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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第7章 : 関わり合いと処罰する者(パニッシュメント)
216/301

216.化物

「う、、ぅ、」


 俯き、沙耶(さや)は唸る。それは、音波が更に強くなっているから。では無く。

 それと同時に、脳内にはもう一つの雑音が、響いて止まなかったからだ。


「一対一なら、圧倒的不利。諦めて」


 三久(みく)はそう呟くと、左手を前に出し。


「ぐぅ!?」


 大きな音波を沙耶に放出した。一人相手。ならば、場所も角度も、戦略も必要ない。ただ、一点に。沙耶という一人の相手に向けて、音波を放ち続ければ良いのだ、と。そう近づく、三久だったが。


「ふ、、くふふ、」


「?」


 微かに、笑い声が聞こえた。その、次の瞬間。


「っ!?!?」


 地面から尖った岩が一瞬で生え、三久の左手を吹き飛ばした。


「ぐ、、ぐはっ、!?」


「あははっ、ははははっ!」


 何が起こったか分からない。そんな様子で蹌踉めく三久に、対する沙耶は高笑いを上げながらゆっくりと立ち上がる。すると。


「!」


 三久の背後から、巨大な人型の岩が現れ、彼女に殴りを入れては大きく吹き飛ばす。


「がはっ!」


 三久はその勢いのまま王城の壁に激突すると、血を吐き出しゆっくりとずり落ちていく。と、そんな彼女に、沙耶は近づく。


「ねぇ、、一対一ならいけると思ったの?...さっき見たじゃん。私の能力」


「はぁ、、はぁ、」


「お馬鹿さんなのかなぁ?分からないのかな?私の能力、貴方の能力では圧倒的不利だよ?」


 ふふ、と。微笑みながら沙耶はゆっくりと三久の前に現れる。その姿は、まるで。


「...化物(ばけもの)、」


「ははははっ!神崎(かんざき)さんと同じ事言ってるーっ!ねぇねぇ、何で私の方来たの!?その判断がっーー」


 沙耶がそう掛け声の如く叫ぶと、地面から大量の石を浮かせて体に装着し、足の岩を突出させる事で勢いを増して三久に向かう。


「っ」


 それに、三久は目を細めて改めて能力を発動させる。沙耶の装着した岩を、全て破壊する程の、音波を。

 だが。


「!」


 沙耶と三久の間に、突如岩の壁が隔てられる。それは、音波によって直ぐに破壊されたものの、それを見計らって更にもう一つ。同じく岩の壁が隔てられる。


「クッ」


 それもまた同じく音波で破壊する。と、その先から。


「ーー自分自身を、殺す結果になるよ」


「っ!」


 沙耶が現れ、目の前にはすでに。

 変形し巨大化した岩の拳が迫っていた。


「ぐはあっ!?」


 その拳に激突した三久は、そのまま王城の壁を破壊して中へと吹き飛ばされる。


「がはっ、、ごほっ、はぁ、がっ、、はぁ、うっ、、ごはっ、」


 蹲りながら、辛そうに吐血する三久は、脳内でそれを確信した。あれは、今までの沙耶では無い、と。

 先程の攻撃。音波による振動と衝撃で自身に付いている岩を破壊させないために、いくつかの岩の壁を作り上げておく事で、破壊はされるものの空気の振動が広まらない様にしていたのだ。最初の地面からの岩と言い、音波が岩の中まで伝う前に、攻撃を打ち込む。その、迷いなき攻撃に、三久は冷や汗をかく。


「ねぇ、びっくりした?そうだよね、、大井川(おおいがわ)さん、、私達の手を緩めちゃうところを、利用して戦ってきたんだもん。...突然それが無くなったら、、怖いよね」


