 横から割って入る大翔に、修也は鼻で笑う。と。


「それで?どうして突然ここに来た?殺されにでも来たか?」


「ううん、、お話、、しに来たの」


「お話?笑わせるな」


「本気だよ、、私、もう、終わらせたいの」


「...」


 沙耶の真っ直ぐな瞳と言葉に、修也は少しそれを見つめたのち、息を吐く。


「終わらせたい、?何をだよ」


「...この、争い、」


「お話で、解決出来るとでも?」


「...ねぇ、桐ヶ谷君、、私じゃ、頼りないのは、、分かるけど、、それでも、いつまでも、守ってもらってばかりなのは、、嫌なの。...桐ヶ谷君、、何を、隠してるの、?何を、考えてるの、?力に、なれないのかもしれないけど、私なりに、、桐ヶ谷君のために頑張りたいの、、桐ヶ谷君が、そうしてくれたように、」


「何も分かってねぇな」


「え、」


 沙耶の言葉に、修也は歯嚙みしながら小さく呟いた。


「俺は何も隠してなんかいない。ただ、せっかくこんな世界来たんだ。それに、殺せば記憶は無くなる。それなら、俺がしたい様にして、全員を殺したいって、、そう思っただけだ。それに、お前を助けたのだってーー」


「嘘だよ」


「は、?」


「桐ヶ谷君の、、優しさは、私が一番知ってるもん」


「おい、水篠、何知った気になってーー」


「知ってるもん!」


「っ」


 沙耶は、意地でそう返す。どこかで、悔しかった。理穂(りほ)との関係を、聞いた時から。理穂から、知らない修也の姿を聞いた時から。どこかで悔しくて、それがこんなところで表れてしまった様だ。

 その言葉は修也に届いたのか、彼は一度口を噤み、少し間を開けて口を開く。


「何があった?向こうで」


「え、?」


「んだよ、突然」


「お前には聞いてない」


「おいてめぇ」


「...何か、あったんだろ、?じゃなきゃ、こんな、突然少人数で俺に挑むなんて事する筈ない」


「そ、それは、」


 逆に、見透かされている気がした。修也は、この状況下でそれぞれの思考を読み取っているように感じた。


「答えられねぇなら別にいい。ただの好奇心だ。だが、俺の意思は変わらない。それだけは伝えておく」


「その、、意思を知りたいんだよ、、私は、」


「一方的に問い続けるなよ。俺の質問に答えてくれなきゃ、俺も答えられない。フェアーじゃねーだろ」


「そ、、それは、、そう、だけど、」


 口を噤む沙耶に、修也は息を吐くと、時間を無駄には出来ないと。踵を返す。


「悪いが、長ったらしく話してる時間はねぇんだ。次は誰を殺ろうか、そう考えてるところだからな」


「ほら、、やっぱり」


「は、?」


 そんな修也に、沙耶は小さくぼやくと、彼は振り返る。


「桐ヶ谷君、、嘘ついてる」


「何、?」


「本当に、さっきの話が本当なら、ここで私達の事殺してる筈だよ?(たちばな)君と二人だけど、、お互いに凄く弱ってる。殺すとしたら、ここしか無いよ。...でも、それなのに桐ヶ谷君は、そうしなかった」


「お前、」


「私、知ってるよ。桐ヶ谷君の、本当の優しさ。(あかつき)理穂さんからも、教えてもらったの。桐ヶ谷君との事。"あの時"と同じ、優しさだった」


「何が言いたい」


「だからっ、桐ヶ谷君!お願い!話してっ、何でこんな事してるの!?無理に演じてるの、?教えてよ!どうして、こんな事になってるの!?」


 沙耶が感情を込めて叫ぶと、修也は無言で頭に手をやったのち、彼女の目の高さに合わせるように、目の前まで歩き、しゃがみ込む。


「お前のせいだよ」


「え、」


「余計な事しなければ、もっと上手くいってた。お前が俺なんかを庇うから、めんどくさくなったんだよ」


「わ、私が、」


「そうだ。全部、お前のーー」


「それ以上言うなよ」


「...言わせたのは彼女自身だ」


 修也が威圧感を強めて彼女に迫り、肩に手を伸ばそうとした、その時。大翔がその腕を掴み、それを止める。と、修也は浅く息を吐くと、震える沙耶に目をやる。


「わ、私の、、せいなの、?」


「ああ。それと、俺は優しくなんか無い。それを、今ここで証明してやるよ」


「え、?」


「なっ!?」


 それを修也が口にすると共に、大翔の腕が、段々と凍っていった。


 そんな中、一歩また一歩と。

 周りの皆がそのオーラに圧倒され退く、そんな男が。王城近くの開けた広場に、向かっていた。

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