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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第6章 : こびり付いた悪夢(コシュマール)
215/300

215.認知

「あ、、あぁ、、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!?!?」


 目の前の、信じられない光景に、大翔(ひろと)は頭を押さえて地面に蹲った。

 どうしてこうなった。何で毎回こうなるんだ。(しん)も、ルークも、被害を受けた一般の方々も。悲惨な状態ばかり、彼の目には映し出されていた。


「何で、、、なんでこうなんだよ、、これからだったじゃねーか、、奈帆(なほ)、、これからって時じゃねぇかよ!何で、、何でだよっ」


 どうする事も出来なかった。奈帆も、大翔も。真っ赤に染まった地面の上、同じく赤く染まった大翔は絶望に、遠くを見据えたまま数秒間風に揺られる。ただ、何をするでも無く。


「...駄目だ、、あいつと、約束したんだ、」


 大翔は光の無い瞳で奈帆だったものを見据えると、眉間に皺を寄せたのちゆっくりと立ち上がる。


「あいつを、、神崎(かんざき)を、、守らねぇと、、絶対、同じ目には遭わせねぇ」


 ビシャっと。踏み込んだ足で血を踏みつけると、強く振り返って目つきを変える。その瞳には、まだ光は戻っていなかったが。


「...絶対、、救ってやるぞ、、あいつは、、神崎くらいは、、救って、やらねぇと、、俺は、何のために、、こんな力を手に入れたのか、、分かんねぇよ」


 拳を握りしめて一歩ずつ進む。何も守れない。戦うだけ戦って、結局、誰も、守れていない。力だけあって、何も成し遂げられていない。それが、自分なのだと。大翔は自身に不甲斐なさを感じながらも、まだ出来る事に、全力で向かうのだった。


           ☆


「ど、、毒、?」


 沙耶(さや)が怪訝にそう口にする。それに、愛梨(あいり)は無言で頷くと、岩の中でしゃがみ込む。


「だ、大丈夫!?」


「はぁ、、はぁ、キツイ、」


 苦しそうに息を荒げて凍った手を足に打ち付ける。外からの痛みを与えないと、耐えきれないのだろう。それ程までに、身体を侵食しているというのだろうか。この、ものの数分で。


「っ」


 それに、沙耶は驚愕し心配しながらも、どうするべきかオドオドと体を慌てた様子で動かす。

 岩から出した方がいいだろうか。だが、それが嘘だったら。いや、この様子は本当だろう。だが、本当だったとしても、岩から出して何になるのだろうか。そんな事を思う中、愛梨が小さく口を開く。


「ねぇ、、貴方、この後みんなと、、合流、するんでしょ」


「え!?あ、うん、、す、するけど、」


「なら、、奈帆にも、、会うね、?」


「うん、、多分、裏で、戦ってると思うから、」


「なら、あの子に、ありがとうって、、伝えておいて」


「っ」


 その、遺言の様な言い方に、沙耶は目を剥く。


「そ、そんな事言わないでっ!大丈夫だよ!まだ方法あるからっ、、ほら、私が腕の氷破壊するから、、そしたら、回復の魔石を出して、、回復してっーー」


「ありがとう。でも、それは無理。毒は回復の魔石でどうにかなるものじゃないの」


「う、、嘘、」


「私だって、死にたいわけじゃない」


 絶望に、思わず声を漏らす沙耶に対し、愛梨は息を吐きながら答える。


「でも、、仕方ない」


「...そ、そんな、」


「ねぇ。私、こんな感じでしょ。だから、世界に馴染めなかったの」


「せ、世界、?」


「そう。学校でも、バイトでも。どこ行っても、長くは続かなかった、、話、下手だし、、私、上手く言葉出ないし」


「っ」


「いっつも怒られた。もっと、会話やコミュニケーションを意識しろって。働いてる時は報告とか、ね」


 沙耶は、自身の行って来たラーメン屋を思い返しハッとする。


「話せない。...話したくても、言葉が出てこない。上手く、それを言葉にまとめられなくて。時間に余裕がないと思えば思うほど上手く話せなくなって、、プレッシャーだった」


「か、神崎、、さん、?」


 話の見えないそれに、沙耶は小さく名を呟く、すると、愛梨はそう付け足した。


「学校でも、一人だった。ううん、、一人になってた。でも、それが落ち着くの。一人にしてって、思ってた。それなのに、周りからは陰口だけじゃ無くて、露骨な嫌がらせとかもあって、」