「はっ、、はぁ、、はぁ、」


「ねぇ?苦しい?辛い?でもね、、貴方の能力、すっごく苦しかったの。私も、、多分、みんな辛くて、、苦しかった」


 沙耶はそこまで呟くと、僅かに立ち上がろうとした三久にーー


「ぐふっ!?」


 ーー目の前から大きな岩が生え、腹に直撃する。


「だから、直ぐ死ねるって、思わないでね」


 沙耶は僅かに声を低くして放ったのち、腹に岩を喰らって上空に放り出された三久は、天井を貫いて上の階の床で倒れ込む。


「楽になれないよ」


「っ」


 息を吐いて呼吸を整える中、岩を生やし、その上に自らが乗る事でエレベーターの様にし、三久の居る上の階に沙耶が現れる。


「クッ!」


「っ」


 それに、逃げる選択を選んだ三久は、突如大きな音波を放ち、それによる衝撃で沙耶を吹き飛ばし、自身もまた吹き飛んで距離を取った。


「はぁっ、、はあっ、はっ」


 三久は息を切らしながら、更に音波を出して沙耶から離れようと奮闘する。

 が、しかし。


「!?」


 突如音波によって同じく吹き飛ばされてきたであろう石が、変形して三久に向かって大きさを変えて伸び、それが直撃する。


「ごふっ」


 その勢い故に、三久は血を吐き出しながら王城の外へと放り出される。


「クッ!」


 それに、マズいと。三久は慌てて地面に音波を放ち空気中の振動で浮遊する。王城の外。即ち地面に面しているところは、全て彼女のテリトリーだ。そのため、王城の二階以上の場所で逃亡しなくてはならないと。三久は必死に王城内へと戻ろうとする。

 だが。


「!」


 突如目の前の王城の壁が破壊された。と思われた矢先、そこから沙耶が現れ、破壊された王城の壁を石とし、それを操って自身の前に階段を一つ一段と。作り上げて三久に近づく。


「うっ」


 三久は必死の抵抗で、沙耶に音波をぶつけるものの、彼女の装着した岩を一部分離して破片を出すと、それを変形させて壁を作り、音波を遮断しながら近づく。


「クッ!うっ!うっ!」


 何度も。何度も何度も。音波を放って岩を破壊しては、沙耶の体に纏う岩から破片が現れ壁を作る。その、繰り返し。

 そのため。


「どうしたの?私、殺すんでしょ?ここで仕留めなきゃ、マズいよ?」


「!」


 沙耶は目の前に現れ、次の瞬間。


「っ!?」


 先程から何度も破壊してきた岩の壁の破片が、三久の周りに浮遊している事に気づく。


「ほら、逃げてちゃ駄目だよ」


「うっ!?」


 それを破壊しようと必死に音波を放出した。がしかし。


「ごはっ!?グフッ!?がはっ!」


 そのスピードには勝てずに、三久の体に大量の石が打ち込まれる。


「っと」


「ぐばっ!?」


 それにフィナーレを告げる様に、沙耶が足の岩を変形させて蹴りを入れると、三久はなす術なく地面に叩きつけられる。

 と、その地面から尖った岩が生えて彼女の横腹や足を貫く。


「がはっ!?」


 すると、直ぐにそれが弾けて石の破片となり、その勢い故に空中に放り出された三久に対し、その破片が打ち込まれ、その石が変形して彼女を包み込む。

 その後、その中で更に石が発射され、三久に数秒間打ち込むと、今度は包んでいた岩が弾け、自由となった彼女の体を、地面から飛び出した岩が激突する。


「ぐはっ」


 それに力無く倒れ込みそうになる三久に、先程弾けた岩の破片がくっついて形を変え、足を掴んで、彼女を宙ぶらりんにする。


「ぐぶぉ、、かはっ、、けほっ、ぐふっ、ぐぼっ、」


 逆さにされたからか、彼女の力無く開いた口からは赤黒い液体が溢れ大量に滴る。そんな中、ゆっくりと岩の階段を作り近づいていた沙耶は、微笑んで放つ。


「だーめ。まだ死んじゃ駄目だよ?楽になんかさせない。ほら、自分が一番よく分かってるでしょ?あえて、致命傷は避けてるの。朦朧としながらも、意識があって、痛いとか、苦しいとかの感情が残ってる状態。一番キツイよね、、そんな状態をキープしてるの。だから安心して、私は貴方をまだ殺さない」


「はっ、、はぁ、ごほっ、、けほっ、」


『やめて』


 沙耶の中で、強くその言葉が放たれる。


『もうやめてっ、、もう、、人を苦しませないで、』


「何、偽善者。あんたは黙っててよ」


『偽善でも、それでも良いからっ、、やめてっ、お願い、』


「ねぇ、本当はそんな事思ってないでしょ?」


『え、』


「貴方は私なの。貴方が知らなかった、貴方のもう一つの一面。それが私。私も立派な貴方の一部」


『違う!違うよ!一緒にしないで!』


「分かってるよ、私は。貴方、本当はこれ見て何とも思ってないでしょ?」


『え、、何言ってるの、?そんなわけ、』


「分かってるよ。もう、狂ってきてるんでしょ?さっき、人を殺した時に感じた絶望。あれは、人が死んだからじゃない。神崎さんだったからでもない」


『何、、言って、?』


 微笑む彼女に、沙耶は声を漏らす。そんな沙耶に、同じ顔の彼女は、近づき、沙耶の頰に手をやる。


「自分が、人を殺した事に対して、絶望したの」


『っ!そ、それはそうだよっ!嫌だよっ、、神崎さん、、まだ、、可能性は、あって、』


「違うよ」


『へ、?』


「私が言ってるのは、神崎さんを"殺した"事に絶望してるって言ったの。結局死ぬ運命だったあの人が亡くなった事には、絶望してないよ」


『っ!そ、そんなっ!そんなわけっ』


「そんなわけない?はは、、そうかな、?この世界で、裏切られて妬まれて。人が何人も亡くなって、それを何度も目撃して、、もう、これを見ても、何とも思わなくなってる。違う?」


『違う、、違うよっ!私はっ』


「さっき人を殺した事で、全ての(たが)が外れたんでしょ?だって...」


 そこまで言うと、彼女の声が耳元で呟かれる。


「貴方は今、殺したくないとしか、思ってない」


『!』


「自分以外に誰かが殺された時、貴方は、さっきみたいに、、神崎愛梨(あいり)の時ほど絶望する?」


 沙耶は、言葉に詰まった。違う。そんな事ない。そう、口に出そうと、何度も口をパクパクと動かした。だが、その声が、声として飛び出す事は無かった。どこかで、そうなのかもしれないと。感じてしまっているから、なのかもしれない。


「じゃっ、再開するよ?」


 彼女は沙耶にそう告げると、改めて三久に近づく。

 やめろ。そう強く叫ぶ。だが、体は止まらない。自分じゃ無いみたいだ。何か殻の中に閉じ込められていて、勝手に意思とは関係なく動いている。そんな、感覚だ。


「はぁ、はっ、くぅ!」


 三久は弱々しい姿で、尚も音波を放ち続ける。

 が。


「そんなの、もう意味ないって」


 沙耶は呟くと、瞬間。


「まだ眠らせないよ?お馬鹿さん」


 岩を拡大させて、またもや巨大な人型の岩を作り上げる。それは、上半身のみだったがしかし。王城をも越える巨体であった。


「っ」


 そんな巨大な岩の拳を、三久に向かって放つ。が、それを音波で何とか粉々に破壊し、拳の部分が砕け散る。が、それにより散った破片が変形してナイフの様になると、三久の体を掠るように、何度も放たれる。


「ぐはっ、」


 そのまま巨大な岩は拳をまたもや振り上げ、その間で破壊された拳を修復すると、またもや三久に放ち、音波で破壊された破片で攻撃をする。

 それを何度も、何度も繰り返す。普通に殴り続けるよりもタチが悪いだろう。破片の攻撃は、わざと致命傷を避け、痛みだけが蓄積する様に放っている。


「がはっ、、ごぼっ、」


 それを、最後の抵抗と言わんばかりの音波で耐え続ける。


「はははっ!まだ息してる!そうそう!頑張ってっ!死なないでっ!」


 声を上げながら、沙耶は何度もそれを繰り返す。

 やめて。

 もう、やめて。


 そんな脳内で響く雑音を、聞き流しながら。


 すると。


「...」


「ん、?」


 カサカサと。背後から物音が聞こえ、沙耶はその岩ごと振り返る。と、そこには。


水篠(みずしの)、、さん、?」


「っ」


 息を切らしながら王城から現れる、伊賀橋碧斗(いがはしあいと)の姿があった。

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