「...そ、、そう、だったんだ、」


「でも...そんな私に声をかけて、、他の人と同じ様に接してくれた。ううん、、それ以上に私のことを想ってくれてたの。奈帆は」


「っ!」


「学校も、、休みがちになって、、人が、嫌いだった。そんな中、こうして、私を私へと戻してくれたのは、、奈帆なの」


 小さく、掠れた声で告げる愛梨に、沙耶は目を見開く。


「...同じ、、学校だったの、?」


「ううん、、違う。まず、現世で会った事はない」


「えっ、」


 思わず声が漏れる。この世界で初めて出会い、あそこまで仲が良くなったという事だろうか。


「...ずっと、苦しかった。変えられない自分と毎日。その中でこの世界に来て、、そこで、救われた。勝手にだけど」


「それが、、清宮(せいみや)さんに、、出会った事、?」


「そう」


 沙耶の言葉に、愛梨は短く返す。


「私の、、恩人。だから、、ありがとう。絶対、伝えて欲しい」


「そ、、そんなのっ」


「お願い。この世界に来て、、私の事を知らない人は話しかけてくれたけど、、みんな私の対応に、、口数は減った。...でも、あの子は。ずっと、同じく接してくれた。初めて、嫌われたら怖いから、話したく無いって考えが、少し和らいだの。あの人なら、、受け止めて、、くれるかもって」


「そ、それって、、だってっ、!この世界で、、初めて清宮さんと出会ったんでしょ、?なら、、もし、その毒で、、死んじゃったら、」


 そう、毒もまた涼太(りょうた)の能力によるものであり、事実上転生者によって殺害されたのと同じになるのだ。つまり、転生者に殺されるという事は、この世界の記憶が消えるという事。それは即ち奈帆との記憶が、全て消え、それによって得た自信や考えを、全て捨てるのと同じ意味となってしまうのだ。


「そうだね、」


「っ!駄目だよっ!絶対駄目!駄目っ、諦めないで!絶対死なせない!私が、、何とかするからっ!」


「何とか?」


「う、、それは、今考えるの!」


「もつかな?」


「う、」


 沙耶の声かけに、愛梨は小さく返すと、それに対する彼女の対応にほんのり微笑む。


「え、?」


「ううん、なんか、良いなって。...ねぇ。水篠(みずしの)沙耶は、、貴方は、救われた?」


「へ、?」


「自分で勝手に思ってる事で、、いい。私も、そうだから」


 恐らく、先程の話だろう。愛梨は、同じ様な経験はあるかと、沙耶に疑問を投げかけているのだ。


「もう、、ありすぎて分からないよ」


「っ」


「何度も、、何度も救われた。現世には、、私が学校でからかわれてた時に助けてくれた親友が居て、、受験の時辛い毎日を救ってくれた友達が居て、学校で襲われそうになった時に助けてくれた、、その、好きな人が居て、、そして、この世界に来て、本当の私を見つけてくれて、、救い出してくれた人達が、、受け入れてくれた人達が、、沢山居るよ、」


 沙耶の、思わず感情的になりながら放つそれに、愛梨もまた優しい瞳で彼女を見据えながら薄ら笑う。


「そう、、なら、貴方は、、死なないでね」


「っ」


「奈帆に、、伝言もあるんだから、、死んじゃ、駄目」


「自分で、、それは自分で言ったほうがいいよ、、ううん、絶対そうしてよ、、何で、何で自分はもうダメって、、決めつけちゃうの、?」


「分かってるから、」


「分かんないよ、、まだ、解毒出来る方法が、」


「いいよ」


 必死に生きて欲しいと。強く懇願する沙耶に、愛梨は間を開けたのち、覚悟を決めた様子で返した。


「私、どこかで気づいてた。奈帆が、、私を見てない事」


「見てない、、って、?」


「多分、、もっと、本気で好きな人が居るんだと思う。...話してる時、私よりも、もっと、違う方向に。遠い目をして見つめてる様子に見えるから。きっと、、その人を、本当は求めてる。でも、私は救われた。勝手でも、それは変わらないから」


 だから、お願いと。感謝を伝えて来てくれと、またもや強く伝える。それに、沙耶は答えを渋っていると、その瞬間。


「ぐっ、、かはっ!?」


「っ!?大丈夫!?」


 口から赤黒い液体をビチャビチャと吐き出す愛梨に、沙耶は慌てて駆け寄り声を上げる。それと共に、岩を解除して愛梨を外に出す。


「ね、?こ、これで自由でしょ、?だから、、直ぐに回復しに行って、、それは自分で伝えてーー」


「ごばぁっ!」


「っ!」


 心のどこかで、察してしまった。もう、手遅れなのでは無いかと。その、異様な程の吐血に、沙耶は顔からどんどんと血の気が引いていった。それでも、まだ可能性があるのなら。


「ねっ!これ!この石を回復の魔石に変換して!そうすれば、少しはーー」


「無理」


「え、」


「毒は、、回復の魔石で、解毒出来ないし。それに、、体力だけ、回復させても、辛いだけ」


「そ、、それでも、」


「ごめん。そこまで、言ってくれたのに。それでも、もう一つ、、最後の、お願い、、聞いてくれる?」


「き、聞くっ!聞くからっ!まだまだ、、まだお願いしていいよ!もっと、、もっと、聞いてあげるから、、だから、最後なんてっ、言わないでよ、」


 掠れた声でそれを告げる愛梨に、沙耶は同じく崩れ落ちて、目線を合わせながら放つ。と、対する愛梨は、少し間を開け僅かに微笑むと、深呼吸をして告げた。


「私に、、巨大な岩、、落として欲しいの」


「え、」


「こんな、、事、頼んでごめん。でも、これを、、ずっと耐えるのは、、厳しい」


「っ」


 強がりなのか。はたまた表情を出すのが苦手なのか。愛梨はいつもと変わらない声音と表情で放った。だがその言葉に、沙耶はその苦しみを察し目を見開いた。

 何が正解なのだろう。

 分からない。

 岩を落としたら、終わりだ。

 だが、このままでも終わりだろう。

 その前に、何かしてあげられないのだろうか。

 まだ、何か。


「水篠沙耶!」


「っ!」


「やって!」


「う、、そ、それはっ、」


「やれぇぇぇぇぇぇっ!」


「っ、、う、、うっ、ご、ごめんっ、、ごめんねっ、」


 愛梨の血を吐き出しながらも上げた声に、沙耶はハッと我に帰ると、瞬間。沙耶はただただ謝りながら、愛梨の頭上に手に持っていた石を投げ、それの大きさを変化させ巨大な岩にするとーー


「清宮さんに、、絶対、伝えるからっ」


「ありが、」


 ーーそれを、勢いよく落とした。


「っ」


 最後、彼女は笑っていた。だが、次の瞬間。目の前には、もの凄い音と振動を起こしたのち、岩しか残らなかった。

 それに、沙耶は言葉を失くして。


「あ、、あぁ、」


 崩れ落ちた。


「ごめんなさい、、ごめんなさい、ごめんなさい、、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、」


 岩の下から、ゆっくりと広がっていく赤黒い液体。それが目の前に到達し、時期にそれが沙耶にまで到達。そのまま、蹲る彼女の手や足に触れる程にまで広がる。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 ギュッと。目を強く瞑り、頭を押さえ、蹲りながら、歯嚙みして一つ覚えの様に、ただただ謝る。愛梨の、先程まで話していた彼女の姿や、先程話してくれた過去の。彼女のバックボーンを想像しながら。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 どうしてこうなってしまったのだろう。


『貴方のせいだよ』


 脳内で、甲高い声が響く。


「誰、?」


 泣きじゃくった後の様なカサカサの声で、沙耶は小さく呟く。


『水篠沙耶、貴方が。貴方が殺したの。あの子を』


「で、、でも、」


『彼女はそれを求めてたって?そう言ってたからやったのであって、自分が殺した事を否定するの?』


「そ、そういうわけじゃっ」


『ならどういう事?ほら、事実じゃん。貴方が殺したんだよ?彼女が言ったからって。正当化して逃げようとしないでよ。貴方の所為だよ。貴方が殺したの。岩を落として、潰したの。ぐちゃぐちゃに』


「やめて!」


『事実でしょ?何で。そんな事して、』


 背後から近づくその声は、そこまで告げると。


「っ」


 沙耶の肩に手を乗せ、そのまま伸ばして顔の横に手を伸ばす。


『逃げても無駄だよ。向き合って、ほら』


「っ!」


 その手は、沙耶の顔を掴み、無理矢理目の前の岩と、その下から溢れ出す血を見せつける。


「はぁ、、はぁっ!やめてっ!やめてよっ!」


『善人ぶらないでよ。私知ってるよ?本当は、、心のどこかで、仕方のない事だって、思ってる事。自分の手で殺した自覚がない。というよりかは、何とも思わない。そんな一面があるでしょ?』


「あ、貴方にっ!何がっ!」


『分かるよ』


 沙耶が思わず振り返ると、そこには。


「っ」


『だって、、私の事だもん』


 水篠沙耶が。自分自身が、そこに居た。


「やめてっ、、やめて!私の、、頭を、ぐちゃぐちゃにしないで!」


 またもや、頭を強く押さえて蹲り、唸り続ける。


「ぐぅ、、うぅっ!うっ、、うぅ!」


 歯嚙みし、戦う。自分の中の。自分と。


「うぅっ!ぐぅ!うぁっ、、うぅぁ、」


 と、その時。


「ぐぇっ!?」


 割れそうな程の頭痛と共に、大きな振動が沙耶を襲った。


「っ、、神崎愛梨、?もしかして、あの下が?なるほど、貴方、思ったより強い。なら、ここで仕留めておいた方が、いい」


「!」


 唸り、咳き込みながら、沙耶は朦朧とした意識の中でその声のした方向へと視線を向ける。と、そこには。

 大井川三久(おおいがわみく)が、立っていた。


「やめて、、お願い、」


「大丈夫。一瞬で終わらす。一対一なら、負けない」


 近づく三久が、淡々と。だが、どこか愛梨を殺された事に憤りを見せながら、音波を強くしてこちらに向かう。


 だが、そうではない。そういう事では無いのだ、と。沙耶は歯嚙みしながら、顔を上げた。


「もう、"殺したくない"、」

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